7章
7章 ようこそ、地下水道へ
朝になり目が覚めた。正直今までにないほどにぐっしり眠れた。、布団が柔らかい。体中の緊張がほぐれ、気持ちよく眠れたので、今日の探索は楽勝に思えた。気持ちよかったベットと別れ、服を着替えて、朝食を取るために食堂に向かった。食堂に向かいながら、昨日食べたディナーのことを思い出した。昨日のメニューはこの町の郷土料理。鳥一匹をスパイスに漬け込みそれを丸焼きにして、焼けた身を薄く切り、ライスペーパーに巻いて食べるという料理。シンプルすぎるこの料理はクライン氏そのものではないかと思った。そんなことを思っていると、曲がり角でフレイヤとぶつかりかけた。こいつ起きるの早いんだなと思い、
「よう、昨日は眠れたか?飯は食ったか、食っていないなら一緒に行こうぜ。」と誘ってみたが、ふん、とそっぽを向かれ、去ってしまった。
食堂に向かうとクライン氏がそろそろ食べ終わるところであった。
「おおう、ラインバルトさん、昨日はよく眠れましたかな?」
「ええ、体調はバッチりです。」
と言って、それでは今日からお願いしますと、言ってクライン氏は席を外した。食卓に座ると、せっせとメイドさんが、料理を運んでくれた。パンにサラダにスープといろいろ運ばれてきて、それらを平らげた。
※
朝食を食べ終え、装備の点検が済んだので、早速だが、件の地下水道に向かうことにした。玄関ホールに向かうとフレイヤとバートンさんが待っていた。
「お待たせしました。」
「いえいえ、それでは行きましょう。」
と言って、地下水道の入口に向かった。
フレイヤは終始無言だった。
地下水道の入口は、クライン邸から歩いて20分ぐらいのところにあった。入口には鉄格子がはめられ、守衛が2人もいた。
「つい数日前は守衛を付けていなかったのですが、例の冒険者パーティの件が起きないように付けることにしたのです。」とバートンさんが教えてくれた。
地下水道は、町全体に張り巡らされており、住民が排水した水を浄化装置できれいにして、川に流しているそうだ。住民のライフラインをなんとかしてほしい気持ちもあるみたいで、早く討伐しないと思った。
守衛の人が鉄格子の扉を開けたので、入ることにした。バートンさんは、
「気を付けていってらしゃいませ。」と言って、頭をさせていた。
※
地下水道に入って思ったことは、これは、ただの水道ではないということが分かった。なぜなら、外壁に魔力が帯びていることだ。魔力が帯びた閉鎖空間のことをダンジョンと呼ぶ。こうなると、厄介だ。ダンジョンでは魔物の力が上がるため、並大抵の人では太刀打ちできない場合がある。なので、件の冒険者パーティもそれでやられてしまったのではないかと推察できる。
なので、気を引き締めるために、ここまで使っていなかった動体感知、生体感知、魔力感知のスキルを展開して、敵がいそうか確認しながら、進むことにした。幸い、魔力を帯びたダンジョンは壁が明るくなるため、たいまつがいらないから、戦いやすい。また、地下水道の通路も広いため、剣が振りやすいので助かる。と安心して進んでいるのだが、フレイヤの様子が少しおかしい。先ほどから、一言もしゃべらないのである。まあ、話かけていないからそうなのかもしれないが、別の緊張が彼女から感じている。と、ここで、動体探知に何か反応した。反応した方向に目をむけると、スライムが3匹いた。これなら、と思い、フレイヤに支持を出して、その後一気に跳躍、すれ違いざまに2匹倒した。残りの一匹は攻撃してきた俺ではなく、フレイヤに向かった。ここまでは想定通りだったので、後はフレイヤに任せるかと思ったら、フレイヤは、向かってくるスライムに向かって、下級呪文、ファイヤーボールを唱えずに、腰をぬかしていた。これはまずい。そう思い、跳躍スキルで、一気に接近して、スライムを倒した。
「大丈夫か」とフレイヤの顔を覗き込むと、かなり怯えた顔をしていた。とりあえず、ここはもう大丈夫だと思い、いったん腰を落ち着かせることにした。
※
「おまえ、魔物との戦いは初めてなんだな」
先ほどの戦闘から10分くらいたって、フレイヤに聞いてみた。フレイヤは、キっとした目をむけてきたが、すぐに目を伏せてしまった。
「そうよ、今のが初めての魔物との戦闘よ。」といった。なるほど、それでここまでくるまで緊張していたんだなと思い、それ以上に疑問に思ったことを聞いてみた。
「Dランクにはどうやってなったんだ?」
