139、屍と並び立つ
ライトたちとサラマンドラの戦いに突如参戦したのは屍竜王ウルウティア。
その姿にウルラドリスが緊張の面持ちで見上げる。
「あ、あの御方は……で、伝説の屍竜王さま……? こんなところで何を……」
「あぁ? 伝説だぁ? ただのエロい姉ちゃんにしか見えねぇが……」
「そういえば死の谷が近くにあったな……騒ぎを聞きつけて出て来たのか」
「オメーあいつのこと知ってんのか?」
ウルウティアの登場で先ほどまでの死すら覚悟した状況に光明が差す。もちろんウルウティアが出て来た理由にもよる。
サラマンドラは急な登場で耳目を搔っ攫ったウルウティアに訝しい顔を向けた。
「あぁん? 何だお前は?」
「あなたこそなぁに? この町は妾の大切なおもちゃだったのにこんなことしてぇ……ぜぇんぶ台無しじゃなぁい?」
「ほぅ? この地の支配者かっ!思ったよりも遅い登場だが、まぁ良かろう……この俺様に支配者の座を明け渡せっ!」
「えぇ? ここにぃ? 無理無理ぃ。ここは妾だけの特等席だもん」
ウルウティアはアンデッドドラゴンの頭蓋を撫でながら気怠そうに煙を吐いた。
「そんな小さな玉座に興味あるわけないだろっ!……いや? だが、ドラゴンの骨を玉座に使うのは悪くはないなぁ。その骨のドラゴンを文字通り骨組みにし、俺様の玉座として使ってやろうっ!」
「あれぇ? 話を聞いてなかったのかな? これは妾のものだからあげないよぉ」
「逆らうかっ!ならば奪い取るまでよっ!!」
サラマンドラはカッと目を見開いてウルウティアに敵意を向けた。
(好機っ!)
敵対行動を取ったサラマンドラを確認し、ライトはウルウティアに話しかける。
「ウルウティア!俺たちに手を貸してくれっ!!」
「んぅ? あなたはどこかで見たような?」
ウルウティアは首を傾げながらライトたちを見渡す。ウルラドリスは彼女の目に緊張し、ディロンは訝しむ。ウルウティアがいまいちピンとこないのは前回会った時と面子が違うことで混乱していると思われる。
しかしライトにとってこれは嬉しいことで、ウルウティアと敵対関係にあった前回のことを忘れてくれているなら手を組みやすい。思い出させないように間を置かずに畳み掛ける。
「奴はこの地に侵攻し、人間の里を滅ぼした!奴を許せないのは俺たちも同じだ!俺たちと共に倒そう!!」
「あらぁ必死ねぇ。でもお気遣いなくぅ。間に合ってるからぁ」
「いや、待ってくれっ!奴は貴様の能力では勝てないぞっ!」
「えぇ? なんで妾の能力を知っているの? 怖ぁっ」
「グハハッ!せっかくの足掻きも無駄に終わったようだな!まぁ雑魚がどれだけ群れようが俺様に勝とうなんざ無理な話よっ!!全員まとめて灰燼に帰すがよいっ!!」
「は? うざぁっ」
ウルウティアはマイペースにパイプ煙草を吹かす。このままでは三つ巴の戦いが起こりかねない。最悪人間から先に始末しようなどと考える可能性すらある。
そんなライトの焦燥を知ってか知らずか、ウルラドリスがウルウティアの前に出た。
「……ウ、ウルウティア様!」
「あら? 可愛らしい子がいるわぁ。あなたは誰かしら?」
「は、はじめましてっ!あたしは今代の地竜王を名乗らせていただいているウルラドリスですっ!」
「あら。へぇっ……今の地竜王はこんなに可愛い子がやっているの? ウルアードとは全く違うわぁ」
「はわぁっ……か、感激です!ウルウティア様から初代様のお名前を聞けるなんてっ!」
「あらあら。なんて良い子なのぉ? 今代の火竜王とは比べ物にならないくらい素直ねぇ」
見る間に上機嫌になっていくウルウティア。どういった状況であれ人間との共闘などお断りといったウルウティアも、同種の存在であり、さらに同じ竜王とくれば話は違う。
「あら? あなたどうしたのぉ? その足ぃ」
「へ?」
ヒョコヒョコと火傷した右足を庇うウルラドリス。火傷痕を確認したウルウティアは気怠そうな目にギラリと殺意を芽生えさせた。
「……へぇ。妾たちの可愛い後輩ちゃんを目の前のあれが傷つけたのね? なぁんかこう……許せないかなぁ……」
熱気で充満するサラマンドラの支配空間に一瞬寒気が走る。じわじわと滲む汗の中に冷や汗が混じった。
「ようやく話が終わったようだが……そろそろ仕掛けても良い頃か?」
「意外に待つのねぇ? 三擦り半も我慢出来なさそうな顔しているのにぃ……」
「三擦り半? 何だそれは挑発のつもりか? グハハッ!俺様はチャンスを与えてやっているだけだっ!サービスだよサービス!あれを出せたら勝てたとかこれを出せたら勝てたとか言い出すバカが居やがるからなっ!どう足掻いたって勝てねぇ現実を見せてやんのさっ!!」
