表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

2つの六文銭と数珠

 湖に落とされたバリバリ日本人顔の赤ちゃん、マイケル。私は今やこの子のママのような存在。マイケルは、言葉も達者になって来て、あと少しで成仏するための『南無阿弥陀仏』を言えそう。

 でも、この子は自分で湖から出る力がない。『おっき』が出来ないの。私も一応外に出る事は出来るけれど、この湖から一瞬でも離れれば、霊力を失って、ただの寂れた湖になってしまう。


 それは、マイケルの死に等しい。


(ここまで育てたんだもの! そんなの絶対に嫌!)


 私が強くマイケルを抱きしめると、マイケルは苦しかったのか泣き出してしまった。「ぅわあああんっ!」と湖に響く泣き声は、森の木々を揺らした。カラスが怒る様に「ガァ!」と水面を滑るように飛んでいく。あらあら、私の子がごめんなさいね。


 ――――ボチョン


 湖に波紋が起こった。私は落とされたものを確認する。形状は丸く、その色は炎のように赤い。これは、


「またリンゴだわ」

「リンゴ!」


 3度目の奇跡などあるかと思った。けれど、まるでこの子が引き寄せるかのように、リンゴが落ちてくる。もしかして、今回もあの子グマが?


(いやいやいや。そんな偶然あるわけ……)


 あるかも?


 私はお礼も込めて、湖に幻影を浮かべた。やはりこの前の子グマが居る。私は、マイケルと一緒にお礼を言うことにした。


「ありがとう子グマさん。あなたが落とした美味しいリンゴのおかげで、マイケルはこんなに大きくなりました。これで3個めですね。本当に感謝しています」

「こぅましゃん。あんとーね!」


 私たちの言葉を聴いて、子グマは一礼するような動作をする。私が何かお返しを考えていたら、その場を去っていっちゃった。まぁ。クマだもの。喋られないのは仕方ないわね。でもこのリンゴはありがたく頂きましょう!


 私は幻影を解除して、湖の底でマイケルが食べるためにリンゴを加工していた。今度は輪切りに。少しだけ厚めのものを。今のマイケルなら噛めるでしょう! 

 私はマイケルにリンゴを手渡した。


「ほぉ~ら、マイケル。あなたの大好きなリンゴよ~!」

「やーやっ!」

「え、食べないの?」

「ママシャンとたべりゅ!」

「?」


 ママシャン。たべりゅ。

 

(うーん。なんて言ってるのかしら)


 私が考え込んでいると、マイケルは片手に持っていたリンゴを私に差し出した。え、え? もしかして「ママと一緒に食べる!」ってこと? やだ、マイケル。ママ思いの良い子に育って……!


(こんなのずるい! 感動する!)


 私はマイケルからのお誘いリンゴを一口齧った。甘くて瑞々しい。リンゴだけど味は、何だかモモやブドウみたいな感じね。不思議。考えているうちにマイケルってばもうリンゴを完食していた。


(速っ!)


 食べた後しばらく眠る。子どもの特権ね。マイケルは、また成長していた。見た目はもう2歳児を超えて3歳児くらいかな? 私は、麻の赤ちゃん服の大きさを調整した。


「……うーん、ママ。どこ?」


 起きたみたい。さぁ、今日も元気に言葉のレッスン開始よ。


「いつもの行くよ!」

「はいっ!」


 私は、ハキハキと話せているマイケルにビックリしちゃった。こんなに成長するなんて。まるで伝説の仙桃(せんとう)でも食べたみたいね。この子、桃太郎にでもなっちゃうのかしら。いや、リンゴを食べてるからリンゴ太郎?


(何かマヌケ……)


 私がくすくす笑っていたら、マイケルが、


「ママ。なむあみだぶちゅ。いわないの?」


 そう言ってきた。驚くのも束の間。次の瞬間マイケルは、両手足を4つんばいにして、両足で立つことが出来た!


(うわぁああああ! おっきした! おっきしたぁああああ!)


 私は感動で声が出なかった。代わりに大粒の涙が出てくる。よちよち歩いて来るマイケルを私はギュッと抱きしめた。あたたかい……とってもあたたか……、


(ん?)


 こやつ。もう既にしおったな。

 どうせまたうんうんの代わりに虹色の卵でしょう。解ってるんだから。私は、こちょこちょ攻撃でマイケルをゆっくりと倒して、麻の赤ちゃん服をサッとめくった。マイケルがお尻から出したものは、


「き、金の卵!」


 これはかなりレアなアイテムではないの? 育児してた私へのご褒美とか。えへへ、そんなことはないか。まぁ、卵が割れるのを待ちましょう。


 私はマイケルとしばらく、しりとりで遊んでいた。この子。成長スピードが速い。もう、「リンゴ」や「バナナ」、「たいよう」などの言葉を話せるようになっている。見たことないでしょ、バナナ。


 ――――ぴきぴき……。


 金の卵にひびが入った。今度は慎重に顔を離して、様子を見る。「ぱっかーん!」と出てきたのは、2セットの六文銭と数珠だった。


(え?)


 私は一瞬だけ、マイケルの意思を汲み取った気がする。


 ――――〈一緒に成仏しよう〉――――


 そんな言葉が頭をよぎった。マイケルが、こちらをキラキラした目で見ている。ダメだ。今日は日記を書く気力がない。いや、書けなくなった。だって、成仏……こんな私が。入水自殺の象徴であった私が、こんな純粋な子と一緒に成仏するなんて。


「ママ? かお。えがお。だいじ!」

「あ、え。えぇ……にっこり!」

「ママへんなのぉ」


 六文銭と数珠が光輝いている。マイケルは、『おっき』も出来て、『なむあみだぶちゅ』も言えた。私はそろそろ決断しなければいけない。全身の毛が、冷たい空気を吸うような感覚に襲われた。未だもう少し。明日まで待って。お願い、ね。マイケル……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆スペシャルゲスト☆ 秋の桜子さん(マイページ飛びます!) 素晴らしい挿絵(マイケルのお絵描き絵)を描いてくれました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