167、苦楽
剣と魔法の世界『エデンズガーデン』。
様々な思惑と力が渦巻くこの世界に、世界を食いつくす最強の悪『デザイア=オルべリウス』が襲来する。それも1体で世界を破壊する力を持った魔神たちを6体も引っ提げて。
しかし、その事態に抗う者たちもまた存在する。
どれだけ強かろうとも、どれだけ厚く高い壁だろうとも乗り越える。
それが『世界』で生きるということだ。
「そこをもう少し流線的に削ってくれ。風の抵抗を減らすことでより前に進むことが出来て速度も速くなる。」
「でもゴツゴツしてた方が格好良いじゃんか。」
「いや、今考えるべきは格好良さよりも早く丈夫に仕上げることにある。あまりこだわると船が重くなるばかりで魔力消費量も増えるからな。あまりお金も掛けていられないし……。」
「お金のことなら気にするなでおじゃる。朕にすべて任せるでおじゃるよ。」
「助かる。」
デザイアとの邂逅を果たして無事に敵認定されたレッドたちは、浮遊要塞で大陸を渡るデザイアの後を追う目的で魔導戦艦を制作していた。魔導局に協力を依頼し、国家予算レベルのお金を支払いながら日々建造される戦艦。レッドたちも物資を運ぶ手伝いに明け暮れ、ダンジョンに潜る暇もなくなっていた。
だがすべての時間を戦艦に使えば建造速度は恐ろしく速くなり、魔導局総出という技術者のマンパワーの暴力とレッドたちの重機と見まごうほどの腕力が着々とその姿を形にしていった。
「ちょっとちょっと。何をしてるのこれ?」
「魔導戦艦の建造だってさ。」
「レッドが募金してたやつかよ。マジだったんだな。」
「かなり大事になってきましたわね……。一肌脱ぐ必要があるのではなくて?」
魔導戦艦の建造は冒険者たちにも話題が広がり、我も我もと参加者が増える事態へと発展する。急な参加だったが、ヴォジャノーイは寛大にも日当を支払うと申し出た。
仕事になるならと新人やベテラン関係なく多くの冒険者も建造に参加し、バケツリレーのような方式で物資の運搬や魔力切れを起こさないための対処、怪我の治癒や食事の用意などにも人手を割き、一大事業を巻き起こす。
これに参加出来なかった冒険者ギルドは冒険者たちに手伝うことをやめるように通達。除名処分もあり得ると罰則を設けようとしたが、魔導局がこれに反発。
この大陸で今一番力を持つアヴァンティアの国王ベラート=ジューダス=ウィン=パムノシアに『魔導通信機』で直接報告し、国王もこの時ようやく事態を把握。魔導国冒険者ギルドのギルドマスターに対してベラート国王が直々に釘を刺すことで冒険者ギルドからの出しゃばりはなくなった。
『魔導局の局長が更迭されたとの情報を耳にしていたが、誰が跡を継いだのかまでは報告になかった。次からは早めに報告を上げてくれないと困る。テス=ラニウム局長。』
「大変失礼いたしました陛下。本国からの急な異動は我々の間でも頭を痛めておりまして……。碌に引き継ぎも無いままに多忙を極め、このような形での報告となったことをここにお詫びいたします。誠に申し訳ございませんでした。」
『……ううむ、そちらの事情を察するに余りある。今回の件は水に流すとして、魔導戦艦と言ったか? それはどのようなものなのだ?』
「はい。こちらで建造中の魔導戦艦は魔導砲などの武器を極力排した揚陸艇でございます。変形機構も備えた万能型であり、陸・海・空のすべてで活動が可能です。」
『武器を? 何故だ? 乗せた方が安心ではないのか?』
「万が一の備えとして武器を乗せるのは我々には重要です。ですが今回の場合、より早い建造と居住空間の確保が急務となっているので武器を乗せる暇も空間もありません。おかげで建造はもうすぐ完了いたしますが……。」
『それでどうやってあの要塞に立ち向かう気かね? 死にに行くようなものではないか?』
「今回の魔導戦艦の用途は最高戦力レッド=カーマインと他戦力の運搬にあります。武器の類は彼らの足枷にしかならないと考えております。」
『……レッド=カーマインは取るに足らぬ存在であると報告があるが……。』
