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49.晩餐会は驚きの連続?!

 「はぁーーーーーーーーーーーーーー…………。」


「「「 ………。 」」」


晩餐の準備は万端に整っているのは、一目瞭然。

なのに(わたくし)は一向に食卓に着く気になれない。


食堂に足を一歩踏み入れた位置で立ち往生。

先程まで剣呑な雰囲気だったお兄様ーずも追い越して先に来ていた私とメイヴィスお姉様に追いつき、食堂にいる大魔王を見て、沈黙。


躊躇っているそもそもの原因、それは偏に、既に食卓に着いている何故か大魔王化したお父様が止め処なく纏わせ続ける非常に近寄りがたい殺伐とした空気のせいだ。


お父様の周囲にはドス黒い瘴気が渦巻き、そのせいか先程からお父様が吐き出している溜息が何故か燻った煙のように黒く色づいてさえ見える。


 ーー進むべきか引き返すべきか、この場合どちらが正しい選択となるのだろう…?ーー


私の転生人生を生き抜くためのモットーの1つである『命大事に!』にガッツリ抵触する事件な案件だ。


 ーー私1人ならまだしも、今日は無理矢理お誘いして半ば強制的に参加を促したメイヴィスお姉様も同席するのだ。 お姉様の安全も含めて考えるのなら、見なかったことにして引き返すべきかしら?ーー


チラリと横目にメイヴィスお姉様の様子を窺い見ると、予想通りお父様の発する禍々しい負の波動に中てられた恐怖で恐れ慄いて小さく身を震わせていらっしゃる。


 ーーうんうん、後ろに見える仔犬さんも同じだけ震え上がっているわ! やっぱりここは戦略的撤退を断行するべきかしらね?ーー


概ね撤退に軍配が上がろうかという段階まで進退について突き詰めて思案していると、私たちを恐怖から守り包むような、ホッと安心させられる普段と変わらない柔らかなお母様の声が耳に届いた。


「ライラちゃん、アグネーゼ男爵令嬢、気にせずこちらへいらっしゃい。 大丈夫よ、コーネリアスはあなた達に咬み付いたりしないから。」


冗談めかして席に着くよう促してくださるけれどーー。


 ーーお母様っ?! 今の状況では全然まったくもって欠片も笑える気がしませんわ、その冗談っ!!ーー


既のところまで、喉のここまで出かかった言葉をなんとかかんとか喉の奥に押し戻して、苦笑う。

にこにこといつもと変わらない、優しく微笑むお母様と目が合う。

途端弾かれたように、誤魔化しようのないくらい不自然に、わかり易く視線を逸してしまった。


「?」


私の過剰な拒絶を含んだ反応にお母様がきょとんと心底不思議そうに窺い見ているのが横目の視界の端にチラつくも、素直に視線を戻せそうにない。

私にこんな行動を取らせている不可解な感情の起こりは、紛れもなく昼間お母様の短所を知ってしまったこと、それに端を発している。


いつまでも顔を背けたままでいられないと頭ではちゃんとわかっていても、お母様の顔をまっすぐ見返すことはどうやっても今の私にはできそうにない。


自分のモヤつく気持ちを誤魔化すように、明るい声音を心がけてメイヴィスお姉様を促して用意された席に移動を開始する。

その間もずっとこの横顔に向けられる、問いかけるようなお母様からの視線を感じる。

それに顔を向けて正面から受け止めることなど出来ないまま、席に着いてしまった。


「「 ………。 」」


私の不自然な反応に首を傾げたのは当事者のお母様だけではなかった。

妹の常とは違う母に対する硬い態度に、お互いがどちらからともなく目配せして言葉を介さず視線だけで何事かを確認し合う兄と弟。

しばらくの間アイコンタクトを取った後、この場では言葉を発することも、抱いた疑問を口にすることも控えて、それぞれの定位置の席に何事もなかったかのように足を向け移動を再開した。



 全員が食卓に着くと、控えていたパーラーメイドが給仕を開始した。

飲み物をグラス(ヴェール)に注ぐもの、前菜を運ぶもの、明確な役割分担に従ってテキパキと一切の無駄なく動く。

それぞれの前に置かれた銀のプレゼンテーションプレートの上に前菜(オードブル)の載った皿が静かに置かれる、私以外には。


忘れていた、私はまだ、病人食から少し進化しただけの食事内容だったことを。


お昼の時はそんなに感じなかった、なのに今はとっっっっても、病み上がりな我が身が恨めしく感じる。


 ーー私の身体を気遣っての食事内容であることは重々、痛っったいほどわかる。 でも、豪華極まりない晩餐の食事が、私以外に普通に配られるの目にするのは……やっぱり辛いぃ~~!!ーー


