世界の事情
──魔物襲来の原因は、星喰いにある──
イゼッタさんの言葉に誰もが緊張した面持ちで耳を傾けた。
しかしイゼッタさんはふわりと微笑むと「しかし詳しい話をする前に、救世主たちにはもっと根本的な話をしておかなければね」とウインクしてみせる。
「根本的な話、ですか?」
花子さんの疑問に、イゼッタさんは頷いた。
「そう。そもそもなぜ魔物が増殖するのか、なぜ救世主を召喚するのか、という話をね」
告げられた言葉に、俺も洋介も花子さんも顔を見合わせる。
召喚はともかく、魔物の増殖に理由があるだなんて考えもしなかったというのが互いの様子から窺い知れた。
「まず魔物の増殖について。これはこの世界に何らかの異常が起きている証でもあるんだ。その異常は、例えばそれまで存在しなかったような特殊な魔物が生まれたとか、魔物を操る能力を持つ人間が現れたとかだね。そういった異変が刺激になって魔物が増殖する。ただ、それを特定するのは毎回困難なんだけどね」
ざっくりと、けれどわかりやすく説明されて俺たちは頷いた。それを確認して、イゼッタさんが続ける。
「そして救世主を召喚する理由だけど……これは召喚元の世界と召喚先の世界、相互に必要な措置なんだ。どういうことかと言うと、時折り予期せず外部の、別の世界からの干渉が発生することがある。それも、神すら意図しない形でね」
神すら意図しない干渉……。
それはどちらの世界の神にとっても意図しないもの、ということだろうか。
「主に生物が別の世界に勝手に転移させられてしまうんだけど、そういった現象を意図的に起こすことで不測の事態に対応し、管理する仕組みが異世界からの召喚というものなんだ。だからこの世界が異世界から救世主を召喚するように、別の世界からこの世界の人間が召喚されることもある」
話を中断させるのはどうかと思い、疑問を口に出せないまま話を聞く。
けれど話の内容的に、元はどちらの世界にとっても予期しない現象だったんだろうなと勝手に解釈した。
「そうすることで両世界間の道を把握し、帰すための道を確保することが可能になるんだ。ちなみに、召喚のタイミングは各世界間に存在する道が勝手に繋がる時。そしてそれは世界に異変が起こる時期と一致する」
イゼッタさんは、改めて俺たちをじっと見た。ちゃんと理解していることを伝えるために俺たちが頷くと、満足げに微笑む。
「それを踏まえた上で、今回魔物が増殖した理由、世界間の道が繋がった理由は星喰いにあるんじゃないかと見ている。何故なら奴は、過去に神の手で封じられた魔物の封印をそのつもりなく解いて回ってるからね」
そう言って肩を竦めたイゼッタさんの言葉を継いだのはクレンさんだった。
「今回マルトレンに魔物の大群が押し寄せたのも、遥か昔にこの地に封じられた魔物の封印が解かれたからだと判明した」
クレンさんの言葉に合わせてワイードさんがマルトレンの見取り図を広げる。そしてその中心部からやや外れた位置を指し示した。
「マルトレンは地中深くに埋もれた封印の真上に造られた街だった。誰の記憶にも残っていないような古い封印だったから、何も知らずに街が造られたんだろうね。こう言っては何だけど、不運だったとしか言いようがない」
そうワイードさんが説明すると、黙って話を聞いていたソッドが静かに頷く。
「ちなみに封印を解かれた魔物に関しては現在追跡中だ。それと、今回の件を踏まえて世界各地の神の手による封印について調査し、異常が起きていないか確認することになった」
四人からもたらされた情報に、俺は思わず呻いた。
「やることが多すぎる。手が足りないんじゃないですか?」
「そこはほら、オレらの上司は神様だからさ。星喰いから直接危害を加えられる恐れのない信者のみなさんに協力してもらってるんだ」
ワイードさんが底抜けに明るい笑みを向けてくる。
言われてみれば、なるほど。星喰いの目的は神の力を奪うことだから、神の力を与えられていない人間であれば危害を加えられることはそうそうないだろう。
だから神々も信者の協力を得る決断をした。
ニムさんとカントさんは例外で、たまたま星喰いが襲来したタイミングで神の眷属の近くにいたことが不幸な事故につながった、と考えるのが自然か……。
「危険な封印関連の確認や調査は我々眷属の方で担う。星喰いの動向や影響に関しては、信者たちからの情報に頼る」
「まぁそれでも手が足りるかわからないけどね。でもやれることはやるさ。そして星喰いに関してはクライルくん、君に任せるよ」
役割分担について呟くソッドに続き、イゼッタさんがバチンとウインクしてきた。
あれ? 今ものすごく恐ろしいことを言わなかった?
「私に、任せる?」
「そうだ。もちろん我々も協力するが、救世主たちへの対応と星喰いと対峙するタイミングは、君に任せると主から聞いている」
思わず疑問を口にすると、クレンさんからもあっさり肯定された。
もともと星喰いを討伐する時には参戦するつもりでいたけれど。でもまさか、仕掛けるタイミングの判断を任されるとか思わないじゃん?
っていうか、え? 本当に??
「白夜」
「なに?」
「タイミングって、どうすれば?」
「それはキミが判断してよ」
うわぁ、頼れる相棒に切り捨てられた。
「責任重大だな」
ニヤニヤしながら洋介が背中を叩いてくる。俺が困っているのをわかっていてこの反応。酷い。
「頑張って、秋生くん!」
一方で花子さんは俺が感じている重圧を理解した上で応援してくれているようだ。正直、応援されてもどうしたらいいのかわからない。
「瑠璃も応援してるって」
白夜の言葉を肯定するように、腕輪に擬態している瑠璃がぷるんと揺れた。「大丈夫、みんなついてるよ」という意思が何となく伝わってくる。
うぅ……逃げ場がないぞ……!
「……とりあえず」
わからないことは一旦遠くに放ってしまって。
「このあとは予定通りエインルッツの王都に行って、みんなの様子を見てこよう」
今はそれしか考えられない。考えたくない。




