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2.ハッピーバースデートゥー、ミー? ②

 魔法を使うためには、イメージが重要なのでは?というのが人生でたった2回、手探りではあるが実際に魔法を使った、(わたくし)の抱いた感想だ。


悪役令嬢であることは、まだ、受け入れられないけど。

魔法が使える今の自分は大分、……っ好き♡


つい数分前、九死に一生を得た私は考える。

今後のためにも、一先ず、落ち着いて深呼吸。

何かを成す前に、自分の置かれた現状をしっかり整理し、どう行動するのが正しいか考え、行動の結果どうなるかまで、しっっかり熟考することが肝心要。


先程、この身を持ってしっかり理解し、骨の髄まで刻み込んだ!

猪突猛進、ダメ! 絶対!!

石橋は叩いて渡る! これ鉄則!!



 後は、感情が高まったり感極まると、それにつられて注意力が散漫になってしまうから…今後のためにも一層気を付けないと。


というか、こちらが本命。

これからゲームの攻略対象と関わる場面もある(実兄がその一人だし…)のだから、好きとか尊いとか、絶対思っちゃうけど、でも、その感情に流されすぎないようにマインドをコントロールしなければ!!


そしてもしも、さっきみたいに自力では逃れられない身の危険が訪れた場合、身を護る術は……!!


 ーーMA・HO・U!!ーー


使用方法さえわかれば、これ程心強い自衛方法は無い!

無敵、そう、私は無敵になれる!!

魔法をちゃんと理解して使えれば、怖いものなし!!

ラスボス人生、恐るるに足らず!!!


うそ!

怖い、メッチャ怖い!!

もう一度生まれ変われるなら、悪役令嬢(殺される系なの)はホント勘弁してもらいたい!!!



 尻尾まいて、裸足で逃げ出したい。

でも、推しを!!

動いて、話して、生きている様を、この目で確認したい!


見たい、触れたい、触りたい!!


大事なことだから、言葉を変えて言いました!

間違いじゃない、間違えてない、これこそが、私の今最も重要かつ絶対の…目標なのだから!!


恐怖や不安を押し殺してでも、たとえやせ我慢だとしても、近づかない、なんて考えられない!

次元の違う、画面越しで手の届かない創作物(フィクション)ではなく、生物(リアル)なのだから!!

同じ空気を吸って、同じ次元で生存している、!!!

生物(リアル)ヤバイ!!!!



 考えるだけでっ………、ガックガク振動しちゃうぐらい、武者震いが止まらな~~~い♡♡


生物(リアル)イケメン、ハイスペック顔面偏差値の威力をこの身で直に!(これ重要☆)

浴びるほど体感したい!!

できれば、匂いも嗅いでみたい♡


第二の人生お先真っ暗だけど、だからこそ、その暗闇の中に光を見出したい!

キラッキラに輝く、最っ高な綺羅星(きらぼし)☆のような、光を!!

それがあれば、これからの未来を少しだけ、楽しめそうだから。



 ぐうぅ~~~~っ……。



 生きてると、お腹が空く。

幼児であれば尚更、一度の食事量は多く摂れないため、お腹ぺっこりになる頻度が多い。

そろそろ、2度目の間食の時間。

時間単位は前世と同じでわかりやすい。

もうすぐ午後3時だ。


この公爵家では食事時間はしっかりきっちり決まっている。

それに慣らされた身体は、時計を探すまでもなく、正確に時間を把握している。


主にお腹が。

腹時計、侮れないわ…!


ぐぐぐうぅぅ~~~っ………。


食事のことを考えたせいで、催促するようにお腹が鳴る。



もう! この食いしん坊さん!!

いつもいつも、食事や間食が美味しすぎるからってそんな…。


ケーキかしら…。

クリームが絶妙な甘さで、しっとりしたスポンジと一緒に口に入れ、頬張ると……、っ絶妙のハーモニーを奏でる、絶品ケーキ♡

それとも、クリームたぁ~~~っぷり♡のシュークリームかしら?

はたまた、クッキーかしら?


ぐううぅ~~~っ…………。

ぐぐぐうぅぅ~~~っ…………。



 ーーぅあぁぁぁああぁぁ……!!ーー



見てみぬふりができない程、もとい、聞こえないふりができない程、お腹が食べ物を要求してくる。


 ーーはじゅかしいぃぃぃ~~!ーー


美味しい食事に慣らされた胃袋は、満たされる幸福を求めて、激しく主張してくる。

誰も居ないのがせめてもの救いか…。



 切なく(さえず)る腹の虫を宥めながら、ある人物の顔を思い浮かべる。


 ーー早く来ないかなぁ~、メリッサ。ーー


私の乳母(うば)であり侍女のメリッサ。

彼女は一言で言えば、絵に描いたような侍女そのものだ。

眼鏡は厚底過ぎて目が見えないし、きっちり結い上げた髪は、頭の後ろでまとめてお団子にしている。

厳格なデキル侍女、そのものなのだ。


そんな彼女が、私の身の回りの世話を主にしてくれている。

なので、間食を運んでくれるのも、彼女なのだ。


そわそわ、もじもじ、そわそわ。


今か今かと、メリッサが部屋のドアをノックして入室を知らせる時を待つ。

心待ちにしすぎて、時間が過ぎるのが遅い。

待ち切れない、主にお腹が限界だ。



 1分が10分にも100分にも感じた。

そんな私の耳に、待ちに待った音が届く。

少し癖のある、ノックの仕方。 彼女だ!


