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52.〇〇からの手紙。〜〇〇への招待状〜 ③

 あのパーティの日、中座した(わたくし)はあの後アンジェロン子爵令息がどうなったか、どこへ行ったのか知らない。

存在すら記憶の彼方になってしまっていたのが、先程のお父様の言葉でその存在が思い出され、忘れたいた自分にびっくりしてもいる。

しかもその令息は未だにこの屋敷の地下牢に拘禁されたままのなのだという、その事実に度肝を抜かれた。


「まぁねぇ~、やらかした事が事だけにぃ、すぐさま家に送り返すってわけにもいかなくってねぇ~~? それに地下牢といえど、環境設備は屋敷内と変わらないからねぇ~、だって一応曲がりなりにも貴族なのだからと貴人用の牢に通しているからねぇ~~! ただ自由がないと言うだけでぇ、あとは、話し相手がいないってとこかなぁ~? その他には別段不便なことは無いはずだよぉ~??」


 ーー牢屋内が快適仕様とか、聞いたこと無いのですが?! 何かしらの不快感は絶対に伴っていると思うのですが…でもそれも、処罰の一環に含まれるのかしら?ーー


あれから1週間も経っているのに、アンジェロン子爵家からは何も言ってこなかったのだろうか。

というか、あのパーティーに保護者は同伴していなかったのだろうか?

成人前の年端もいかない子供を単身で赴かせられるその度量はある意味で感服するが、放任主義を採用するからには勿論その子供が犯すであろう過ちの全ての償いを責任持って取れるのが大前提だ。

そもそも嫡男を拘束されているとなれば、1も2もなく嘆願してでも釈放を求めると思うのだが、現実のお貴族様はスーパードライで庶民思考の私とは感性が違うのだろうか?


「アンジェロン子爵家へご子息を拘禁している事実とそれに至る経緯は通達されたのですよね? それに対する、反応と言いますか…釈放の嘆願等何かしらの働きかけは、あったのではないのですか?」


私の疑問に対してのお父様の答えは、失笑からの肩を竦める仕草、しかしそれで十分に伝わってしまった。


 ーー何の働きかけも、無し…? 公爵家相手だからって、全面降伏して嫡男を切り捨てちゃった…って、こと……?! お貴族様、怖っ!!!ーー


「ご子息を見限ったということでしょうか?」


「ん~~、というかぁ~、あれは、はは…、空惚けている、と穏便に受け取ったほうが良いのかなぁ~~? パーティーの翌日にアンジェロン子爵家へ通達の書簡を届けさせたんだがぁ…、あちらさんが言うには『息子は屋敷から一歩も外に出ておらず、今も屋敷内に居る。 そちらが拘禁しているのは我が子爵家の嫡男ではない。』だぁ~~って、さぁ。 やっぱりぃ、喧嘩を売られてるって思うよねぇ~、ありえないよねぇこんな対応、初めての経験だともぉ~~!! 私が当主になる前に遡ってもこんな珍回答、受け取った試しがあるはずないよねぇ~~!!?」


絶句する他ない。

言うに事欠いて、そんな言い訳にもならない話、誰が信じられるというのか。


「えぇ~、ホントにぃ~~? 言い渋ってたから何かあるとは思ってたけど、そんな回答だったんだぁ~~! あっははははっ、笑えるねぇ♪」


心底可笑しそうに笑いながら、目が全く笑っていないエリファスお兄様。


「エリファス…、笑うな。 あとその不穏な気配をおさめろ、母上とライラに障る。」


それを親指の腹でこめかみを押さえながら窘める、眉間に皺を寄せた渋面のアルヴェインお兄様。

2人のお兄様に挟まれて、中央に鎮座する我が公爵家当主のお父様は、先程までの戯けた様子が夢幻だったかのように、いつの間にか表情を消し去ってしまわれていた。


それからゆっくりと、口髭に隠れて見えづらい口端を引き上げて笑みを形作る。


「それ相応の覚悟があっての回答だろうから、その覚悟に応えてとびきりの対応をしてやろうじゃないか。」


 ーー標準的な喋り方のお父様って、怒りが振り切れた状態って事かしら……? 『()()()()()()()』の内容を聞くのが怖い、絶対に穏便じゃ済まない内容だと思えてしまうのは、私の考えすぎでは無いと思う。ーー


