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36.この際だから、聞いてみようと思います! ②

 魔法については後日に持ち越しとなってしまったのは非常に残念だが、致し方ない。

お父様にはお仕事を優先していただかないと、(わたくし)が困った立場に立たされることに繋がる。

娘の質問に答える為に仕事をボイコットしようものなら、私の悪評が早くも王城内に出回る切っ掛けを自主制作してしまう結果になる。

そんな危険極まりないフラグ樹立は断固阻止!


1度噂に上った悪評を元に誇張され肥大化するだろう悪い印象を払拭するのは容易なことではない。

たてる必要のない悪評の芽は、種まきの段階から除草剤をぶっ掛ける勢いでこちらも断固阻止しなければ!!


「何時頃に王城に向かわれるのですか? もう……10時近いですが、間に合うのでしょうか?」


「ん~? 何時だったかなぁ~~?」


 ーーえっ?! 覚えてないのぉっ??! あんまり時間が無いってついさっき言ってたでわ、ア~~リマセンカ??!ーー


思わず目をむいてお父様を見返してしまった。


「ふふっ、コーネリアスったら。 ライラちゃんが真に受けて驚いてしまっているわ。 あんまりからかってはダメよ?」


「ははっ、いやぁ~ついつぃ、出来心でねぇ~~! ライラの反応が素直で可愛らしいものだからねぇ~、悪ノリが過ぎてしまったかなぁ~~? すまなかったねぇ、ライラ。 遅くとも10時半に王城に着いていれば間に合うよぉ、忘れていないさぁ~心配ないともぉ~~!!」


お父様の謝罪の言葉に首を左右にブンブン振って気にしていないと示す。


 ーー誂われてしまったわぁ~、でも不思議、怒りは全然湧いてこない! 寧ろ少し役得だわ、イケオジの屈託ない笑顔が見れたのだから、ただただ眼福ですとも!!ーー


しかし…10時30分か。


チラリとお父様の現在の服装を確認する。

着替えてはいるが、王城へ行くにはそぐわない服装に思える。

自室に戻り支度を終えるまで、早く見積もって10分。

王城までは…どれくらいで到着できる距離なのかしら?


各公爵領は全て王都からわりかし近郊に位置していたはずだけれど…まったくピンとこないわ。

ゲームではあくまでヒロイン目線でしか物語は進まないし、選択肢で目的地を選んでポン、『ハイ到着!』だもの!!


 ーーこんなにのんびりしていて、本当に大丈夫なの?!ーー


タラリ…と嫌な汗が背を伝う。

自分が遅刻しそうなわけでもないのに、落ち着かない。


ソワソワしてモゾモゾと身動ぐのを止められなかった。

気になってしまい、どうにも我慢できず、聞いてしまった。


「王城まではどうやって行かれるのですか? 公爵家(ここ)から王城までは、どれ程距離が離れているのでしょう?」


「んん~? 私だけで登城(とじょう)する場合は転移魔法で一瞬だよぉ~~♪ 私が時間に遅れないか心配してくれたのかい~? はははっ、ありがとうライラ。 行きたくはないがぁ、遅れるつもりはないからねぇ~~!」


カラカラと笑って何でもないことのように答えて下さる。


 ーー成る程、魔法! 転移魔法、超便利!! 私も是非いつの日か習得したい!!!ーー


その手がありましたね!

またもやうっかり、前世の常識に縛られて馬車とか陸路を使って行くことだけを想定してしまったわ。


さっきまでガッツリ魔法の話をしていたのに、何で肝心なときにポロっと忘れてしまうのか。


 ーー私の幼い脳ミソのせいかなぁ? うん、きっとそうだ!! 悪いのは幼い私の頭脳だ!!!ーー


都合が悪くなると幼さのせいにする。

ダメ人間の典型的な思考回路だと理解しているが、なんのかんの言っても自分が可愛いのだから…仕方ない!

他人に迷惑はかからないのだもの、幼い自分(身体)に自分(精神)で責任転嫁したって、まったく問題なしだわ!!


