面白機能は要らないんですけど
委員長は星喰いに攫われ、呪いをかけられたことで相当恐い思いをしたのだろう。いつまでも離れようとしないので慰めていると、横から声が割り込んできた。
さらには目の前に見覚えのある仮面を差し込まれて振り返れば、そこには青年姿の神様が。思わずため息が零れる。
「テックス様……仮面はありがたいんですけど、おかしな機能とかつけてないでしょうね」
懸念がそのまま口から出て行く。するとテックス様は心底不思議そうに首を傾げた。
「おかしな機能? 有用な機能しかつけてないけど? ていうか君が義眼を活用してくれないからつまんないんだけど」
つまらないときたもんだ。
「あのですね……はっきり言って、目から光線を出す機会なんてあるわけがないんですよ。でもポーチと通信用の魔法道具はものすごく助かりました。あとお金と加護もありがとうございます」
「それだけ感謝してるならちょっとくらい使ってくれても」
「それとこれとは別です」
「ケチ!」
口を尖らせて拗ねる神様ってどうなんだ。
とりあえずこのノリに巻き込まれたら可哀想なので、委員長をテックス様から遠ざける。すると俺の意図を察したのか、テックス様は仕方なさそうに話題を変えた。
「まぁいいや。それよりこれな」
改めて差し出された仮面を受け取る。見た目は俺がもらった仮面とよく似ていて、色とデザインが若干違う。
「ハナコが紋を気にしてるって聞いたから、認識阻害機能付きの仮面を作ったんだ。例に漏れずそういう系統はラクロノースの管轄だから、あいつの力も借りたけどな」
「それは、ありがとうございます。で、その認識阻害機能とやらにはどんな効果があるんですか?」
「もちろん呪いの紋が見えなくなる効果だ。ついでに任意で別人に見えるようになる機能もつけておいたぞ」
それは……すごいな。ていうかそういう道具があるなら俺も欲しかった。
「ちなみに、俺の仮面にも何か機能がついていたりとかは」
「なーんにも? 義眼を全く活用してくれてないからな、別に機能とかいらないかと思って見た目重視で作った」
なんと。予想外の答えに脱力する。
「とにかくそれはハナコにやるよ。つければ呪いの紋は見えなくなるし、姿を偽りたい時は仮面に魔力を込めればいい。どういう姿になるかはやってみてのお楽しみ!」
お楽しみ! って……嫌な予感しかしないんだけど!
「やっぱり変な機能つけてるんじゃないですか!」
「変な機能じゃないって! まぁ君も楽しみにしとけ」
その言い方がもう信用ならない。
「俺たちで遊ばないでくれます?」
「ちょっとくらい遊んでくれよ」
もうやだこの神様。面倒臭い。
そう思いながら委員長が呆れてないか様子を窺ってみると、いつの間にか俺の服にしがみついて顔を伏せていた。怯えているというよりは、緊張のあまり硬直しているという感じだろうか。
「神を前にしたらハナコみたいになるのが普通だからな? 俺たち相手にこんだけ好き放題言える君は本当に異常だぞ」
「それはサリスタ様からも似たようなことを言われましたけど。ていうかその異常者に遊べって言ってるのはどなたでしょうね」
「俺はそういうの気にしないぜ?」
「……はぁ。とりあえず、仮面はありがたくいただきますね。いつも便利な道具をありがとうございます」
もう切り上げよう。そう思って無理やり話を打ち切ると、「どういたしまして!」とテックス様は実に楽しそうな笑みを浮かべた。どうやら今のやりとりでそれなりに満足したらしい。
「しばらく神界にいるんだろ? ハナコが持ってた通信用の魔法道具は壊れてたから修理中だし、君用の魔力のいらない通信用魔法道具ももう少しで完成する。出来次第渡すから、楽しみにしとけよな!」
そう言い残して、テックス様は去っていった。
何だかどっと疲れて深いため息を吐き出す。すると。
「……あの、クライルさん」
不意に、小さな声に呼ばれた。
振り返ると委員長がまっすぐ俺を見上げていて、何か言いたげに口を開閉する。けれど言葉になる前に俯いてしまった。
何か言いにくいことでもあるんだろうか……ああ、もしかして。
「ハナコ殿。この度は私のせいで危険な目に遭わせてしまい、申し訳ありませんでした」
今回の件についてはサリスタ様から話を聞いている。神に与えられた力を奪われたことで俺が死にかけた理由についても、委員長に話してあると聞いていた。
そこから推察するに、委員長は俺が死にかけた原因が自分にあると感じているのかもしれない。だとしたらそれは違う。そもそも狙われていたのは俺だったんだから、委員長は巻き込まれただけだ。だからそんな思い詰めた顔をしないで欲しい。
そう思って謝罪すると、委員長は弾かれたように顔を上げ、首を横に振った。
「クライルさんは何も悪くありません! 全部星喰いってやつが悪いんです!」
「その言葉を、そっくりそのままお返ししますね」
必死に否定する委員長に俺は苦笑する。委員長もハッとした表情を浮かべ、躊躇いがちに頷いた。
よし、この話はこれで終わり!
「さて、サリスタ様から言われた通り私はもうしばらく神界で療養しますが、ハナコ殿はどうします? 神界に残りますか?」
と、問いかけたところである人物の言葉が脳裏に蘇る。
「……ちなみに、フォンファール帝国でシュンペイ殿たちの無事を確認してきたのですが」
ついでのような形になったけど、瀬良くんたちの無事を伝えると委員長の表情が明るくなる。けれど俺の頭の中には瀬良くんの言葉が蘇っていて……その言葉こそが今の地上の状況を説明するのに相応しいと思って続けた。
「その際に、シュンペイ殿はこんなことを言っていました。もう安全な場所なんてないから、自分自身が強くならなきゃいけないと」
この考えには俺も同意だ。星喰いの目的が神の力の奪取なら、ラクロノースから力を与えられている救世主たちが星喰いに狙われるのは避けようがない。
加えて、あんな神出鬼没の化け物に狙われたならどこに逃げたって同じだ。僅かな時間逃れても、いずれ見つけられてしまうだろう。ならば自ら身を守る術を磨くしかない。
すでに救世主としての力を失っている委員長だって、いつどんな形で巻き込まれるかわからない。だからもし地上に下りるなら、どこにも安全な場所などないという覚悟と、自分の身は自分で守るという強い意志を持ってもらいたかった。
「私もそう思います」
幸い委員長も瀬良くんと同じ考えのようだった。他人事とは思わず自分のこととして受け止めているのがその真剣な眼差しから読み取れる。
ならばあとは地上に下りるか神界に残るか、委員長が出す答えを確認するだけだ。
「では、どうしますか?」
俺の問いに委員長は大きく息を吸う。そして決意に満ちた声音で、はっきりと言い放った。
「私に、クライルさんのお手伝いをさせてくれませんか?」
「……うん?」
全く予想していなかった言葉に、間抜けな声が漏れた。




