やっぱりミールグレス王国は怪しいらしい
三人の意思を確認したので、今度はソアル皇子とティエラ皇女に向き直る。
「ソアル皇子、ティエラ皇女。彼らはここに残りたいそうなのですが、今後も彼らのことをお願いできますか?」
「もちろんです」
「救世主様方は我々が必ずお守りします」
ふたりは即答で承諾してくれた。この様子なら安心して任せられそうだ。
とは言え、心許なさはどうしても残る。なので。
「そうと決まれば早いところストレイル様の眷属を派遣してもらいましょう」
「ああ、そう言えばクライルさんはストレイル様の弟子でしたね。どなたか有力な候補がいらっしゃるので?」
さらっと暴露してくれたのはゼケットさん。どうしてみんな気軽に個人情報を漏らすかな。半ば諦めの境地で驚愕の目を向けてくるソアル皇子とティエラ皇女に気付かない振りをする。
「確かシュンペイ殿は剣と盾、ギンタ殿は大剣、サナエ殿は体術が得手でしたよね?」
「はい」
俺の問いに三人が頷く。見事に違うタイプだよな、この三人。でも組み合わせとしてはバランスがいい。
瀬良くんは物理では攻防一体型で魔法は攻撃系、鈴木さんは近接物理攻撃を駆使しながら治癒系魔法が使えて、岩井くんは全力アタッカーで自己バフ魔法が得意だった。
このバランスの良さを活かそうとすると、武術と魔法、両方の師匠がいた方がいいかもしれない。
「白夜、スワイズ様に魔法が得意な眷属を派遣してもらえるよう交渉してくれないか?」
「了解」
「よし、頼んだ。スワイズ様の眷属も派遣してもらえるなら、ストレイル様の眷属はミニスがいいかな」
ストレイル様の眷属なら誰でも満遍なく武術を教えられるけど、ミニスは連携も重視してるから三人で組んだ場合の強さも鍛えてくれるはず。我ながらナイスチョイスなのではないだろうか。
そんなことを考えながら提案すると、白夜がなるほどね、と呟いた。
「そういう方向性ならスワイズ様にはレニィを派遣してもらえるよう頼んでみるよ。魔法の腕は確かだし、考え方もミニスに近い。それに人に教えるのも向いてると思う。さっそく連絡してみるね」
こうして順調に派遣してもらう神の眷属を絞り込むと、間もなく白夜が「レニィがミニスを拾って来てくれるって」と教えてくれた。
「これで一安心……と思いたいところですが、ソアル皇子にお聞きしたいことがあります」
「なんでしょうか」
瀬良くんたちがフォンファール帝国に留まるための地盤固めはしたものの、根本的な問題が解決したわけではない。今回の誘拐に関して確認しなきゃいけないことがまだ残っている。
「今回の件、ある筋ではフォンファール帝国単独の行いではないのでは、という話が出ています。実際のところどうなのでしょうか」
「それは……その通りです。どうやら今回、父と兄は隣国ミールグレス王国の国王に唆されたようで、計画の段階から干渉を受けていました。何でもミールグレスには守護神がいて、その守護神の言う通りにすればフォンファール帝国にも神の恩恵を与えてくれるとか」
飛び出した言葉に俺も白夜もゼケットさんも、思わず顔を見合わせた。
「守護神……ですか」
「それは本物の神ってこと?」
ゼケットさんの思案げな声に加えて白夜が身を乗り出すように問いかけたことで、ただならぬ気配を察したのだろう。ソアル皇子の表情に微かな不安が浮かんだ。
しかしそれも一瞬のこと。すぐに元の真剣な表情に戻り、「詳細はわかりませんが」と続けた。
「少なくともここ数年で、ミールグレスの兵士は急激に力をつけています。同盟国であるミールグレス王国と我が国は毎年兵士同士の親善試合を行うのですが、以前は互角……いえ、我が国の方がやや高い割合で勝っていたのです。それが突如覆り、三年前からは九割がた負けている」
それは確かに不自然だな。
「……もしその神が本物だとしたら、兵士に武力寄りの加護を授けたとか?」
「その可能性は限りなく低いと思う。そもそも加護って神側にも負担がかかるから、そうほいほい与えられるものじゃないんだよ。それを考えるとたった数年で複数人に加護を与えるなんて現実的じゃない」
俺の呟きを否定したのは白夜。一方、ゼケットさんは眉間に皺を寄せていた。
「しかしこれは、もしかしたら件の低級神に繋がる情報かもしれませんね」
「そうだね。とりあえずボクからスワイズ様に連絡しとくよ。あとは指示待ちかな」
そんな風に真剣に話し合うふたりの隣で、俺は嫌な汗をかいていた。
白夜は言った。「加護は神側にも負担がかかるから、そうほいほい与えられるものじゃない」と。
なら、俺がサリスタ様から二つの加護を貰ったのはどういうことなんだろうか。それは異常なこと? だとしたら、サリスタ様の負担は──
ぐるぐると考え出した俺の思考を、瑠璃がプルプルと揺れることで遮った。大丈夫だよ、という意思が伝わってくる。
大丈夫って、一体何を根拠に……。
「あー……あのね、クライル。確かに一度に二つの加護が与えられるのは稀だし、普通の神ならやらないことだけど、キミの主たるサリスタ様は神々の中でも特別なんだよ。長いこと眷属が不在だったし、今もキミひとりしかいない。さらに言えば、長いこと誰にも加護を与えていなかった。つまり、十分すぎるほど力の蓄えがあったんだよ。だから心配しなくて大丈夫」
俺の不安を瑠璃が伝えてくれたのだろう。白夜が説明してくれたけど、それでもまだちょっと納得できない。
すると畳み掛けるようにゼケットさんが口を開いた。
「やはり主のこととなると心配になりますよね。ですが我が主も救世主の召喚に向けて力を蓄えることがあるので、白夜様の言っていることは本当ですよ。まぁうちの場合は怠けたいという本心も透けて見えるので参考にならないかもしれませんが」
どうやら気を遣われてしまったらしい。
……っていうかラクロノース、怠け心を眷属に見抜かれてるぞ。
「さて、話が逸れてしまいましたが……ミールグレスの守護神に関しては我々の方でも探りを入れてみます。もしかしたら我々が追っている低級神かもしれませんしね」
「よろしくお願いします。正直なところ近年のミールグレス王国は不気味です。父や兄も簡単に他人を信用する人ではなかったのに、ミールグレス王国の思想には手放しで賛同しているのが気がかりでして。そういう意味でもあの国は気になりますので、こちらでも引き続き手の者に探らせてみます」
ゼケットさんの申し出にソアル皇子も応じ、ふたりは頷き合った。
こうして、神の眷属チームとフォンファール帝国第二皇子派は手を組むこととなった。とは言っても、派閥と手を組んだというよりは思想を同じくする人たちと手を組んだ形だけどな。




