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砂は水の夢を見る

運命共同体の休日

作者: 遠部右喬

 んあー、なんだよ、まだ眠……い……って……うう? 誰だ?

 え? 取材? 事前に連絡したって? 社内報の……? あー、そう言えば、そんな事言ってたな。いや、忘れてた訳じゃないぞ。昨夜忙しかったし、今日は休みだから、寝坊しただけだ。そういえば、今日、休みなんだ! あ、ハイ。ゴメンナサイ。

 何? まず、自己紹介から?

 フウガ。見ての通り、犬だ。チョウキ様の部署で研修中だぞ……あのさ、この取材、俺だけなのか? クウガはいいのか? あ、クウガってのは、俺の相棒だ。俺達、二つの魂で一人前って登録されてるんだ。

 知ってるって? 有名? はあ、まあ、何でもいいけどな。

 個々に取材……その後、対談形式でって? でも、俺達、魂がくっ付いてるから、別々って言っても、どうせこの会話クウガにも聞こえてるぞ。なあ、クウガ。

 あれ? クウガ? おーい。どうしたんだ?

 聞こえてない? ちゃんと了解は取ってあるって? そんな事出来るのか。ああそうか、俺もこの後、体験するのか。へぇ、ちょっと怖いけど、面白そうだな。今度やり方教えてくれよ。別に、クウガに秘密にしたいことがあるわけじゃないぞ。ただ、何でか俺の言いたい事って、クウガには直ぐ伝わっちゃうんだ。でもさ、そう言う相手の驚いた顔、見たくなるだろ。これ、内緒だぞ。

 俺から見たクウガ?

 好い漢だぞ。優しいし、努力家っていうのかな。生きてる間は、俺の為に色々してくれた。それこそ、命まで懸けてくれたんだ。自分だって、大変な境遇だったろうにだぜ? そんなこと出来る奴、俺はクウガしか知らない。それに、頭も良いな。自分がやるべき事とやれる事を、ちゃんと知ってる。クウガが相棒じゃなかったら、俺もカミサマになりたいって、真剣に思う事なかったかもな。そういう意味でも、感謝してるぞ。

 大好き……うーん、あんまり、そういう風に考えた事無いぞ。一緒に居るのが当たり前だからな。あんただって、普段は自分の事、好き嫌いって意識しないだろ? それと同じだと思う。強いて言えば、自分の一部だから、無いと困るって感じかな。

 不満なんて無いぞ。でもさ、俺達、身体は一つだから、物足りないこともある。俺、肉体感覚殆ど残ってるから、腹減ったりもするんだ。まあ、それはいいんだけどさ、そのせいなのか、隣で寝たいなとか、一緒に走りたいなって思う事もあるんだ。そういう時は、身体が一つしか無いと不便だな。同じ感覚を一緒に味わえるのも良いけど、別々だから良いってことも、あるだろ? あ、そう言えば、俺達、一緒に走ったことってないぞ! ちぇっ……え? ああ、俺、怪我してたから。ほら、この布、その時クウガが手当てに使ってくれたやつなんだ。

 そうだろ? 本当に優しいんだ。なのに、何でか、頭はクウガにビビってるんだよな……あ、頭ってのは……知ってるって? 取材済みって、なんだよ、頭、何にも言ってなかったぞ。うん、頭は俺の兄貴みたいなもんだな。チョウキ様と上手くやってるみたいで、安心だ。

 ああ、そうなんだ。マイアとチョウキ様が、俺達をカミサマ候補にしてくれたんだ。マイアは、自分のせいだからって、何かと面倒見てくれてさ。俺達、感謝しかないのに。おっと、これ以上は、えーと、コジンジョウホウノタメ、オコタエデキマセン。マイアも凄く好い奴だぞ。結構、怒りん坊だけどな。え? なんて? 見た事無い? そうなのか。俺、顔会わせる度、何かしら叱られてるけど。この間なんてさ、急に口をギュって掴まれたぞ。普段は優しいんだけど、口煩くて心配性の姉さんみたいだ。まあ、姉さんなんて居たことないんだけど。そのせいかな、クウガも、マイアには子供っぽいこと言ったりするぞ、意識してないみたいだけどな。そういう子供っぽい処、俺にももっと見せろって思う。あ、これが不満か。

 え? そろそろクウガと交代? それじゃ、暫くお別れだな。なあなあ、あんたとクウガの会話が聞こえないだけなのか? それとも、全部の音が聞こえないのか? 試してのお楽しみ? そうだな。どっちにしろ、静かなんだろう。なら寝る。対談とやらになったら起こしてくれ。


 クウガと言います。今日は、よろしくお願いします。

 はい、元は人間でした。確か、十四、五歳だったかな。あれ? 十二歳だったかな? すいません、大分前なものだから……多分、十歳以上、十六歳以下だと。そもそも、そんなに正確に年齢を数える必要もなかったものだから。

