第六話 悪魔の子
「あのぅ」
「どうしたヨナ君?」
「いや『どうした?』じゃなく!!」
「何がだ?」
シルクは何も分からないと言った顔で振り向き首を傾げている。
「いや、成人したばかりと言え。僕も子どもじゃありませんし。男女が会ってすぐに一緒の部屋というのはどうかと……」
「ん?ただ単に身体を休めるという理由で、宿の部屋が二人分空いていないのだから仕方ない事であろう?それとも何か?ヨナ君はその日初めて会った私を襲うと言うのかい?」
全くもって、そんなことは考えていない……全くもって。
「そんな…シルクさんを襲うだなんて……僕にはサラがいるし……」
「何だ?襲わない自信がないのか?ははは!!まぁ大丈夫だよ!!私の体を見たらそんな気も失せる」
そう言いシルクさんは甲冑を脱ぎ始める。
甲冑を脱いだシルクさんの体は鎧下がピチッとしていて、そのシルエットには十二分に色気がある。
「ちょっ!!」
シルクさんはこちらに背を向け鎧下まで脱ぎ始めた…
体が熱くなる。
「ヨナ君…見てくれ……」
ヨナはシルクの背に背を向け、見ないようにしていた。
「い、いえ!!着替えが終わるまで待ってますから!!」
「いや…見てほしいんだ……
僕はシルクさんのもの悲しげなその声に冷静になり少しずつ後ろを向いた。
「醜い……だろ?」
シルクさんの背中には赤黒く染まった何かの爪痕の様な火傷跡の様なものがあった。
「これは……?」
ヨナは欲情や恥ずかしさなどの感情を忘れ、真剣な表情でシルクの背を見る。
「呪いさ」
「呪い?」
「ああ。私が新米騎士だった頃……自分で言うのも何だが、相当に優秀でな。周りからは天才だと持て囃されいた…その時に自身を驕ったが故についた傷だ。どんな高位治癒魔法でも治らない一生消えない傷だ」
「魔物ですか?」
「いや、魔物ではない…」
シルクさんは少し間をおいて言う。
「…"悪魔"だ」
ドクンッ
ヨナは自身の心臓が大きく跳ねたと感じる。
それは自分が『"悪魔"憑き』だと蔑まされてきたからか。
「悪魔……ですか」
「奴らは強力な力を持っている。過去の事例では上位悪魔を討伐するのに8カ国もの軍が共闘し総数200万の兵のうち半数が死亡。死傷者は市民を含め500万人にものぼったと言う」
悪魔……
「幸い私が遭遇したのは下級悪魔の中でも誕生したばかりの個体だった為その時の騎士団で討伐した」
「なるほど誕生したばかりの個体でもそれ程の力が」
「ああ…だから悪魔に出会った時は直ぐに逃げ帰り国へ報告する事が賢明だな」
シルクさんは寂しそうな顔をする。
「さぁ、そろそろ夕食を食べに行こうか」
シルクさんは切り替えたように言う。
「そう……ですね」
そう言って自然に腰掛けていたベッドから僕は立ち上がり先にドアへ向かう。
「シルクさんのその傷。僕は醜いなんて思いませんよ、寧ろ人々を守った証で素敵だと思います……」
シルクさんは頬を緩ませる。
「これは…きづか、いや、ありがとう。ヨナ君は優しいな」
「いえいえ、本当に思った事ですから」
彼女が少し顔を赤くするのを横目に見ながらヨナは先に部屋を出る。
「ここの食事は美味しいですね」
「ああ、そうだろ?いつも遠征の時お世話になっているんだ」
僕たちは宿の夕食を食べ終え部屋に戻ろうとしている。
「そういえば思ってたんですけど遠征ってシルクさんたちの団って違う街なんですか?」
「そういえば行ってなかったな。私たちはエーギル共和国の王都騎士団だ」
「え?」
おいおい、この人一番重要な事言い忘れてるよ!
「いやいや、王都って!僕がもし入団することになったら王都に行くってことですか!?」
「あー、そうか。そういう事になるな」
「『あー。そうか。』じゃないですよ!?入団の件は断らせていただきます!」
「なぜだ!?」
そんな驚かれても困ります。
「当たり前ですよ。村を出て一週間程度で王都に出るってとてもじゃないですけど勇気出ませんよ!!」
「大丈夫だ私がずっと付いていてやる!!」
全然大丈夫じゃないです。
何でそんなに自信があるのか謎です。
「とりあえずそれも含め3日後までに決断してくれたまえ!!」
そう言ってスタスタと先を歩く…
いま決断しましたけど!?
はっきりと断りましたけど!!
「はぁ……」
部屋に帰ると、先に帰っていたシルクさんが脱衣所から顔だけ出し先に『先に風呂をいただくぞ』と言い扉を閉めて行った。
僕はベッドに飛び込み天井を見る。
「王都騎士団か…だいたいエルフ族が騎士団に入っても大丈夫なのか?」
基本的に集団行動が得意な人族が騎士団に多いイメージだけど。
イジメとか差別とかありそうだなぁ。
そんな事を考えていると少し眠くなってきた……
『おい…起きんか』
久しぶりに聞いた声……
『起きろって言っとるやろが!!』
僕の頬に衝撃が走る。
ビンタだ。
「いったぁあっ!?」
僕は衝撃に驚き、頬を抑えながら顔をあげる。
顔をあげるとそこは暗い空間だった…
「えっと…地獄?」
『ちゃうわ』
僕はその声に反応して後ろを振り向く…
「誰……君は?」
目の前には見たことのない服を着た"僕"が片膝を立て偉そうに座っていた。
『前にも言うたやろ…って前に喋ったんは10年ぐらい前か……』
話した?
僕には全く記憶がない……
『記憶がないのも無理あらへん。あの時はお前は無意識みたいなもんやったから』
「無意識?10年前って……もしかして!?」
『せや、正解や。お前ら二人を助けた時や』
僕とサラがオークに襲われた時、サラは僕が別人になったと言っていた。
つまり、この人が?
『突然やが、儂らはエルフやない』
「儂ら?」
トクンッ
まただ、心臓が…
もう一人の僕はいつの間にか大きな盃を持って何かを呑んでいた。
僕を怪しげに見つめる。
『お前と儂は一心同体。同じ生きもんや…』
そう言い一気に盃を空にするとそれを置いた彼は、嬉しそうに笑みを浮かべる。
僕を見る眼は鋭く、僕よりも瞳の色が紅黒くなっていた。
全ての音が静まり返る。
……心臓の音さえも。
『エルフのその身に魔王の血を継いだ……」
その言葉に心臓の音だけが大きく鳴り響く……
『"悪魔や"』
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