第五話 冒険者登録。
「いや、先程は助かった。改めて礼を言うよ」
現在、ヨナはBランク冒険者に絡まれていた女性と昼食を食べている。
「いやいや、僕が助けたのは貴女じゃなく。あのお兄さんの方ですよ」
「と言うと?」
ヨナがそう言うと女性の顔つきは、ガラリと変わり。こちらを値踏みする様な眼光を向ける。
「そんな顔すると怖いですよ」
ヨナはそう言いながら喉を潤す。
「なるほど……これはこれはすまなかった。少し気を向けてみたんだけど。さっきの動きといい、今の動じなさといい。君は相当に強いようだね」
「いやいや…それは過大評価ですよ。僕は今日冒険者登録しに行く途中で捕まった素人ですし。レベルだって19ですよ」
ちなみに冒険者登録時の平均レベルは25である。
「そう言う事にしておこう、生憎私は鑑定スキルを持っていないから君のステータスを覗けないしね。
嘘は言ってないんだけどな。
このジュースおいしいな。
「で、さっきの話だがどう言うことかな?」
「『どう言うこと』と言うのは?」
「私ではなくあの男を助けたと言う話だ」
お姉さんは聞いてくる。
「いや、当たり前ですよ。龍の尾を踏みそうな人を見かけて無視するほど、僕は人でなしじゃないですから……エルフですけど」
「にしては、回りくどいな……と言うよりもその言い方だと私は龍になるが?そんなに怖いものだろうか?」
「……あの男、本気で貴女のことを引っ張ってたのに貴女は微動だにしなかった。それに貴女の着ている甲冑の素材ってミスリル銀ですよね?加えて剣の鞘には年季が入っていて長年使っていると見て取れる……」
「よく見てるなぁ……」
女性は自分の装備を見やり感心している様に言葉を漏らす。
そしてヨナは続ける。
「……あと、貴女が自分で言ったじゃないですか」
「なにを?」
「『私は大丈夫だ』って」
「……」
「……?」
ヨナは一切の動きが止まり無言になった女性を見つめる。
「っぷ!!はっはははははは!!!!」
え、なに?どしたの?
いきなり笑い出した。
数秒後。
女性は目尻に溜まる涙を拭い、言葉を紡ぐ。
「ふぅ…いゃ〜失礼、失礼。君は面白いよ…本当にさ……よしっ決めた!!」
お姉さんは卓を叩いて、立ち上がり僕を指差す。
そして大声で。
「私は君をスカウトするっ!!!!」
周りの人たちは何があったのかとこちらに目を向ける。
そして言い切ったとばかりに静かに椅子を引き再び座る。
「えーっと……なんのことでしょうか?」
「私はこの国で騎士をやってる、シルク・ラルナという者だ」
お姉さんが名前を言うと周りがざわざわと騒がしくなる。
「おい…あれ騎士団長様じゃ無いか?」
「うわっマジだ!!綺麗だな!!」
「え、嘘!?シルクお姉様!?」
「キャーっ!!最高!!もう私今日で死んでもいい!!」
まるでどこかの王族が来訪したような歓声だな。本人は気にしていない様子だけど。
と言うか騎士団長なんて偉い人なら先に言っておいてほしいね……全力で逃げたのに。
「はい。で、王国の騎士様がしがないエルフに何か?」
「率直に言うと君を騎士団に勧誘したい!」
勧誘?
騎士団?
この街に来たばかりなんですけど…したい事色々あるんですけど。
冒険とか……とか?
「まずは騎士団に入団するにあたってだが……」
「ちょ、ちょっと待ってください。なんでもう入団する流れなんですか?」
「あ、これはすまない。悪い癖でな、いつも先走りすぎるんだ」
無理やり入団させるような悪い人では無いのか。
「今の騎士団には何としても君のような人材が必要なんだっ!!頼むっ!!」
シルクはヨナの手をとり積極的に迫る。
はぁ……どうしよう。
「……なら。3日間考える期間をください。僕もまだこの街に来たばっかりなのでこの場で即断はできません」
「なるほど、承知した……であれば!!君が入団したいと思わせれるように3日間、私は君と行動しようっ!!」
「え、あ…はぁ」
す、すごく積極的だな。
ヨナはシルクの積極性に困惑を隠せない。
「ああ、それと。一つだけいいか?」
「な、なんですか?」
「3日後に全騎士団合同の訓練がある。それだけは必ず見学して欲しい。詳しくは宿で話す」
「分かりました」
僕が了承するとシルクさんは席を立った。
せっかちだなぁ。
「では、君が泊まっている宿はどこかな?」
「いや、本当に先程この街に到着したばかりで。冒険者ギルドで素材を換金してからと宿探しをと思ってて」
「なら、私のおすすめの宿を紹介しよう。その前に素材を換金しにギルドへ行くか」
「わ、分かりました。ありがとうございます」
何だかんだで話がまとまり僕達は冒険者ギルドへ向かった。
というか、なんで一旦茶屋に連れて行かれたんだ?
