◆クラスメイト:瀬良駿平・3
◆ ◇ ◆
委員長が連れ去られ、大島が行方不明になった。
その報せを聞いて目の前が真っ暗になり、何の疑いもなく立っていた足元が突然崩れたような、寄る辺を失ったような不安定な気持ちに陥る。
けれどそれ以上に僕の意識を引きつけたのは、その話を聞いた時のクライルさんの様子だった。
クライルさんが、焦っている。そして静かに自分を責めている。
仮面に隠れて表情こそ窺い知れないけれど、そのことが何となくわかってしまった。
思わず「クライルさん」と呼びかけてみれば、顔を上げたクライルさんは何だか頼りなくて、これまで僕たちを助け導いてくれていた力強さはどこにも見当たらなかった。
その姿を目にして思い知る。この人も僕らと同じ歳の、まだ未熟な人間なのだと。
それでもクライルさんは僕たちがどうしようもなく絶望している時に手を差し伸べてくれた。そして今も変わらず手を差し伸べ続けてくれている。だからこそ、僕らは今日まで希望を失うことなく生き延びてこれたんだ。
だから。
「きっともう、どこにも安全な場所なんてないんだと思います」
いい加減僕たちは、この人に甘えるのをやめなければ。
「だから僕たちは、僕たち自身が強くならなきゃいけない」
もう十分助けてもらったんだ。ここから先は自分の足で立ち上がり、活路を見出していく。
その決意を胸に、クライルさんを真っ直ぐ見据えた。
すると。
「そうです! いつまでも頼ってばかりはいられません。私たちは自分自身のためにももっと強くならないと!」
鈴木さんも賛同してくれた。けれど鈴木さんは以前から生き延びるために強くならなければと言い続けていたし、そのための努力も怠らなかった。
だからこそ鈴木さんの言葉には説得力があり、僕の決意よりも力強さを感じる。
「そーそー。だからそんな思い詰めんなよ。クライルさんが色々頑張ってくれてるのはみんなわかってるんだしさ」
最後に岩井がそんな言葉で締め括れば、クライルさんはきょとんとした様子で刹那の沈黙を落とした。けれどすぐに、ふっと口許に笑みを浮かべる。
「ありがとうございます」
気を緩めてくれたことにほっとした……のも束の間。
「それはそれとして、私はハナコ殿を探しに行きますね」
すぐさま立ち上がりそう告げたクライルさんは、まだどこか冷静じゃなかったようだ。
その後レニィさんに宥められ、白夜さんと瑠璃さんに説得されてようやく冷静さを取り戻していた。
「意外にも、目的地はこの国みたいだね」
というのは情報収集を終えたレニィさんの言葉。集まった情報から、委員長を連れ去った低級神と思われる存在はミールグレス王国を超えてフォンファール帝国に入ったことがわかったらしい。
皇都から見て西南西、ミールグレス王国にほど近い区域が怪しいとのこと。
敵方が敢えて姿を晒しながら移動したことに疑問を抱きつつも、例え罠だったとしても向かうというのがクライルさんの意思だった。
「アタシもついて行こうか?」
ミニスさんの申し出にクライルさんは首を横に振る。
「だめだ。ここを手薄にするわけにはいかない。心配しなくてもこっちには白夜と瑠璃がいるから大丈夫」
「仮にだけど、もしここが襲われたらどうする?」
今度はレニィさんが問いかける。するとクライルさんはゼケットさんに顔を向けた。
「頼めますか?」
「ええ、我が主の威信にかけても」
「お願いします」
そんなやりとりを経てクライルさんは立ち上がる。
「あとは神々の目を借りる。白夜、連絡を」
「了解。っていうかこっちのやりとりを聞いてたみたいだね。あとは神々の方で詳細な位置を特定して連絡するって」
白夜さんの返答を聞くなりクライルさんは頷いて、ティエラ皇女に向き直った。
「ティエラ皇女、慌ただしく辞することをお許しください」
「いいえ、どうかお気をつけて。クライル様の旅にあまねく神々の導きがあらんことを」
「ありがとうございます」
辞去の挨拶を済ませ、独特の礼の姿勢を取ったクライルさんは、今度は僕たちの方に向き直る。
「シュンペイ殿、ギンタ殿、サナエ殿。できるだけミニスやレニィさん、ゼケットさんから離れないように過ごしてください。ミニス、レニィさん、ゼケットさん。あとはお願いします」
それだけ告げると、返事を待つことなく白夜さんを伴って出て行ってしまった。
あっという間の出来事に、しばしの沈黙が落ちる。
「さてと」
ぽそりと、ミニスさんが沈黙を破り立ち上がった。
「エンディルとシェラが二人がかりでも対抗できなかったっていう点を踏まえて、どうすればこの子たちを守れるか考えなきゃね」
「いざとなったら私の空間転移で逃げることも可能ですが……」
「それじゃ根本的な解決とは言えないからねぇ」
ゼケットさんもレニィさんも真剣な表情で唸る。
「そうは言ってもクライルは空間転移もあてにしてたっぽいし、ゼケットはいざという時に備えておいて」
「わかりました」
ミニスさんの指示にゼケットさんが頷き、レニィさんが困ったように首を傾けた。
「俺はどうしよっか?」
「レニィは情報収集を続けて。周囲への警戒はアタシがやるとして……あっ、いいこと思いついた!」
ニヤリ。
そう表現するのがぴったりな笑みを浮かべて、ミニスさんが身を乗り出してきた。
「せっかくだし、この子たちも含めてアタシたち全員で組んでみない?」




