表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/108

81.一言物申す!② 〜紹介の仕方は十人十色、その人の好みのやり方で〜

 先日開かれた(わたくし)の誕生日パーティー、そこで引き起こされた魔導具を悪用した騒動、私が面会を希望したのはその元凶たる人物だ。


悪戯小僧なんて可愛い分類には到底振り分けられない、子供の悪戯と笑って許せる限度を超えた騒動を遊び感覚でやってのけてしまえる、6歳児ながらに愉快犯予備軍にバッチリカテゴライズされて然るべき人物は本日いよいよ諸々の準備が整い、出荷ーーもとい親元に返される運びとなった。


領地に向けて出立するその前に、アンジェロン子爵家の嫡男、ヒューシャホッグにしっかりと()()()()おかなければ、と思った為だ。


子供の躾は親の義務(しごと)、しかしこの令息のご両親には残念ながら期待できない。

何故なら、息子が犯した騒動の責を逃れる為、『息子は屋敷に居るのだからそのような騒動を引き起こせるはずはない』と言い捨てて、公爵家から遣わされた使者を門前払いし、立て籠もってしまう非常識な大人たちなのだ。


そんな残念な大人しか居ない子爵家で、今回の件に懲りて改心し、今後は常識的な教育方針がとられるだろう、などと明るい見通しなど立てられるはずもない。


このまま問題のある両親の元で変わらず過ごし、更生の機会を与えられないまま成長してしまったなら、逆恨みを拗らせて復讐に直走ってしまいかねない。

そうなってしまったなら、かの令息を待ち受ける未来はお先真っ暗、今度は正真正銘犯罪者として犯した罪に見合った罰を科される事態になること請け合いだ。


曲がりなりにも彼らは、遠くない未来に【聖女】に覚醒するヒロインの家族なのだから、思いとどまるチャンスを与えておいて損はない…はず。

それに、今出来る抑止を試みずそのまま放逐するのは、何か違うと思えたのだ。


そんな考えが沸き起こって少しばかりの慈悲を示すに至ったのは、昨日邂逅してしまった第一印象以外も全部、その人物を見ていた時間の全てにおいて印象最悪悪すぎた(ファム・ド)()(メナージュ)が切っ掛けだった。


あの人物が1回り以上年上でなかったなら、若しくは私がちんちくりん幼女でなかったなら、正座させての説教タイムに突入していた。

1言、2言では足らない、時間の許す限り際限なく思いつく限り物申していたはずだ。


でもどんなに時間をかけて説教したところで、人格が形成されきった大人には何を言っても馬の耳に念仏、立て板に水、すべて徒労に終わった事だろう。

でも、まだあの令息には通用するかもしれない。

()()()()()()に言い聞かせれば、あるいは改心するに至る糸口が掴めるかもしれない。

そんな一縷の望みに賭けてみても損はしない。

今の私が持て余している時間はさておき、立ち会って下さる騎士たち、ここまで案内してくれたメリッサ、本日お父様の名代を務めるサミュエル、彼らの貴重な時間は幾許(いくばく)かは損なわれてしまうかもしれないが、今回だけは目を瞑って頂きたい。


それだけ目溢ししてあげても懲りず、最終的にこちらに牙を剥くというのならそれまで。

恐らく我が公爵家の当主であるお父様を筆頭に、お兄様達も未だ嘗て無いほど張り切って、完膚無き迄に叩き潰す為、非常に前のめりな姿勢を見せてくださるだろうことは想像に難くないのだけれど、私だってそんな相手にはもう一切容赦しないつもりだ。


でも私は決めたのだ、『やらない後悔より、やって後悔する』と。

だから『あの時こうしていれば』と思わなくて済むように、できることをコツコツと愚直に熟す、今選べる建設的な道はこれより他に無いのだから。



 そんなわけで迎えた面会当日の早朝、指定された落合場所を目指して起き抜けから散歩を超越したハイキングもどきを強制され、タウンハウスの裏庭の一角を目指して一心不乱に足を動かし続けた。


