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大陸深度鋼鉄迷宮探検譚  作者: ドウロ
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第11話:敵の狙い

「追っては来ないか。あの重武装だ、動き自体は鈍くあっててもらいたいね」


 速力は落とさず、肩越しに後ろを一瞥してみる。

 黒騎士型の魔物は顔の動きで僕達を追いこそするも、本体は出現地点から動いていない。

 以前に遭遇したリビングアーマーも、動きは緩慢で付け入る隙が無くはなかった。離れて戦う限りは安全だったという違いこそあるものの。

 奴も動作が遅いなら、遠距離攻撃の範囲外まで逃げてしまえばいい。問題は、それがどの程度の距離まで含んでいるかだ。


「冷静にしとる場合かい。その腕、どうするんや?」

「断面が恐ろしく綺麗だ。達人の剣で斬られたみたいにね。これなら、腕のいい医者に頼めば繋げてくれるかも」

「腕が腐る前に、ダンジョンから出られたらやな」

「言ってくれるなぁ」

「もうヤケクソなんやって! 頭んなかパンクしとるっちゅうに!」

「とにかく、デッドスパイダーの頭部を背にするよう、回り込んで逃げよう」

「障害物を間に挟むわけやな。他に使えるモンもないよって」


 僕達は並走しながら頷き合い、逃走経路に弧を描く。

 黒騎士との間にデッドスパイダーの巨大な頭部が来るよう移動し、向こうの視界から隠れる位置を取った。

 壁際は遠いが、今はなにより距離と時間を稼ぐことだ。遺物弓が使えるようになれば、状況の打破も考慮できる。

 左肩の切断部からは血が流れ続け、止まる気配もない。手当てしないと遠からず出血多量で動けなくなるだろう。それは分かっているけれど、治療の暇がない。一刻も早く安全圏へ出ないと僕は死ぬ。その事実が余計、頭をクリアにしているようだ。


「アイツの足音せぇへんな。あない装備なら、動くだけでガシャガシャいうやろ」

「デッドスパイダーの頭を迂回するのに手間取ってくれれば、僕達としては万々歳だ」

「諦めてくれりゃぁ尚の事や」


 しかし冒険者の期待とは裏切られるのが常でもある。

 普段聞き慣れない『ザギン!』という鋭利な破壊音が後ろでした。

 勘弁してくれという気持ちで後方を窺うと、デッドスパイダーの頭部が真っ二つに裂けている。左右へ断裂した大蜘蛛の頭、その合間から、こちらを見ている黒騎士と目が合った。

 あの黒い剣を振り下ろした姿だ。人の腕を一撃で斬り落とせるだけでなく、大型魔物の肉体も容易く断ってしまうのか。恐るべき破壊力だ。

 まるで僕の遺物弓と同じようじゃないか。


「ちょぉぉ!? なんちゅーバケモンや。蜘蛛の頭も路傍の小石かい!」

「……カオスイーター」

「なんやって?」

「アイツが言った言葉だ。なにかの固有名詞っぽい」

「それがどないした! 今は前に走りまくるしかないやろ!」

「黒く奇妙な形に、一撃で魔物を破る攻撃能力。共通点が多い」


 幾つもの符号が、頭の中で結び付く。

 僕は走りながら、自分の抱える左腕を見た。五指は遺物弓を握ったまま硬直している。


「ラウル、ちょっと持ってて」

「はぇ!? ぎょわ、腕やめ!?」


 隣で進むラウルに自分の左腕を押し付けて、残った右手で遺物弓を毟り取った。

 それを横方向、遠くへ向かって投げ飛ばす。

 愛用してきた黒い長方体は僕の手から離れ、大部屋の宙を滑り、相当な遠くに落ちた。

 衝撃で硬い音が鳴る。


「なにしとんねんフユ! 最大火力の必殺武器やないかい! 気でも狂いよったか!」


 ラウルが混乱と動転の怒号を上げた。

 僕の左腕を持っていなかったら、掴みかかってきそうな勢いだ。

 彼も窮地を脱する方法は、僕の遺物弓よりないと考えていたのだろう。それを放り捨ててしまったから、慌て怒るのは無理もない。

 だが現状で僕達が助かるためには、こうするしかないと思った。

 あの黒騎士が狙っているのは、遺物弓なんじゃないか。そう予想したからだ。

 僕だってあの強力な武器を手放したくはない。でも自分達の命を秤に掛ければ、道具よりも命が大事。全ては自分が生きてこそだから。

 僕の予想が正しければ、黒騎士は遺物弓を追っていく。僕達をターゲットから外す筈。

 奴が何者で、何故そうするのかは分からないままだけど。僕達には与り知らぬ何かがあると、そう感じた。

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