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女神様の眷属  作者: みぬま
フォンファール帝国編
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遭遇

 神界からもたらされる情報に従って移動すること三日。ほとんど休むことなく走り続けて辿り着いたその場所は、鬱蒼とした森だった。

 俺は薄暗い森の前で立ち止まり、背の高い木々を見上げる。


 話によると、委員長は意識を失った状態でこの森の中心部にいるそうだ。そして二日ほど前から何の動きもないらしい。

 現状ではそれ以上の情報は得られていない。何故なら、何かに妨害されて神の力を以ってしても委員長の位置と意識の有無しかわからなかったからだ。


 そう、つまり。

 それは委員長の近くに神の力を妨害できる存在──低級神がいる証とも言える。


 そう考えると一処に留まっているのが何とも不気味だ。果たしてこれは罠なのか、何か別の意図があるのか、警戒させておいて何もないのか……。


 本来であれば慎重に行くべきところだろう。けれど白夜曰くこの森は「魔獣の森」と呼ばれていて、獣型の魔物が多く生息しているとのこと。当然肉食の魔物もいる。迷っている暇などなく、一刻も早く委員長の許に駆けつける必要があった。


「ふっ!」


 行く手を阻むように飛び出してきた魔物を走る速度を落とさずに切り裂く。いつもと違って瑠璃には薙刀のような形状になってもらって、次々と魔物を切り捨てていく。

 いちいち止めは刺さない。魔晶石も無視だ。今はとにかく委員長の保護を最優先に行動する。


「アキオ、こっち!」


 横あいから飛び出してきた魔物を爪で真っ二つにした白夜が先導して走る。その後を追っていくと、やがて開けた場所に出た。

 目の前には小高い丘があり、丘の上には背の低い樹木が一本だけ立っている。


「あそこか……?」


 自然と足が止まった。本能が丘に近付くことを拒んでいるのか、そこから一歩も動けなくなる。


「嫌な感じだね」


 白夜も身を低くして丘を睨んだ。瑠璃からも何かを恐れるような感情と、それに抗うような感情が伝わってくる。

 しかしここで立ち往生しているわけにもいかない。一刻も早く委員長の無事を確認しなければ。


 俺は重い足を持ち上げ、前へと踏み出した。進むことを拒絶する感覚がどんどん強くなっていく。それに伴って、あそこに委員長がいるという確信も強まっていく。

 一体この感覚は何なのかと不気味に思いながら丘を登り──


 やはりというか何というか。

 丘の上に立つ一本の木。その根本に探し人の姿があった。


 ただし、異様な状態で。


「何だ、あれ……」


 委員長の顔や手に、見慣れない紋様が刻まれている。さらに委員長を包み込むように黒い霧が発生していて、どうやらそれらが拒絶反応を起こす原因のようだった。


「あれは、呪いだ」


 白夜の一言に振り返る。


「呪い……?」

「そう。あの呪いには感情を持つ生物に強い忌避感を与える効果があるみたいだね。だからハナコはこんな場所に放置されていても無事だったんだ。でも、あの霧は何だろう……わからないな」


 そう言って白夜が俺の前に立った。まるで俺が委員長に近付くのを遮るように。


「何が起こるかわからないから、不用意に触れちゃだめだよ。呪いのことならスワイズ様に聞いてから──」


 しかし白夜の忠告は最後まで続かなかった。背後から強烈な殺気を叩きつけられたからだ。

 反射的に振り返るのと、鋭い何かが空を裂いたのは同時だった。


「アキオ!」


 目の前に結界の魔法が展開され、襲いかかってきた何かが結界に阻まれて後退した。

 俺は慌てて錫杖を構え、襲撃者の正体を確認しようとし──絶句する。


 そこにいたのは、赤黒い肌の獣だった。


 二本足で立ち、身長は優に二メートルを越え、猫のような耳と異様に長い尾を持ち、背中を曲げ、肩を怒らせ、小さな頭についた三つの眼をこちらに向けている。

 大きな牙が覗く口の端はまるで笑っているように持ち上げられ、両手の指先から伸びた長い爪は微かに差し込む陽光を鈍く反射してその鋭さを主張する。


 俺が知るどの生物とも一致しない、形容し難い不気味な容姿。その身には委員長の周りに漂っているものと酷似した黒い霧を纏い、そしてその瞳は……俺に定められたまま動かない。


 そう、つまり。

 狙われているのは、俺だった。


 何故、とか、どうして、とか。思うところはあるけれど、気を逸らすことができない緊迫した状況。何かがほんの僅かでも動けば、その瞬間に終わってしまう。そんな確信が湧き上がり──


 ああ、こいつがそうなのか。


 そう理解した。


「ぐぶっ」


 まるで俺が理解したのを察したようなタイミングで、そいつは──低級神と呼ばれていたそいつは笑った。そんな気がした。

 そしてそいつはゆっくりと後退し、十分距離を取ったところでふっと空気に溶け込むように消えていった。同時に、どっと全身から汗が吹き出してくる。立っていられずに膝をつくと、白夜が駆け寄ってきた。


「アキオ、大丈夫!? 何が低級神だよ、あれは違う、どうして今まで気づかなかったんだ!」


 巨大化して俺を咥え、背中に放りながら焦りの声を上げる白夜。一刻も早くこの場から立ち去りたいという気持ちがその行動に表れていた。

 一方で俺は、白夜の言動からやっぱりあれは低級神とは違う存在なのだと確信する。あんなものが神になりかけている存在とは思えない。


「あれは、一体……?」

「あれは星喰いだ。あんなのが紛れ込んでいたのに神々すら気づかなかったなんて!」


 答えながら白夜は委員長に近付く。相変わらず不気味な紋様と黒い霧がそこにあり、白夜が一瞬躊躇した。けれど。


「アキオ、ハナコの呪いは触れたら移るかもしれない。どうする?」


 そう問いかけてきた時点で、俺の答えなどわかっているのだろう。


「連れて行こう」


 敢えて訊いたのは自分を鼓舞するためか。意を決したように委員長を咥えて、「受け取って」と声をかけてからこちらに放ってきた。慌てて委員長を受け止める。


 しかし受け止めた瞬間、ずしりと何かがのしかかってきた。まるで巨大な手に上から押さえつけられるような感覚。

 さらに委員長に纏わりついていた黒い霧が、染み込むようにじわりと浸食してきた。これが呪いが移るということなんだろうか。


 そんなことを考えたのも束の間、最初に視界が暗転した。次に息が苦しくなった。続いて全身から力が抜けて──それを自覚したのを最後に、俺の意識は刈り取られた。

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