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女神様の眷属  作者: みぬま
フォンファール帝国編
85/113

あとは覚悟を決めるだけ

 告げられた言葉に理解が追いつかない。

 委員長は今なんて言った? 俺の手伝いをさせてほしいとか言わなかったか? 俺の手伝いって何??


 本気で混乱していると、委員長はさらに言い募った。


「地上に戻ったら、クライルさんはまた私たちのために手を尽くしてくださるつもりなんですよね? だったら私にもそのお手伝いをさせてください。もちろん自分の身は自分で守れるようにこれからも鍛錬を続けますし、邪魔にならないようにしますから」


 畳み掛けるように詰め寄られて思わず半歩下がる。

 これは……どう対処したらいいんだろ。


「あの……だめでしょうか?」


 考えがまとまらず黙り込んでいると、委員長の決意に満ちていた瞳が一変し、不安げに揺れた。その訴えかけるような様子にうっかり申し出を受け入れてしまいそうになる。

 けど、だ。行動を共にするということは身バレのリスクが大幅に上がるということだ。それだけは何とか避けたいところで──


「ボクは賛成。いいと思う。むしろハナコがいた方がクライルが無茶できなくなって助かるとすら思う」


 俺の苦悩をぶった斬るように早口で捲し立てたのは白夜だった。いつの間にか肩に移動していた瑠璃も「賛成!」と言わんばかりにぽよんと跳ねる。

 くっ、俺の味方はいないのか。


「ねぇ、クライル。ボクは何もキミの気持ちを無視するつもりはないんだよ。ただね、ハナコは呪いの紋が消えない限りどんな影響が出るかわからないから、元の世界に帰れないんだ。魔晶石さえ集まれば帰れる他の救世主たちとは違う。もし他の救世主たちが元の世界に帰った時、キミはハナコをひとりにできるの? できないよね?」

「ぐぅっ……」


 ギリギリぐうの音は出たものの、反論の言葉はない。白夜の言う通り、こんな世界に委員長をひとりで残らせるのは不安だ。なら行動を共にした方がまだ安心できるだろう。

 でも、でもだよ。しばらくは誤魔化せたとしても、いずれボロが出て誤魔化しきれなくなる日が来るのは目に見えているわけで。かと言っていまさら正体を明かすっていうのも……。


 などとひとり心の中で葛藤していると、はぁ、と白夜がため息をついた。


「いい加減観念しなよ。これまでもそうだったけど、キミが迷ってる時は大体結論も出てるんだからさ。つまりほとんど気持ちは決まってるんだろ?」


 その言葉にも反論はない。今まで白夜が俺の迷いを、そして迷った末に出す結論を読み違えたことなんてないのだから。

 つまりあとはもう、俺が葛藤を捨てて覚悟を決めるだけなんだ。それは自分でもわかってる。


 ちらりと委員長を見る。

 委員長は申し訳なさそうな、同時にどこか不安そうな様子で俺を見ている。


 白夜を見る。

 白夜はいつも通り、何の気負いもなく俺が出す答えなんて決まってると言わんばかりの顔でそこにいた。

 瑠璃も「ほらほら早く」と急かすようにぐいぐい頬を押してくる。


 ……うん、よし。覚悟は決まった。

 気になるのに目の届かないところに置いておくなんて精神衛生上よろしくない。だったらもう、葛藤なんて捨ててそばにいた方がいいに決まってる。

 その上で、変なタイミングで身バレするより今自らばらしてしまった方が俺の気持ち的にも楽だろうと判断した。


 俺は仮面に手を持っていき、委員長に向き直る。


「できれば引かないでほしいんだけど」


 口調も戻して話しかければ、委員長は驚いたように目を見開いた。そして何かを言おうと口を開きかけたけど、委員長の言葉が紡がれる前に、俺の決意が揺らぐより先に、思い切って仮面を外す。


