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149、国王の苦悩

 3魔将の侵攻から数日経ち、ようやく侵略者たちが起こした被害が明るみになった頃、アヴァンティアの国王は事態を重く見て各都市の首脳と内々に会議を始めていた。

 国王ベラート=ジューダス=ウィン=パムノシアは豪奢な椅子に腰掛け、鏡のような魔道具『魔導通信機(アラウンドフォン)』に映った長たちに話しかける。


「──定刻通りだな。本来ならば召集をかけたいところではあるが、切迫した状況であることを加味し、魔力通話であることを許せ」

『勿体なきお言葉。陛下のお心遣いに感謝いたします。しかしながら次にどのような形で敵が攻めてくるか分からない現状では当然のことと言えましょうな』

『然り。辺境の町『エクスルトの焼滅』と空に現れた『黒点の稲妻』。人知を超えた何かの力がこの世界に厄災を与えようとしているのは間違いありませぬ』

『ううむ……女神を名乗る邪神ミルレースが討伐されたというのに……これほどの被害は類を見ません』


 冒険者ギルドの長、運送ギルドの長、エルフ、ドワーフ等の評議国代表たちに魔導局局長、そしてエデン正教の 司教(ビショップ)が頭を悩ませる。エデン正教は枢機卿(カーディナル)であるローディウスの参加を打診していたのだが、正教側で大きな動きがあったので代わりが出てきていた。

 皆手元にある資料を見ながら同時にため息をついた。


「世界に次に降りかかる厄災がどのようなものなのか、皆目検討もつかない状況だ。新しく報告が上がってくる度に嫌な想像を掻き立てられる。万が一にも女神ミルレースが討伐されたせいで均衡が崩れたなどということがあったなら、とな」

『そ、そんなまさか……考えすぎではありませんか? あれは世界を破壊する存在。よもやあれが守護神などとお考えではありますまいな?』

「一理あると考えている。いや、そうであったならば一大事だろう? 故にこの大陸だけの問題ではないと私は判断することにした」

『何と……それはつまり……?』

「うむ。海を隔てた大陸の国々に書状を送っている。帝国、聖王国、獣王国、龍球王国、機界大国に魔導大国……。魔導大国には魔導局から直接通信するように言ってあったな?」

『はっ。通信機で既に……』

「うむ。それでどのような反応が返ってきた?」


 局長は慌てて書類を取り出し、斜め読みするように目を動かす。


『あ、あの……へ、陛下がお心を痛められていることについてはその……も、申し上げにくいのですが……』

「良い。包み隠さずに申せ」

『はっ。それでは申し上げます。……小規模の火災、悪天候による珍現象など報告に値しない。女神ミルレースの復活に比べれば些事であると……』

『馬鹿な!何という非礼な物言いか!』

『彼奴らは対岸の火事だと厄災を軽んじておりますな!断じて許されない!』


 局長は他の長たちに攻められる形で縮こまった。それを国王が右手を挙げて制する。


「私は『良い』と言ったはずだ。『包み隠さず』ともな……」

『しかし陛下!これはあんまりでございます!助け合いの精神など皆無!このままでは何があっても見捨てられることは避けられませぬぞ!?』

「あちらの大陸はここと違って魔物も強ければ国同士の諍いも多いと聞く。こちらに武力を割いて助けてくれるなどと高望みはしておらんよ。元よりこちらの大陸とあちらの大陸では距離がありすぎてこちらに来るのも難しいと理解しているつもりだ。……まぁ、少しでも憂慮してくれたらと僅かばかり期待はしていたが……」


 国王が自嘲気味に笑ったことに悲しむ長たち。

 長たちだって分かっている。もし万が一にも何か危険が迫っていることが事実ならば、他国よりも自分たちの国の防衛を強化することの方が先決だからだ。わざわざ船を出してまで加勢に来る国があれば逆に正気を疑う。

 当然救助を要請したところで拒否されるか無視されるかの二択であろう。

 国王の考えや、その他の国の考えは理解こそ出来るが容認出来ない。何故なら当事者だからだ。この大陸で暮らす以上は何としてでも命を拾う方向で話を進めなければならない。


『……エクスルトの焼滅と黒点の稲妻の他にもう一つだけ奇怪な現象があります。海が割れたという超常現象です。いかがでしょうか? このレベルであれば小規模とも珍現象とも言えますまい』

『はぁ……たかだか一件あった報告ではありませんか。空に浮かぶ黒点の稲妻はあらゆる場所から多くの者が目撃し、エクスルトの焼失は嘘偽りない事実。真偽不確かな情報を報告しようものなら今後は歯牙にもかけてもらえませぬぞ?』

『些事だと無視されている状況に於いて何を呑気な。一件あれば十分でしょう? それが愉快犯の言だとしても嘘も方便にございます』

『確かにここで手を(こまね)いていることを考えれば馬鹿げた嘘も名案に思えますがね。ここで思い出したように海が割れたとか追加すれば相手がどう思うかなんて考えれば分かるでしょうよ!』

『なっ!? 陛下の判断を愚弄されるおつもりかっ!!』

「待て。そう熱くなるでない。常に冷静になることを心がけよ。……良いか? まだ魔導大国からの返事でしかない。他の国がこの厄災を同じように注目しないと言えるだろうか? 心当たりがあった場合は救助まで行かずとも助言ぐらいはあるやもしれん。他の国からの返事を待つ他ないが……人の情はそこまで捨てたものではないと私は信じたい」


 国王の言葉に口を噤む。ここで自暴自棄になって不敬な態度を取る方が正気を疑われる。一丸となるべき場面において『希望』を振りかざすしかないとは心許ないが、『祈り』も一つの支えであろうと慰めた。


『……そういえば、ある冒険者がホープ・アライアンスなる集まりを立ち上げたのではなかったですかな?』

『ニール=ロンブルスのことですな。冒険者ギルド随一の実力者です。ただ我々冒険者ギルドを解体しようなどと無茶を言いましてな、評議国にて審議の結果破棄されたそうですが、後日名のある冒険者チームを召集して勝手に連合チームを立ち上げまして……わがまま放題で扱いに困りましたが、今にして思えば冒険者たちが自らの意思で巨悪に立ち向かおうという姿勢は見上げたものだと感心しました』

『ほぅ? 良いことを伺いました。今こそホープ・アライアンスを承認すべきでは?』

『その件は問題が多く、この場での話し合いでは何とも……』

『悠長なことですなぁ……あれはどうですかな? レッド=カーマインという輩は? 女神ミルレースを討伐した張本人との話もありますが……?』

『眉唾でしょう。ビフレストやシルバーバレットなどの上位チームならばともかく、個人が扱えるレベルではない。ディロン=ディザスターという例外もありますが、それでも神のレベルともなればその力量に達していないでしょう。いずれにしても万が一に備えて避難経路を用意しておくのが得策ではありませんか?』

「全員は不可能だ。国民たちを残していくわけには行かん。それにもし全員を逃す方策があったとて、この大陸を出れば我らは避難民となる。避難民となれば諸々の権利を失い、今まで享受していた生活は送れぬ。敵が攻めてくるのであれば出来る限り迎撃することを考えるべきだ」

『ならば魔導大国に技術提供を申し込むのは……』


 様々な話が飛び交いながらも『現実的ではない』『この場でまとまる話ではない』など八方塞がり。

 結局、他国の返信を待つべきだと話がまとまり、秘密の首脳会談は幕を閉じる。

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