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床下の ~隣人のみぞ知る  作者: メイズ
第3章 封印の桐箱
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拉麺会議〈二見早苗〉

 「よーし! 3分経ったぜ」



 シンさんの掛け声で、3人そろって紙の蓋をぺりぺり剥がした。


 ゆらゆら揺蕩(たゆた)う白い湯気にうっとりするわ‥‥‥



 ひとまずブレイク。



 食卓テーブルの向かい側にシンさん、その横に沙衣くん。



 このリビングダイニングルームには、すぐに盛り塩で結界を張っておいたから、とりあえず大丈夫なはず。

 

 わーい! カップラーメンなんて何年ぶりかしら? 


 私たちはカップラーメンをすすりながら会議を始めた。



 まずは、ナイフを自宅に取りに行って私より先にここに戻ってからの出来事を、沙衣くんに話して貰った。


 けれど沙衣くんの口は重たくて、話は相当端折(はしょ)っていたような気がする。さっき言ってた塩泥棒クロネコについても言及せずだったし。



「ヤバイじゃん! そんな大昔の因縁を持った白無垢さんって幽霊まで俺んちに出たなんて‥‥‥怖すぎじゃん‥‥‥」


 青ざめたシンさんの箸が止まった。


 まさか、そのせいでご両親が亡くなられたかもだなんて、とてもじゃないけど言えないわ。変に逆恨みされても困るし。


 私が以前から白無垢さんを知っていただなんて、この人たちにはもう絶対に秘密だわ。



 あー、幸い沙衣くんが無事で良かった。塩さえ撒いとけばって軽く考えてた私の間違いだった。


 それに白無垢さんの身の上の、そんな詳しいストーリーは初めて聞いた。


 私がおじいちゃんから聞いた話と大筋合っているから、沙衣くんの話は真実なのだと確信してる。


 驚いたわ‥‥沙衣くんが幽霊とそこまで会話してたってこと。よほど白無垢さんと波長が合ったのね。気に入られてしまったかも。



 理由は定かではないけれど、この家には、トシエさんと白無垢さんの2体の霊がいるということで3人で共有出来た。シンさんは今まで白無垢さんを見たことはないそうだし、さっきもいたの全然気がつかなかったそうだし。



 私の実家では商売がら、素人ながらお祓いには詳しいことも告げた。



「ちっ、なら最初から二見さんがお祓いしてくれりゃよかったじゃねーか! 5万も持ってかれてこのザマだったなんて‥‥‥ちくしょう! あのインチキ霊能者。信じて貼っておいた御札がパチもんかよ」



 言うと思った‥‥


 横目チラリで告げた。


「‥‥なら、私が今から行う封印の儀式では2体分、10万頂いてもよろしいってこと? 私のは本物ですから3倍頂いてもいいくらいよ?」


「‥‥い、いや‥‥そうゆーわけじゃ‥‥‥二見さ~ん‥‥」



 一気に勢い引いたシンさん‥‥‥よねぇ。



 トシエさんは、夢に(いざな)いつつ、気づかせないままに人から少しずつ生気を奪う悪霊となっている事実も共有した。



 だけど、沙衣くんには一応許可を頂きたいわ。


「沙衣くん、トシエさんの霊を封印することを許してくれる? このまま人の生気を吸い続ければ、ずっと現世をさ迷ってしまうわ。封印しておけば、時が来れば力尽きて観念して成仏してくれるはずよ。それを受け入れなかったら魂は消滅と言われてる。本当のところは誰にも証明は出来ないし、わからないけど‥‥‥」


「‥‥‥そうですか。俺、シンさんが襲われてるとこ実際みたし、仕方がないと思います。だからって魂消滅はキツイけど。そうなって欲しくはないな‥‥‥」


「私だって。出来れば即刻成仏して生まれ変わって欲しいわ。でも、私には悪霊成仏させる力なんて無いし、今は封印するしか。でもね、永遠に封印したままなんて出来るわけ無いのよ。一時的なことよ。霊の存在よりか人の命の方が短いわけだし、先のことはわからないわ。どんなことでもね‥‥」


「するしかねーんだよ! しなきゃこの俺はどうなると思ってんだッ!! 俺が生きてる間はずっと閉じ込めといてくれよッ!」



 ちょっ、汁とばして怒鳴らないでよ!


 私は自分のラーメンを横に避難させながら宥める。


 ついでにこのおじさんには釘も指しておこうかしら。私に逆らえないように。


 利用される立場になった私に、なんだか立場が自分が上だと勘違いして増長しそうだわ。



「落ち着いて、シンさん。誰も封印に反対なんてしていないから。それに、トシエさんが、()()()()()()()()()()()()()()()()けれど、シンさんだけが特に恨まれる覚えはないんでしょう? ()()()お隣の奥さんだった人だし」


「えっっ!? あっ、当たり前ですよッ! なんで俺が‥‥‥」



 ふふっ、トーンダウン。



 沙衣くんはさすがに沈んでる。食も進まないみたい。


「とにかく、食べちゃいましょう。二人ともちゃんと食べて体力回復に努めて」


「‥‥‥きっと大変なんですよね? その儀式」


 沙衣くんが上目で探るように私を見た。何か私に言いたげ。



 この子もシンさんの秘密、何か気づいてる? それともトシエさんを閉じ込めることに罪悪感を感じているのかも。若しくは幽霊でもいいからこのまま存在していて欲しいとか。



「儀式は通常1時間くらいだけれど、2体分だし、私も慣れてるわけじゃないし、長くかかることもあり得ます。準備の方が相当大変なのよ。本当、二人とも頼りにしてるわよ。今からは絶対的に私の指示に従って下さい。失敗して逃せばさらに怨みを買って私たちは容赦無く深く呪われる可能性があるから」