体を大きく見せるように手足を開いて高らかに笑う。この発言にウルウティアやライトたちはある程度納得しているが、実は発言した張本人の本心は違う。
支配領域を展開し、ライトたちのような力の差を考慮しない抗うバカを閉じ込めることは既定路線とも言える流れだったが、支配領域という抜け出すことの出来ない空間に自ら入り込んでくる間抜けにはあったことがなかった。
そのためにウルウティアという急に現れた存在に警戒心を抱いているのだ。固有結界の類を知らない愚か者ならば問題ないがそんなことはあり得ない。
特筆すべきは支配空間に漂う煙である。煙たいことはなく、視界だけを奪っていくようなこの煙はまるで霧のようで、何も考えずに突進しては痛い一撃を喰らうかもしれない。ウルウティアがのんびりと構えているのが罠のように思えてイマイチ攻撃が出来なかった。
尤も、サラマンドラの硬い鱗を貫通するほどの力はないようにも思えるので焦りは一切ない。
「あらそう? 地元じゃ負けなしだったかもしれないけれどもそれは過去の遺物よぉ。ここで全部覆してメンタルぐずぐずにしてあげちゃう。あなたの今も未来も全部妾がもらってあげる」
結局は共闘の流れになったことに安堵し、ウルラドリスに感謝するライト。
これでようやく心置きなく戦えるだろうとライトがサラマンドラに集中すると同時にウルウティアは力を発動した。
サラマンドラの支配領域『炎天下』に薄ら漂う白い霧が同化するように赤く変化する。
「ねぇ、出てきてぇ。妾に力を貸してぇ。ウルアード、ウルイリス、ウルエルバ、それからウルオガスト」
ウルウティアの座するアンデッドドラゴンの背後から地面を踏み締めて4つの影が姿を現す。
「ぬっ!?」
サラマンドラはまたしても支配領域に侵入されたことに驚愕を隠せない。入ってくること自体は難しくないが、驚いた理由は今出現した4体は外から入って来たわけではなく元からそこにいたかのように現れたのだ。不思議な状況が押し寄せ、混乱を隠しきれない。
「早い呼び出しであったなウルウティア!」
「あんたまた危機的状況なわけ? どうなってんのよいったい……あっ!? あの時の人間がいるじゃないっ!!あんたまたレッド=カーマインとやり合ってるんじゃないでしょうね!」
「そんなまさかレッドじゃないよぉ。てか、え? そういえばこの人レッドの仲間だったっけ? あ、ウルイリスが倒されたかぁ。忘れてたぁ」
「この薄情者っ!」
「うむうむ。我らも不甲斐なかったことを思えば致し方ないこと。早速汚名返上と行こうではないか。なぁウルアード」
「ああ。今度こそ十全にな……」
始まりの竜王たちが一堂に介した。その光景を見ていたウルラドリスは目を輝かせディロンは唖然とする。
「……んだよそれ。反則級だろ……」
「だ・か・ら。伝説なのよっ」
「なんでオメーが誇らしげなんだよ」
ディロンは文句をつけつつも内心安堵していた。死を覚悟していたディロンだったが、竜王たちの登場で切迫した状況から脱したように思えたからだ。
だがディロンの思いとは裏腹にライトは竜王たちを見て一抹の不安を抱いた。
(戦力としては破格とも言える状況。だけどサラマンドラは凄まじく強い。フローラの力を活用した剣撃を浴びせて引っ掻き傷程度……対して死の谷での戦いではウルウティアの使役する水竜王を難なく倒せた。さらに水竜王の攻撃は風の結界で簡単に防げたことを鑑みれば力の差は歴然。少なくともサラマンドラは竜王はおろか、精霊王以上の力を有している。つまり事実上最上位の存在であることは間違いない。……もしやこの世界にやって来た3体とも……?)
いやな想像が頭を駆け巡る。レッドは特に問題ないが、真っ先に飛び出したグルガンは大丈夫なのだろうか。
(いや、バカなことを考えるな。人のことより自分を心配しろ)
軽く頭を振って嫌な想像を追い出していると、風竜王ウルオガストが突っかけた。
「まずはこの私がこの者を叩こうではないかっ!!」
ボッ
過去レッドに不用意に近付いて行ったウルオガストは今回も同様に不用意に突っ込む。
しかしこれを咎める者はいない。何故なら相手の実力を知るための囮役を自ら買って出てくれているのだから止める理由もない。
「フンッ!!!」
──ズゴォッ
ウルオガストはサラマンドラに一撃を与えることも出来ずに叩き落とされ、マグマに頭から突っ込む。そのままピクリとも動かず煮えたぎるマグマの中に消滅していった。
「虫がっ!!」
サラマンドラは意気揚々と吐き捨てた。