目の前に置かれた、朝・昼とは違うスープと焼き立てほかほか♡なパンとカットされたフルーツを穴が空くほど見る。


 ーー前菜(オードブル)はまだ我慢できる、でも、次からくる主菜の皿が視界の端にでもチラついてしまったら……発狂してしまうかもしれない!?ーー


わりかし本気で思い詰めていると、私の真向かいの席に座るエリファスお兄様の前から早々に皿を下げるメイドの動きが目に映った。


 ーーあれ? 前菜(オードブル)のお皿、今置かれたばっかりじゃなかったっけ??ーー


メイドが手に持つ皿の上は、しげしげと眺めなくてもわかるほどきれいに空っぽだ。


 ーー量が少なめだったのかな?ーー


目立たないように視線だけキョロつかせてササッと素早くテーブルの上に視線をはしらせる。


 ーーうん、量は皆同じくらいのはず? 皆まだ食べている途中だけど、気にし過ぎかなぁ?ーー


そう考えていると、エリファスお兄様の前には早くも次なる皿が運ばれてきた。

オードブルの次はスープだ。


 ーーえっと? ちょっと、あれれ? 思ってたスープ皿となんかちゃう…???ーー


スープ皿は液体を入れるから深皿になる、それは頭にあったが、今お兄様の前に置かれたスープ皿はスープ皿じゃない。


 ーーあれって、フィンガーボウルかな?ーー


深いとかそんな次元の話しじゃない、お皿というか種類が違う、もうあれは立派な器だった。

言葉もなく驚愕していると、更なる衝撃的映像が瞠っていた目に映り込んできた。


マナーを無視して、両手で器を掴むと躊躇うこと無く直接器に口をつけて、角度を傾けていき、中身を口の中に流し込んでいるらしい。


 ーーあっつあつスープであっつあつになった器から直に一気飲みとか、何の罰ゲームぅ?! 湯気は…、あ、冷製スープだったのね、一安心。ーー


嚥下する音はしない、でも傾いて上がっていく器の位置で中身が順調に減っていっているのは一目瞭然だ。

しかしあれだけの量だ、流石に一息に呑み切るのは無理だろうに、なんって無謀な挑戦をするのか、そう考えた私は井の中の蛙だった。

大海の広さを知らなさ過ぎたのだ。

所詮私は肉体は齢3歳、精神は16歳のまだまだ世間知らずなひよっこ過ぎる小娘だったのだ。


1,2,3…、コトン。


 ーーいやに音が、軽くないかしら?ーー


エリファスお兄様がプレゼンテーションプレートの上に器を戻したときの音が何故か無性に引っ掛かった。

私の位置と座高からは器の中身が()()()()()()()()()は見えなかった。


だからエリファスお兄様の元にしずしずと、再び音も静かに近寄ってくるメイドを信じられない思いでガン見してしまった。

あれよあれよという間に、フィンガーボウル大の器はメイドの手によって回収されてしまった。

開いた口が塞がらない、というか、概ね顎が外れかかっている。


「ぶはっ! もう駄目、我慢できない……!! ライラ、ちょ……と、さぁ、目の前で百面相しないでぇ~~っ!!」


堪えきれず吹き出してテーブルに突っ伏しながら多分に笑いを含んだ震える声でツッコまれてしまった。


「っ?! エリファスお兄様、気づいていらっしゃったならもっと早く注意してくださったら良かったのに!!」


「だってぇ…、凄い、真剣に見てるからさぁ~。 邪魔しちゃ悪いかと思って、我慢できるかと思ったけどぉ、駄目だった♡ ごめんねぇ~? でも、何がそんなに不思議だったのぉ~? ボクの食事風景なんて、見ててもさして物珍しいことなんてないでしょ~~?」