 委員長が息を呑んだ。

 両手で口元を覆い、みるみるうちにその目に涙を溜めていく。


 俺はついでとばかりに義眼が埋め込まれている目を開き、苦笑いを浮かべてみせた。


「実は俺の正体は、倉田秋生でして」


 そう告げた途端、委員長が再び飛びついてきた。そしてさっきの比ではないくらい激しく泣き始めてしまった。






 ようやく泣き疲れたのか、委員長のしゃくり上げる声が収まってきた。少し落ち着いたみたいだし、とりあえず今一番気になることを訊いてみようか。


「ええと……引いた?」


 問いかけると委員長はぶんぶんと首を横に振った。思わずほっと息をつく。


「ならよかった。いやさ、ほら、みんなのトラウマになるような形で死んだのに、運良く神様に助けてもらって生き返りましたーっていうのがどうにもこう、言いにくかったっていうか」


 だから悪意があって騙してたわけじゃないんだとアピールしてみたものの、委員長からの反応はなし。これはどう解釈したらいいんだろう。ドン引きはしてなくても、怒ってたりはするんだろうか。

 何だか落ち着かなくて、ろくに考えもせず必死に口を動かす。


「ただご覧の通りこんな顔の傷だし、あのとき俺は間違いなく死んだわけで……えーと、死んだ振りじゃないからな? あーそれと、今回のことでよくわかったけどサリスタ様の加護が消えたらまた死体に戻るのは間違いないみたいだし──」

「くらたくん……また、しんじゃうの?」


 ベラベラと言い訳がましく捲し立てていると、絞り出したような小さな声に遮られた。

 その声があまりにも悲しげで、見上げてきた委員長がまた泣き出しそうな顔をしていたから、「いやいや、サリスタ様の加護は強力だから大丈夫!」と慌てて釈明する羽目になる。


 ていうか俺、なんでこんな必死に喋ってるんだろ。しかも内容が酷い。ちょっと黙った方がいいかもしれない。

 そう思って口を噤めば、気まずい沈黙が下りた。こういうときは、どうすれば。


「アキオは馬鹿だなぁ。何でそう余計なことばかり言うの」

「はい、俺は馬鹿です。自分でもそう思いました」

「黙ったのは賢明だと思うけど、気が利かないことには変わりないからね?」

「はい、その通りです」


 白夜の言葉がぐさぐさと刺さる。いや本当、仰る通りです。

 そんな俺に白夜に同調する意志を伝えてきた瑠璃が、ぴょんっと跳んで委員長の肩に着地した。それから体を伸ばし、よしよしと委員長の頭を撫でる。

 一方、別で伸ばした体の一部でついさっきテックス様からもらった仮面を取り、委員長の顔にそっと乗せた。途端に、委員長の肌に刻まれていた呪いの紋が消えてなくなる。

 さすがテックス様……仕事は完璧だ。


 思わず感心していると、瑠璃がぺしぺしと俺の頭を叩いてきた。「ほら、見てよ」と訴えられて意味がわからずにいると、瑠璃は今度は俺の仮面を俺の手から奪い、顔に押し付けてくる。そして改めて委員長の仮面を示し──


 不意に、瑠璃と初めて出会った時のことが思い出された。あのとき瑠璃は自分の体の色と俺の髪の色が同じだと喜んでいたっけ。


 目の前の委員長の仮面を見る。俺と色違いの、けれど同じ青系統の仮面だった。

 ふとおかしくなって笑ってしまう。瑠璃が俺と委員長の仮面を示し、最後に自分を示して「ほら、お揃いでしょ?」と訴えてきたからだ。


「本当だ、お揃いだ」


 やばい、ツボに入った。

 このタイミングで何故かそんなことを真剣に訴えてくる瑠璃がおかしくて笑っていたら、委員長が不思議そうな顔でこちらを見ていた。


「おそろい?」

「うん、お揃い。ちょっと色違いだけど俺も瑠璃も、委員長も」


 な? と瑠璃に問えば、瑠璃は至極嬉しそうにぽよんぽよんと跳ねた。


「何だかボクだけ仲間外れ?」

「じゃあ白夜用に何か青い身につけるものをテックス様にお願いしてみるか」

「えっ、いいよ、いらないよ!」

「まぁまぁ、遠慮せずに」


 テックス様製と聞いて嫌そうな顔をする白夜。こうなったら諸共だ。白夜も巻き込んでやる。

 するとこちらの会話を聞いていたのだろうか、さっき去ったはずのテックス様が現れて「よし、白夜には青系の装身具を作ってあげよう!」と実に楽しげに声をあげたのだった。

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