5章
5章 ようこそ、Eランクへ 後編
人通りが少ない場所を探して、走りまくっていたら例の裏路地の近くまで来てしまったようだ。小脇に抱えた彼女を慎重に下した。彼女の身元はわからなかったので、何かわかりそうなものがないか調べてみることにした。とりあえず、胸元にラーストーンがないか見てみると、あった。ランクはと思い、石の色を確認しようと、手を伸ばそうとしたところ、
「あんた、何しようとしているの!?」
と、件の彼女の目が覚めたようだ。
その直後、グーパンチで殴られた。
「寝ている、女の子を襲うなんて、最低、変態、強姦魔!!!」
「いや、違うんだ、君が何者か調べようとしてラーストーンを確認しようとしただけなんだ。」
「はあ、そんなはずないじゃない私がかわいいからって、襲うつもりだったでしょ。私、かわいいから。変態荷襲われるのもわかるわ。」
人の話を聞かない、上目線の態度にだんだん怒りが沸いてきている。ただ、ここで切れるともっとややこしくなりそうだから、話をそらした。
「じゃあ、何でさっきあそこで、上級魔法を使ったんだよ、あんな人が、密集した場所で使えば、被害が出るって知っているだろう。」
と、さっきの行動について、問い詰めてみると、少しばつの悪そうな顔をした。
「だって、下級魔法で倒したって、かっこよくないじゃない。」
しょうもない理由で、上級魔法を使ったのか。
「でも、魔力切れ起こしているじゃないか。自分の身の丈に合ってないじゃないか。」
さらに、問い詰めると、苦虫を噛んだ顔をした。
「う、うるさいわね、私の勝手でしょ。」
無理やり、会話を切られてしまった。
「とにかく、あんたの顔は見たくないわ。もう、私の前に現れないで。」
女の子は、そういって、俺の前から立ち去ったのであった。
※
昨日は災難なことにあった。殴られた頬がまだ痛いが、今日からEランクのクエストを受けるためにギルドに向かうのであった。
ギルドに向かうと、今日は人がそれなりにいた。特に今日はクエストの更新日ではないのだが、
「あ、グランさん、おはようございます。」
受付譲のベルさんが、せっせっと動き回っていた。
「おはようございます。今日は人が多いですが、どうしたんですか?」
「今日は、急なクエストの発注がたくさん来まして、それの応対でてんやわんやですよ。」
と、今日、人が多いことの説明をしてくれた。
「Eランクのクエストも結構来ていますので、じっくりみて、決めてくださいね。」
と、俺の今日の目的を察知してくれたようだ。できる女は違うなと思い、クエストボードへと向かった。
昨日の帰り際と打って違い、クエストボードには、たくさんの依頼書が貼ってあった。その中でクエストを厳選するのだが、今回は目的がある。そう、そろそろ財布が心持たなくなりそうだった。一応Fランクでも報酬は出るのだが、1人分生活費までは稼げない。ちゃんとした討伐クエストは受けていないので、装備の摩耗はほとんどないが、この先のことを考えて、おかないといけない。そのため、今回は報酬が大きそうなクエストを受けておこうと見回すと、1つ気になるクエストがあった。
内容を確認すると、家の地下水道に魔物が発生しているので、その魔物を退治してほしいとの内容だった。魔物か、魔物といえば、故郷のジェームスが言っていたな、魔物は核を壊さないと死なないと。ちなみにジェームスは魔物に出会った際に核を探そうと、わざと魔物に飲まれて死にかけたそうだ。
場所は王都から少し離れた場所の村でそこのインフラ設備などを一手に担っている地主の人からの依頼だった。しかも、ほかのクエストより報酬が多い指定クエストだった。ただ、気になることなのだが、地下水道に沸いた魔物の討伐が依頼内容なのだが、魔物が沸く条件には様々な要素がある。それらの条件に当てはまる条件なら、対処も考えないといけないなと思い、依頼書に手を伸ばしたところ、横からひょいっとその依頼書を奪い取ったやつがいた。
伸びた腕の方向を見ると、そこには、昨日見た魔法使いが立っていた。彼女は、俺を見向きもせずにカウンターの方に向かっていたので、つい、引き留めてしまった。
「おい、お前、それ、俺が受注しようとしたクエストだ。」
魔法使いは、見ていた依頼書から目を離し、俺に目線をむけると、
「私の前に現れないって言ったでしょ、変態。」
と、ギルド中に聞こえるような大きな声で俺をののしってきた。その声を聞いて、みんな見ているじゃないか。
「昨日のは、誤解だって言っているだろ。あー、そうじゃなくって、その依頼書、俺がとろうとして、横から取りやがったじゃないか、返せよ。」
「あら、まだ、人の手が付いていなかったから手に取っただけよ。まだ、手が付けられていないなら、先に手を付けた方のものなら、私のものじゃない。」
と、昨日の件から、学習したようで、
目についたら素早く手を付けようとしている。ここで、ケンカになると囲炉裏路迷惑になると思ったのでおとなしくしていると、勝ち誇った顔をして、彼女はカウンターの方に向かった。仕方ない、ほかの依頼でも探すかと思ってクエストボードを見に行こうとしたら、
「何で受けられないのよ!!!」
と、さっきと同じぐらい大きな声で、魔法使いが、叫んでいた。とりあえず、気になったので、受付のほうに向かった。
「理由ですが、クエストの受注人数が規定に満たしていないからですよ、フレイヤさん。」
と、ベルさんは魔法使いの彼女、フレイヤに説明するのであった。なるほど、受注人数が決まっていたのか、取らなくって良かった。
「しかも、フレイヤさん、Dランク冒険者なんですから、Dランクのクエストを受けてください。」
しかも、彼女はDランク冒険者だったようで、俺より上だった。確か規定では、自身のランクより一つ下のランクまでは受けられるようだが、それは問題ないのではと思っていたが、
「今回で、8回連続でEランククエストを受けているじゃないですか。ギルドの規定では問題はないですが、公平性が失われてしまうので、フレイヤさんに、罰則が付きますよ。」
確か、ベルさんに聞いた話では、下のランクは受けれるが、全冒険者にクエストが回せるようにクエスト数を調整しているらしい。そのため、上位のランクが下位ランクのクエストを受けまくると、迷惑だからやめてくださいねと言っていた。それが、罰則という形でフレイヤって少女にかかってくるようだ。
「だ、ったら、これで最後にするは、私のランクならこんなクエスト、一人でクリアできるから、受注させてよ。」
と、懇願するフレイヤ、
「ダメです。指名クエストなので、必ず二人出ないとダメです。」
と反論するベルさん。
そんなやり取りをボケっと見ていたら、フレイヤが急に近づいてきた。
「あんた、さっきから何見ているのよ。」
どうやら、野次馬は気が付いたら俺だけだった。
「いや、災難だなと思って、・・・」
と、この場から逃げる方法を考えていたら、フレイヤは俺の首にかかっているラーストーンをつかみ、
「あんた、Eランク冒険者ね、だったら、私とパーティ組んでこのクエスト受けなさい、変態。」
どうやら、クエストを受けさせてくれないなら、その場でパーティを組んで、受注をごり押す作戦に出たようだ。
「いやいや、ちょっとま・・・」
と言いかける前に、ラーストーンを奪われ、そのまま、クエストの受注まで行いやがった。いやいや、ベルさん俺まだ、行こうといってないよね、というか、やりとりみていたよね、とベルさんの顔を見たら、目が笑ってなかった。どうやら、さっきのフレイヤからの変態認定を若干信じていそうだった。