その結果、オバーワークが祟り目となり、あわや転倒するか…という危機に颯爽と姿を現し助けてくださったのは、3度の飯より戦闘(けんか)を好む、闘争本能の塊なイメージしか持てないやべぇ御仁、ヴァルバトスきょ……、んん、その人だった。


鍛え上げられた逞しい腕に抱かれて、私のあの頑張りは何だったのか…と嘆きが入ってしまうくらい、目的とした場所へと難なくお届けされてしまった。


メリッサがサミュエルに確認してくれた本日の行程表によると、今はヒューシャホッグ子豚…じゃなかった、子爵令息が拘禁されている独房にて、出荷…じゃないまた間違えた、出発前の最終身体検査及び身嗜みチェック中、どのことだ。


その独房がどこにあるのかといえば、このタウンハウスの地下にあるのだという。

しかも、地下1階~3階まであり、階を降るに従ってその敷地面積は広くなっていき、そこに収容される罪人の身分も低まっていくらしい。

一応貴族である件の令息は、今現在地下1階にある独房に居るらしい。


何故公爵家のタウンハウスにそんな大規模な独房が必要なのか、それはここが国境に程近く、且つ国土の際にある辺鄙な場所だから、でもあるそうだ。


私も詳しい事情はさっぱりで、どうしてそうなのかと問われれば、わからないとしか答えられない。


質問を差し挟む間もなく、淡々と事実のみを語るサイボーグ侍女の講釈をただただ有難く拝聴するのみ。

幼女である私に取れるここでの最善は、波風立てず、流れに逆らわない事のみだった。


 ーーだってだってぇ~、宅の可愛いメリッサってば、ツッコミがえげつない斬れ味なのだもの。 覚悟もなく茶々を入れようものなら、返り討ちにあって袈裟斬りを御見舞されかねないのだものぉ~。 ホント飴と鞭の鞭割合と威力配分がどーかしちゃってて、笑うしかないわ(笑)ーー


縁側でお茶を啜る老婆になった気分で、穏やかな心境を心掛けてメリッサの凛と涼やかな声に耳を傾ける。

時折うんうんと頷き、さも『ちゃんと聞いて理解できてますよ~』なアピールを大袈裟にし過ぎてしまい、褒められるかわりに『ちゃんとお聞きくださいまし!』と言いたげな冷たく鋭い視線を寄越される羽目になった。


 ーーおっとっと、これは宜しくない風向きになった臭い。 これ以上のアピールは逆効果と見た! こうなったらもう1mmだって首を上にも下にも動かせないわ、くわばらくわばら!!ーー


それからはメリッサの説明してくれる内容に集中する。

暫くの間はちゃんと集中していられた、けれど、幾許か時間が経った頃、その集中は乱され始める。


 ーー……ん? 何か…、凄く視線を感じる。 何だろう…、誰が寄越してくる視線なんだろう??ーー


気になって、なり過ぎて、無視することがどーにも難しく、我慢の限界を迎えるのに時間はかからなかった。

視線を感じる方角、私達が居る屋敷の外壁付近から見て左手側、さっき若人2人がジメジメの攻防を繰り広げていた辺りを顔だけ動かして目視確認してみた。


向けられる視線を辿ると、ジメジメしていない方の青年、シルバーアッシュのはね散らかした特徴的な髪質の人物が、ぽやぁ~~っと熱に浮かされたような上気して浮ついた表情でこちらを見ている姿が目に付いたに。


「 !!? 」


顔はこちらを向いているけれど、視線は私の頭を飛び越えた先に1点集中して向けられていた。

遠目から見てもそう断言できるのは、顔の角度が地面に対して水平だったからだ。


 ーー何か、ものっそい色んな感情が込められた異様に熱い視線がメリッサに照準されてるのだけど…これ如何に?!ーー


熱すぎる視線に困惑して、2人の顔面を交互に見遣り、若人の一方通行な熱であることを確認する。


サイボーグ侍女が青い春の体現者でなくて良かった、と心の底からほぉ~~っと安堵の溜息を漏らす。


私の集中力を欠いた態度に、直ぐ様辛辣な言葉で以って、色恋沙汰とは無縁だと今しがた確認が取れたサイボーグ侍女が詰りつけてくる。


「ライリエルお嬢様、話にちゃんと耳を傾けてくださいまし! お嬢様が知りたいと仰ったからこそ、説明しておりますのに…。 これ以上聞く気が無いようならもう2度と説明など致しませんので、そのおつもりで。」