「お嬢様、メリッサです。軽食をお持ちいたしました。」


「どうぞ!」


待っっっっっってましたぁ!!


もうお腹の虫は我慢をやめてがなり立てている。

わっくわくしながら、先程からの、そわそわうずうずがピークを迎えた。


ドアノブを下げるときにも、ドアが内側に向かって開くときにも、小さな音一つたたなかった。

そして、私が産まれた時から仕えてくれている、見慣れた中年、にはとても見えない、乳母が開かれたドアから、軽食の載ったワゴンを押しながら姿を見せる。


分厚すぎる眼鏡の主張が強すぎて、顔の全体像が上手く識別できないが、見えている範囲の顔のパーツから判断して、やはり整った顔立ちをしていると思う。

顎のラインはシャープだし、(はしばみ)色の髪に邪魔されていない、細い首筋も色っぽい。


思考が一部乱れてしまったが、スタイルだって抜群で、心配になるほど細すぎる腰や、出るところはちゃんと女性らしさを主張する、程よい出っ張り具合なのだ。


やっぱり思考が一部乱れてしまったが、これで不美人は、無いだろう。

脱ぐとスゴイ、ならぬ、眼鏡を取るとスゴイなパターンだと、私は踏んている。


「お嬢様、はしたのう御座います。そのように足を振ってはいけません。」



 椅子は何とか手を付けばお尻で乗り上げれる高さに座面がある、だから座ると足がつかない。

それに、わくわくが止められないから、足を振るのも止められなかった。


ふんわり拡がってレースがもりもりしているスカートに隠れた足の動きを正確に見抜いて指摘してくる。

さすが長年、オギャーの瞬間からずっと私をお世話してくれてるだけある。


(たしな)める声を聞きながら、その声もデキル侍女らしく、凛としながらも、どこか優しげな響きを持った、彼女らしいと思える声だなぁ、と考える。


そんなこんな、軽いお小言を言いつつ、腰掛けている私の前にあるテーブルの上に手際よく軽食を準備する。


何のスイーツかなぁ、公爵家のパティシエは腕が良いから、何でも美味しくって♡

た・の・し・み♡♡


そして、テーブルに並べられていく食器を見て、否が応でも期待が高まる。

フォークがないということは、手掴み系の軽食なのね、と推測する。

楽しみは最後にとっておく派♡なのでワゴンの上は敢えて見ないように心がけ、目の前に置かれる瞬間まで見るのを我慢する。



 そんな私の、高まりきった期待は、裏切られる。

軽食、……っ軽食、だけどもっ…!!

3時はおやつタイム、それはこの世界でも変わらない。

そのはずなのに、何で!?!?


眼の前には、こぼれにくい具材を選んで作られたサンドイッチが準備された。

一切れは5cm四方に切り分けられており、持ちやすくなっている。

しかし、厚みが、ちょっと………、私の顎を外させる気か?と疑問に思ってしまう程。

とっても腹持ちしそうなボリューム満点の厚み。

今の私が大口開けてやっと、いやギリギリ、パクつける厚みだ。


声にならないこちらの落胆と驚嘆を察して、有能な乳母は淡々と事実のみを告げる。


「本日は夕方のパーティーに備え、お嬢様の大好きなスイーツではなく、こちらに致しました。今のうちに食べれるだけで結構ですので、お食べください。」


食べた後、腰をリボンで絞り込む仕上げがありますので、とも。


「ふわぁ!?」


「ですので、パーティー中は、ほとんどの食べられないものとお考えください。ケーキを放り込む隙間も無いほど、絞り上げますので。どうぞ今のうちに、少しでも多くお召し上がりになることを、強くおすすめ致します。」


「………っ!ふええぇえぇぇぇ~~~~ん!!!」



 こうして、転生したことを理解してから、初めての耐え難い試練を前に、ラスボスとして殺される悪役令嬢になったと知ったときにも、しなかった大号泣を、気心の知れた乳母の前で晒すこととなった。


幼児にとっても、スイーツ好きな元女子高生にとっても、パーティーの最中ずっと、目の前にある絶対に美味しいと知っている、幸福の塊たる食物を、ただ見ているだけなんて………。


拷問だぁぁあぁアァーーー!

虐待だぁぁあぁアァーーー!!


滝のような涙が顔からドレスへと滴り落ちる前に、有能な乳母に押し付けられたタオルの下で。

くぐもった泣き声と溢れ出るあらゆる体液を吸い込んで、タオルが限界までその体積を増やしきるまで。

この、魂からの慟哭が止むことはなかった。

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