ちゅぱちゅぱしおしお可愛いね!
「ばぶ……」
湖に落とされたバリバリ日本人顔の赤ちゃん、マイケル。湖に落ちた時点で、人ならざる存在にはなっている。けれど、マイケルは口寂しいのか自分の手を突っ込んでモゴモゴしていた。
赤ちゃんにしては細い。もっとプクプクしてる方が健康らしくて良いと思う。お腹空いてたんだろうな……私は自分の胸を見た。いや、見ただけで何かが出るってわけじゃないけれど……。
(赤ちゃんの歯茎の力ってどんなだろう?)
気になった私は、マイケルの口の中にある手を外に出して、自分のひとさし指を差し出してみた。「ぱくっ!」と勢いよく、くわえられる。生暖かい体温と筋肉の緩急が程よく心地良い。
(私。今、ちゅぱちゅぱされてる!)
和む。
まんまるお目目はこちらを見ている。何を訴えているのかな?
――――ぽちょん。
湖に小さな波紋が沢山広がる。私は波の形や重みから、落ちたものを確認した。それは、
「どんぐり?」
私が言うと、マイケルがマネするように「おんぐぃ!」と言った。ちゅぱちゅぱタイムは終わりらしい。マイケルは両手を上下に振りかざして、元気いっぱいな様子。可愛い。
でも、何だか物足りないよね。ごめんねぇ。何もない寂れた湖で。
(……あ)
湖の端っこにラムネの空き瓶がある! これとドングリを組み合わせて、ガラガラを作れないかしら? よし、物は試しで作ってみよう!
私はマイケルを左腕で抱えながら、右手で空き瓶とドングリを手繰り寄せた。ドングリは2個。ラムネの空き瓶は1個。よし、作っちゃお!
私が、
「えい!」
と唱えると、ドングリはラムネの空き瓶の中に入っていた。こういう術は得意なの。湖にあるモノなら、人以外形を変えられる。さてさて、気に入ってくれるかなぁ?
「ほーら。ガラガラよ!」
「がやゃ!」
早速興味を持ってくれたらしい。マイケルは私お手製のラムネ瓶ガラガラを片手でひょいッと掴むと、それを振り始めた。力の強さが普通の赤ちゃんと違うのは、やっぱり湖に落ちたからね。
――――ガランゴロン、ガランゴロン
ドングリが瓶に弾かれる音がする。その音を気に入ったのか、マイケルはご機嫌そうに「きゃっきゃ!」と笑っていた。
そこまではうまく行っていたのだけど……。
「きゃいきゃい!」
マイケルは、ラムネ瓶のガラガラをあちこちに向けて振り始めるようになる。かなりの力持ち。
(すごーい!)
……じゃなくて。
(危ない!)
――――ごちんっ!
ラムネ瓶のガラガラは、マイケルのおでこに勢いよく当たった。患部が赤く腫れあがっている。あーあ、たんこぶ出来ちゃった!
「ふわぁああああああああっ!?」
火が付いたように泣き始めるマイケル。癇癪に近いその声は、湖の底を超えて、森の生き物にまで届いたみたい。カラスなどをはじめとした鳥類が一斉に木から離れていた。枯れた木々もざわめく。
私は、マイケルを優しく抱っこをしながら、必死にあやした。
「よしよし、痛いの痛いのとんでいけぇー!」
「あぁああああぁああぁあぁあぁあー!」
「うっ。凄い声……大丈夫よー」
「ふわあぁん、ふわあぁん!」
ぜんっぜん泣き止まない! どうしよう……湖に微かな波が立っている。マイケルが起こした微振動かな? 赤ちゃんパワーおそるべし。
えーい、もうこっちも吹っ切れましたよーだ!
「どんどんどんどん、ドンマイケル!」
「……んぅ」
お。
イケたかな?
「うぅうううう……わぁああんっ!」
「ダメだったかぁ!」
マイケルネタはもう通じない様子。どうしよう。こういう時におしゃぶりとかがあると安心するんだろうな……。
(噛みつかれるかも知れないけれど)
私はさっきの様に、ひとさし指をマイケルの口にスッと突っ込んでみた。マイケルは、「んー」と大粒の涙をこぼしながら、私の指をちゅぱちゅぱしている。離したら泣くから、マイケルに指を差し出した状態が続いた。
(可愛いけど、指がしおしおになっちゃうよぉ~)
気が付けば日が暮れて、今日が終わろうとしている。私は予定通り、日記を付けることにした。あーあー。肝心の、『南無阿弥陀仏』って言葉を教え忘れた。ついつい可愛くって……。
ま。いっか。明日は言葉のレッスンね!
◇◇今日の育児日記◇◇
今日はマイケルと一緒に遊びました。速攻で作ったラムネの瓶とドングリのガラガラ。気に入ってくれたみたい! でも、マイケルがおでこをゴッチンして、泣きじゃくったから大変でした。今はすやすや眠っています。
おしゃぶりの代わりが無かったから、指を突っ込んだら、なかなか放してくれませんでした。だから私は今。しおしおの手で鉛筆を握りながら日記を書いています。赤ちゃんって、思っていたより声が大きいのですね。湖の水が揺れていました。赤ちゃん凄い!
でもまだ『南無阿弥陀仏』と唱えるのは無理そうです。
明日も元気いっぱいの声を聴かせてね。マイケル!
◇◇
B5ノートだからあまり沢山書けないのが惜しい。でも、ちょっと疲れたから私も眠りましょうか。元気に育ってねマイケル!