「いえ、話はちゃんと聞きたいのは山々なのだけどね?! あの、…そのぉ、ちょっと向けられるあっつぅーーい視線に耐えかねてしまって……。」


「? アツい視線、でございますか? ……そのようなもの、何も感じませんが?」


先程私が見ていた辺りを振り返り、こちらに向き直った侍女が変わらぬ平坦な声でそう言ってきた。


「えっ?! 嘘ぉ~、そんなはず……っ!?」


 ーーめっちゃめちゃ恥ずかしそうに全力で隠れて(隠れきれてないけど…)いらっしゃる…!! これって言ったらダメだったやぁ~つ、なのかしら?!ーー


熱い視線を寄越していたその主を今一度見てみると、手近な木の幹に隠れて(身体の後ろ半分が丸見えてるけど)いるのが確認できた。

『体の半分が見えてるよ~♪』と童謡に歌われそうななんとも微笑ましい一場面だった。


 ーーえぇーーっとぉ、あの方は何と言うお名前だったかしら…? 確か…絶賛ジメジメなさってる騎士の方が『若』と呼ばっていた人物…よね?? 名前って、誰か言っていたかしら???ーー


誰の目から見ても明らかに、あの若人はメリッサにほの字のようだ。

しかしそれを本人がメリッサに伝えるより早く、フライングゲットで言ってしまうわけにもいかず、かと言って恋のキューピッド的な気の利いた水の差し向け方なんて…前世恋愛経験値一貫して0な私が知るはずもなく。


オロオロと困り果てて、身を隠す若人と無表情で視線だけ鋭く冷たい色恋ごとには鈍感と判明したサイボーグ侍女との間で視線を往復させる事しか出来ない、何とも間の抜けた為体(ていたらく)を晒すばかりだった。



 メリッサに何と説明したものか…、と考え(あぐ)ねていると、説明に窮するまでの私たちの一連のやり取りを、少し離れた位置にある大きめの岩に腰掛けて、何やら液体の入っているらしい金属製の小さめな水筒の中身をあおりながら、その肴にするつもりでかしげしげと見遣っていた御仁がいきなり勢いよく立ち上がった。


ぐぐぅ~~~っと背を反らして伸び上がり、脱力した後は首と肩に手を添えつつ回して、各関節からゴキッ、とかバキッ、とかいう心配になるくらいに盛大な音を気の済むまで鳴らして、くわぁ~~~っと大きな欠伸をしてから面倒くさそうにぼやきを零しながら大股で歩き出した。


「しゃーねーなぁ…、いっちょ軽ぅ~く、やっちまうかぁ~?!」


「?」


 ーー何を『やっちまう』おつもりなのかしら? ここで今から何がおっ始められてしまうのかしら、今までの言動から推察して…不安しか持て無い!!ーー


ドキドキしだした心臓が今はまだ大人しくおさまっている胸を両手で押さえて、のっそのっそと動き出した猛獣の如き騎士団長の予測不能な動きを注視する。


ドカドカと大股で向かった先は、出発準備をえっちらおっちらと各々各自で進める騎士たちが点在する場所だった。

まずは1番近い位置にしゃがみ込んでいる、フォーンの髪色をした垂れ目気味の歳近い男性に対して短く、声を張って呼びかける。


「おいっ、ミルコっ!!」


「おん? なんでぇ(かしら)、何かあったかよ?」


「おう、今済んだ。 次ぃーーーっ、ヨアヒムぅーーっ!!」


「う~い、りょーかい♪」


呼ばれて上げた顔を元の位置に下げ、気分良さ気に鼻歌を歌いながら何事もなかったかのように作業を続けるミルコと呼ばれた人物。

その顔には一切気にした様子もなく、ヴァルバトスの突拍子もない呼びかけには慣れているのか、理由を問いただす気は更々無いようだった。


そして次に名を呼ばれたタッパのある青年は、唐突に大声で自分の名を呼ばれたことに驚き、ビクリと体を震わせて声の主を胡乱げな表情で振り返り、上司に返すには不適切だと思えるふてぶてしい言動で返答した。


