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女神様の眷属  作者: みぬま
フォンファール帝国編
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クラスメイトの決断

「あれっ、クライルさんじゃん。ひっさしぶり!」


 これが岩井くんの第一声だった。けろっとした様子に拍子抜けしながらも、彼はこういう人だったなと思い出す。

 同時に、鈴木さんと同じく長いこと眠っていた割に随分と元気だなぁなんて思ったんだけど……これってやっぱり、再起の奇跡の加減に失敗したってことなんだろうな。なかなか思うようにいかないもんだ。



 ともあれ、ふたりとも無事に目覚めたので改めて状況確認と今後について話し合うことになった。

 案内されたのは広い応接間……というか、会議室のような部屋。置かれているテーブルもローテーブルではなく、椅子もソファーではないから寛ぎながら話し合いをする場ではないことは確かだろう。


 そんな会議室らしき部屋で、まずは状況確認から……という話だったはずなのに、気付けばどういうわけか鈴木さんがその瞳に炎を宿しながら熱弁していた。


「そこで私は決意したんです。絶対に生き延びてみせると。絶対に瀬良くんと岩井くんも死なせないと! 何故なら私の命は倉田くんに救われた命。決して無駄にするわけにはいきませんし、彼の志を継ぐのは私の役目。そして私たちは必ず生き延びて、元の世界に帰らなければいけないんです。生きて帰って、倉田くんのご家族に彼の勇敢な行いと、助けられておきながら彼を救えなかった謝罪をしにいかなきゃだめなんです!」


 ……正直に言っていいだろうか。さすがにこれはむず痒いどころじゃない。めちゃくちゃ恥ずかしい!

 そもそもおかしいだろ。鈴木さんはフォンファール帝国に攫われてくる道中で聞いた犯人たちの会話について話してたはずなのに、どうしてこうなった?

 つうか、白夜とゼケットさんはにやにやしながらこっち見ないで!


 ちなみに瀬良くんは鈴木さんの言葉にうんうんと頷いていて、岩井くんは面白そうに話を聞いている。

 ソアル皇子とティエラ皇女に至っては真剣な表情で鈴木さんの話に聞き入っている。


 何この羞恥プレイ。


「これ以上倉田くんのような目に遭う仲間を出すわけにはいかない。だからこそ私たちは──」

「わかったわかった。キミの気持ちはよくわかったし、ボクらもそのつもりで動いてるからちょっと落ち着こう?」


 そう言って鈴木さんの暴走を止めたのは白夜だった。俺の耐えがたく思う気持ちを汲んだ瑠璃が白夜に何か言ってくれたのかもしれない。腕輪に擬態している瑠璃が何度かふるふる揺れてたし。

 とりあえず鈴木さんがクールダウンしてくれてほっと息をつく。

 一方で。


「そのクラタ様という方は、亡くなられたのですね……」


 鎮痛な面持ちでティエラ皇女が呟いた。それに応じたのは瀬良くんだ。しっかりと頷き、言葉を紡ぐ。


「はい。彼の死が僕らにこの世界は現実であると教えてくれました。そして何気なく隣にいる友人たちも、いついなくなってもおかしくないと知らしめてくれた。だから僕たちはもっと強くならなければいけないんです。自分の命を守れるように。仲間の命を守れるように。けれど僕らはまだ十分な力を手に入れられていません」


 至極堅実で真面目な瀬良くんの言葉。

 油断や増長がなくて素晴らしい。なんて思いながら聞いていたら。


「あの……クライルさん。もしよければ、また僕たちに武術の指導をしてくれませんか?」


 瀬良くんの発言に、全員の視線が俺に集中する。鈴木さんのよくわからない熱弁から解放されて完全に油断していた俺は、一瞬の思考停止を経て何とか言葉を絞り出した。


「ええと、その辺はストレイル様の眷属の誰かに頼もうかなと思っているのですが……その前にひとつ確認を」

「確認?」


 俺の言葉に岩井くんが首を傾げる。

 そう、大事な確認事項があった。まずはこれを訊かないことには何も決められない。


「シュンペイ殿とギンタ殿、そしてサナエ殿はこのままフォンファール帝国に残るつもりですか? それともエインルッツ王国に帰りますか?」


 この問いに瀬良くん、鈴木さん、岩井くんは顔を見合わせた。


「俺はエインルッツに帰りたいけど」

「私も」


 割とすぐに答えてくれたのは岩井くんと鈴木さん。しかし瀬良くんは視線を落として悩んでいるようだった。


「シュンペイ殿?」


 答えを促すように声をかけると瀬良くんは意を決したように顔を上げ、俺をまっすぐ見据える。そしてはっきりと宣言した。


「僕は、フォンファール帝国に残ります」


 そんな気はしてた。けど真意まではわからないから「理由をお聞きしても?」と問いかけてみる。すると瀬良くんはこくりと頷いた。


「ふたりが眠っていた一ヶ月の間、僕はこの国の状況をこの目で見てきました。確かに皇帝派の手口は卑怯だし、誘拐されたこと、そして僕らに従属の魔法をかけたことは許せない。同時にそんな危険思想を持つ人間の近くにいたら自分の身に危険が及ぶのもよくわかってます。でも」


 瀬良くんの瞳に決意の光が宿る。


「この国はあまりに魔物による被害が多すぎる。ソアル皇子やティエラ皇女が毎日のように駆け込んでくる兵士に指示を出しているのを見て、僕にも何かできないかと、ずっと考えていたんです」


 実に瀬良くんらしい考えだなぁと思って、つい口許が緩む。この世界に来て間もない頃にも似たようなことを言ってたしな。

 俺としても、別に彼らを安全な場所に縛り付けたいわけではない。瀬良くんがそう願うなら、彼が命を落とすことのないよう手を尽くすだけだ。


「瀬良くん……だったら私も残ります。瀬良くんひとり置いていけないし、私は自分だけじゃなくクラス全員の命を守りたいんです!」


 そう言って身を乗り出してきたのは鈴木さん。勢いがすごい。気圧されてちょっと仰け反ってしまった。


「ええー、ふたりとも残んの? だったら俺も残るわ。一人より二人、二人より三人って言うしな!」


 軽い調子で岩井くんも残留を決める。けど、正直岩井くんの申し出はありがたい。

 何というか瀬良くんと鈴木さんだけってのは少し不安なんだよな。あのふたり、ちょっと思い込みが激しい気がするし。

 一方で岩井くんは緩いけど柔軟だ。優柔不断ってわけでもない。きっとふたりが暴走したらゆるっとなだめてくれるだろう……多分。

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