「え…えーっと素材を売りたいと言う事で」
「はい」
何故か受付嬢さんがおどおどしている。
ヨナは気づいていないが、先程の騒動を見ていた者がどれだけ少年の事を恐れているか。
「あ。ギルドカードを……」
「あ。持ってないのですが」
「あ。え?まだ冒険者じゃない……?」
「あ。はい」
「あ。じゃあ冒険者登録もしていかれますよね?登録されている方ですと素材の売値が少し上乗せされますので」
「あ。お願いします……」
「なんだ。あの二人『あ。』が多いな……人と話すの何年振りか?」
遠目から見守るシルクの言葉である。
受付嬢はカウンターの奥へ消え、登録に必要な物を取りに行く。
「では、こちらに種族名とお名前を記入して、こちらの魔導盤に手を置いてください」
「はい、分かりました」
「代筆は必要でしょうか?」
「大丈夫です」
僕は文字をサラに教わっていた為自分の名前や種族ぐらいは書けた。
「書き終わりました」
「では魔導盤へ」
ヨナは魔導盤に手のひらを乗せる。
すると魔導盤が紫色に光り、魔力が少し吸われる感覚がした。
1秒ほどで光がおさまった。
「ありがとうございました。これより奥で手続きをしてきますので。素材を右手の扉の向こうへ素材置き場があるので素材を置いてきてください」
「はい、ご丁寧にありがとうございます」
「終わったか?」
「すみません待ってもらって」
「いやいや、良いんだ」
「今から素材を置き場に持って行きますが」
「ついて行ってもいいか?君がどんな魔物を倒しているか見たいし」
「シルクさんが期待するような魔物の素材は持ってませんよ」
「それでも構わないよ、なんだか面白そうだからね」
ほんとに期待されても何も無いんだけどなぁ。
「兄ちゃん素材をここに置いて、終わったらこの台の上の魔導盤に手を置いてくれ。完了したら受付へ帰ってくれて構わない」
おじさんは丁寧に説明してくれる。
「ありがとうございます」
「おう!!分からんことがあったら聞きに来てくれ」
そう言っておじさんは奥へ素材の鑑定をしに行ったみたいだ。
「じゃあ出しますか」
狩りを始めて10年間溜め込んできた素材。
「お、ヨナ君はアイテムボクックス持ちか?」
「はい。そうですけど」
「珍しいな」
珍しい物なのか。アイテムボックスってサラも父さんも持ってたから結構な人が持ってて当たり前だと思ってた。
「おいおい……どう言うことだ?」
「えっと『どう言う事』というのは?」
「ヨナ君……キミは一体何者だ?」
そう問うたシルクは、目の前の光景を信じられないと言いたげにする。
それもそう、ヨナが出した素材の量は通常一人に用意される置き場を六つも埋めた。
一つの置き場の大きさが家一軒が立つような面積だというのにそれを六つも埋めたのだ。
シルクの顔は一つ目を半分埋めたあたりから今の表情になっていた。
アイテムボックスの容量はスキルのレベルと使用者の魔力の量により収納できる量が変わる。
つまりこれだけの量の物を収納できるアイテムボックスは魔力が極端に高いかスキルのレベルが最大に近いことを意味する。
「君は大魔導士か?それとも勇者か?」
「えっと……」
「それにこの量の素材。下級の魔物と言えこれほどの数を倒したなら、君のレベルは一体幾つだ?それに極め付けには上位種のオークまで。その歳でどれほどの経験をしてきたんだ……」
シルクは事実を言葉にするたびに驚きを通り越して呆れた表情になってゆく。
「まぁ…人並みには……」
「っ!?これを人並みとは言わない!!話は宿に帰ってから聞かせてもらうっ!!」
え、宿に帰ってからって。
「え!?宿も一緒なんですか!?」
「当たり前だっ!!こんな物を見せられて、私は帰るに帰れないっ!!」
『血を…』
「はぁ……」
興奮したのか…なんだか体が熱いや……
僕は六つの魔導盤に手を認証させ、受付へと戻る。
「素材、置き終わりました」
ヨナは先程の受付嬢に声をかける。
「長い間お疲れ様でした。ちょうど、ギルドカードも完成しましたので。お渡しいたします。身分証と同様に魔力を込めると情報が浮き出ます」
「ありがとうございます」
そう言って受付嬢さんから何も書いていないギルドカード受け取る。
「では、素材の……はい、はい?は、はい分かりました」
受付嬢さんが素材の説明をしようとしてくれていたら。奥から他の職員さんが受付嬢さんに話しかける。話を聞くうちに受付嬢さんの表情が硬くなって行く。
「すすすすみません」
またオドオドしている。
「はい、大丈夫ですよ」
「え、ええ……あの…ヨナ様の素材が今日中では鑑定できないという事なので」
「え……」
「はい。すみません明日までには完了すると思われますので明日以降ギルドへお越し頂けると支払いができるのですが」
「今日は換金できないのですか?」
「そうなります」
「少しの素材分だけでも」
「すみません、ギルドの規定で一度素材を鑑定し始めたら中断や前払いと言うのはできないんです」
それは困った……今日の宿代が。
「すすすすすみませんっ!!すみませんっ!!すみませんっ!!すみませんっ!!