お父様の心は決まってしまった、それに対してお兄様2人も口を挟むつもりはないようだ。

アルヴェインお兄様は眉間の皺はそのままに、無感情な瞳で静かにお父様の言葉を受け入れている。

エリファスお兄様はその瞳にも笑みを滲ませ、ニヤニヤしながらお父様の言葉を全面的に受け入れているようだ。

お母様はいつもと変わらないお顔で居るはずだ、そしてお父様を窘めないということはつまり、この件でお父様の意向を阻止する考えはないということに他ならない。


ここで私が意見を差し挟むのは、纏まりかけた場の空気を壊してしまう行為だろう。

それはわかっていても、このまま黙っている訳にはいかない。


「お父様、アンジェロン子爵家に対する報償内容を私に決めさせていただけませんか? 私が最初にこの件に関わったのですから、その権利がありますでしょう?」


「報償を求めるだけで済ませるつもりはなかったけれどね、ちなみにどんな内容にするつもりなんだい? ライラが考えるこの件に相応しい償いは、どんなものなのかなぁ?」


ごくり、と喉が音を立てて唾を飲み込む。

静かに優しく問われているのに、喉元に獲物を突きつけられているような心地にさせられた。

戯けた口調を取っ払ったお父様はとても恐ろしく感じる、いつものお父様と同一人物とは思えないほどに。


冷や汗が背を伝う、がこれ以上怯んでいられない。

喉が縮こまって言葉を紡げなくなる前に、私の考えを伝えなければ。

今後の展開を左右する岐路に立たされている、ゲームシナリオよりも最悪な展開にならないようお父様を説得できるのは今しかない、はずだ。


「私はアンジェロン子爵家が所有する全ての魔導具、及びそれに類する事物の没収を求めます。 勿論、生活に支障を来たす類の物は除外して、ですが。 今回アンジェロン子爵令息が持ち込んだ魔導具も含め、()()に活用できそうな物は勿論、そういった知識を授けてしまいそうな魔導書に至るまで全て。 だって子爵家にはもう無用の長物でしょう? 身近にあるから使いたくなって使い道を考えてしまうのですわ、持っていなければ悪戯など考えることもしないでしょう。 そうだわ、それも誓っていただきましょう、その時には必ず公爵家の使者立ち会いのもと誓約書に署名して頂かないといけませんわね! 子爵と子息の両名にしっかりと自署して頂きましょう!!」


話しているうちに興が乗ってきた。

最初は鉛のように重く動きの鈍かった舌が、最後の方では歌でも口ずさむかのように饒舌で軽やかに言葉を紡ぎ出したいた。

ぱんっと手を打ち合わせ、にっこりと微笑んで話を締めくくる。


 ーーうんうん! 我ながら即興で思いついたにしてはとても良い報償内容に思えるわ!! 子爵家だけで償える内容だし、今後の子息の悪戯行為の撲滅ができるし、誰の命も脅かす要素が見当たらない、これは正に完璧じゃないかしらっ!!?ーー