「うわっ、はい?! てか、こんな至近距離で急に大声出さないでくださいよ、心臓に悪い。 今度は何ですか団長、面倒な事押し付けられなきゃ何でも良いんですけど、ご用件は?」


「おぅ、用なら済んだ!! けどな、そういう事ぁおめぇ、口に出すな!! あとその表情(かお)な、出し過ぎてんだよ!! 次からは気ぃ付けろや?! でねぇとぶっ飛ばすぞ、いい加減!!」


「え…、あー、はい、以後…(多分)気を付けます。 ? …??」


適当に改善を試みる殊勝な言葉を口にしてから、作業に戻るため踵を返す。

自分へ向けられた恫喝に近い叱責の言葉には全く堪えた風もなく、何故いきなり呼びつけられたのか、に疑問を抱いている様子だった。

緩く頭を傾げてすごすごと歩いていく後ろ姿からは、この場で言葉にしなかったそんな困惑がひしひしと伝わってきた。


「んでぇ~~?? 後は…ジーク!! ジークムントぉっ!! おめぇよぉ~、いつまでもんなとこでジメジメしてんじゃねぇーっつーーのっ!!」


先の2人は歩みを止めること無く声をかけていたが、この人物にはそうもいかなかった。

木陰でいいだけジメジメした結果、何の種類か不明なキノコを生やし始めている。


ゲシっと軽めに(多分、恐らく)蹴りを入れて、遠慮のない率直な言葉をぶつけていく。


「団長…、今は、…そっとしておいて下さい。 道端に転がってる石ころ以下のゴミ屑以下、塵芥だとでも思って遠慮なく放置しておいて…下さい……。」


「んなデケェ塵芥があってたまるかっ!! オラッ、立て!! 立って働け!! んなとこでさぼってっとぉ、戻ってきたサムの野郎に容赦なくクビにされんぞ?! あの野郎はよぉ~、金が絡むと途端に狭量になりやがる、切り捨てた奴にゃ情の欠片も見せねぇからなぁ~~!! 職と住処無くしたくねぇんなら、とっとと気合入れ直して、馬車馬見習って体力の続く限り働けやぁーー!!」


「?! ちょっ、それはダメっす!! 憩える部屋がないとか、無理っす!! ないないっ、絶っ対、死んでも今の生活環境は死守!! 働きまぁーーーーーっす!!!」


うぉおおっ!!と勇ましい雄叫びを上げて出発準備の作業へと光の速さで駆け戻って行く。

ジークムントさんにとっては『部屋』の有無が余程重要らしい、慣れ親しんでいたジメジメなど生やしたキノコごと吹っ飛ばして、目にやる気の炎をメラメラと燃え滾らせた陽の存在へと180°転身させてしまったのだから、かなりの重要度が割り振られた項目と云える。


「ったぁ~~くぅ、あの打たれ弱さだきゃー、何とかならねぇもんかぁ~~?! 毎度毎度、ジメつく度に焚き付けるのも手間だぜ、まったくよぉ~!!」


がしがしと首筋を掻きながら、至極面倒そうにぼやく。

あのジメジメは毎度の事のようだ。

あんなにメンタルが弱くて、騎士団で上手くやっていけているのは、周囲のサポートがあるからなんだろうなぁ…、と感心してしまった。


そして残る最後の人物、メリッサに熱視線を送っていたその人物が……、滂沱して盛大に泣いている。


「うぅ~~っ、よかったぁあ~~~!! ホントにっ、も、どーーしよーーかと思ったぁ~~!! 親父ぃっ!! ジークさんを再起させてくれて、ほんどうにありがどぉーーーーっ!!!」


「どわぁーーーっ?! やめろって、来んな!! アグレアスぅっ、嬉しいのか何なのか知らねーーがよぉっ!? その涙と汚ねぇ鼻水とでぐっちゃぐちゃ~っな顔でおめぇっ、これ以上近寄って来んじゃねぇーっつーーの!!」


