106、贈り物
超合金ゴーレム『ルイべリオン』を手にしたステラとは魔導国で別れることになった。
「本当に何から何までお世話になりました。このご恩は一生忘れません」
「旅の無事を祈ってます。お元気で」
レッドたちは小さくなっていくステラの荷馬車を見送った後、魔導国の冒険者ギルドに向かった。
ギルド会館に到着し、受付で到着の報告を済ませると仕事の掲示板を眺める。次の任務を吟味していると、背後から声をかけられた。
「レッド」
「ん?え?誰……」
パッと振り向くとそこには人間形態のグルガンが立っていた。
「あ、グルガンさん」
「よくここが分かったな」
「なに。受付でロードオブ・ザ・ケインに居ると言われてな。アラムブラドから飛んで来たんだ」
『飛んでって……どれだけの距離があると思ってる?散歩感覚で来られる距離じゃないわい!此れより早いなど其れは世界の理でも変えたんかい!?』
「我にそのような力は無い。強いて言うなら魔剣の力だ」
「魔剣?そういえば女神の時に使っていたな。あれの力か?」
「レイジ・イグナイトか?いや、違う。移動に関しての力は魔剣レガリアが担っている」
「え?そんなに魔剣を持たれてるんですか?」
「うむ。6本ある」
「ろっ……!?」
レッドは愕然として一歩後退する。
『は?魔剣なんぞ何処に持ってるのじゃ?剣がなければ力は使えまい?』
「あぁいや、レガリアは別だ。魔剣に認められた所有者であることで手放していても使用可能という優れものでな。能力はテレポート。瞬間的に現在の地点から目的の地点までを移動出来る。今は貸し出していて手元にないが単独での移動なら特に制限はない。……そろそろ取りにでも行くか。もうあの男には必要ないからな……」
「そんなことよりせっかく合流したのだから、お前も任務に参加しろ。今どれにするかを話し合っている最中だ」
「良かろう。任務ついでに話したいこともあるから、軽い任務が良いな」
掲示板を見ながらチームで仕事を探す。レッドはこの何気ない共同作業に幸せを感じていた。チームに加盟してくれたみんなが一丸となる空気感に酔いしれつつ、いざダンジョンへと向かう。
*
魔導国ロードオブ・ザ・ケインから近いダンジョン。レイラ=伯爵=ロータスが主人である”花の宮”と呼ばれるダンジョンの任務を受注した。
「は?お、俺に贈り物ですか?」
ダンジョンに入って早々、グルガンの発した一言にレッドは困惑した。
「ああそうだ。貴君の女神戦での活躍、見事であった。世界滅亡を食い止めた貴君にフィニアスと相談し、贈り物をしようという話になったのだよ」
「見事って……えへへっ……全然そんな大したことじゃ……で、でも貰えるものなら貰っときたいかなって思いますけど……そ、それでいったいなにを?」
「うむ。爵位と領地を貴君にと思っているのだ。要は騎士の位とダンジョンを授ける。ぜひ受け取って欲しい」
「えぇっ?!あ、いや……光栄ですけど俺は人間ですよ?魔族の方々に申し訳ないと言いますか……」
「何を言う。貴君は他に類を見ない活躍をしてくれた。我らから贈れる最大限の賛辞を形へと表すならこれしかない」
「えぇ……でも……」
レッドは困惑し、ライトやオリーに助けを求める。
「……なぁグルガン。フィニアスや君がレッドの力を側に置きたい気持はよく分かるが、強引が過ぎるぞ?レッドの気持も考えてだな……」
「そうだ。レッドが騎士などあり得ない。せめて公爵ぐらい貰わないと」
「なっ……!?た、確かにオリーさんの言う通りだ!根本的な部分もあるが、位階が低いのも問題だ!せめて伯爵というのはどうだろうか!」
