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大陸深度鋼鉄迷宮探検譚  作者: ドウロ
3/12

第3話:遺物弓の一射

 石質の路床を踏んで進む硬い音。一定間隔で響くそれが、次第に大きさを増していく。

 ガチリ、ガチリと、独特な異音は真っ直ぐに距離を詰めてきた。

 僕はローブの懐へと右手を差し込み、隣ではラウルが腰の短剣を両手にそれぞれ抜き放つ。


「さぁて、どないなバケモンが出るやろな」

「この足音は決まってるさ」


 僕達の睨み見る闇の奥から、頭身の高い人型が姿を現した。

 全身は鈍くくすんで光沢のない銀色。肉も皮もありはせず、骨格だけで確かに動き、空洞の眼窩が赤い光を放っている。

 生気はまるで感じられないのに、誰に支えられるでもなく運動する不気味な魔物。スケルトンだ。

 ガチリと石畳を踏み締めて、スケルトンの両眼が赤光を一際強めた。そうかと思えば剥き出しの歯を連続して嚙み合わせ、骨の両手を肩の高さに上げて構える。視認を経て移る行動、躊躇を挟まず、骨身の銀体はこちら目掛けて一直線に駆けてきた。

 スケルトンは無手、攻撃手段は四肢による直接殴蹴か体当たり。あるいは噛み付き。相手の攻撃が僕に届く範囲へ至るまで、およそ10歩。


「届く前に決める」


 僕はローブの内側で掴んだ遺物弓を引き抜く。

 硬い手触りと重量感。使い古して馴染んだ持ち手の上部に繋がって、前方向へ伸びる四角い長方体。

 黒一色で仕上げられた遺物弓は、弓らしさを微塵も感じさせない造形だ。鈍器と呼んだ方がしっくりくるような物体でもある。

 スケルトンが迫るまで残り8歩。

 右腕を伸ばし、遺物弓を魔物へと向けた。

 前方に張り出す四角形を対象へ定め、持ち手に併設されている指掛け部を、人差し指で内側に引く。すると遺物弓から奇妙に甲高い音が鳴り始め、黒の側面へ蒼白い光が灯った。蒼光は一瞬で前へと伝い走り、長方体の先端へと集約する。

 半拍を置いて、魔物へ向けている四角面から一条の光矢が射出された。真正面に閃光が飛び、反動で遺物弓が右腕ごと跳ね上がる。

 放たれた光は恐るべき速さで空中を疾駆し、スケルトンの胸部へ命中。それと同時に接触点を中心とした円形に周囲をこそぎ取り、肩を含む上体と頭部の上顎直下まで、まとめて吹き飛ばした。

 ただ一撃で上半身を破壊されたスケルトンは、7歩目を踏んだところで力をなくし、残された下半身が前のめりに倒れて止まる。数回脚部が痙攣していたが、それもすぐに消えた。もはや動くことはない。


「魔物の一体ぐらいなら、どうということもないね」


 視線をやった遺物弓は、既に沈黙している。

 蒼白い光もなく、甲高い音も絶え、ただの黒い物体として手に収まっている。

 ショートボウよりも遥かに小さく、短剣よりはやや大振り。見た目よりもずっしりと重く、並みの刀剣より強度で勝る。硬質で頑丈なこの武器とは付き合いが長い。僕にとっての相棒だ。


「これが僕の使う遺物弓だよ。どうだい、ラウル」


 隣を見ると、ラウルは短剣を両手に持ったまま固まっていた。

 特徴的だった細い糸目がうっすら開き、狐のような切れ目が驚愕を浮かべている。

 見詰めているのは黒い遺物弓。それから倒れているスケルトンの下半身を見やり、また僕の手元へ視線を戻した。


「――っかぁ~、こらぁえらいことビックリしたで」


 数度に渡って口をパクパク開閉させた後、当初の糸目に戻ってラウルが笑う。

 実に愉快そうな笑声を吐き出して、口の片端を吊り上げた。


「いやはや、凄まじいもんやなぁ。スケルトンっちゅうたら、なかなかに硬ぉて面倒な手合いや。それを一撃でこうも綺麗に仕留めてまうとは。大した魔法やで、ホンマ」

「光の矢が、触れた対象を円形に削り取る。そういう武器だね。今までこの一撃に耐えたのは、大盾を構えたリビングアーマーだけだったよ」

「おっそろしいモンやなぁ、遺物弓っちゅうんは。せやけどメチャクチャ心強いで。フユに声掛けたんは正解やったな。これならワイら、ダンジョン探索サクサクやん! 魔物なんぞ千切っては投げ千切っては投げ。お宝いっぱい夢いっぱいや、ぬはははは!」

「そう都合のいい代物でもないんだけどね。確かに威力は高いけど、連続では撃てないんだよ」

「はぇ!?」

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