 二人に、これだけは言っておきましょう。


「いいですか? 霊に何を言われても決して聞いてはいけません。あらゆる嘘をつきますし、あの手この手で惑わして来ることもあります。私たち生ける者には理解出来ない現象も簡単に起こしますよ? 物質とは反対の世界にいるのですから。いいですか? 沙衣くん、シンさん」


 向かい合った二人の目をそれぞれ見ながらしっかと言い含めた。


 緊張した面持ちでコクリと揃って頷いた。




 お夜食も頂き、準備は調ったわ。


 ペットボトルのお茶を頂いていたら、沙衣くんが斜め前からモジモジしながら私を見てる。


 もしかして、口の周りが汚れてたかしら? 子どもの頃から禁止されていたし、自分で買うのも勇気がいるし、ほとんど食べる機会のなかったカップラーメンにテンションが上がってしまって、スープまで飲み干してしまった私。



「あれ?‥‥‥もしかして私の顔に何かついてる?」


「あの‥‥‥いえ、すみません。ちょっと儀式の前に二人だけで確認しておきたいことが」



 言いながらシンさんに、チラリと視線が動いたのがわかった。


 よかったー。私の口の周りは無事なようね‥‥‥



「ええ、疑問は解いておいた方がいいわよね。あなたの大切な家族のことだもの。じゃ、シンさんは、ちょっとここでゆっくりして待っててね。ついでに二人でテーブルの上のものを洗い場へ片付けましょう」


 シンさんは片付け免除に釣られたようね。疑問も持たず、難なく承知した。



 沙衣くんと私は、空いたカップや缶詰めのカラを3人分持ってテーブルから離れ、キッチンに移動した。


 私の指示無くして、沙衣くんがラーメンのカップや空き缶を洗い流し、それぞれレジ袋にまとめていく。


 まあ、この子気が利くこと。ちょっと切ないわ。きっと子どもの頃からこうしてるのね‥‥‥


「あの、これ内緒にしてください。さっきはシンさんがいて言えなかったんですけど」


 片付けながら並んだ隣の耳元でささやいた。


「白無垢さんが言ったんです。仲睦まじい夫婦は見たくないから用が済んだら消した‥‥って感じのこと。俺、これってシンさんの親のことじゃないかって思って。白無垢さんってマジでヤバい霊だと思う。俺もナイフ持ってなかったら呪い殺されていたと思うし」


「‥‥‥ごめんなさいね。1人で危険な目にあわせてしまって。教えてくれてありがとう。十分心得ておくわ」



 他に言いようがなくて。私は、今さら何も言えない。


 思い出す。後部座席の窓に見えた白無垢さんの顔‥‥





 ──よし!



「じゃ、準備に取りかかりましょう」



 シンさんもこちらに呼んだ。



「先にここのシンクで口をお酒でゆすいで、手も清水で洗ってからお酒で身を清めましょう。体にも振りかけます」


 私たちは作業に入る前の(みそぎ)を済ませた。


「実施場所はここでいいわ。たぶんシンさんのお部屋がトシエさんの本拠地みたいね。白無垢さんは、今はトシエさんの霊に取り憑いてる霊をしてるみたい。だから、トシエさんの近くにいるはず。トシエさんを召喚すれば、もれなくついて来る可能性がある。そしたら一石二鳥だけどね」


「げっ、俺の部屋が本拠地って‥‥‥今までずっと?」


 シンさんはよほどショックだったらしくて顔を両手で覆った。



 私の推察では───


 トシエさんはたぶん、事故であの部屋で亡くなったんだわ。


 トシエさんは怨みは持っていない。だって自分が死んだこともわかっていない。だからって生きてた頃と違って死者の法則に馴染んで疑問も無く現世で過ごしてる。


 虚ろなせいで思うがままの本性だけで動いてるように思う。


 シンさんは、二人の関係を周りに知られたくなくて、ご遺体をどこかに隠したんだわ。


 それはそれで罪なんだろうけど、そんなこと私の関知することじゃない。


 忘れられない衝撃よ。頭から血を流して倒れてたトシエの幽霊が起き上がったあの瞬間‥‥‥



 トシエさんはここに先に居ついてる深い怨念を抱いて霊力の強い白無垢さんに利用されることになったの。それはトシエさんの霊にとっても利益があったはず。いつの間にか少しづつ力を増して、こうして私にも、普通の人にまで姿を見せられるまでに霊力を上げたんですもの。



 ──この推察、かなりの確信があるわ。自分の内でしか言えないけれど。


 こんなこと沙衣くんは知らない方がいいわね。私は知り得たことは墓の中まで持って行くつもり。


 誰にも傷ついて欲しくはないから。トシエさんにも時が来たら成仏して欲しい。もちろん、理不尽を受けて来た白無垢さんにも‥‥‥


 封印、上手く行きますように‥‥‥



 まずは家具を脇に避け、召喚のための三角形魔方陣及び、私たちの身を護る魔法円を3人協力して床に書くことにした。



 申し訳ないけど、フローリングに沙衣くんのナイフで刻むことにしたわ。


 消えないそれが一番安心だし。


 終わったらキズを隠すワックスで補修して敷物を敷けばそれほど気にならないわよ。嫌ならリフォームしてちょうだい。



 ──命と比べたら安いものよ、ねぇ?






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