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147、無謀な挑戦

 3魔将との戦いを終えたレッドたちは、最初に出立することになったフィニアスの居城に集合する。


 転移のおかげか、最も早く戻ってきたグルガンはデーモンからサラマンドラの出現地帯を教えてもらい、エクスルトへと直行。

 そこで戦いの跡とライトたちの無事を確認し、ライトたちの勝利を喜んだ。共に生きていたことを称え合い、ライトたちがサラマンドラから聞いたという情報とグルガンが拾った情報とを擦り合わせながら転移の魔法で帰って来た。

 それと同時くらいにレッドたちが戻る。


「なっ!? レッド……その者は?」

「あ、この人はオジャノーイです。海を支配しようとしてたみたいで……」

「あ、朕はヴォジャノーイ=アルタベルジュでおじゃる。情報を渡す代わりに生かしてもらったでおじゃるよ」

「姫様のおかげでね。そこのところは忘れてはいけないな」

「もうみーちゃんってば。私はあまり関係ないよ〜」

「……そんなことよりも全員戻っているようだな。さっさと次を倒しに行こう」

「その必要はない。我らも今し方倒してきたところだ」

「「……は?」」


 グルガンの話で今ヴォジャノーイを除く全ての敵が倒されたことが共有された。予想以上の成果にロータスの中でライトとディロンの評価が上がる。


「ま、まさかこれほど強い世界だったとは……朕と同等の強さを持っていたというのに……」

「あ? オメーそんなに強いのかよ。そうは見えねーが」

「レッドの強さをいち早く見抜いて頭を下げたのだ。賢い選択だったなオジャノーイ」

「ヴォジャノーイでおじゃるっ」

「へっ!情けねーだけじゃねーか」

「……言い返す言葉もないでおじゃる……」

「ディロンの煽りに乗ることがないなんて捕虜としての立場を理解しているとは殊勝な心がけだ。……貴様は誰彼構わず喧嘩を売るな」

「っせーなぁ」

「うむ。これで知りたい情報がしっかり得られそうだ。お手柄じゃないかレッド」

「え、えへへ……」


 褒められてまんざらでもないレッドは後頭部を触りながら照れた。


「よし、それでは質問させてもらおう。貴公らがこの世界に現れた理由から順にな……」


 グルガンはヴォジャノーイを座らせて情報の抜き出しにかかる。

 ヴォジャノーイは質問には何でも答えた。この世界に来た理由は『ある御方』がエデンズガーデンを支配するために必要な情報収集であるということから全て。


「朕は『ブーディカ』と呼ばれる世界の住人でおじゃる。こう見えても『湖の王』『海の支配者』などと恐れられ、魔王として君臨していたでおじゃるよ。数多くの財宝に囲まれ、子宝に恵まれた朕は幸せに暮らしていたのでおじゃる。そこに現れたのが朕たちを力でねじ伏せ、服従させた『ある御方』なのでおじゃるよ」

「勿体ぶるじゃねーか。そのある御方ってのは誰なんだよ。とっとと名前を言えっ」

「待て。順序立てて話を聞くからこのままで良い」

「チッ……続きを話せよ」

「その御方は他の世界も手中に収め、勢力を拡大している最強の御仁。朕たちは自分の世界を守るためにもいうことを聞きざるを得なかったのでおじゃる」

「本当に? こなたらを水牢に閉じ込めた時はノリノリでやっていたように見えたけども?」

「空元気というやつでおじゃる。どうせ逃げられないのでおじゃるからせめて心だけでも守ろうと思って……」


 ヴォジャノーイの言葉が尻すぼみになる。どうせ逃げられないのだから少しくらいと羽目を外してしまった罪悪感が急に押し寄せて反省の態度を見せた。


「なるほど。やはり世界を支配出来る実力者揃いだったのか。これを何とか倒せたのは僥倖(ぎょうこう)だったと言える」

「いや、そうでもない。サラマンドラには町を一つ消滅させられてしまった。到着が遅れたとはいえ、情けないことだ」

「いやいや、サラマンドラ殿を相手に町一つで済むなんて無茶苦茶凄いでおじゃるよ?」

「……犠牲者が出てしまったのは致し方ないことだと我は思う。しかしそれを嘆くだけでは何も出来ない。今後やってくるだろう敵がもっと強かった場合を考えて対策を練る必要があるのだからな」

「ほほっ!……いや、失敬……許してたもれ」

「いいや許さねぇ。何だ今のは?」

「バ、バカにするつもりはなかったんでおじゃるよ? ただ想定が甘すぎてちょっと吹いてしまったというか……」

「ほぅ、なるほど。今回やってきた3魔将を鼻で笑えるほど強い敵というわけか。貴公ほどの実力者が服従を誓うのも理解出来る」


 グルガンの言葉にヴォジャノーイはバツが悪そうに黙った。その反応でロータスが焦り始める。


「……あり得るのか? オジャノーイでさえ精霊王と竜王を同時に相手して勝利出来る猛者。これ以上が来るとなると世界の滅亡レベルだぞ?」

「さっきから言っているでおじゃる。朕の世界を守るために仕方なく服従したのだと。朕だって出来るものなら支配の片棒を担ぐことなく、自分の世界で悠々自適に暮らしているでおじゃるよ。それとヴォジャノーイでおじゃる」