笑いすぎて涙の滲んだ目元を指の先で拭いながらお兄様が弁明する。

そう云えば、お兄様の麗しいお顔が全開だ。

前髪が左右に撫で付けられ、整えられていることに今更ながらに気づいた。


「とんでもありません、珍しいですともっ! お兄様は魔法でも使われたのかと思って、ずっと驚いておりました!! だっててんこ盛りだったお料理が一瞬で消えてしまったのですもの!! 吃驚して当然でしょうともっ!!」


「そぉかなぁ~、いつもと同じように食べてるだけだけどなぁ~~? まぁ、確かにぃ~、家族の中では1番早く食べ終わるのはいっつもボクだけどねぇ~~?」


テーブルに片肘をのせ、頬杖をつきながら未だに可笑しそうに目元を細めてなんでも無いことのように嘯く。


「ライラ、あまり真剣に見すぎるなよ。 食欲が失せることになる、視線をできるだけ下げて自分の食事に集中するんだ。 いいな?」


エリファスお兄様の隣の隣、お父様を間に挟んだ反対側に座るアルヴェインお兄様が私に向かって注意を促す言葉で鋭く説きふせてようとなさっている。


 ーー!! 確かに、ずっと見ていたらそれだけでお腹が膨れてしまいそう……。ーー


言葉の核心を得て、アルヴェインお兄様に神妙に頷き返す。

それに対してエリファスお兄様が不満そうに言葉を洩らす。


「えぇ~、頷いちゃうの、ライラ? 遠慮しないで、もっと真剣に穴が空くほど見てくれていいんだよぉ~~??」


 ーーうぅ~~っ!? ハイタカ顔面偏差値の威容で滅多打ちされているぅ~~~っ!! 小悪魔次兄のお強請りぃ~~、最高か?!!ーー


頬杖をついたまま、首の角度を深くして、上目に見て誘惑してくる、こんなの秒でイチコロだ。


「エリファス、ライラを(まど)わそうとするな。 病み上がりにお前の食事風景は胸焼けだけじゃ済まないだろう。 また寝込むことになったらどうするんだ?」


「それは困るけどさぁ~。 胸焼けだけじゃすまないって、ボクそんな酷い食べ方はしてないつもりなんだけどぉ~?」


「食べ方じゃない、食べる量が常軌を逸しているんだ。 見ているとそれだけで胸が悪くなる。」


「酷くないぃ? 言い方に悪意を感じるんだけどぉ~? ねぇ、ライラも酷いと思わないぃ~、兄さんがイジメるぅ、助けてライラぁ~~っ(泣)」


「人聞きが悪いことを云うんじゃない! それとウソ泣きでライラの同情を引こうとするな!」


話題を振られたが何か言葉を返す前にアルヴェインお兄様にタイミングを奪われてしまった、得難く尊い体験に身を震わして悶えるのを堪える。


 ーーお兄様たちが仲良しだわ! 阿吽の呼吸で繰り広げられる会話のキャッチボールに割り込む隙がないほど、すんごく仲良し兄弟! 2人の間で相変わらす大魔王なお父様が全く気にならないくらい癒やされるぅ~~っ♡ーー


というのは真っ赤な嘘で、気にしないようにしていたけれど、やっぱり気になる。

お父様ったら、まだ前菜(オードブル)にすら手を付けていない。


 ーーいつになったらいつものお父様に戻ってくださるの? やっぱり、お母様がお声をかけないと瘴気をおさめてくださらないのかしら?ーー


今朝と同じ席に今も座っている、なのでお母様は私の左隣に座している。

時間が経って大丈夫になったかと思ったが、左側を見ることがどうしても出来ない、いつものように振る舞える自信がまったく持てない。


 ーーいったい、何なのかしら、この胸を重くするモヤ付いた感情は? 短所は誰にでもあって当たり前、私にだってありすぎるくらい存在してるのに…お母様には許せない、そう思っている…? 私ったら、一体何様なの?ーー


