助っ人合流
典型的な有翼竜の姿をした生物が、上空から地上に向けて猛烈な勢いで突撃してくる。
「みなさん地面に伏せて!」
とりあえず標的にされないように全員伏せさせると、すかさず白夜が結界の魔法を展開した。これで防ぎ切れるのかは俺にはわからないけど、白夜がこうしたってことは大丈夫なのだろう。信じるしかない。
「クライル、出し惜しみはなしだからね!」
「了解!」
白夜の呼びかけに即答する。
出し惜しみはなし──つまり瑠璃を隠してる場合じゃないってことか。それくらいまずい相手なのだと理解して、ひとり結界の外に残った俺は走り出した。
これで竜がこっちにくればよし、白夜たちの方に突撃するなら背後を突く。
結果は、俺を追尾する方向に軌道修正してきた。
よし、釣れた!
「瑠璃、援護よろしく!」
俺の呼びかけに瑠璃がふるふると揺れた。次の瞬間には石突きに槍の穂先を形成しつつ体積を増やして分裂、分裂した片割れが俺の肩に乗った。恐らくそこから臨機応変に対応してくれるってことだろう。
「グガァァアァアアア!」
横あいからものすごい音量で咆哮が叩きつけられる。怯みはしなかったけど、風圧で体勢を崩しかけた。
何とか持ち堪えたものの、いつの間にか大きく開かれた口が眼前に迫る。
「うぉっと!?」
咄嗟に身を低くして転がると、すぐ横を地面すれすれまで下降してきた竜が通り過ぎていった。こっわ!
「あんなのどうやって倒せばいいんだよ?」
でかいし、飛んでるし、巨体の割に素早いし。
さっきみたいにギリギリまで引き寄せてから一撃を入れるくらいしか対処法が思いつかない。
「ちょっとだけ手伝ってあげる!」
遠くから白夜の声が聞こえてきた。そして白夜のいるあたりから風の刃が放たれ、竜に直撃。片翼が切り落とされ、さすがに飛ぶことができなくなった竜が地上に落ちてくる。
「つうかこれ、白夜が戦ったら瞬殺なんじゃ……」
思わず呟くと瑠璃がふるふると揺れた。「それは無理」というような意思が伝わってくる。一体何が無理だというのか──
「ガァッ!」
短い咆哮が竜の落下地点から放たれる。慌てて振り返れば、竜が炎を吐き出すところだった。
その炎は白夜たちの方へ向かっていき──結界に、激突した。
響き渡る轟音。
遠目に見ても炎は結界によって完全に防がれている。けれど。
「なるほど、納得」
瀬良くんたちを守るには、白夜があの場から動くわけにはいかないということがよくわかった。
だから俺が頑張るしかないのか。
「うっし! やるぞ!」
気合いを入れ直して白夜に気を取られている竜に肉薄。こちらに気づき向けられた眼球に、穂先を突き込む。
油断していた竜は避けることもできずに痛みにのけぞり、悲鳴のような叫びを上げた。
まずは視界の半分を奪うことに成功。引き戻した錫杖を脇に構え、改めて竜の全身を確認する。
ほぼ全身を覆っている鱗は見るからに硬そうだけど、鱗のない箇所もある。それが翼と腹側、そして眼球や口内といった顔面の一部。
とりあえず腹側を狙うのは却下だな。腹の下に入って押し潰されたら堪らない。顔面も似たり寄ったり。うっかり食われたらいくら再生の加護があっても助からないだろうし、不意をつくのも難しい部分だろう。
そうなると狙いは翼になるんだけど、翼側から致命傷を与えるにはどうすれば……。
そこまで考えたところで肩に乗った瑠璃がぽいんと跳ねた。「任せて!」という意思が伝わってくる。
「そっか、そうだよな」
瑠璃もいるんだ、竜の体内に穂先を突き刺すことができれば勝機はある。
そう理解するなり、のたうちまわる竜に再度接近。背中側に回った。こちらの動きに気づいた竜が尾を振り回してきたけど跳躍して回避し、そのまま背中にとりついて白夜が切り落とした翼の根本までよじ登る。
しかし俺を振り落とそうと竜が体を振り回しているせいで立ち上がることができない。しがみついてる手を放した瞬間に振り落とされるだろうし、どうしたものかと思っていたら。
肩に乗っていた瑠璃が動いた。体を伸ばして竜の腕と残っている翼の根本にくるくると巻きつき、その中間地点で俺の体を固定する。
おかげで立ち上がることができた……けど、揺れる足元のせいで狙いが定まらない。
「グォオ!」
錫杖を突き刺すのに手間取っていると、竜の咆哮とともにチリッと空気がヒリついた。嫌な予感がする。反射的に上空を見れば、バチバチと音を立てる光の筋が落ちてくるところだった。
さすがにあれが直撃するとまずい。けど、避ける暇がない──
「おまたせー!」
反射的に視界を閉じたその瞬間、呑気な声が聞こえてきた。それも、聞き覚えのある声が。
同時に、襲いくるであろう雷撃が霧散する気配。
「また随分と恐ろしい魔物と遭遇したものだなぁ」
こちらは聞き覚えのない声。恐る恐る視界を開くと、上空にあった光の筋は消えており、俺の背を守るようにひとつの影が──いや、真っ黒なローブを身に纏った男性が立っていた。
「君がクライルくんかな? いやいや、いいところに通りかかったよ。ていうかミニスの野生の勘が当たっただけなんだけど」
「ふふーん。感謝してよね、クライル! さぁさぁ、このデカブツはアタシが押さえとくからトドメを刺しちゃってよ!」
ローブの男性に続いて聞こえた声の主、ミニスは、どうやら竜の足を押さえているらしい。竜が必死に足を引き抜こうとするけどびくともしない。おかげで足場が安定した。
「レニィさん、ですよね? お礼はまたあとで」
「まぁまぁ、それはいいから止めを刺しちゃって」
軽ーく言われて苦笑しつつ、錫杖を振り上げる。そして鱗のない翼の付け根に向かって思い切り穂先を突き刺した。
穂先は竜の骨を貫通し、肉を切り裂いて沈み込む。さらに瑠璃が体を膨張させながら伸びていき、竜の心臓に到達。竜の口から悲鳴が上がった。
その悲鳴も徐々に苦しげになり、か細くなり、途切れ始め──やがて完全に沈黙した。
沈黙したあともしばらく痙攣していたものの、不意にぐらりと巨体がゆらぐ。俺を固定していた瑠璃が竜の体から離れ、「俺、運動神経よくないんだよね」と言ってひっついてきたレニィさんを抱えて巨体から飛び降りた。
しかし。
しっかり着地したのに横あいから体当たりされて、レニィさんごと転倒する羽目になった。
俺はレニィさんと一緒になって体当たりしてきた相手をジロリと睨む。
「ミニス……」
「ちょっとミニス酷くない!?」
「いやいやぁ、久しぶりの再会だから感極まっちゃって?」
全く悪気のない様子の女性、ミニスは軽快に笑うと倒れ伏した竜を見上げた。
そして一言。
「これでクライルも立派な竜殺しだね!」