自画自賛しながらニッコニコ笑ってしまうのをとめられない。

これならゲームのようなヒロインとの確執ができる可能性は限りなく0に近い、ラスボスフラグを見事に伐採してやれた心地だ。


 ーーでも……何で誰も言葉を返して下さらないのかしら?ーー


ニコニコしているせいで今現在私の瞼は閉じた状態だ。

だからってみんなが無言なままの、この妙な空気のままで、瞼をかっ開く勇気はとってもチキンな私には持ち合わせがないのだ。

笑顔が引き攣りだして痙攣しそうになった頃、お父様が吹き出したように笑い出した。


「あっはっはっはっはっはっは、ははっ、あはは!! ははははっ、はははっ、は……はははっ!!!」


 ーーえぇーーーと、これは、どんな感情によて引き起こされた笑いなのかしら? おこじゃない?? 激おこじゃないですよねぇっ??!ーー


一応声が上がったので、恐る恐る、ビクビクしながら瞼を薄く開いて、家族の様子を窺うようにそれぞれの顔面に視線を走らせる。


お父様は笑ってる、wwwってぐらいに笑ってる。

アルヴェインお兄様は眉間の皺が消失して何かを興味深そうに思案している表情だ、あどけない表情で可愛い♡

エリファスお兄様は私へと不思議なくらいとっても優しい笑顔を向けてくださってる、なんだかとっても照れくさくなってしまう。

お母様は……駄目だ、もうどうやっても今日はお母様のお顔を見られない、諦めよう。

でも恐らく、怒ったりはしていないと思われる、お怒りになったお母様を全く想像できないけれど。


ヒーヒー言いながらも何とか笑いが収まってきたお父様が途切れ途切れ言葉を区切りながら、間延びした口調で言葉をかけてくださった。


「ははっ、良いねぇ~、それでいこうじゃないかぁ~~! ふふっ、生活に直結しない全魔導具と魔導に類する事物の没収、それに伴う約束事を記した誓約書への保護者と本人の直筆による署名、その場には私の代理人を立会わせる、かぁ~!! あっはっは、良いじゃないかぁ~、それなら早く事が済んでこちらの人件費も安く済むしねぇ~~!!!」


「そうですね、騎士団の分隊と父上の名代を一緒に向かわせれば良い。 適任者はサミュエルでしょうか、彼であれば恙無く父上の意向通りに処理してくれるでしょうし、灰汁の強い騎士団の面々の手綱も臆することなく上手く取ってくれるでしょうから。」


「子爵家も金銭的負担はないからサクッと受け入れ易そうだしぃ、うちの騎士がいれば反発とかも起こらなそうだしぃ~、良いんじゃない~~? 穏便に済みすぎて物足りないけどぉ、今回はライラも関わってるしぃ、平和的解決が一番だよねぇ~♪」


幼女の浅知恵、と一笑に付されるかとハラハラしていたが、どうやらお父様にもお兄様ーずにも納得して貰えたようだ。


 ーー良かった! ゲームシナリオ的な展開は回避できた!? ヒロインからのヘイト発生を未然に阻止成功な予感っ??!ーー


「私の提案した報償内容で良いということでしょうか? 大口を叩いておいてなんですが、誓約書の内容、細かい取り決めなどはお父様たちにお願いしてしまっても?」


ガッツリ手応えを感じつつ、確認作業も怠らない、勝手な解釈で確認作業を怠るととんでもないどんでん返しが発生してしまうものなのだから、油断大敵!

石橋は叩いて渡りますとも!!


「そうだねぇ、良いともぉ~! 魔導具は安くはないからねぇ~、どれだけの質の物を持っているかは定かじゃないがぁ、今回起こした騒動に使われた魔導具と同じ品質の物であれば5・6個で小さな屋敷と同等の価値があるからねぇ~~!! 賠償としても金額的に不足はないはずだしぃ、細かい取り決めもサミュエルが喜んで考えるだろうよぉ~、奴は何より金勘定が大好物だからねぇ♪ オズ、早速サミュエルとヴァルバトスに私の執務室へ来るよう言ってきておくれよぉ~~!!!」


サミュエル様はお兄様が言っていたお父様の名代に適任な方で、ヴァルバトス様がどこの何方かは不明だが、今は超ご機嫌になったお父様の機嫌を損なう可能性を生み出したくないので捨て置く。


大きく頷きながら笑うお父様から了承を得られた、誰の耳にもしっかりと聞こえたであろう違えようのない言質を取れて、この件に関しては一先ずの決着を迎えられた、それこそが今ここではいちばん重要なポイントなのだから。



