第6話:宝箱発見
「それにしても暗いばっかで、ホンマに進んどるんか分からんなるなぁ」
「そうだね。真っ直ぐ進んでいるつもりでも、緩やかに歪曲していたり、知らない間に側道へ入り込んでいたりする」
「この暗さと平坦な作りの所為やな。ダンジョンこさえた奴は性根が捩じくれとるで」
迷宮の構造は複雑怪奇で把握し辛い。
枝分かれが激しく、侵入者の方向感覚を狂わせるような入り組み方も原因だ。
角部屋や行き止まりに出ることはあまりなく、何処かしらが繋がっていて、気付かないまま環状路を延々と行き来させられている場合もある。
広大さと暗さも手伝って、一部には冒険者が通るたびに構造が変化していると主張する者がいるほど。
流石にそれはないとしても、人知の及ばない異常性を疑いたくなる気持ちは理解できる。
「この道、さっき通ったんとちゃうか?」
「そんなことはない。と言いたいけど、確信はないね」
「どれもこれも怪しく思えてくんねんて」
「そうじゃなきゃ迷宮とは呼ばれないさ。探索に出た冒険者が全ての道を虱潰しに暴けてるわけじゃない。だからこそ新しい発見があるんだけど」
「そうやなぁ。簡単に踏破できるもんやったら、お宝は全部回収されとるわな」
過去、多くの冒険者が挑戦を続けていながら、未だ迷宮内の財宝が取り尽くされたという話は聞かない。
数多に割れて収拾のつかなくなっている復路通廊が入り乱れている影響で、見落としや取り逃しがまだまだある。
果ては遠く依然として知られぬまま、浅層でさえ完全攻略とは到底呼べない状況だ。チャンスがどこに転がっているか、隠れているか、それは誰にも分からない。だから自分ならばと期待して、冒険者が次々に踏み込んでいく。僕達のように。
「お! 噂をすればなんとやら。フユ、見てみぃ。あっちの横道に宝箱発見やで」
魔物への警戒を続けながら進んでいると、ラウルが分かりやすい歓声を上げた。
彼の指差す先には、右手側の壁が途切れて横へ逸れ伸びる脇道がある。その曲がり角よりやや奥に、色褪せた箱が置かれていた。
丁度、直進路の壁に掛けられている松明の灯りが届くか届かないかという辺り。色彩の薄さも相まって、注意深く見ていなければ、闇の領域に沈んで見付けられなかっただろう。
「やるじゃないか、ラウル」
「まぁ~な~。冒険者としてのワイの嗅覚や」
自らの成果に胸を張り、ラウルは暗がりの箱へと駆けて行く。
当然、僕もその背を追った。
「ほいほいほいっと。さ~て、どないなお宝ちゃんが入っとるやろか」
「ラウル、気を付けた方がいいよ。こういう箱にこそ、罠が仕掛けられていたりするからね」
「開けると同時に毒矢がブスリ! とか聞く話やからな。抜かりはないで」
箱の前にしゃがみ込み、ラウルは開閉口を調べている。
危害を加える仕掛けが施されていないか、丹念に探っているようだ。
錠前は付いておらず、簡単に開けられそうな構造に見える。何もないに越したことはないけれど。
「爆発物やら毒矢の類はなさそうやで。こんなら大丈夫やろ。ほな、御開帳」
ラウルはこちらに振り返り、親指を立てて示した。
僕が頷くと再び箱へと向き直り、上蓋へと手をかける。
彼の手に合わせて錆びた金属の擦れるような音が低く鳴り、箱の口がゆっくりと開いていった。
その直後だ。
「ほわっ!?」
ラウルの素っ頓狂な声が耳を突くのと同時に、僕の足元から石質の感覚が消えた。
一瞬体が浮き上がったかと思えば、目前の背景が上に流れて視界が滑る。
落とし穴だ。
箱の動きに連動して足場が消え、口開けた真っ暗な空間に、僕達は落下していた。
「やっぱり罠かぁーーい!」
「底が見えない、まずいぞ!」
現れた穴に吸い込まれたあと、僕達二人は一直線に落ち続けていく。
周囲は完全な闇。
両手を伸ばしてみても、壁にはまるで触れない。四角形か円筒形かは分からないけど、穴の範囲は大きい可能性がある。
端に手が届けば取っ掛かりも探せはするが、限界まで伸ばしても指先に感触は一切ない。
何に遮られることもなく、暗黒の内を延々と落ちるばかりだ。