ゴンッ。


静止のためには些か鉄拳制裁が過ぎる、過激な手法で相手のこれ以上の接近を阻止しにかかった。

過剰防衛では?、と思わずにいられない。

勿論、それをまともに喰らった本人は、盛大に痛みを訴えた後からずっと、自分の脳天に拳骨を放った相手を涙目で睨みつけ、子供らしい言動での詰りを飛ばし出した。


「いぃーーーーってぇーーーーーーっ!!? 何だよぉっ?! 何っで殴るんだよぉ~っ!? 親父のばぁーーかっ!! 人でなしっ!! ジドー?虐待で訴えるぞ!!!」


『児童』のあたりに微かな戸惑いが混じり、言葉が不自然に紡がれた。

言葉の意味を理解できていないのかなぁ?と疑惑を抱かせる、わかり易い躓きがその箇所から感じられた。


「本気でそーゆー小難しい事がしたきゃなぁっ?! おめぇ、今自分が口にした言葉の意味から理解することからはじめろってぇーーのっ!! この馬鹿息子がっ!!」


ゴンッ!


先程よりも強めな鈍い音が辺りに響く。

それにしたって、響く音が重鈍過ぎる気がする。

頭には何も被っていないのに、まるで鉄塊を殴りつけているかのような鈍い音がするのだから、不思議だ。


「いぃーーーーーってぇ~~~~~~っ!?! だから何で直ぐ殴るんだよぉっ、ボー力反対!!! 親父の馬鹿!! 馬鹿親父っ!! 今すぐこの親父を何とかしてっ、助けてビュレト兄ぃーーーーっ!!!」


「阿呆か、こんなくだらねぇー事の為にビュレトが来れるわきゃねーーだろっ!! いっちいち大袈裟に騒ぐんじゃねぇっ!!」


ゴゴンッ!!


1番強烈な鈍い音が辺り一面に強く響き渡った。

今度の威力は音の通り強烈らしく、言葉を発する余裕なく頭を押さえて蹲ってしまわれた。

言葉なく悶える、先ほどのヴァルバトスぅ~…の言葉の通りなら、御子息らしい若人を無常にもその場に置き去りにして、ズンズンと大股で歩き戻ってくるかの御仁が、豪快に笑って云うことにゃーー。


「おぅっ、嬢ちゃん!! 騒がしくしちまって悪かったなぁ~~?! んでもまぁ、これで何となしにはコイツラの顔と名前、わかっただろ!? ってぇ事でよ、これからも世話んなるぜぇっ!! 俺様共々ぉ、いっちょ見知り置き頼むわ!! がっはっはっはっは!!!」


言いたいことだけを言い放って、立ち上がるまで腰掛けていた岩のところまで戻り、再びどかりと腰掛けた。

それに返すこちらの反応には興味がないようで、もう既にいそいそと懐から取り出した金属製の水筒を傾けて再び中身をあおり始めている。


「え…? もしかして今までのって、人物紹介、的な…?? えぇっ、嘘でしょう?!」


 ーーあれだけ『面倒だ』って顔に書いていらしたのに…? 私が皆さんの顔と名前が把握できなくて困っているのを見て?? やだっ、なにそれっ!? O・TO・KO・MA・E、が過ぎるのではなくってぇっ?!?

そんな心配りが出来る方だなんて、意外性で琴線掻き鳴らされて好感度爆上がりなんですけどぉーーーっ?!?ーー


口元を両手で覆い、感極まってしまう。

こんな気遣われ方は初めてであり、こんな人物紹介のされ方も勿論初めての経験だった。


 ーーこれは是非とも、御礼申し上げなければ!!ーー


トテトテ、と足場を慎重に選んで歩き、ヴァルバトスが腰掛ける岩のある場所近くに向かう。

好感度は急上昇したけれど、まだ完全に警戒を解くには至らず、(私基準で)安全だと思える十分な距離を保ってヴァルバトスの前方に、気合を入れるため仁王立ちしてみた。


「ヴァルバトス……、その、ありがとうございます! 皆様を紹介下さって、とっても分りやすくって、皆様の名前と顔がちゃんと一致して把握できまいた!!」


「…そりゃおめぇ、こんくらい俺様にとっちゃーなんでもねぇ事だがよ?! 礼を言われるなんざ、思ってもみなかったっつーー、なぁ!? 嬢ちゃんはホント、変わってんなぁ~~!! がぁ~~っはっはっはっはっは!!!」