「王都までかぁ、そうだなぁ~、どれくらいかなぁ~~? 中々陸路は使わないから、私では正確には答えられないなぁ~~。 アルヴェインはわかるかい?」


「僕も実際には行ったことはありませんが、座学で習いました。 確か普通の馬車で4日ほどかかる距離だそうです。」


お兄様も陸路では行ったことがない…?

でも確か…私のゲーム知識が正しければ、名のある貴族の子女は皆王都にある大聖堂で決められた日に洗礼式が執り行われるはずなのに…?


「洗礼式の時は、馬車は使わなかったのですか? 王都まで行かれたのですよね?」


「あぁ、良く知っていたな、洗礼式の行われる場所が王都にある事を。 あの時はライラが産まれたばかりだったからな。 産後間もない母上と赤ん坊のライラを連れての馬車旅なんて論外、だからといって何日も母上と娘に会えないなんてとんでもないと、父上が譲らなくてね。 結局当日に父上と僕だけで転移魔法で洗礼式に向かったのさ。」


当時を思い出してか、若干疲れたようにお兄様が説明して下さる。

離れるといっても、1ヶ月会えないわけじゃなし1週間ちょっとが耐えられないなんて…。

お父様のお母様とおまけで私へ抱く愛情の深さに感心する。


「いやはやぁ~、懐かしいねぇ~~! まぁ仕方なかったのさぁ、あの時はああするしかねぇ~~。 アヴィの産後の肥立ちは良好だとはいえ、安静が必要な時期だしねぇ、ライラが生まれてから一月も経っていないのにいきなり王都までなんて、許可できるはずもないさぁ~~!! しっかしぃ、ライラはどこで知ったんだい? 洗礼式が王都で行われることを、誰に聞いたのかなぁ~~?」


ギクーーーーッ!!


 ーーヤヴァイ?! 私はまた自ら見事に墓穴をホイホ~イ♪と掘ってしまったかしら??!ーー


目が泳がないように意識して、必死になって適当な理由を考える。


「えぇっ…と、先日のパーティーで、小耳に挟みまして!」


嘘ではない!

あれだけ人がいて、来月に差し迫った洗礼式の話題をださない訳がない!!

そうそう、誰かが話していた、確かに、恐らくぅ~~、多分…?



 眼球にばかり意識がいって、顔の引き攣りにまで補正が及ばなかった。

酷く歪な笑顔だったはずなのに、お父様はそこには全く触れず話題の方にのみ触れて言葉を返してくださった。


「なるほどねぇ、洗礼式は来月だからねぇ~。 まぁもっとも、十中八九洗礼式がオマケで、本命はその後のダンスパーティーだろうがねぇ~~。 国の伝統ある儀式を大義名分に、名のある貴族の子女が一同に介するお見合いを兼ねたパーティーだなんてぇ、何とも皮肉が効いているがねぇ~~。」


お兄様も、そして隣に座るお母様も、私の即席感満載な虚偽の情報源を指摘することもなく。

お父様の言葉に無言の首肯による同意を示しているのみだった。


 ーーマジかぁ~、今のでもツッコまれないのかぁ~~、半端なく挙動不審だったのに、ノータッチ、いや敢えてのスルー? 皆本当は云うほど私に興味ないのでは??ーー


自虐的な考えに陥りながら、ひとりでうんうん唸っていると、お兄様が私の様子を不審に思ってか、声をかけてきた。


「どうかしたか、ライラ? また何か気になることでもあるのか? 唸ってばかりいては喉に悪いぞ?」


 ーーこれは気づくの? 一体どういう判断基準なの、お兄様?? そしてお気遣いありがとうございます、さっすが兄&天使属性トータル120%(独断と偏見を多分に含む)♡♡♡ーー