 ゲームでのアルヴェインお兄様ルートでちょっとだけ掻い摘んで語られた、ヒロインとフォコンペレーラ公爵家との因縁。

それがあの誕生日パーティでの出来事だったとは、今考えると成る程と思うが、納得はしたくない、とうか勘弁願いたい。


ゲームでは、騒動の償いとしてアンジェロン子爵家は財産を全て没収された。

その結果、困窮に喘ぎ立ち行かず、所領に対して増税を課すも領民が暴動を起こしこれに反発、アンジェロン子爵の邸宅を焼き討ちするべく決起した。

その際運良く屋敷を空けていたヒロイン以外の全員が暴徒とかした民衆に捕らえられた。

子爵と子爵夫人は手酷い暴行を受けた後、首に縄を掛けられ領内を引き回され、最終的に首吊りにされ事切れた。

年端もいかない未成年の子供であることを理由に暴行は加えられなかったが、両親への制裁の全てをさまざまと目の前で見せられた子息のヒューシャホッグはここで気が狂れてしまった。

暴動が起こった報告を受けて、フォコンペレーラ公爵家が騎士団を向かわせたときには全てが終わったあとだった。

両親を亡くし、親戚にも敬遠され行く宛もない中、残された幼い兄妹はフォコンペレーラ公爵家が監視を言い渡した貴族家へと保護され学園に入学するまで身を寄せることになる。


中々ヘビーな幼少期を送ったヒロインのこの回想部分は客観的に事実を語る文章と焼き討ち前後の燃え上がる子爵家の絵と燃え残った子爵家の絵だけでの説明だった。


しかも後々ストーリーが展開していくと判明するのだが、あのパーティーでの騒動はそもそもライリエルが思いついた悪戯が原因だったというのだ。

ライリエルが公爵家に保管してあった魔導具を無断で持ち出し、パーティーに参加していたアンジェロン子爵家の令息を唆して実行犯に仕立て上げた、というのがゲームでの真相だったのだ。


 ーー怖っ! おっかなすぎるわ、そんな3歳幼女!! そらラスボスにまで立身出世してしまえるわっ、自業自得で!!!ーー


勿論、今回の騒動では私が裏で糸を引いている事実は欠片もない、『自作自演でした~♪』なんてドッキリ要素は皆無だ。

彼の令息が使用したのが自前の魔導具であることは既に本人の口から自白が取れてるし、それがなかったとしても、これだけの時間があればとっくに裏も取って公爵家独自の調査も終わっているだろうし、私の無実は確定だ。


ルンルン気分で飲みかけのホットミルクをゴックゴックと景気づけて飲む。


 ーーうん、適温に保たれていて、とっても美味しい♡ ホント、刻印魔法、さまっさま~♡♡ーー


最後の一滴まできれーに飲み干して、コンっとマグカップをテーブルに置く。

そのテーブルの上に、国王陛下からのお手紙を見つけて、途端に天にまで舞い上がっていた気分が急滑降して地面に抉り込んだ。


 ーーうぅ…、胃痛胸焼けが……っ! 未解決の難題がここに……っ!! 回避の方法がゲーム知識を参照しても皆無、回帰の記憶を参照しても該当なし、つまり詰んでるっ!!!ーー


がくっと肩を落とし切って燃え尽きかかっていると、隣から心配げに安否確認の声をかけられた。


「大丈夫ですか、ライリエル様?! なんだか灰になりかかっていたような幻影が見えてしまったのですが、私の見間違いだと信じたいですぅっ!!」


顔を覗き込んで安否を確認される、もしかしたら灰になっている箇所がないかも確認されているかもしれない。


「メイヴィスお姉様…、私、ちょっと……。 っ!? そういえばお姉様は年が明けたら洗礼式にご出席なさるのですよねぇっ??! となると、洗礼式後の舞踏会にも洩れなくご参加なさいますよねぇっ??!」


