第四話 お決まりの。
その後、サラと僕の傷は何故か完治しており。意識のない僕はサラにおぶられ僕の家まで戻った。
僕の意識は家で目覚め、事の顛末をサラから聞いた。
僕の様子が変わった後のことは僕自身一切記憶になかった。
でも、サラも僕も無傷で家に帰ってこれたと言うことは……その話は真実なのだろうと僕は信じた。
それから僕はレベルアップについて考えた。
今まで森へ入った時にゴブリンやスライムと言った下位種の魔物は幾度となく狩っている。
村長さんの持つ文献を参考にした時。
僕がオークと戦うまでに稼いだ経験値はオークを一体倒すと同等以上に経験値を稼いでいる。
僕は魔ノ池の事件以前はそもそも悪魔の子はレベルアップができないと考えていた。
しかし、現になんらかの要因が引き金となりオークを討伐した時にレベルアップした。
僕が長い歳月をかけて考えた……。
そして……この答えに辿り着いた。
それは。
——大量の経験値を一気に得る事——
僕の一度に上昇したレベルは1ではなく18……つまり、1レベル上がるのに膨大な経験値が必要なのではないという事がわかる。
僕はオークを討伐する以前に既にオーク一体分の経験値を余剰に稼いでいる。
よって少量の経験値をコツコツと得るのではなく。一度に大量の経験値を得る事でレベルアップするのではないかと言う答えに至った。
実際あれからオークの様な上位種を倒していない為かレベルアップはしていない。
でも、下位種の魔物をそれこそオークを何百体も倒すぐらいの量を倒している。
「なんでなんだろうなぁ」
ヨナはそんな事をぼやきながら街を目指していた。
「お〜これが街か」
何十時間歩いただろうか、村を出て5日。
やっと街の姿が見えてきた。
最前線の街ドルトエン。
魔物が犇く森に近いこの街は、魔物が街へ入ってこないように高く厚い外壁が設けられている。
更にここは隣国との国境より一番近い街。
いざ戦争になったらここは最前線の戦場だ。
他の街よりも兵士が多く、外壁も立派にそびえ立っている。
しかし、現在は隣国との仲は良好であり。
戦争をしていたのは何十年も前の話で。
今は和平を結んでいる為、この街では交易や商売が盛んになり。多くの人種が集まっている、その中でも冒険者は頭ひとつ抜ける程らしい。
「少年。身分証を」
街の入り口の門では門兵が立っており検問が実施されている。
「すみません……つい5日前に成人を迎えて村を出たので」
そこまで言うと門兵は話を理解した様子で。
「なら身分証を発行するから屯所へ行ってくれ」
「ありがとうございます」
ヨナは門兵にお礼を伝え指で示された屯所の方へ向かう。
「すみませーん、ここで身分証を発行しろと言われたのですが」
「はいはーい」
奥から女性の声が聞こえてくる。
若い人族の女性が出てきた。
「はい。お待たせして、すみませんね」
「いえいえ」
「身分証の発行だね。じゃ、軽く質問と犯罪歴がないかだけ確認するから」
「はい」
丁寧な対応で事を進めてゆく。
初めて見る人族、ちなみに門兵さんはエルフ族だった。
この方の名前はヤエさん、年齢は19だそうだ。
「15歳なのね、なら成人したばっかりか」
「そうなんです」
「じゃあ冒険者とか?」
「ん〜そうですね。大した学もないですし、とりあえずは冒険者を目指そうかと」
「そうなのね冒険者はあぶ…」
『そろそろ…血を』
体が熱い…
どこかで聞いたことのある声…
「ちょっと!ヨナくん聞いてる?ぼーっとして」
「あ、え?す、すみません大丈夫です…ちょっと疲れてて」
「まぁ…とにかく冒険者は危険だからあまり無理はしない様にね」
「あ、はい。ありがとうございます」
「じゃ、これで終わり。身分証はこれね」
と言って、ヤエさんは白い何も書いていないカードを渡してくる。
「えっと、これって何も書いてない物なんですか?」
「ああ、使い方を説明するの忘れてた」
「お願いします」
「まずこのカードに微量の魔力を流す。すると、ヨナくんの個人情報が浮き上がる仕組みになってるの…どう?すごいでしょ!?」
ヤエさんはさも、自分が作ったかのように自慢げに話す。
「じゃあ、魔力が無い人はどうするんですか?」
「この世界に魔力を持っていない生物は存在し無いわ?草や牛、魔法が苦手な人やドワーフだって必ず微量の魔力を宿しているの」
「では、魔法が使えない人が居るのは……」
「それは、魔力を魔法として体外へ具現化させる力が極端に弱いからね。かと言って一切具現出来ていない訳では無いわ。だからこのカードは微量の魔力で反応する様に出来ている」
「な、なるほど勉強になります……」
「それじゃ、こっちから街の方へ通すから」
そう言ってヤエさんは奥へ歩いて行く。
