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女神様の眷属  作者: みぬま
蝕まれる世界
94/113

◆クラスメイト:大島洋介・6

 ◆ ◇ ◆



 目が覚めた瞬間、ズキリと頭が痛んだ。けれど痛みを感じたのはその一瞬だけで、そのあとはすっきりとした気分で目覚めとしては悪くない。

 ただ寝起きのせいか、自分が置かれている状況が全くわからなかった。


「……えーと?」


 とりあえず眠る前の状況を思い出そうとしたところで、ひょいっと顔を覗き込む仮面がふたつ。


「うわっ!?」

「起きたか、洋介」

「大島くん、大丈夫? 私のことわかる?」


 聞き覚えのある声に目を瞬かせる。もちろん片方は誰だかすぐにわかったけど、もう一人は……もしかして。


「委員長?」

「うん。よかった、ちゃんと記憶が戻ったみたい」


 ほっとしたような声。だけど仮面のせいで表情が読み取れない。


「……秋生に加えて委員長まで仮面とか」


 思わずそんな言葉を零してしまう。すると呆れた声が返ってきた。


「そんなの事情があるに決まってんだろ。まぁ花子さんならそんな不躾な言葉も許してくれるかもしれないけどさぁ」

「花子さん」


 一瞬その名前が誰のものかわからず鸚鵡返しに呟く。すると視界の端で委員長が小さく手を挙げた。

 ああそっか、委員長の名前って花子さんだったか。そう納得するのと同時に、秋生が委員長を名前で呼んでいることに違和感を覚える。


「いつからそんな仲に」


 というか、うっかり委員長の前で秋生の名前を口にしてしまったのに秋生も委員長も全く反応なしってことは、委員長も秋生の事情を知ってるってことでいいんかな。いいんだろうな。


「おかしな勘繰りはするなよ、花子さんに失礼だからな」

「いやいやいや、私より秋生くんに失礼だから!」


 勘繰るつもりなんてなくて純粋な疑問だったのに、何故かそんな反応を返された。

 ていうか委員長も秋生のこと名前呼びしてるのか……。


「何だよ」

「いいや、別に?」


 自然と並んでいるふたりをつい微笑ましい気持ちで眺めたら、すぐ秋生に気付かれた。

 そりゃ当然気になるよ? ふたりが一緒にここにいる理由とか、ペアルックかよと言いたくなるような服装をしてることとか。でもなんか……そっと見守ろうかなという気持ちが湧いてきたんだよなぁ。何でだろ。


「じゃれてないで、まずはお互いの状況を確認しようよ」


 自分の心境を不思議に思っていると、白夜が話の軌道を修正してくれた。それに便乗して俺は「賛成!」と声を上げたのだった。




 その後、互いに別れてから今日までの出来事を報告しあった。そして俺は絶句することになる。


 まさか秋生に続き委員長までもが元の世界に戻れない状況になっているとは。

 しかも秋生も委員長を助けに行ってまた死にかけたとか、星喰いってやつのせいで世界が危険な状態にあるとか……そんな話を聞いてしまっては、記憶を封じられていたとは言え呑気に畑を耕していたことが何だか申し訳なくなる。