「ぁえ~~っと、そういえば…レスター君に洗礼式後のパーティーでのパートナーにって誘われていたなぁ~と。 思い出してました!」


言いながらその時の状況を思い出して、何だか懐かしいなぁと思ってしまった。

つい1週間前の出来事が、遥か遠い過去の記憶のように思えてしまう。

それもこれもすべて、永すぎた『悪い夢』のせいだ。


「ははは、そんな事実はないだろう? ライラ、事実無根だ。 誘われてもいないし、もし仮に誘われていたとして…承諾しているはずもない。 そうだろう?」


お兄様の笑い声は乾ききっていて、その目は一切笑っていない。


「モチロンデスワ、オニイサマ! ワタクシノカンチガイデシタワ!! オホホホホホッ!!!」


カタコトになるのも辞さず、即行でお兄様の言葉に同調する。


 ーー笑顔黒っっっっ! 怖っっっっ!!ーー


あ~れれ~~れれ~~~っ?

おっっっっっかしいなぁぁあ~~~っ??

私の認識では兄で天使♡でしかないはずのアルヴェインお兄様が、溢れんばかりの混沌(カオス)背負(しょ)って真っ黒以外の何物でもない笑顔を浮かべていらっしゃるのですが、これ如何にぃ~~???


ヤッヴァ~~~~ッ!

完っっっ璧に、油断していた!!

思いっきり、ものの見事にお兄様の地雷を踏み抜いてしまったわ!?!


『本当は云うほど私に興味ないのでは??』、っっっな~~~んてっ!?

そんな事を少しでも考えてしまった数秒前の自分を全力で張っ倒したい!!

うっかり油断してしまったツケが毎度大きすぎではありませんかね?!


常在戦場(じょうざいせんじょう)!!

いつ何時も戦場に立っていることを忘れるなかれっ!!


 ーーおかしいなぁ~、家族といると、スローガンがバンバン追加されていく気がする…! お願いだから、これ以上増えることがありませんよーーーにっ!!ーー


瞼をそっと下ろして、心の中で南無阿弥陀仏を巻きで5回ほど唱えて祈る。

それから下ろしたときよりも遅い速度でそ~っと瞼を上げ、未だに黒さの残る笑みを浮かべているお兄様から意図的に視線を右にずらして、安全だろうお父様を見る。


そしてまたも、判断ミスッ!!


 ーーデジャブな大魔王様ご降臨!!!ーー


お兄様よりももっとひどい状態って、存在するのね!

流石ファンタジックな乙女ゲーム(?)世界、夢が溢れまくってるワーーーッ(泣)!!


お父様は流石よねぇ、我が国有数の魔導師だけあるワァッ!

立派なブラック・ホールとかぁその他諸々魑魅魍魎を背負(しょ)っていらっしゃるんですものぉ~~~っ!!

うわぁーーんっ、もうやだぁーーーーっ!!!


心の汗がどっと吹き出しそうになるのを必死で堪える。

堪えてから、急いで左に首をねじる。


 ーー一刻(いっこく)も早く、妖精母のマイナスイオン溢れる美少女スマイルを視界に映さねば、癒やしが枯れ果てて死んでしまいそうダワッ!!ーー


急ぎすぎて、変な角度に振り切りすぎてしまった。

グキリッ!と嫌な音がしたが、今はそんな事に形振り構っていられない、のっぴきならない緊急事態だった。


お母様はいつ何時(なんどき)でも、お母様だった。

勢いよく振り向きすぎた私に、驚くことなく微笑みとともに変わらぬ穏やかさで見返して下さる。


「あらあら、ライラちゃんったら、どうしたの? 大丈夫よ、心配ないわ。 お父様もお兄様も、本気ではないはずだもの。 そうよねぇ、2人とも?」


2人を振り返ったお母様の表情は私の位置からは窺い見ることができなかった。

妖精母の優しい笑顔であるはずなのに、見つめられたお父様とお兄様は、途端に青ざめた。


「勿論だとも、アヴィ! ほんの冗談さぁ、本気なわけないとも!! そうだろう、アルヴェイン!!?」


「そうですとも、母上。 少々過剰反応してしまっただけですよ!」


 ーー変わり身早っっや!! 秒?! 秒でこんな見事に180度反転するなんて、どんだけお母様を恐れていらっしゃるの??!ーー


2人の豹変ぶりを見て、お母様への心象が揺らぐ。

穏やかな笑顔を絶やさない、妖精的な可憐さを持つ永遠の美少女な貴婦人…だけではない……の?