ヨナはその後を追う。
「それでは、長々とありがとうございました!!」
そう言ってヨナは頭を下げる。
「いいの、いいの、これが仕事だから。あ。言い忘れてたけど、落としても悪用されない様にはなってるけど、失くしたら再発行で銀貨一枚が工賃でかかるから、落としたりしないようにね」
「はい、分かりました。本当にありがとうございました!!」
再び礼を伝えたヨナはヤエに手を振り背を向けた。
「……エルフ族のヨナくん…か。憶えておかないとね、悪い子には見えないけど……隠蔽スキルを発動させてた」
■■■
「え…っと。まずは冒険者登録と色々売ってお金にしないと」
アイテムボックスにある魔物の素材や動物の肉を売れば、当分は生活は困らないだろう。
ヤエさんは冒険者ギルドでも買い取ってくれるって言ってたし。
今から冒険者ギルドに行ってから、宿を探すか。
「おい、てめぇガキ何言ってんだ……?」
「いや、そこのお姉さんが『やめろ』と言っているのでやめていた方が良いかと」
僕はいま、Bランクの冒険者さんに絡まれています。いや、この場合僕から絡んだのか……
んで、なぜこんな事になっているかと申しますと。
数分前。
冒険者ギルドに足を踏み入れた僕は、早速受付と看板を掲げるカウンターに向かおうと歩いていたんです。そしたら、横目に見た光景がこのBランク冒険者さんに腕を掴まれて『やめろ』と言っている女性でした。
その際に。
『やめておいた方が……』
と口をついて出てしまったのである。
すると。
「ぁあ…?てめぇ見ねぇ面だな?なんだぁガキのエルフが俺様に文句でもあんのか?あ゙あ゙っ!?俺様はBランクの冒険者様だぞ!?」
「いえ…えーっとどうしよう……」
「エルフの少年…私は大丈夫だ……逃げろっくっ!!」
ヨナがどうしようか思案していると。
女性はヨナに向かい『大丈夫だ』と言った。
結果…ヨナの思考はこうなった。
であれば、大丈夫なのだろう。
「そうですか、では僕は」
「「「え?」」」
ギルド内に居た全員が驚いた顔をしている。
声。きれいに揃ったね。
どうして皆さんそんな顔するのですか?
みんなが驚いている事にヨナは驚く。
「はっはは!!やっぱりBランク冒険者である俺様が怖いか!!ガッハハハッ!!まったく利口なガキだ見逃してやろう!!」
巨漢は顔に手を当てて腹から笑う。
「さぁ諦めて俺様と冒険に出ようか!!お嬢さん!!
「何が冒険だ!!ケダモノめっ!!今すぐその汚い手を離せ!!」
「こう言うのっていつもなんですか?」
ヨナは近くに居る受付嬢に話を聞く。
「い、いえ、こんな事は滅多に」
受付嬢さんはチラチラとBランクさんの様子を見る。
「そう言う時の対処は?」
「ギルド長が、出てきて揉め事を解決します」
へぇ…じゃあ、ギルド長さんは強いのか。
「で、そのギルド長さんは?」
「今は王都の方に行ってまして…ですから現状このギルドで最高位のヤンガス様を止める人が居なくて」
「へー、兵士さん呼んできたら?」
「そ、それはいま別の者が呼びに行っております」
「やめろ!!!!」
さっきの絡まれていた女性が再び声を荒げる。どうやら、もう少しでギルドの外に出るようで。
「ねぇねぇ……お兄さんそこら辺でやめておいた方が良いんじゃない?痛い目見るよ?」
僕は冒険者に近づき腰をちょんちょんと突く。
「あ゙あ゙!?てめぇ何言ってんだ!?」
「いや、そこのお姉さんが『やめろ』と言っているんですからやめた方が良いかと」
「クソエルフが…寛大な俺様が見逃してやったというのに……よっぽど痛い目を見たいんだなぁ!!」
そう言い放ったヤンガスは背から大剣を抜く。
「すぐに武器を抜くなんて、やっぱり人族って野蛮なんですか?」
ヨナは幼馴染の言葉を思い出す。村のエルフ達は人族は野蛮だと口々に言っていたと。
「なんだぁ?ビビってのか?ガハッハッハ!!」
「こんなに体格差があるのに…すぐに剣を抜くなんて……ビビってるのはどっちなんでしょうかね?」
「「「「だっはっはっは!!!!」」」」
周りの冒険者達は笑いを上げる。
「あ゙あ゙?てめぇらいま俺様を笑ったな……?殺してやるよ…殺してやるっ!!ごろじてやるぅ!!!!」
荒ぶり叫ぶヤンガスは大剣をヨナの脳天から全力で振り下ろす。
「キャーっ!!!!」
受付嬢の悲鳴が聞こえる……が。
戦況やいかに。
ヨナは身体強化魔法を発動させ。ヤンガスの側面に回る。そして、彼の下顎に一突き。
ドサッ
ヤンガスは気絶し床に伏している。
今の少年を動きを捉えれていた者はこの場に何人いただろうか……
そう心に思う女はニヤリと笑みをこぼす。
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