 残念そう、ですか? 確かに、もっと大人になりたかったです。

 あ、違うんです。そうじゃなくて、俺、生前は商売で身を立てようと思ってて。そうすると、やっぱり、大人じゃないと信用を得辛いんですよね。子供だからやっていける処もあるんですけど、正直、早く大人になりたいなって思ってました。大人になれば、自分も大切なものも、全部守れるようになるんじゃないかって。こうして振り返ると、本当に子供の考えですよね。

 それに、その、本当は、もう少し身長も欲しかった、です……フウガの人間の姿、見た事ありますか? 背が大きくて、細身でも筋肉は付いてて、格好良いんですよ。あの姿って、大人になった俺と、フウガが混ざって出来てるんだと思うんです。勿論、フウガが格好良いからああなるんですけど、若しかしたら、俺もあれくらい大きくなれたのかもって。

 フウガについて? えっと、どういう……? ええ、大事な相棒です。

 ええっ、か、可愛い? ざ、斬新な感想ですね……いえ、俺はあんまり可愛いと感じた事ないんで……まあ犬だし、当然、可愛い処もありますよ。生前、つい寝てる姿に抱き着いたことも、何度かありますけど。耳をぴくぴくさせてたりすると、触りたくなりますよね。偶に、寝ながらビクッてなったり。尻尾なんて、意外とふわふわで、毛並み自体も、思ったより柔らかいし。撫でようとすると、撫でやすい様に頭差し出してきたり。そう言えば、初めて手を舐めてきた時は嬉しかったな。

 でも、やっぱり、可愛いっていうより、格好良いって感じかな。潔いっていうか。初めて会った時、フウガは脚を怪我してたんですよ。仲間も居ない砂漠地帯で、脚を痛めるってどういうことか、判りますよね。

 でも、フウガは静かな眼をしてた。諦めてるとかじゃなくて、受け入れてたんだと思います。その上で、もし俺がフウガに危害を加える心算なら、最後まで戦う意思が在った。

 大袈裟かもしれないけど、多分、俺、感動したんです。よく、何も考えてないって誤解されがちですけど、フウガは器が大きいんです。色々なことを、当たり前に受け止められる。必要なら、自分を懸けるのを躊躇わないような漢です。屹度、自分の能力を、過不足なく行使できる自信があるからじゃないのかな。

 え? 似たようなことを言ってた? 俺の事を? それは、ちょっと照れるかも、です。

 でも、俺とフウガは、どっちかっていうと正反対だと思います。俺は、どうせ行動するなら、なるべく沢山の成果を得たい。フウガは、本当に大事なものを見失わない為、優先順位をはっきり付けて行動します。どういう訳か、結果は一緒になるんですけどね……。

 不満? そんなの、感じた事無いです。不便ではありますけど。だって、身体が一つしか無いと、抱きしめる事も出来ないじゃないですか。

 何で笑うんですか? フウガも……? にやけてませんってば! でも、そっか。ふふふ。

 はい、チョウキ様とマイア様には、とても感謝してます。特にマイア様は、何かと心配りして頂いてます。綺麗で優しくて、理想のお姉さんって感じです。フウガは、よく叱られてますけど。お陰で、フウガの行儀が少し良くなって来ました。それでも中身は変わらないから、マイア様も安心して叱ってくれるんだろうな。

 あ、そろそろ、フウガを呼びますか? 屹度、寝てますよ。

 おーい、フウガ、聞こえてる? そろそろ対談に移るってさ。


〈やっと終わったな〉

「疲れた? フウガ」

〈俺は平気だ。クウガは大丈夫か? 疲れたか? もう寝るか?〉

「俺も大丈夫だよ。それに、まだ夕方にもなってないよ」

〈朝だろうが夜だろうが、疲れたら寝るもんだろ。そもそも、今日は休日だったんだぞ〉

「まあ、就業時間内に時間を取れなかった俺達が悪いんだけどね」

〈ハンセイブンって、何の為に書くんだろうな……〉

「問題点を明確にし、繰り返さない様考える機会、また、迷惑を掛けた関係各所に対する謝罪等を伝える為、かな」

〈…………〉

「悪かった処を直すにはどうしたらいいか考えて、何よりも、手伝ってくれた方達に、ごめんなさいとありがとうを伝える為、かな」

〈成程。じゃあ、次からは、もっと真剣に書こう〉

「『次』は無い方がいいんだよ」

〈クウガ〉

「ん?」

〈そろそろ、散歩行こうぜ〉

「いいね。今日は、何処に行く?」

〈森の方に行こう。昼寝もしたいし〉

「いいね」

〈クウガ〉

「? どうしたの? フウガ」

〈いつも一緒でありがとう。大好きだ〉

「俺こそ、ありがとう。俺も大好きだよ」

〈社内報、楽しみだ〉

「うん。じゃあ、行こうか」

 明るく微笑んだ少年は、黒犬に姿を変えると、風の様に走り出した。

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