自己嫌悪で心が地中深くまで埋まりそうだ。

今はもっぱら思考の海にどっぷり埋没しかかっている。


ぼんやりとお父様がいる辺りを見るともなしに眺めていると、左側から声があがった。


「コーネリアス、もう良いのではなくて? 怒っているのは十分わかったわ、だからもう普段の貴方に戻って?」


始終穏やかな声音でお願いの形を取っているが、咎めるわけではなく軽く叱りつけるようなそこはかとないニュアンスが含まれているのは感じられた。

そしてその言葉は予想通り、覿面の効果を発揮する。


「!! あぁ、すまなかったねぇ~? おやおやぁ~、いつのまに皆揃っていたのかなぁ~~?? はは、エリファスは相変わらず、食べるのが早いなぁ~!」


いつからあの状態だったのかは不明だが、私たちの到着にすら気づいていなかったとは、どれだけ怒りが深かったのか怖くて聞ける気がしない。


お父様の視線につられてエリファスお兄様の前に置かれた皿を確認しようとして、しかしそこにはプレゼンテーションプレートしかなく、置かれた残りのカトラリー(クーヴェール)メインの魚料理(ポワソン)まで食べ終えているのがわかった。


本当に早い、すっごく早い。

でもここで気になったのはどれだけの量が盛られていたのか、それをこの目で確認できなかったのが悔やまれてしょうがなかった。


「まぁねぇ~♪ 父さんは随分怒ってたみたいだけどぉ、王城で何かあったのぉ~~? 今朝だって結構怒ってたのに、災難続きみたいで大変だねぇ~~。」


頬杖をついた姿勢は崩さず水の入ったグラス(ヴェール)に手を伸ばしながら、少し顔をお父様の方へと向けて誂い口調で確信に触れる質問をあけすけに尋ねていらっしゃる。


 ーーあんな軽い調子で聞いていい内容なのかしら?! エリファスお兄様ったら、怖いもの知らずにも程があるぅ~~っ!!ーー


「ハハハ、そうだねぇ~、ちよぉ~~~っとしたぁ、一風変わった宣戦布告を受けてしまってねぇ? どうやって受けて立とうか、色々と考えてしまっていたらあんな状態になってしまってねぇ!! まぁ、あれだね、新年早々血腥いことは避けて穏便に済ませたいとも思わなくもないが、ちょっと抑えが効かないから無理かなぁ!!?」


 ーーそれは世に云う、ガチギレされていらっしゃるということですかね?! お父様の怒り具合が全く読めない、今の言葉の本気度は、一体何%??!ーー


間延びした話し方が邪魔をしてお父様の本気度が全く伝わってこない。


「あはは、凄い怒っちゃってるんだぁ~! 珍しいねぇ、最近はそんな話聞かなかったのにまだ公爵家(うち)うちにちょっかいかける命知らずが居たなんてぇ~、ビックリだねぇ~~♪」


「エリファス、茶化すのをやめろ。 父上、それは本当に宣戦布告なのですか? 何かの間違いでは?」


「んやぁ、新手の宣戦布告だよぉ~? 間違いないさぁ~、ライラにちょっかいをかけようとする不届き者が手を回して寄越した手紙を渡されたんだからねぇ~~!! 宣戦布告以外の何物でもない、勘違いなんてしていないともぉ~~!!!」


 ーーんんっ?! なんだか一気に、深刻さが無くなったわね…?? こんなお話気にするのはお父様くらいのものでしょうとも、はぁ~~、焦ったぁ~~~!!ーー


「それは間違いでは無く宣戦布告ですね、早急に余計な手出しを止めさせねばなりません。 相手は何処の誰でしょうか?」


 ーーあら? 雲行きが…??ーー


「手紙寄越してきたって…、それって見ないとだめなのぉ~? 燃やしちゃったらぁ~、相手ごと♡」


 ーーおよょぉ~~っ?! 怪しい流れになっていってるぅ~~??!ーー


「いやはやぁ、それが私にとっても意外な人物というかぁ~、こんなことされるとは夢にも思わない人物というかぁ~~、ぶっちゃけセヴィなんだけれどもねぇ、大元は! 私も燃してやろっかなぁ~~って考えたんだけどねぇ~? わりかし本気で試みたかったがぁ、手紙を書いたのはまた別の人物でねぇ~、こっちもぶっちゃけローデリヒだったんたがぁ~~…やっぱり王城ごと、燃しちゃおうかなぁ~~って、考えたよねぇ~~♪ 私が本気でそんなことするはずがない、なぁ~~んて甘いことローデリヒは思わないだろうともぉ~! 私が如何に激しやすいかわかり過ぎるほどわかっているはずたがらねぇ~~!! 最近は大人しく言う事を聞きすぎてしまっていたからぁ、もしかしたら忘れているのかもしれないねぇ~忘れてしまったなら思い出させて差し上げないとかなぁ~~って今正に思っているところだったんだよぉ~~!!!」


