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女神様の眷属  作者: みぬま
フォンファール帝国編
88/113

◆クラスメイト:瀬良駿平・4

 ◆ ◇ ◆



 クライルさんが委員長の行方を追ってランゼイを出てから二十日ほどが過ぎた。


 その間の状況は僕らにも共有されていて、委員長が攫われた先が魔獣の森と呼ばれる危険地帯であること、クライルさんが無事に委員長の許に辿り着いたこと、委員長とクライルさんが呪いを受け、神界に保護されたことも知らされている。

 そして委員長を攫って呪いをかけたのが星喰いと呼ばれる存在で、僕らの召喚に干渉したのは低級神ではなくその星喰いである可能性が高いこと、星喰いの狙いは神様の力を奪うことであり、ラクロノース様から力を与えられている僕らも狙われる可能性があるという話も聞いた。


 けれど現状僕らにできることはそう多くなく、すべきことが変わるわけでもない。ゆえに、今日も今日とて僕と岩井と鈴木さんはミニスさんやレニィさん、ゼケットさんから教えを受けて己を鍛えていた。


 そんな時だった。

 不意に「お久しぶりです」と声をかけられて振り返れば、そこにはクライルさんの姿が。


「クライルさん! ご無事で何よりです」


 そう返すのと同時に、クライルさんの隣にもうひとりいることに気が付いた。


「そちらの方は?」


 問いかけながらその人を観察する。

 特徴を挙げるなら、クライルさんと似たような服装、似たような仮面をつけた女性という点だろうか。


「わかりませんか?」


 意味深な笑みを浮かべたクライルさんに問い返されて、不思議に思いながら改めてその女性を観察してみる。すると、ある人物とその姿が重なった。


「もしかして……委員長?」

「うん。久しぶり、瀬良くん」


 僕の問いにその女性──委員長は、しっかりと頷いた。




 その後、別の場所で鍛錬をしていた岩井と鈴木さんも呼んで、もれなくついてきたミニスさんやレニィさん、ゼケットさんも交えて改めて話を聞くことになった。

 そうして僕たちは、委員長が現在置かれている状況を知ることになる。


「私にかけられた呪い自体は消えたんだけど、呪いの紋が消えなくて。これがある限り、どんな影響がでるかわからないからみんなと一緒に元の世界に帰れないの」


 そう言って、仮面を外して呪いの紋がどのようなものか見せてくれた委員長は困ったように笑った。けれどそこに不安の色はない。


「でもこの紋を消す方法が見つかるまで、クライルさんと行動させてもらえることになったの。みんなが一日でも早く元の世界に帰れるように、私もお手伝いさせてもらうね」

「桜庭ちゃん……」


 鈴木さんが複雑な表情を浮かべる。委員長が一緒に帰れなくなったことに思うところがあるのだろう。けれど委員長本人が前を向いているから何も言えなくなってしまったんだと思う。

 ……というのは勝手な想像だけど、少なくとも僕は何も言えなくなってしまった。


「それにしても、星喰いは厄介だよね」


 そんな僕らを横目に、レニィさんが話を切り出す。その顔はいつになく真剣で、どことなく青ざめていた。


 ──星喰い。

 白夜さん曰く、星喰いは世界そのものを喰い荒らす存在なのだそうだ。


 地上に注がれている神の力──恩恵を喰らい、恩恵が得られなくなった世界は荒廃していき、やがて滅亡する。

 それを阻止しようと神が地上に下りて力を振るえば、世界がその力に耐えられずに崩壊し、星喰いはそんな神すらも喰らおうとする。万が一神が失われれば当然神の恩恵も失われ、結局世界は滅びてしまう。