そう、冒険者にとってランクとはギルドからの評価なので、これがもし不正でもはたらいていて、手に入れたものなら、糾弾しないといけない。
「それは・・・・・言えないわ。」と、フレイヤは弱弱しく言った。言いたいけど、言ったら何かが失われる、そんな感じの受け答えだった。これは素直に答えてくれなさそうだと思い、ここはあえて、聞かないで置いた。
※
体調が良くなったのであろう、フレイヤが行こうというので、進むことにした。ただ、このままではまともに戦うことができないと思い、荒療治が必要と思った。そのためには、まずは敵を見つけないと思い、探知スキルで敵がいないか探してみると、この先に2匹いることが分かったので、そいつらで試すことにした。
「フレイヤ、この先に2匹、スライムがいる。」
フレイヤの顔が少しこわばっていたが、すぐに気を引き締めなおした。
「本職ではないが、君に魔法使いの心得を教えようと思う。」
「なんで、あんたに教わらないといけないわけ?大丈夫よ。」と言っているが、少し声がこわばっていた。
「このまま、俺がが全部倒していいが、それでは、君のためにならないと思っている。この先、同じようなことが起きても今度は誰も助けてくれない恐れもある。」少し、フレイヤの顔が暗くなった。
「昔、故郷の町に来た冒険者に教えてもらったことを君に伝授することで少しでも君の力になりたいと思う。」
少し感極まって、手を取ってしまった。フレイヤは少し顔が赤くなつていたが、つかまれた手を振り払い、顔をそむけてしまった。やべ、と思ったが、
「いいわ、教えて頂戴。」といったので、
教えることにした。
※
当時教わったことをフレイヤに伝えるにあたり、昔のことを思い出す。
10年前、俺は8才だった。このころから、故郷に来た冒険者や探索者の人たちに、戦い方を教えてもらうべく、足蹴に宿屋に通っていた。その中で、Aランクの魔法使いの人から魔法とは何たるかを教えてもらった。ほかの人はやり方や根性論、多くの鍛錬が必要などと当たり障りのないことばかりだったので、この人の考え方はかなり独特だった。俺もその人のやり方を真似て見たが、魔法の適性がなかったためか、何も覚えなかった。でも、それでも今まで出会った冒険者の中で、ためになった人の1人だった。
※
「まずは、自分は1つの器であることをイメージする。この時、器は空っぽである。」
魔法は扱えないが、教わったことを別の人の教える。
「空の器に、自分の魔力を注ぎ込む。注ぎ込んだ魔力があふれ出ないように押さえる。ここまでやってみて。」
俺に言われた通りにフレイヤはやり始めたようだ。少しずつだが、魔力が体の中心の集まって来ているのがわかる。
「ここまで出来たら、次は敵を見る。」
フレイヤの肩をつかみ、スライムに体を向かせる。「ちょっと!」っとあせりながらも、目線はスライムに向いている。
「今貯めた魔力に、ファイヤーボールの詠唱を込める。口に出してもいいし、出さなくてもいい。」
フレイヤは、そう聞くと、口には出さずに唇だけ動かして、ファイヤーボールの詠唱を始めた。フレイヤの体にたまっていた魔力の色が赤みを帯びてきた。
「詠唱が完了したら、そのまま維持して。俺がいいというまで、貯めておいてくれ。」
初めてやることだから、本来なら暴発する作業だが、すじがいい。暴発せずに1分程、たったところで、
「いまだ、放て。」
「ファイヤーボール!」
と、火球が勢いよく放たれた。
放たれた火球は2つ。ちょうどスライムの数だけ飛んで、そのままスライムを倒した。
「す、すごい・・・」
放った当人がびっくりしている。ちなみに俺もびっくりしている。初めて、他人に教えた上、お手本のように倒すとは。
「その場その場で、魔力を込めると、時間がかかるから、時間があるときに今回のように魔力を貯めて、事前に術式を付与することで、無駄なく、攻撃できるようになる。」
俺も、ここまで出来たら気持ちよかったんだろうけど、才能がないならあきらめないと思った。
「最後に、魔法使いは常に冷静でいること。」
※
俺が教えたことに沿って、魔力をため、術式を込め、放つことを繰り返した結果、最初のころに緊張はなくなり、むしろ、率先して倒しに行ったいる印象だった。エリアの半分ぐらい進んだくらいで、時計を見たところ、さすがに戻らないといけない時間になっていたので、戻ることにした。フレイヤは少し不服そうだった。