長い台詞が間延びしているせいでもっと長く感じるけど、殆ど過激発言で埋められててかなりのやる気度合いが伺える内容だ。


 ーーうわぁっとぉ?! 本気で実行しようとしたりしないわよねぇっ??! 私が元凶で国家反逆罪とか、笑えないって!!!ーー


「ふふっ、本当にそんなことしたら、駄目よ?」


「ハッハッはー! 勿論そんな過激な対応はしないとも!! だがねぇ、ここまでされて何もしないというのは流石に相手を増長させるというかねぇ~? ここら辺りでしっっかり、きっっっちり釘を差すのも大事というかねぇ~~??」


「コーネリアス?」


「なぁ~~んてねぇ、勿論、思っただけだともぉ~! 考える自由は誰しも持ち合わせているからねぇ~~!!」


「そうね、考えるだけに留めて頂戴ね?」


 ーー成る程、こういうパターンで最近大人しくなっちゃってるのねお父様ったら! お母様の念押し駄目押しの畳みがけでぐぅの音も出なくなってる!! お母様最強説!!!ーー


お母様超リスペクトゥー!!

そう心から思えるのに、それは紛れもなく本心なのに、でもやっぱりどうやっても、左側を見られない。


モヤモヤが晴れてくれない、というか、なぜか増している気さえする。

自分が抱いている感情なのに全くコントロール出来ない。

意思の力だけではどうやっても解決できない、矯正の効かない頑固な癖みたいに、解決の糸口を見つけるのさえ困難な状況だ。


 ーー……『癖』といえば、メイヴィスお姉様、メイヴィスお姉様といえば、先程から全くお声を聞いていないわ?!ーー


ちょっとした連想ゲームを一人で敢行してしまったが、食堂に着いたとき大魔王なお父様を目撃しただけであの怯えようだったのだ。

こんな殺伐とした会話内容を聞いて平気な訳がない。


 ーーお姉様ったら、お父様たちの今のやり取りで震え上がってないかしら?!ーー


心配になりメイヴィスお姉様が座す右隣を見る。

今夜の席順はちょっと例外的だった。

本当なら客人であるメイヴィスお姉様が私の位置で、私はお母様の左隣に居なければおかしいのだけれど、そんなことになったらメイヴィスお姉様の緊張がピークに達して食事どころの話ではなくなること請け合いだ。

それらを考慮してこの席順にしてくださったお母様には感謝しかない、これも紛うことなき私の本心だ。 


首を巡らせた先には一心不乱に料理をパクついている、元気で活き活きとした仔犬さんが背後に見えるお姉様がいた。

しかしその姿勢はというとーー。


 ーーああっとぉ~? 若干傾斜はついているけれど、これはコルセット(コール)がちゃんっと良い仕事してますねぇ~~っ!! 餌に齧り付きな仔犬さんではない、それってホントに凄い!!!ーー


本人は自覚がないのか、それとも食事に真剣に向き合っているためか、自分の今現在の姿勢のことには全く気づいていない。


 ーー凄く可愛い! じゃなかった、それもそうだけど今は違くって、ちゃんと姿勢を矯正出来てる、凄い!! カーくん、ポーちゃん、あなた達のおかげだわぁ~、本当にどうもありがとぉ~~~っ!!!ーー


あふれる感謝の気持ちを心のなかで存分に叫ぶ。

今見て気づいたが、黙々と食べていたからかこちらも進みが早い。

お姉様もメインの肉料理(ヴィアンド)を食べ始めている、お肉はどうやら豚肉(ポール)のようだ。


口に入れる分だけ切り分けて、素早く口へと運んでいく。

口に入れたあとは味わい尽くすように心ゆくまで咀嚼して、幸せそうに頬を落とさないよう注意しながら頬張っている。


 ーー本当に美味しそうに食べていらっしゃるわ、見ている私にまで幸せが伝播してくるくらい、幸せそうで良かったぁ~~♡ーー


「ふふっ、メイヴィスお姉様は何でも美味しそうに食べられるのですね!」


「?! え、あ、えぇっ?! いつから、見ていらしたんですかぁっ!? 恥ずかしいので、あんまり見ないでいただけると…!! あ、……もしかして、私、また、……へんな姿勢になって………!?!」