『力だけで言ったら王というのも手じゃが、その後の治世を考えると騎士が妥当とも言えるのぅ?』
「あ、3人とも違う違う。上の階級どうこうじゃなくてさ……こう、爵位自体がね?」
レッドが焦って訂正しようと頑張るが、グルガンが手を挙げてレッドを制する。
「裏を読むのは勝手だ。魔族の中でも意見が分かれるだろうからな。我ら魔族側に置いておきたいだけだろうというライトの意見もその1つだ。だがこれは皇魔貴族の最高栄誉賞なのだ。人間と魔族の垣根を越える第一歩をレッドに捧げたいのだ」
「……そ、そうなんですね……はい。分かりました。それじゃあの……い、いただきます」
グルガンの心からの感謝に受け取らない方が不味いと考えたレッドは、これ以降あまりゴネることなく受け取ることに合意した。
言いたいことは多々あるものの、わりと平和裡に解決したグルガンからの贈り物問題。ここからは仕事に集中することになった。
「えっと、なんだっけ?グレイトホーンの角を取るんだっけ?ロングホーンの超強い版ですよね?ライトさん」
「ああ、雷を蹴ると謳われる大鹿だ。今まで速すぎて本体を捕まえたものはいない。本来なら成長しすぎて折れた角を拾うのがセオリーだったが、今なら走るグレイトホーンの角を切れるだろうな」
「私が追い立てよう」
「それなら我がオリーをアシストする。チームプレーという奴だ」
『周りくどいのぅ。グレイトホーンなんぞ1人でやっても良かろうに……この際乱獲して金をゴッソリ稼いだらどうかのぅ?』
「希少だから高く売れるんだ。たくさん取ったら値崩れする。物の値段とはそういうものだ」
「そうだな。それにここはロータスのダンジョン。乱獲は後で何を言われるか分かったものじゃないから、無茶はしないようにしてもらうぞ」
『ふ〜ん。面倒じゃのぅ』
フローラは両手を頭の後ろに組んで見物を決め込む。そうして始めたチームプレーだったが、オリーとグルガンが追い立て、次の瞬間にはグレイトホーンの角は宙に浮いていた。フローラの言った通り、1人でも出来ることを複数人でやれば開始1秒でこのザマ。仕事を一瞬で終わらせたレッドたちは角を持ってダンジョンを後にする。
ギルドで換金を試みたが、角を見た途端に受付嬢の顔から笑みが消え、即奥の間に通された。理由は見たこともない角をグレイトホーンの角だと言い放ったから。ギルドマスターと依頼人が部屋に入り、査定されることになった。
グレイトホーンの自然に折れた角は茶色く燻んでいるが、取った角は透き通るほど真っ白で綺麗なものだった。流通することのない希少過ぎる角を見た冒険者ギルドと依頼人は、あまりの綺麗さに驚き戸惑い、依頼した金額では安過ぎるとして依頼人が任務を取り下げて支払いを放棄。角は捨てるわけにもいかないので今後鑑定人が入ってからギルドが買い取ることになり、事実上受けた任務は失敗に終わる。
「……たくさん取ってきたわけでもないのになぁ……」
プリナードという田舎街で大量に薬草を売ろうとしたことを思い出していた。依頼人を破産させるわけにもいかないので諦めざるを得ないが、取ってきたのに任務失敗はあんまりだと密かに悲しんだ。慰めに上宿を取って体を休めることにした。
「すまないが我は少し外す。すぐに戻るつもりだが、もし万が一急ぎで魔導国を離れることになったら気にせずに行ってくれたら良い。すぐに追い付く」
「あ、そうですか。じゃ先に晩ご飯食べちゃいますね」
「ああ、たっぷり食べてくれ。ここは我が持つ」
ジャラッとお金がたっぷり入った袋をレッドが断る間もなく渡し、テレポートでさっさと消え去った。「あ、その……お気をつけて〜……」という情けない呟きだけがポツリと空気に溶けて消えた。




