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105、ルイべリオン!

 エクスルトへの運送任務(クエスト)は報酬が全て支払われたことで終わりを迎えた。

 血眼でレッドたちの落ち度を探っていた町長たちも諦めざるを得ないほど完璧に対処され、減額の糸口も掴めぬまま奔走して掻き集めたお金を結局全額支払う他に道はなかった。

 ただでさえ辺鄙なところにある町で、運送ギルドの手を借りて生きている町だ。付け入る隙も無く凶行に走れば、突然物資を滞らせたり、契約を解除される可能性が出て来る。そうなれば町の生活基盤は崩れ、(たちま)ち立ち行かなくなってしまう。何事にも踏み越えてはいけないラインが存在するのだ。

 ちなみにこの後、運送の莫大な成功報酬を支払ったことからエクスルトの町長は辞任に追い込まれ、最終的に屍竜王への供物として死の谷へと送り出された。今回限りとなるはずだった運送任務(クエスト)も変わらず発注され続けることになる。


 ──数日後。


「あ、ステラさん。もうすぐ着きますよ」

「ん〜……」


 荷馬車を転がし、えっちらおっちら魔導国へと旅を続けていた。ライトに馬を預けて荷台で昼寝していたステラに声がかかったのは夕暮れ時だった。


「あっ……!す、すいません!寝過ぎてしまって……」

「いえ、全然大丈夫です。御者もなかなか良いものですね。ゆったりと平和で」

「か、代わります」


 ステラは口の端に出来た涎の筋を拭きながらライトの隣に躍り出る。ライトから手綱を受け取り、前方を確認すると目の前に検問所が見えた。問題なく検問所を通って魔導国へと入国した。


「うわぁ……いつ見ても大きな街。魔導国に来るのはずいぶん久しぶりなんですよね」

「いろんな建物やいろんな店があって、歩き回るだけでも数日は飽きずに過ごせます。みんなと巡りたいところだけど、そんな暇はないのだろう?レッド」

「あ、はい。魔導局に行ってルーさんに合わないと……あ、荷馬車をどこかに預けましょう。ラボに行くことになったら細い路地に入っていかないとなんで……」

『そりゃ残念じゃのぅ』

「それなら魔導国の運送ギルドに預けて来ます。ここの倉庫は広いので簡単に停めさせてくれるはずです」


 ステラはレッドたちと離れて倉庫に行き、荷馬車を預けて魔導局に向かう。


「はぁ……駐車料金取るなんて……ギルドの(よしみ)で無料にしてくれれば良いのに……」


 ぶつくさと文句を言いながら魔導国のランドマークである魔導局の入口付近でレッドたちと合流し、目的の人物であるテス=ラニウムとルイベリア=ジゼルホーンに会いに受付に向かった。



「いやぁごめんごめーん。局でやると上がうるさくてさ〜」

「ルイベリアは前に研究室を私物化して減俸を食らったことがあってな。それでラボを作った経緯があるんだ」

「あ〜も〜テスぅ。僕の鉄板ネタを取っちゃダメじゃないか〜」


 結局ルイベリアのラボで再会を果たしたレッドとオリー。ライトとステラは初めて会った2人と自己紹介を交わして早速レッドの頼んだゴーレムのお披露目となった。


「見てくれっ!これぞ汎用性抜群超合金ゴーレム!その名をルイベリオン!!」

「ル、ルイベリオン?!」

「本当はテスと共同作業で作ったからテスの名前も入れたかったけど拒否されちゃった」

「当たり前だ。私は体の組み立てと基本動作を核に覚え込ませただけだからな。ルイベリアが名付けるのは当然のこと。それに実績にならんことに私の名前をつけるのはもったいないしな」

「か、仮にテスさんの名前が入っていたら何処にどう入っていたのでしょうか?」

「レッドくん。その答えは『聞くな』だ」

「す……すいません……」


 レッドはしょぼんと小さく縮こまる。

 ルイベリアのオリジナル合金"ルイベニウム"で作成されたゴーレム。そのシルエットは中肉中背の女性。身長が高く肩幅の広いモデル体型。光沢を消すように塗料を噴霧し、金属感を極力抑えている。頭にヘルメットのようなサラサラのカツラを強力な(のり)で固定。一見本物の女性のように見えなくもない。しかし顔は仮面のようで、鼻と口がない。目は人と同じ位置に付いていたが、魔力で光をぼんやり放っているのでおよそ人間とはかけ離れていた。

 ステラは顔を見て苦笑いを浮かべつつゴーレムに目を向けた。


「なんか顔がちょっと怖いですね」

「いや〜っこれでもだいぶ抑えた方だよ?全身をスタイル抜群のテスに寄せたからそのノリで顔の型を取って一回樹脂を固めて作ってみたんだけど、何だか気味が悪くて……」

「失礼な話だろ?だが確かに不気味だったな。結局このお面のような顔で落ち着いたんだ」

「へぇ〜」


 ひとしきりゴーレムの説明をしたルイベリアは会話が途切れたのを見計らってステラに近づく。


「さてさて〜。魔導局きっての優秀な研究員である僕らの粋を集めた結晶をその手に出来る幸運な女性は君だね?」

「あ、あははっ……でも私にはちょっと手が届かないというか、まさかここまで凄いものをお出しされるとは思ってなかったというか……家族経営の運送屋なのでお金がですね……その……」

「ん?お金がない?……おやおやぁ?あれあれぇ?これはおかしいなぁ。僕が聞いた話によれば……これはレッドからステラへのプレゼントって聞いたけどぉ?」

「え?」

「あ、はい。雇用関係で悩まれていたので、ゴーレムなら力も強いし長く使えるかと思ったので……」


 レッドは照れ臭そうに自分の後頭部を撫でる。オリーはその様子にニコリと笑みを浮かべる。


『はっ!一丁前にサプライズかえ?なかなか隅に置けんのぅレッドは』

「ああ、全くだ」


 ライトはフローラと視線を交わして微笑んだ。ステラだけ置いてけぼりを食らい、焦りながらレッドに質問する。


「な……なぜ……どうしてそんなことを?」

「あ、え?……め、迷惑でしたか?」

「迷惑だなんてそんな……!ただ私とは単なる仕事の関係でしょう?皆さんの警護も完璧で私ばかりが得をして……なのにそんなことまで申し訳ないと言うか……」

「で、でも今後お一人ではその……仕事が大変だと思いますので。あの……その……」

「で、ですから!これほど高価なものを無料(タダ)というわけには……!」

「いえいえ。これはほんのお気持ちですから……」

「あり得ないでしょ!?こんなお気持ち!」


 その言葉にルイベリアとテスが既視感を感じてフッと笑った。


「ステラくん。彼はそう言う男だ」

「そ〜そ〜。受け取っときなよ。これで僕らも貸し借りは無しになるんだからさ」


 ステラ以外の全員が微笑ましい顔で成り行きを見守る。ステラは半ば同調圧力気味にゴーレムをもらうことになった。ルイベリアたちがルイべリオンの主人を登録している間にライトがレッドに尋ねた。


「君は優しいな。出会って間もない彼女にゴーレムをあげるなんて」

「いやそんな……同じ死線を(くぐ)った仲間ですし、立て続けに起こった不幸を聞いちゃったら……ちょっと偉そうかもしれませんが放っておけないっていうか……」

「本当に君は……」


 ライトはレッドのお人好しぶりに頭が下がった。

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