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女神様の眷属  作者: みぬま
フォンファール帝国編
82/113

◆クラスメイト:桜庭花子・3

 ◆ ◇ ◆



 それは、突然現れた。



 赤黒い肌を持ち、二本足で立って、上背があって、明らかに人ではないのにどこか人を彷彿とさせる不気味な表情を浮かべていて。

 側頭部からは三角形の耳が生えていて、目が三つあって、やたらと長い尾が楽しげに揺れていたのを覚えている。


 そして気づけば、みんなが倒れていた。ニムさんとカントさんはぴくりとも動かず、目の前で大島くんとシェラさんが崖の下に落ちていく。

 手を伸ばそうとしたけれど、突然浮遊感に襲われ、崖から引き剥がされた。何が起こったのかわからずにいると。


「このっ!」


 満身創痍のエンディルさんが飛びかかってきた。そのおかげで理解する。

 私は今、あの化け物に捕まっているのだと。


 体に巻きつく長い尾を確認して、背筋に怖気が走る。

 化け物の爪がエンディルさんを叩き落とし、成す術もなくエンディルさんも崖下に落ちていって──



 何もできなかった。

 まだまだ力が足りなかった。


 違う、そういう次元じゃない。

 こんなの、どうやったって。



 絶望で目の前が真っ暗になる。


 私はここで死ぬんだ。


 漠然とそう思った。

 どう足掻いたって何も変わらない。そもそも足掻く力すら残っていない。

 だったら希望なんて捨ててしまえ。どうせここで全てが終わってしまうのだから。


 そうして私は全てを諦め、意識を手放した。








 ふと意識が浮上する。

 ゆっくり目を開けると、淡い色を混ぜたような、けれど限りなく白に近い色が視界に飛び込んできた。


「……ここは?」


 零れ出た声は掠れていて、けれど自らの声が呼び水になったように全身の感覚が蘇る。

 私、生きてるの……?


「目が覚めた?」


 かけられた声に視線を動かせば、真っ白な狐が横にいた。


「びゃくや、さん?」

「そうだよ。覚えてないかもしれないけど、キミは呪いをかけられて危険な状態だったんだ。まぁ呪いは解けたからもう大丈夫だけどね」


 言われていることがよくわからない。

 私が首を傾げると白夜さんは顔を横に向け、別の何かに視線を移した。


「向こうも間に合ったみたい。でも、もらった呪いが強すぎた。しばらく療養しないとダメかも」


 その言葉に促されて私は何とか体を起こし、白夜さんの視線の先を追った。そして、息を飲む。


「クライルさん!?」


 ぐったりと横たわるクライルさんを、美しい女性が──ああ、違う。あの人は、きっと。


「……女神、サリスタ様」


 クライルさんの頭を膝に乗せ、慈しむように髪を撫でていたその女神様は、私の声に反応してこちらを見た。

 深い藍色の瞳と目が合う。それだけで体の底から畏怖の感情が湧き上がり、慌てて居住まいを正して深々と頭を下げた。


「それが普通の反応だよ。やっぱりあの子はちょっとおかしいんだよね」


 ふふっと笑う幼い声。辛うじて視線を上げると、そこには少年の姿をした神様がいた。そう、見た瞬間に神様だとわかった。


「紹介するね。こちらはボクの主、スワイズ様だよ」

「初めまして救世主さん。名前は確か、ハナコさんだったかな?」


 サリスタ様ほどではなくても、畏怖の感情を抱く。そのせいか声が出せず、頷くことしかできない。


「覚えてるかな。きみはエンディルのところから連れ去られて、呪いをかけられたんだけど」


 エンディルさんのところから連れ去られた? 呪い?

 思い出そうとしても記憶が曖昧で判然としない。


「きみに仕掛けられていた呪いにね、彼がまんまと引っかかってしまってさ」


 そう言ってスワイズ様はクライルさんを視線で示す。


「奴は最初から彼に呪いをかけるのが目的だったんだろうね。きみ自身に呪いは残ってないから安心して。ただね……」


 一度言葉を切り、白夜さんの方へ顔を向ける。すると、白夜さんに隠れる位置にいたのだろう瑠璃さんがひょこっと顔を出して、私の前で体を大きく伸ばした。そして長方形の平らな板を模したかと思った次の瞬間。その表面に、私の姿が映し出される。


 姿形は間違いなく私だった。けれど、意識を失う前とは明らかに違う点がある。

 私は声にならない悲鳴をあげた。


「呪いの紋が消えなかったんだ。ぼくらも手を尽くしたんだけど、できたのはきみの記憶と人格を呪いから保護し、呪いそのものを解くことだけ。今のところその紋を消す手段は見つかっていない」


 顔、首、手、足。

 服を着ていても見える範囲の肌には見たこともない紋様が刻まれていた。この様子だときっと、紋様は全身に刻まれているのだろう。そう思うだけで絶望的な気持ちになる。


「その紋が残ったままだときみたちの世界に戻ったとき、どんな影響が出るかわからない。だからその紋がある限り、きみを元の世界には帰してあげられないんだ。それとね」


 これがある限り元の世界には帰れない。それだけでも十分すぎるほど衝撃を受けたのに、まだ何かあるの!?

 不安が際限なく膨らんで、生きた心地がしない。


「きみに与えられていた救世主としての力なんだけど、奴に……星喰いに奪われてしまったんだ。まぁ元を辿れば奴が救世主の召喚に干渉したのもそれが目的だったんだろうけど」


 淡々と語られる内容に思考がついていかない。

 救世主としての力が奪われた? それが何を意味するのか、全く理解できない。


「救世主の人数を増やして力を分散させ、奪う……もしくは別の意図があって干渉したのかもしれないけど、いずれにせよ奴の目的は神の力の奪取だったんだ。けれどここからわかることもあって──」

「スワイズ様、その話はあとで」

「おっと、そうだった。とにかくきみもまだ万全じゃないからしばらく安静にね。ちなみにここは神々が存在する次元、神界なんだけど、慣れてないと迷子になるから白夜をつけておくよ。それと彼についてだけど」


 尚も何かを語ろうとしていたスワイズ様を遮ったのは白夜さん。どうやら今話すべき内容から外れていたらしく、スワイズ様は改めてクライルさんの方を振り返った。


「彼には強力な神の力が与えられていたからね、だから狙われたんだと思う。呪いを受けてすぐ神界に引き上げて処置したから一命はとりとめたけど……そういう状況だから、目覚めるまで時間がかかると思うんだ」


 一命をとりとめた……? つまりクライルさんは、命の危険に晒されたってこと?

 それも、私のせいで。私に仕掛けられていたという呪いを、受けてしまったから……。


「ああ、自分を責めちゃだめだよ。さっきも言ったけど、奴は最初からあの子を狙ってたんだ。きみは何も悪くない。むしろ巻き込まれた側なんだからね」


 思いつめているとスワイズ様は落ち着いた声でそう言って、私の頭を優しく撫でた。その心遣いに触れて、声も出せないほど畏れを抱いている神様が少しだけ身近に感じられた気がした。

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