 星喰いが現れた世界の大半はそうして消えていったそうだ。だからこそ奴は『星喰い』と呼ばれているらしい。


「正直、抗う以外に打つ手はないんだよね。かと言って、どれくらいの戦力があれば抗えるのかさっぱりわからないんだけど」


 白夜さんの言葉に「星喰いはそんなに強いんですか」とゼケットさんが問いかける。それに答えたのはクライルさんだった。


「まず気配を察知するのが難しいですね。私も殺気をぶつけられるまでその存在に気づきませんでしたし、白夜も気づいていなかった」

「そうだね、全くわからなかったよ。それに、全く動けなかった」


 その言葉にミニスさんが頭を抱えた。


「エンディルとシェラがふたりがかりでも手も足も出なくて、白夜様とクライルでもそんな状態で……もう神様に出てきてもらうしかないんじゃ……」

「それが正解だろうけど、同時にそれが星喰いの狙いでもあるっていうのがスワイズ様の見立てなんだよね」


 白夜さんがさらりと返して、ミニスさんに続いてレニィさんも頭を抱えた。


「もう完全に詰んでない?」

「神の力を借りずに星喰いを退治できれば万事解決だよ」

「うわぁ」


 再びさらりと白夜さんが返して、ついにゼケットさんまで頭を抱えてしまった。


 ちなみに僕は全く話についていけていない。スケールが大きすぎて実感がわかないというか、理解が追いついていないというか。

 それは鈴木さんや岩井も同じなのだろう。よくわかっていないような顔で彼らのやり取りを聴いている。


 ただ、委員長は違った。すでに星喰いと遭遇しているからだろうか、真剣な様子で話に聴き入っている。


「そんなわけで状況としては最悪ですが、それでも私は抗うつもりです」


 誰もが言葉を失くす中、口を開いたのはクライルさんだった。全員の視線がクライルさんに注がれる。


「私に使命はありませんが、サリスタ様との約束がありますから。それに、我が主を害しかねない存在を野放しにはできませんので」


 そう言って、クライルさんは口元に笑みを浮かべた。すると頭を抱えていたミニスさんとレニィさん、ゼケットさんが顔を上げ、呼応するようにニヤリと笑む。


「なるほど、それを言われてしまうと私も主から託された使命があります。星喰いのせいで使命を全うできないというのは業腹ですね」

「アタシも! それに、ストレイル様が大好きなこの世界を喰らおうとしてるなんて許せない!」

「確かに。俺もスワイズ様とこの世界を観察するのはすごく楽しいし、知りたいこともまだまだたくさんある。壊されちゃうのは嫌だなぁ」


 さっきまでの絶望感はどこへやら。次々と星喰いに抗う意思を見せる彼らに、僕は目を瞬かせた。

 神様との約束を果たすため。自らの主を守るため。そのためならば絶望的な状況にあっても抗うことを躊躇わない彼ら。

 その真っ直ぐで純粋な、そして揺らぎない心に、言葉では言い表せない感情が湧き上がってきて鳥肌が立った。

 そんな時。


「よし」


 小さく。本当に小さく、隣から気合いを入れる声が聞こえてきた。そちらを見れば、鈴木さんが決意に満ちた顔で握り拳を作っている。


「私も抗う。何があっても私の気持ちは、生きて元の世界に帰るんだって気持ちは、絶対に変わらないんだから!」


 その言葉にはっとする。僕にも決して曲げられない、貫き通したい思いがある。改めて言葉にされたことでそれを再認識して、心が奮い立つ。

 それは僕だけじゃなかった。岩井もまた、力強く頷く。


「その意気ですよ」


 鈴木さんの決意が聞こえたのだろう。クライルさんが握った拳を差し出した。鈴木さんも迷わず自らの拳を突き合わせ、頷く。


「わっ、私も!」


 そこに委員長が加わって。


「俺も!」


 岩井が加わって。

 拳を突き合わせた四人が、こちらを見た。その意図など考えるまでもない。

 僕も拳を作って四人の輪に加わった。


「僕も必ず元の世界に帰る。そのために、絶対に生き残ってみせる!」


 決意を口にすればその気持ちがより強くなった気がした。そして気付けば僕は、自然と笑みを浮かべていた。

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