辺境都市ロンティアでの日常
周囲を森と山に囲まれた、自然豊かな土地に鎮座する辺境都市ロンティア。
砦を中心に発展したその威容を振り返り見上げ、改めて正面に視線を戻す。そこにあるのは左右を木々に挟まれた石畳の道。
「今日は森奥の洞だっけ?」
「そう。情報だと脅威度3級の魔物がいるみたいだから気合いを入れて行こう」
白夜の問いに答えつつ、さっそく歩き出す。
「脅威度3級……」
隣を歩きながらぽつりとぶつやいたのは花子さんだ。
ロンティアに来てからおよそ四ヶ月ほどが経過した。星喰いは神出鬼没でその動向を読むことが難しく、同時に洋介が行方不明のままであることから、俺たちはロンティアを拠点に活動をしている。
何の活動かと言えば、魔晶石集めだ。
上質な魔晶石を集めるならフォンファール帝国の方が効率がいいんだろうけどそっちには瀬良くんたちがいるし、エインルッツ王国には脅威度2級以上の魔物が現れた時に対処できる者が神の眷属しかいない。
なのでエインルッツ王国の、とりわけ魔物の数が多いロンティアに腰を落ち着けることにしたのだ。
この数ヶ月で世界の情勢は目まぐるしく変わり、特に指導者を失ったばかりの元ミールグレス王国は混乱の渦中にある。
その影響か、元ミールグレス王国との国境にほど近いロンティア周辺では魔物の数がさらに増え、実績の引き継ぎをしなくても戦力と見做されれば仕事斡旋所で魔物討伐の仕事を受託できた。
おかげで花子さんも最初から魔物討伐依頼を受けられたのだ。
花子さんと言えば。
どうやら俺の知らないところで何かをやってるっぽい。何かというか、鍛錬なんだろうけど。
毎日魔物討伐に出ているからわかる。日々目に見えて強くなっていっている。
魔法もこれまで以上に使いこなしてるし、剣術も腕を上げてきてるし、その成長速度が半端ないことから神界で鍛えてるんだろうなと推測している。
あまりにも目覚ましい成長を遂げているから、ここ最近の魔物討伐では俺の出る幕がない。
ちらりと花子さんを見遣る。
すると偶然視線が合って、慌てて目を逸らされた。
そんな花子さんを眺めながら思う。神界で鍛錬していることを秘密にされている理由とは、一体何なのだろうと。
会話がないのでつい思考がそちらに傾いていく。
とは言っても他人の考えることだ。頭を悩ませたところでわかるわけがない。
早々に諦めて、意識せずにため息をついた。すると。
「あっ」
急に花子さんが声を上げて、腕を掴まれた。敵でも現れたのかと警戒したものの、どうやらそういうことではなかったらしい。「あのね!」という言葉が続いた。
「嫌で目を逸らしたわけじゃなくて、何かこう、目が合ってちょっと気恥ずかしかったというか!」
「え? あ、うん。そうなんだ」
どういうわけか弁明されて、とりあえず頷いておく。
別に目を逸らされたくらいで嫌われてるとは思わないというか、嫌悪感を露わにされなければそんな風には取らないというか。
でも花子さんは気になったんだなと思って相槌を打つと、ほっとしたようにその口許が緩む。それから再び「あっ」と声を上げて掴んでいた腕を放した。
「ご、ごめんね。皺になってないかな」
結構がっちり掴んでいたからか、皺の心配をしだす花子さん。ううむ、気にするポイントがよくわからん。
「まぁ大丈夫でしょ。そろそろ森に入るから、足下気をつけて」
「うん、ありがとう」
結局、どうしてこっそり鍛えているのか訊くのはやめておいた。特に言う必要がないから黙ってるのかもしれないし、知られたくない何らかの理由があるのかもしれないし。
それこそ訊いたことで嫌われでもしたらと思うと……。
「……?」
思うと、なんだろう。その先の思考が唐突に途切れて小首を傾げる。けれど一度消えてしまった言葉が戻って来ることはなく。
……まぁいっか。今はとにかく目の前のことに集中!
そのあとは周囲を警戒しながら森を進み、ほどなくして目的地の洞に到着する。
ちなみに道中で襲いかかってきた魔物は三体。全て脅威度4級で、やはり俺が出る幕もなく花子さんの手によって葬られた。
俺はと言うと、魔晶石の回収係に徹していた。
正直、女の子にだけ戦わせてる現状に思うところがないわけじゃない。でも花子さん、活き活きしてるんだよなぁ。
「アキオ」
しかし、だけど、と再び思考の渦に囚われかけたところで、肩に乗っている白夜にペシペシと頬を叩かれた。
「ちゃんと集中してよね」
「はい、すみません」
窘められてしまったことだし、考えごとはポイっと打っちゃって正面に向き直る。
気配を探ってみると、5級以下の魔物は俺の、というかサリスタ様の神気から逃れるようにどんどん洞の奥へと向かっていっている。奴らが向かう先はもちろんこの洞内で一番強い魔物、つまり今回の討伐対象の許だろう。
「よし、こっちだ」
逃げていく魔物の気配を追ってずんずんと進んでいく。意外と奥が深い上に途中で道が枝分かれしてたけど、迷うことはない。
「秋生くんは迷いなく進むよね」
「魔物の気配を追えば必然的に向かう方向が決まるからな」
そう答えると花子さんは仮面越しでもわかる程度に表情を沈ませた。
「私、まだ広範囲の魔物の気配はわからなくて」
「アキオ基準で考えちゃ駄目だよ、ハナコ。コレはちょっとおかしいからね。神気はわからないくせに他の感覚が鋭いんだ」
「コレとか言うな」
そんな会話を交わしているうちに、洞の最奥が近づいてきた。
ここまでくれば花子さんも気配を感じ取ることができるようで、表情を引き締めて剣の柄に手を掛ける。俺も錫杖を持ち直して、互いに準備が完了したのを確認し合った。
「そんじゃ、行きますか」
「うん、お互い怪我には気をつけようね」
俺と花子さんは軽く言葉を交わすと洞の最奥へと向かって走り出す。その数分後には魔物の討伐を終えて、上質な魔晶石を手にしたのだった。




