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137/210

137、炎塊の鱗

 辺境の町『エクスルト』焼滅。


 ライトたちを待っていたのは現在進行形で炭化していく町の惨状。

 悪逆の限りを尽くす怪物の討伐を心の底から誓ったその時、パチパチと音を立てて焼失していく町の中から掠れるような薄弱とした悲鳴が聞こえてきた。


 ──まだ生きている。


 気づいた4人はその声の主を探して煌々と燃え盛る火の町に駆けて行く。熱さを顧みずに飛び込み、しばらく走った先に居たのは煮えたぎったマグマを内包する獣。そして地面に横並びにされた町民たち。

 死という絶望が目の前にありながら町民たちが身動き一つしないのは怪物が怖くて腰が抜けたわけではない。手足を信じられない温度で焼かれていて、末端が炭化してしまっているからだ。


 その状態でショック状態にならず、何故生きているのかは定かではないが、何故そうまでして生かしているのか怪物の考えが理解出来なかった。

 ライトたちからは怪物に知性があるように見えなかったが、それは誤りだったと改める。


 目の前で人間を炙り始めたのだ。


 胴体部分は無傷に見えた町民たちが重度の火傷で醜くゆがんでいく。老若男女問わず皮膚が焼かれて見るも無残な状態に変化した。町民たちは地獄のような苦しみに気絶することも出来ずにただ叫ぶ。「死なせてくれ」と懇願する。

 このことから、怪物はいたぶっている人間が簡単には死なないように回復魔法をかけているのではないかと推測出来た。食べるために焼くという行為はある程度知性を持った生き物ならあり得る行為だが、苦しんでいるのをニヤニヤと笑いながら楽しむ悪辣な行動が獣に出来るはずがない。


 ──ドンッ


 悪の権化とも言える怪物にディロンがなりふり構わず突っかけた。

 血管を浮き上がらせ、修羅のごとき表情で振りかぶる無骨な斧。火の光に乱反射する凶器に怪物は慌てることなくヘラヘラと笑いながらあえて隙を作る。


 ゴッ


 ハンマーで殴ったような鈍い音が木霊した時、怪物の硬さを実感する。

 自慢の武器が無意味だったことに対する驚愕。怪物はディロンの恐怖の表情を見るため、あざ笑うように顔を向けた。


 ゴッ


 その瞬間に頭に斧が叩きつけられる。予想と違う行動に目を白黒させる怪物。

 表皮の硬さ程度で怯む時期はとうの昔に過ぎている。ディロンは構うことなく斧を叩きつけた。

 何度も何度も何度も。

 武器の強度を信頼しきったかのような一心不乱の乱れ打ち。これには怪物も少々困惑する。


「うっ?!この……離れろっ!!」


 怪物は手を振ってディロンを牽制する。振った瞬間に熱波が押し寄せ、ディロンを吹き飛ばしながら皮膚をじりじりと焼いた。


「あちぃなぁクソがっ!おいライト!そっちはどうだっ!?」


 ディロンは熱さを除けるように手を振りながらライトに呼びかける。

 大雑把な質問に怪物は次の攻撃が来るのかと身構えたが、肝心のライトと呼ばれる仲間の姿が見当たらず一瞬頭に疑問符を浮かべる。スッと目の端に映った影に反射的に目をやると、仲間と思われる男がいつの間にか怪物のすぐ側に横たわる町民たちに寄り添っていることに気付いた。


(なにっ!? この俺様に気付かれることなく……こいつっ!?)


 ライトは頭を横に振って目を閉じた。


「……ダメだ。全員死んでる」

「あっ?!なんだって!?」

「死んでるって言ったの!あたいでも聞こえたんですけど?!」


 横たわる無残な遺体に悔しさがこみ上げる。好き勝手弄ばれた町民たちが哀れでならない。ライトは怪物にギロリと突き刺さるほど鋭利な殺意を向けた。


「なんだその目は? 生意気な虫ケラがぁっ!!」


 ボッ


 ライトの胴体から上をかなぐり千切るように振るった爪は空を切り、そこから発生した熱波で町民の死体は一瞬の内に炭となった。


(ぬっ?!速いっ!!)


 怪物はライトの行方を追う。しかしライトを見つけるより先に体を無数の斬撃に曝された。


 ギギギギギャギギギャギギィッ


 金属を引っ搔くような音が怪物の全身に走る。斧で傷付くことがなかった体に付くひっかき傷。血液が出るほどではないが、ディロン以上の攻撃が放たれたことは言うまでもない。

 ライトはディロンのすぐ横にスタッと着地した。腰に佩いた2本の剣が鈍い輝きを放ちながら両手に収まっている。


『ふむぅ……硬いのぅ。此れの力では相性が悪いか?』

「いや、俺の剣が未熟なだけだ。レッドなら斬っていた」

「確かにその通りだぜ。野郎には負けてらんねぇ」

「えぇ……? あれは別格でしょう? 張り合うのもなんだかなって思うけど……?」

「バカが。男なら張り合うんだよ。どんだけ強ぇとか関係なくなぁ」

「バカって言うなっ!」

「口は悪いがディロンの言う通りだ。レッドにばかり負担をかけたくないからな」

「いやそれじゃ全然違うだろっ!」

『あーもぅうるさいのぅ。敵の前じゃぞ?』


 フローラの指摘にしっかりと敵を見据える。怪物はイライラした顔で不機嫌そうにライトたちを睨む。

 しかしすぐに思い直したように鼻で笑いながら見下した態度を取り始めた。


「ふんっ……虫どもが。調子こいてバンバン攻撃を仕掛けてくれたもんだなぁ? 見ろ。せっかくの俺様の昼飯が台無しだぜ。だがどうだぁ? 俺様はこの通りピンピンしてるなぁ。お前らの攻撃はまったく効いてないぜ? こんなもんで俺様を倒すってか? ……くくくっ……片腹痛いわ」


 自慢の体を見せ付けるように両手を開いてライトたちを煽る怪物。ディロンは斧を肩に担ぎ、感心したような顔で怪物を見た。


「はぁ、ずいぶん饒舌なバケモンだな。あの口から片腹痛いなんて言葉が出るとは思いもよらなかったぜ」

「グハハッ!それはこちらのセリフだな。頭の悪そうな顔をして存外喋れるではないか木こり男」

「んだとコラ!誰が木こりだ!」

「一応話は出来そうだな。貴様は何者だ? どうしてこんなことをする?」

「俺様か? 俺様の名はサラマンドラ=フォルティネスだっ!その小さい頭に刻んでおけ。それから何だ? 目的? 目的なんざ見れば分かるだろう? この惨状を目の当たりにしてまだ俺様が友好的に見えるか?」


 サラマンドラと名乗った怪物は燃え盛る町を見ながらゲタゲタと笑って見せた。


「チッ……いっぱしに挑発しやがってイラつく野郎だ」

「ある意味では幸運だったな。獣であれば尻尾を巻いて逃げられたかもしれないが、少し知性がある分俺たちを軽んじてこうして足を止めている。死の間際に追いつめられても逃げずに死んでくれるだろう」

「そりゃそうか。急に土の中にでも逃げられた日には追いかけるのも一苦労だしな」

「あたいならすぐに探し出せるよ?」

「さすが地竜王」


 ズンッ


 怪物は足型をつけるほど思い切り地面を踏んづけた。地鳴りがライトたちの足場を揺らす。


「ふざけてんじゃねぇぞ虫どもがっ!!お前らまとめてぶっ殺してやるよっ!!」

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