「うわっひゃいぃっ!! も、もちろん、そのつもりでおります、がぁ~~??」


私が急激に顔を近づけたことで、こちらに寄せていた顔を驚いた拍子に飛び退かせながら器用に答えてくださる。


 ーー仰け反っているのに声がブレてない、やっぱりお姉様は何かしらの声を出す訓練を受けていらっしゃるのでしょうね、素敵っ!!ーー


お友達(キャッ♡)の素敵ポイントを発見して少しテンションが回復した。

だがしかし、このまま本題を見失うわけにはいかないので、意志の力で脱線しかかった意識を本題に引き戻して質問を続ける。


「でしたら、舞踏会の様子を後日お伺いしたいのです! 可能であれば、いえ、是が非でもお聞かせ願いたいのですっ!! 今後の参考にさせていただき(対策を練り)たいのです!!!」


「あぁ~~う、え? あ、あぁっ!! そういう…?! な、成る程っ、責任重大ですねっ、わかりました!! そういうことであれば、そういうこととして、お力になれるよう鵜の目鷹の目で会場中の状況を隈なく観察し、臨場感あふれる報告ができるよう、全力を尽くしますねっ!!!」


むっふーーーん!!


鼻息も荒々しく、力いっぱい全力投球宣言をしていただいてしまった。

私と王命の記された手紙を交互に見て、何かを察してくださったようだ。


 ーー臨場感溢れる報告って、何だろう? あ、実況解説みたいな感じ?? え、ちょ、めっちゃ楽しみなんですけど??!ーー


自分で持ちかけておいて、予想外に嬉しい快諾の返事をもらえてしまった。

やる気十分なお姉様にほっこりする、しかし同時にそのやる気溢れる姿に申し訳なくもある。

なぜならこんなお願いをしたのは前向きな理由からでは無いからだ。


 ーー王命を撤回できないなら、レスター君を諦めさせるしか無い。 そして将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、ってやつですよ!ーー


下調べを入念に行いコツコツと些細なことから情報収集に努める、その中から有用な策を講じようと画策したのだ。

突き詰めて考えるのはわりかし得意分野なので、後は肝心な情報の収集方法と情報提供者を決定することだったのだ。


 ーーグッドなタイミングで、ベリーグッドな情報提供者を確保できたわ! 幸先良さそうで嬉しい、このまま順風満帆に事が進んでくれると良いのだけれど、何故か嵐に遭遇する確率大な不穏な予感が拭い去れない……。 あれですよ、フラグはとうの昔に立ってしまっているから逃れられない運命みたいなのを私の第六感的なものが敏感に感じ取っちゃってるわけなのですよ、きっとね!!ーー


「ありがとうございます、メイヴィスお姉様! もっともっと、たくさんお話したかったのに、明日帰ってしまわれるのが本当に残念でなりません。 ですがこうやってお約束いただけましたし、さしあたっては訪問の可・不可のお返事を心待ちにしておりますね♪」


「ふわっはいっ!? あ、訪問…!! そうですよね、そうでしたよね?! 大丈夫です、バッチリ、しっかりはっきりと、覚えておりましたともぉっ!!!」


 ーーこりゃ真っ黒なやつやな! めっちゃめちゃ挙動不審で疑いの余地しか無い!! 愛いやつめっ!!!ーー


お姉様の可愛い誤魔化し方にほっこりする。

取り敢えず目論んでいた内容を伝えられて一安心できたので、ここからは存分にお姉様が可愛らしく慌てふためくさまを観賞する。


「そういえば、アグネーゼ男爵令嬢は明日帰るのだったわね、出立時間の変更はしなくて良いかしら? 今日はもう随分と遅くなってしまったから、出立の時間も遅めたほうが良いのではないかしら?」


そこまで黙していたお母様がメイヴィスお姉様に明日の出立時間について質問する。


 ーー明日の出立時間は何時の予定なのだろうか、今はもう……え、嘘っ、22時まわってるぅ~っ?! ヤヴァイ!! いろいろ起こりすぎて知らないうちに夜更かししまくっている!?ーー