自分でもあの紹介の仕方は型破り過ぎて、礼を言われる筋合いのないものと理解していたようで、きょとんと目をまん丸く見開いた後、心底可笑しそうに呵われてしまった。


 ーーホント、幼女な側のお蔭か、転生してからこっち、イケメンの笑顔に遭遇する確率が急上昇していて嬉しいったら無いわ!! 心のアルバムの許容量に上限は無いけれど、収集が捗って捗って、私もニッコリ笑顔が尽きないわ♡♡ーー


豪快に笑う、ともすると粗野に見えてしまう表情も、この御仁がするとそれだけでも大変絵になる光景に仕上がってしまうのは、地の顔面、その造形美の高さがあってこそだろう。

黙っていれば美丈夫そのもの♡なヴァルバトスの笑いが落ち着いてきた笑顔を眺めて、表の表情だけは淑やかな令嬢スマイルを心掛けて微笑んで、心の内側ではゲヘヘ…とあられもないニヤケ顔で存分に笑み崩れながら、ガン見は欠かさない。


そんな私の耳が、本人たちは声を潜めて話しているだろう雑談をしっかりばっちり拾い上げたのは、イケメンの笑顔にテンションが爆上がりしたことにより、情報収集センサーが鋭敏化していたからに他ならない。


「親父のアレを、よく紹介だって思えましたよねぇ~? だって、ぜってー紹介じゃないもん!!」


「おいおい~、せっかく頭が礼言われて気分良くしてんだから、滅多なこと言うもんじゃねぇってぇ! 坊もいい加減、思ったまま口に出す癖、直しやがってくれませんかねーー?! とばっちり食うの、周りにいるオレらなんだぜぇ~~?!」


「ホントそれですよ、アグレアス。 君はもうちょっと周りの迷惑を考えて物を言ってもらわないと、困るなんてもんじゃない。 あのミルコさんでもわかることをわからないなんて、どうかしてるとしか思えない。 一度しっかり医者に診てもらったほうが良いかもな。 なぁ、ジーク?」


「おいおい~、んな褒めんなってぇ~~! 珍しい事だから余計、照れんじゃねーの!!」


「え、ちょっと、止めて下さいよ?! んな雑に巻き込まないで下さいって!! ヨアヒムさん、自分がされたら全力で全面拒否するくせに、他人は巻き込んで平気とか、マジ勘弁して下さいよ!?」


「「 だって、ジークだし。 」」


ヨアヒムとミルコの声が被る。


「ちょっと!! どーゆーことっすか?! 俺だったら雑に扱っても許させるとでも言いたいんすかぁっ?! もっ、ホント、ヤダ!! この人選最悪最低ですって!! 俺帰るっ!! 部屋に帰って引き籠もってやるぅ~~~っ!!!」


「おっ落ち着いて下さいよぉーー?! ジークさぁーーんっ!! 落ち着いて、ねっ?! 大丈夫ですから一旦落ち着きましょう!? 探さないで!! ジメジメ出来る場所を探さないで下さぁーーーいっ!!!」


「ハッハ! おもしれぇなジークの奴!! こりゃ道中楽しめそーだわ、んなっ、ヨアヒム!!」


「ですね。 弟がいなくてほとんどやる気失せてたんですけど。 何とかなりそうで良かったです。」


ニヤリ…、と意地悪くほくそ笑みながら、イジリ甲斐のある良い獲物を見つけたと喜ぶ男2人。

この短い間で彼等4人の内、年長の2人のおもちゃに決定してしまった哀れな子羊は、1番年若い青年の静止も虚しく、取り敢えずの応急処置として現実逃避を決め込むためにいそいそとジメジメ出来る理想的なスポットを探し始めてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