「それは全くの誤解でございます陛下。我々が頼るべきはレッド=カーマインです。少なくとも私は……魔導局局長テス=ラニウムと技術開発主任ルイベリア=ジゼルホーンはそう考えております。」
これにはベラート国王も納得せざるを得ない。この発言がもし希望的観測だったにしろ単なる妄言だったにしろ事態は動いている。もはや祈る他に道はない。
レッドが所属し、生計を立てていたであろう冒険者ギルドすら長い期間最も弱い冒険者であると誤認識させていた稀代の傑物が、自らの意思で災厄に挑もうとしている現状に嘴を容れるなどもってのほか。当たり障りのないように静観を決め込み、空気の読めない魔導国のギルドマスターのような奴が茶々を入れて来た時に諫めるくらいで丁度良い。
世界の命運が掛かっているのだから。
『……そなたらの言、信じよう。今回のことで何かあれば、いつでも私に連絡を入れるように。』
「畏まりました陛下。」
ベラート国王を味方につけた魔導局はこの大陸においてもはや敵なしの状態だった。この報告以降、魔導戦艦の建造が終了するその日まで一切の文句は消え、苦言の噂話すらも上がらない実に奇妙な日々が続く。
そしてついに完成へと漕ぎ着けた。
「こ、これが俺たちの船……。」
凄まじく速い建造だったが、1から制作してきた過程を思い返せばみんなで何かを作るということ自体がすごく楽しかった。またこういう機会があれば参加しようと心に誓う。
レッドが完成した船を前に感慨に浸っている時、ルイベリアは魔道具の力でふわふわ浮きつつ一つ咳払いをした。
「みんなぁっ!よく頑張ってくれたねぇっ!思った以上の建造ペースに度肝を抜かれたけども完璧に完成出来たよっ!」
わぁっと歓声が上がる。魔導局と冒険者たち、そして皇魔貴族の力を合わせた初めての共同作業が実を結んだのだ。
「よく頑張ったでおじゃるよっ!お礼と言っては何でおじゃるが、皆の衆には特別手当をつけるでおじゃるっ!!受け取ってたもれっ!!」
ヴォジャノーイもその巨体をさらに大きく見せるように手を広げて存在をアピールする。
最初は魔族に忌避感を覚えていた冒険者たちも、金払いの良い成金魔族の魔力に抗えず、勝鬨のような咆哮を上げる。
(よほど金払いが良かったんだろうな……。アヴァンティア防衛戦の時よりも生き生きしているように見える。)
ライトはふとそんなことを思いながらも魔導戦艦に目を向けた。
「知識でしか知らないアノルテラブル大陸……。ここから俺たちの世界を救う冒険が始まるのか……。」
『救うというてもあっちはあっちで強いのがいて抵抗すると思うがのぅ?』
「デザイアの力は凄まじい。滅ぼされることを恐れて与するものも出てくると予想が出来る。万が一の場合は同じ人族同士の戦いを強いられる可能性もある。」
「面白ぇじゃねぇか。誇りを捨てたカスどもが相手だっていうなら容赦なく潰せるってもんだ。丁度戦いたくて疼いていたとこだぜ。」
「そういう言い方は無いだろうディロン。どうしようもない敵に出会った時、生き残るためなら一時の恥も仕方のないこと。まぁ、こちらの常識をはるかに超えた人類がデザイア軍を牽制することも捨てきれないが……。」
「そういうのが居たら願ってもないことじゃない? 現地民と一緒に戦えれるならこっちも生き残る可能性が増えるし。」
ウルラドリスの言葉に確かにその通りだと頷く。魔神の情報を手に入れることも含めて現地の情報も仕入れたらこちらの有利に働くことは間違いない。
ライトたちが思いつきを披露しあう傍ら、冒険者たちはグルガンとヴォジャノーイから特別手当てをもらい、ホクホクとした面持ちで解散の流れとなった。
「あ、あのっ!!」
あとは魔導局とレッドたちで今後のことを話し合おうという時に女冒険者たちに話しかけられた。その顔に見覚えのあったライトは目を丸くして驚きを隠さない。
「え……君たちは……。」
それはかつてのライトのチーム『ラッキーセブン』の仲間たち。
聖職者のハル、死霊使いのコニ、魔獣使いのフィーナ、吟遊詩人のエイナだった。