 けれどふたりは口を揃えて「無事でよかった」と言う。俺も、自分たちも、今こうして無事に再会できたことが何よりだと。

 そんな風に言われたら、俺も「そうだな」としか返せない。


 けれどそれでいいと思った。向こうが気にしてないのに俺がうじうじ考えたところで状況が変わるわけでもないんだ、ここで気持ちを切り替えてしまった方がいい。

 それよりも遅れをとった分、ここから巻き返すつもりで頑張らなければ。


 そんな風に気持ちを立て直した時、見計らったようなタイミングでティルフが部屋に現れ、流れるような動作で土下座してきた。


「洋介様、この度はほんっとうに申し訳ございませんでした!」


 この時点で俺はティルフの正体も、ティルフが俺に何をしたのかも秋生たちから聞いていた。でも正直なところ、怒る要素がないんだよな。

 だってティルフがいなかったら俺は崖下で死んでたはずだし、神気を隠蔽してもらわなかったら星喰いに襲われてたかもしれないんだから。


「土下座はやめてくれよ。感謝こそすれ、怒ってなんかいないから」

「ひぇっ、なんて人のいい……! 申し訳なさが天井知らずです!」


 おお……ティルフって本当はこういう子だったのか。記憶を失っていた間のこともしっかり覚えてるから、こうも卑屈になられるとギャップに戸惑うんだけど。


「洋介がいいって言ってるんだし、ティルフさんも気にするのはやめてやって。こいつ、そういう気の遣われ方するの苦手なタイプだから」


 正にその通り。さすが秋生、よくわかってる。


「本当に……?」


 そろりと顔を上げたティルフに不安そうに確認されて、俺は首を縦に振った。


「そうそう。あと敬語とか様付けとかもやめて。今まで通りでいいから」


 ティルフに助けられてから今日までの半年近く、ずっと世話を焼いてくれていたのを俺はしっかり覚えてる。

 俺の記憶を封じた罪悪感からそうしてくれたのかもしれないけど、それでも俺はティルフに感謝してるんだ。だから。


「ティルフ、今日まで本当にありがとう。ティルフがいなかったら俺は今ここにいなかっただろうし、楽しく毎日を過ごすこともできなかったと思う」


 感謝の気持ちをそのまま言葉にした。するとティルフは伏せていた半身を起こし、勢いよく首を横に振った。


「そんなこと! 私もヨウと一緒にいてすごく楽しかったし、ヨウは働き者で優しいから本当に……その、楽しかったよ!」


 語彙力少なっ! と思ったけど、言われた内容自体は嬉しかったから自然と笑みが零れる。

 するとティルフはその瞳に決意のようなものを宿し、俺の手を取った。そしてはっきりと告げる。


「決めた。私、ヨウを主人にする!」

「は?」


 言われた言葉の意味を理解するより先に、握られた手から光が溢れた。咄嗟に目を閉じて光から逃れた次の瞬間には、何やら手の中に固い感触が。

 ゆっくりと目を開く。すると視界にティルフの姿はなく、ティルフの向こう側にいたはずの秋生と委員長の姿が映る。


「……え?」


 状況が飲み込めずにいると、秋生が興味深そうに近寄ってきた。


「へぇぇ、聖剣って主人を選ぶのか」

「意思ある武具の場合はね。それにしても聖剣がヨウスケを選ぶとは予想外だったよ」

「すごいね、大島くん!」


 秋生、白夜、委員長の言葉と、そして彼らの視線の先、俺の手にいつの間にか握られていた剣によってようやく状況が飲み込めてきた。


「もしかして、この剣がティルフってこと?」

『そうだよ。改めてよろしくね、ヨウ』


 剣から声がする!

 その違和感に固まっていると、秋生が「あれ、それってつまり……」と呟いた。


「洋介も星喰い戦に参戦するってことにならないか?」

「なるね」

「もちろん私も参戦するよ!」


 肯定する白夜、意気込む委員長。


「洋介はそれでいいのか?」

「俺? え、どうなの? 邪魔にならない?」


 そんなこと訊かれても、自分ではそれに見合うだけの力があるのかわからない。なので素直にそう訊き返すと秋生と委員長が顔を見合わせた。


「花子さんから見てどう?」

「手合わせしてみないとちょっとわからないかな」

「でも本人はやる気みたいだし」

「聖剣もついてるしね」


 ふたりはそんな言葉のやりとりを経て、改めてこちらに向き直った。


「洋介に参戦する気があるなら、花子さんに鍛えてもらえば何とでもなるんじゃないか?」

「うん、私にできる範囲でよければ力になるよ!」


 ええ? さも当たり前のように委員長から教えを請う流れになってるけど、エンディルさんのところにいた時はどちらかと言えば俺の方が剣術では優っていたんだけどな──



 なんて考えていた俺が馬鹿だった。

 村の広場を借りて手合わせしてみたら、この半年で委員長は俺なんか瞬殺できるくらいの力をつけていた。


 さらにそのあと委員長は秋生とも手合わせしてたけど、あの二人はもう別次元というか……俺の目では追うのが厳しくて、気づいた時には秋生の勝ちで決着がついていた。

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