133、エピローグ
──冷たく深く暗い闇。
幾年月が経ったのか。
私はどこを彷徨い、どこに行きつくのか。
──泥の海に沈み、すべてが統合されるような不思議な感覚。
何を間違ったのか。どうしてこうなったのか。
私には想像がつかない。
誰かに聞けば答えが返ってくるのだろうか。私はそれを理解出来るのだろうか。
いまや感情すらもどこかに置いてきてしまったように空虚だ。
もはや生きているのか、死んでいるのかも定かではない。
だが意識だけはここにある。
私という存在を保ち続け、今一度復活を遂げようとしているのか。
しかしそんな生に何の価値がある。何もかもを失った私にいったい何を望む。
──光だ。
それを見つけた私の目に映ったのは、まさに銀河の始まりのような美しい瞬間だった。
頭を殴られたような衝撃と見たこともない光景に圧倒される。
世界は一つではない。
ああそうか。私の世界は砂漠の砂の一粒に過ぎないのだ。
──当て所ない旅。
全てが新鮮で、全てが輝いて見えた。
こんなにも多く、幾重にも重なる世界が目の前に広がっている。
──知るきっかけはごく単純な追放劇。
信じていた者からの裏切り。憎悪に彩られた黒い汚泥が心を染めて沈んでいく。
だがこれは一時の感傷だった。無限に広がる青い空の前には全てが矮小に霞んで見えた。
暗く澱んだ感情が洗われていく。痛みが消えていく。欲求が満たされていく。
ああ、そうか。私は朽ちた古井戸に捨てられた赤子だったのだ。
井戸の底から見える小さな空に満足していた無知蒙昧などうしようもない存在だったのだ。