受付嬢さんが何度も頭を深く下げて謝る。
こわいこわい……ヘドバン。
「い、いえいえ、そんなに謝らないでくださいっ!!仕方ないですから。大丈夫ですっ!!」
大丈夫じゃ無いな〜
久しぶりにしっかりしたベッドで眠れると思ったのに…
「どうしたんだヨナ君?そんな顔を暗くして」
「えっと鑑定に時間がかかるそうで換金は明日になるそうです」
「あ〜なるほど……」
シルクさんは考え込むような様子をとる。
「ですから今日はどこかで野宿しま……」
「……私が宿代を出すよ」
「え、ほんとですか?」
「未来の団員の為さ。それくらいはさせてもらう」
「まだ入団するとは限らないですけど。と言うか断りにくくなるじゃ無いですか」
「冗談だ冗談。明日換金されるのだろう?では、その時に返してくれれば良いよ」
「分かりました。ではお言葉に甘えて、お借りします」
話をまとめた僕らは、ギルドを後に。
シルクさんおすすめの宿へと向かった。
「『銀狼の宿』なんだか、強そうな宿ですね」
「ああ。強いぞ?いつも女将さんのサービスも良いしな」
「へぇ〜そうなんですか」
何が強いんだ?
「いらっしゃいませー!」
扉を開けると僕と歳が変わらないくらいの女の子が出迎えてくれた。
看板娘って奴ですかね?
「おお!!レーナちゃん久しぶりだなっ!!」
どうやらシルクさんの顔見知りのようだ。まぁオススメするくらいだし何度も泊まりに来てるか。
「シルクさんっ!!一年ぶりですね。お母さん呼んできますねっ!!」
「可愛いだろ?私より二つ下の15歳だ。ちょうどヨナ君と同じだな?」
「え?」
「え?」
「えぇえええ!?」
「ななななんだ!?」
「シルクさんまだ17歳なんですかっ!?」
「なに?そんなに驚くことか?」
「いや、言動が大人びてて、失礼かもしれないですけど、五つは年上だと思ってました……」
「ふははは!!大人びてるなんて光栄な褒め言葉じゃないか」
宿の玄関で騒いでいる二人の元に。
「あらあら、シルクちゃん」
「あ、これは、これはお久しぶりです。女将さん」
いつの間にか女将と呼ばれる女性が立っていた。
先程のレーナさんに似ていて若くて美人だ。
「久しぶりね。また遠征かしら?」
「そうですね。団体訓練の為に」
ん?
シルクさんてこの街の騎士団じゃないの?
まぁ……あとで聞くか。
「で、そちらの男の子は?」
「あ、初めまして。ヨナと言います」
僕は女将さんに軽く挨拶をする。
「あらあら、シルクちゃんにも春が来たのねうふふふ」
「違いますよ。今度うちの団に来てもらおうと勧誘中です」
「それで……色仕掛けを?」
「なわけ…ってそれもありか……」
「て、流されないでくださいよシルクさん……女将さんも悪知恵を与えないでください」
「あら勿体無いわぁ……シルクちゃん可愛いのに」
確かに綺麗ですけど。
「で、今日は宿泊かな?」
女将さんが話を切り替える。
「そうですねっ!!二人部屋をお願いしますっ!!」
『……やっと』
「いや、シルクさん冗談が過ぎますよ。一人部屋を二部屋お願いします」
「いいではないか〜」
「黙ってて下さい」
女将さんはニヤリと笑う。
なぜか、嫌な予感がする。
「ごめんなさいね〜今一人部屋が空いてなくてぇ二人部屋しか用意できないのよ」
「え」
「いいじゃないかヨナ君っ!!遠慮するでないっ!!」
「遠慮しますっ!!あ、そうだそれなら二人部屋二部屋お願いします!」
「ごめんなさい……それは無理なの。他のお客様も来るんだから、迷惑になっちゃうわ」
くそっ!!
この女将さんおっとり小悪魔だ……
そんなこんなでシルクさんと一緒の部屋になってしまった……
『やっと血が……」
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