「だよね。おじゃ君魔王だもんね。悠々自適かぁ……分かるよその気持ち〜」

「おじゃ……しかしそれが出来ないのは『ある御方』に起因するでおじゃる。次元を飛び越え、多くの別世界を周り、その度にその世界で幅を利かせている支配者にコンタクトを取っては力尽くで配下とする。その中でも破格の強さを持つ者たちを『魔神』と呼んで侍らせているのでおじゃる。朕が何十体合わさってもどうしようもないほどの力を持つまさに次元違いの実力者たちなのでおじゃるよ」

「はぁ? 上振れし過ぎじゃねぇか? それも複数形かよ」


 ディロンが呆れ返る。ライトも腕を組んでため息をついた。


「ふぅ……悪夢を通り越して地獄だな。サラマンドラでもウルウティアが居なければ勝てなかったというのに……」

「あ、そうか。エクスルトだからか。死の谷から出てきてくれたんですね。おかげで助かったのならお礼の一つもしないとダメかなぁ?」

「それについてはあたいから今度ウルウティアさまに言っとくね。また今度挨拶に行くつもりだし」

「何だウルラドリス、親しい感じだな。良かったらウルレイシアたちも誘ってくれないか? 伝説の竜王に会えるとなれば喜んで行くと思うから」

「うん!分かった!」

「おいおい話が逸れてるぜ。よぉオジャノーイ。ここまで我慢したんだ。そろそろ教えてくれても良いんじゃねーか?」


 ディロンの質問でヴォジャノーイに視線が集まる。ヴォジャノーイは深呼吸しながら気持ちを整え、キッと前方を睨んだ。


「全世界を支配しようとする最強の存在。その名はデザイア=オルベリウスでおじゃる」


 その名を聞いた時、静かに聞いていたアルルート=女王(クイーン)=フィニアスが立ち上がった。その顔は驚愕に彩られ、困惑を隠し切れていない様子だ。


「デザイア=大公(グランデューク)=オルベリウスか!遠い昔、我が父とグルガンの祖父であるアレクサンドロスが結託して倒した最強の皇魔貴族。次元の間に死体を遺棄したとのことだったが、まさか生きていたのか?!」

「え? この世界がデザイア様の生まれ故郷? それもあのデザイア様を倒したというのは(まこと)でおじゃるか?!」

「ああ、確かだ。それについては我が一番よく知っていると言っても過言ではない。当時のことが記された祖父の手記と倒した証拠を我が持っているからな……となれば元から不死身だったか、あるいは何らかの状況が重なって復活を遂げたかのどちらかだ。しかし解せんな。当時はそれほどの実力を持ち合わせていなかったはずだ。どうやって世界を渡り歩きながら異世界の支配者を力尽くなどと……」

「現にデザイア様は今尚異世界を荒らし回っているでおじゃる。サラマンドラ殿とアナンシ殿を倒され、負けを認めた朕にはもう居場所はないでおじゃるよ。元の世界に帰る方法も無い。完全にお手上げ状態でおじゃる……」

「あ? じゃあどうやってこの世界に来たってんだ?」

「それは次元に穴を開けるアイテムを持たされたからに決まっているでおじゃる。ただ一方通行で一回限りの効果。デザイア様一行が到着されるまでの間にそれなりの成果を上げるのが仕事。合流したら朕らの役目は終了し、後はデザイア様のおもちゃという寸法でおじゃる。使ったアイテムは消滅して誰も持っていないのでおじゃるから、逃げることは不可能。子供にも会えないのでおじゃる……」


 こうして今の状況を再確認すれば、死んだ方がマシなのでは無いかと思えるレベルだ。グルガンはこれ幸いと提案を出す。


「ならばヴォジャノーイよ、我らに任せよ。貴公を今日より皇魔貴族の一員として迎え入れる。戦力は多いに越したことはない。そうだなフィニアス」

「うむ。情報の確保と戦力の増強。知性も実力も申し分ないとくればお前は貴族に値する。我が名の下に地位を約束しよう」

「本当でおじゃるか?!寝所を確保でおじゃる!その優しいお言葉に感謝が尽きないでおじゃるよ!」


 共に戦える喜びか、それともどうせどうにも出来ないからという空元気か。ヴォジャノーイは聞かれたこと全てに答えていく。

 たった一厘でも生き残れる可能性に賭け、全世界を(ねぶ)るほどに強化したデザイアを倒すべく勝ち目のない戦いへと邁進する。

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