時間の経過を途中から確認するのを忘れていた。

今日の晩餐会はハプニングが満載だったから、大変濃密な時間を過ごしすぎてしまったわ。

色んな意味でお腹いっぱいになれてしまった、消化不良を起こしそうなほどに。


「お心遣いに感謝申し上げます、ですが予定していた時間のままで結構でございます。 家までの道程は長いので出立時刻を遅らせてしまいますと到着の時刻も遅くなってしまいますから。 それに私は遅寝早起きの生活には慣れておりますので、何も問題ございません。」


メイヴィスお姉様が自分の私生活を語る恥ずかしさから困り顔になりながらも、きっぱりとした断りの言葉をお母様に返された。


「そうなのね、わかったわ。 じゃあ、事前に聞いていた通り、6時のまま手配するわね。」


 ーー6時?! 早すぎませんか?? お見送りする気満々でいたのに、これは無理そうだわ…(泣)ーー


きっと今夜は一度寝ついたなら、お姉様の出立時刻から軽く2時間はオーバースレプトしての起床となること請け合いだ、しかも軽く見積もっての話で。


 ーーせっかく、メリッサに頼んで見付けてきてもらった魔導具の出番がなかったわぁ~…。 それにいろいろお姉様の客室に忘れたままになってしまったしぃ~、後で取りに赴かないとよねぇ。ーー


チャラ…。


ペンダントとして首から下げられたのでドレスの下に身に着けて来ていた魔導具(それ)に服の上から触れる。

残念がっていると、真向かいのエリファスお兄様から声をかけられた。


「どうしたの、ライラ? 浮かない顔してぇ、それってメリッサが持ってった魔導具(やつ)でしょ~? 何か不備でも合ったぁ~~?」


「?! エリファスお兄様、よくお分かりになりましたね! 不備と言いますか、まだ活用できていなくって…、そのことを残念に思っていたのです。」


「なぁ~んだ、そっかぁ~~、安心した♡ できる限り要望に応えたつもりだったけどぉ、急拵えだったから上手くいかなかったのかなぁ~、って心配しちゃったよぉ~~。」


「急拵え……? え、と…? それはつまり、どういう……??」


 ーーエリファスお兄様の言い方だと、まるでお兄様がお作りになったみたいに聞こえる。 いやいや、いやいやいやっ?! そぉーーーーんなわけ、無いですよねぇっ??!ーー


目をパチパチ瞬いて、顔に汗をタラつかせながら、エリファスお兄様の麗しいお顔を凝視する。


「ん~? あれぇ、メリッサ言ってなかったぁ~? それ、ボクが作ったやつなんだけどぉ~、めっちゃくちゃ急かされてぇ、最近で1番頑張って作ったんだよぉ~~??」


 ーーえっ?!ーー


「作った…? 本当に……??」


「あははっ、こんな事で嘘ついたりしないよぉ~、いっくらボクでも見え透いた嘘はついたりしないしぃ、ライラには嘘つかないよぉ~~? からかったりはするけどねぇ~~♪」


 ーーえっ?! うっそぉ~、嘘じゃないって、本当の本当にぃ~~っ??!ーー


魔導具の上に置いている私の手と、エリファスお兄様のお顔を高速で交互に何往復かして見た後に、ポケットの中にあるもう一つの魔導具をぐわしっと手のひらの中に握り込む。


そしてポケットから引っ張り出した勢いのまま、呼び鈴(クロッシュ)をこれでもかと云うほど必要以上に振りに振った。

昼間の呪い騒動で呼びつけた際に、殊更冷ややかに睨めつけられたのは記憶に新しく脳裏にしっかり焼き付いているけれど、振りたくらずにいられなかった。

後でしこたまお説教を喰らってでも宅の有能なサイボーグ侍女を今すぐにこの場に召喚する手を止めることは出来なかった。

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