自分のコンプレックスだった食事中の姿勢のことに思い至り、顔色をなくす。

わたわたと慌てふためき出すお姉様が、しこたま可愛ゆす♡


 ーーやっぱり、今の今まで忘れていらっしゃったのね! お姉様ったら、お料理に夢中になるとまっしぐらなのね!! とっても可愛いぃ~~っ♡♡♡ーー


「大丈夫でしたわよ! 私(お姉様の食事中の姿勢を)見ておりましたが、秘密兵器がちゃんと役割を果たしておりましたとも!! なのでご安心下さい♡ 存分にお料理に舌鼓を打って下さいませ!!」


「?! ほ、本当ですかぁ~~?! 良かったぁ、本当に、良かったですぅ~~!!」


自分の身体と私の顔を交互にみやりながら、コルセット(コール)のある位置を服の上から確かめるように触り、安心したのか感極まったように涙ぐんで喜びを噛み締めていらっしゃる。


涙が零れないように瞬きを繰り返して、目に溜まった涙を散らしながら、気を紛らわせるためにか先程私が問いかけた言葉に答えるように話し始めた。


「えへへ、お肉が好きと言いますか、料理全般食べるのが好きなんです! 食い意地が張ってると言われればそれまでなんですが、美味しいものを食べると幸せな気分になれるから好きなんです♪ しかもこの豚肉がとんでもなく絶品で、下処理が良いんだなぁって感動しながらいつもより一層味わって食べてしまいました!!」


「食べただけで、下処理の違い等々、そこまではっきりわかるものなのですか?」


「それはもう! 新鮮さは当然として、ちゃんと血抜きできてないとこんなに美味しくなりませんから!!」


お姉様が何かを突くようなジェスチャーをする。


 ーーえーーと? もしかして、血抜きとかしたことがおありなのかしら??ーー


「血抜き、ですか。 お姉様はそういったことにもお詳しいんですか?」


「実は友人の1人、ルイーザが畜産農家のような事業も手掛けてまして、えーと、覚えていらっしゃいますか? ライリエル様もパーティーで会った赤毛の娘なんですが?」


「! もちろん記憶しております、もう1方はシャロン様でしたわよね?」


「!! そうです! 流石ライリエル様、1度短時間しか会っていないのに、2人のことをちゃんと覚えていて下さったんですねぇっ!?」


 ーーお友達になりたいと思っていたからもちろん記憶しておりますとも!!ーー


「きっと2人も喜びます! あっと、でですね? その養豚場のお手伝いをさせていただく機会がありまして、その時にちょっと、色々と覚えたんです!! 血抜きするにはまず豚を気絶させてから…こう、首のここらへん、ここのところにさくっと1突きするんです。 あ、でも注意しないといけないことが有るんですよ? できるだけ肉を傷つけないように刺す場所を見極めてからでないといけないんです、それが案外難しくって! あ、でもですね、その養豚場の方に筋がいいって褒めて頂けたんです!! なので度々お手伝いに行っては密かに腕を磨いているんですよぉ~~♪」


ホクホクと嬉しそうに語るメイヴィスお姉様の顔は本日1,2を争うほど輝いていた。

一部生々しい表現も交えながら至極愉しそうに語ってくださる。

聞いていくうちにだんだんと身体が小刻みに震えるほど、ある感情が昂ぶってしまった。

話が進むに連れて俯いていく私の顔。

語り終えたお姉様が、俯ききった私にオロオロと声をかける。


「!! ライリエル様、ご気分が悪くなられてしまいましたか!? 私ったら、調子に乗ってべらべらと、こんなにお話ご不快でしたよね?! 申し訳ありません、どうしましょうっ、私、もし気持ち悪いのでしたら今すぐに横になられますか?! 責任を持ってあちらのソファーまでお運びいたしますから遠慮なく仰って下さいませぇ~~~っ!!!」


盛大に勘違いしてしまわれたお姉様を安心させるべく、軽く手を上げてその必要はないと伝える。

そして俯けていた顔を上げて、昂りきった感情のまま、心の内を伝えるべく叫びに近い声を上げる。


「メイヴィスお姉様……、かぁっっっこいぃ~~~っ♡♡♡ そんなお姉様も凄くとっても素敵ですぅ~~~っ!!!」


食堂に私の心の叫びが無駄に長々と木霊した。

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