 ーー怒らせてはいけない系な人物なのかしら…お母様ったら?ーー


「そうよね、安心したわ。 ねぇ、ライラちゃん?」


「はい、お母様! 心の底から安心いたしましたとも!! ですが本を正せば私の不用意な発言が原因、皆様におかれましては私の記憶違いで大変お騒がせしてしまい、汗顔の至りですわ!!!」


焦りすぎて思いつくままに言葉を並べたててしまった。


 ーーやらかしちゃった…ですよね?ーー


今迄でも十分に3歳児らしくなかったのに、ここへ来てこの言葉遣いは疑惑を確信へと変える決定打だろう。



 それが証拠に、お父様もお兄様も、お母様でさえ…程度は違えど一様にそれぞれの両の(まなこ)を驚いたように(みは)っている。


 ーーこれはもう、言い逃れもできない…わよねぇ? こんな喋り方をする3歳児……気味悪いものねぇ??ーー


乙女ゲーム世界に転生していたことに気付き、気の遠くなるほど繰り返し回帰する『悪い夢』を見てやっと目醒めたその日の内に、早くも公爵家から放逐される憂き目に遭うかも…なんて、有り?

覆水盆に返らずだし、身から出た錆な状況で、だ。


コクリ…。


小さな音を立ててつばを飲み込む。

緊張で口の中が乾いていて、飲み込んだのはその(ほとん)どが空気だったが。


心臓はバクバクしっぱなしだし、頭はフラフラを通り越してグラグラしだした。


身体がうったえるあらゆる不調を押し隠して、何を言われても良いように拳を固く握って身構える。


そして口を開いたのはーー…。


「ライラちゃんは難しい言葉を沢山知っているのねぇ~! メリッサの影響かしら? ちゃんと意味まで理解しているなんて、凄いわね~♡」


 ーーっん?ーー


「パーティーの日にしても、今日にしても、しっかり考えて物事を判断できているし、言葉も堪能だとはな! 我が家のお姫様には驚かされてばかりだ!」


 ーーっんん?!ーー


「いやはやぁ、まったくその通りだねぇ~、驚きだともぉっ!! これでは引手数多(ひくてあまた)で婚約の申込みが殺到するのも時間の問題だよぉ~~?! こうしてはいられないねぇ、今日早速手始めにローデリヒを脅……っっ説得して! そうそう説得、それをして、ディオン殿下の婚約者候補の目録から完全削除してもらうよう掛け合わないとねぇ~~!!!」


 ーーちょっ、ま、え…えぇぇええっ??!ーー


軽くないっ?!

私が可怪しいの、いやいや、ありえない!!

ア・リ・エ・ナ・イ!!!


親バカとか妹バカとか…そんな次元の話じゃない!

気味悪いとか悪感情すら抱かずに、全肯定?!

この家族こそが、ライリエル(わたくし)にとっての悪役令嬢製造/培養装置なのではないだろうか??!


 ーーやること成すこと、これだけ手放しで褒められまくったら……………逆にこわい。ーー


嬉しいから対極に振りきれて、もうただただ、恐怖だ。


血の繋がった家族だから…無条件に愛せるって、本当に?

本当に、たったそれだけの理由で愛せるものなの?


こんなにも簡単に?

こんなにも盲目的に?


シナリオを成立させるための、プログラミングされた感情と行動なのでは…?

家族の浮かべる表情が、虚構(フィクション)なのか、はたまた現実(リアル)なのか…まったく判別はつかない。


だからこそ余計に、疑わしくなる。

落ち着いたはずの心がざわつくのを止められない。


鎖で雁字搦めにして何重にも鍵をかけて、ちょっとやそっとでは開かないように封印したはずの『悪い夢』。

心を芯から凍てつかせる昏い闇が、漏れ出してきたような寒々しさに蝕まれる。

雁字搦めにした鎖を(いまし)めていた錠が落ちる小さな音が…聞こえた気がした。

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