なんとか再会できたものの
「シュンペイ殿。お久しぶりです」
駆け寄ってきた瀬良くんに挨拶すると、瀬良くんは突然ぼたぼたと涙を流し始めた。
「く、クライルさん……! クライルさん! ああ、よかった。僕、もう一度あなたに会いたいと……」
ぎゅっと手を握られて思わず閉口する。再会を切望されていたのはその様子からわかるものの、正直反応に困る。
「ここでは落ち着いて話もできないでしょう。こちらへ」
そう声をかけてきたのは名乗り以外では静かに佇んでいた第二皇子。父兄がいる背後を振り返ることなく、丁寧な物腰で先導して謁見の間を出ていく。
「行きましょう」
素直についていっていいものか悩んでいると、ゼケットさんが続くよう促してきた。つまり第二皇子は信用できるってことだろう。
瀬良くんもじっとこちらを見ていたかと思ったら「第二皇子は信用できます」とはっきりと口にした。
うーん……よし、じゃあ行こうか。
そう思って一歩踏み出した瞬間。
「神がっ!」
背後から声が上がる。
「神の遣いが、特定の国や勢力に与するというのですか!?」
この声は第一皇子のものだろう。しかしなんて見当違いのことを言っているのか。
「ボクらにとって国や勢力なんて関係ない。ただキミたちがボクらに協力する意思がないこと、第二皇子にはボクらに協力する意思があることがわかったから彼らについていくだけだよ」
スパッと言い切って白夜が鼻っ面で俺の背中を押す。押されなくてもすでに歩き始めていたのに、一刻も早くこの場から離れたそうにぐいぐいと押してくる。
どうやら白夜にとってあの皇帝や第一皇子は嫌いな部類の人間らしい。仕方がないので俺は歩く速度を速めた。
そうして案内されたのは、離宮というやつだろう。皇城の敷地内にある別の建物だった。
「神使様、わたくしはフォンファール帝国第二皇女、ティエラ・フェン・フォンファールと申します」
離宮の一室、恐らく応接間に通されるなり、瀬良くんと一緒に現れた綺麗な女の子が自己紹介してくれた。今度はフェン・フォンファールか。ファーストネームだけ覚えればいいかな……。
「私はサリスタ様の眷属、クライルと申します」
「ボクはスワイズ様の眷属で白夜だよ」
自己紹介されたんだし、こちらからも自己紹介を……いうことで名乗ると、白夜も便乗してきた。
そのタイミングで従者に何事かを申し付けていた第二皇子がやってきて、深々と頭を下げる。
「クライル様、そして白夜様。この度は我が帝国の愚行により不快な思いをさせてしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます」
「もうあの方々と関わるつもりはありませんので、どうかお気になさらず。ところで、ひとつお伺いしたいのですが」
第二皇子……ソアル皇子の謝罪にはさっくり返して、今一番の気がかりを解消すべく言葉を繋ぐ。
再会した時の瀬良くんの様子といい、嫌な予感がしてたんだよな。そもそも姿を現したのが瀬良くんだけだったのも気になるし、これは絶対に何かあったはず。
「こちらにいるはずの、シュンペイ殿のご友人方はどちらに?」
「それは……エインルッツ王国からここに連れてこられる際にかけられた魔法が原因で、眠ったままいまだ意識を取り戻しておりませんでして」
「……なんだって?」
悔しげに紡がれたソアル皇子の言葉に、つい素の言葉がこぼれ出てしまう。本当に俺、装うのが下手すぎるな。
「ゼケットさんは、そのことはご存知で?」
「はい。私の所見を述べさせていただくと、眠りの魔法と従属の魔法が複雑に絡み合って、眠りの魔法が強くかかってしまった状態かと。しかも従属の魔法による精神への影響が大きかったようで、単純に魔法を解いてもおふたりは目覚めませんでした。そこであなたの出番ですよ、クライルさん」
まるでこの流れを待っていたかのように淀みなく話を進めていくゼケットさん。この曲者っぷり、さすがラクロノースの眷属ということか。
反射的に嫌悪感を向けてしまい、ゼケットさんは「おっと、これは失礼を」と謝ってきた。
「我が主からくれぐれもクライルさんの機嫌を損ねぬようにと言われておりましたのに、この性格ばかりはどうにもならず申し訳ない限りです。しかしお役に立つつもりはありますからね?」
「……私は何も言ってませんが?」
「あからさまな感情であれば、ある程度気配でわかったりしません?」
それは否定しない。けれどゼケットさんには沈黙を返しておいた。するとゼケットさんは肩を竦めて話を戻す。
「ともあれ、ここで有効なのが再起の奇跡です。彼らは精神を侵されている状態。心が折れているわけではありませんが、魔法に抵抗する力が弱まっているせいで目覚めないのです。ならば再起の奇跡があれば目覚めるのではないかと」
うーん、そういうもんなのか?
よくわからないので視線で白夜に判断を仰いだら「可能性は高いと思うよ」と言われて、とりあえず納得することにした。
「では早速おふたりに会わせていただいてもよろしいでしょうか?」
俺の申し出に、ソアル皇子もティエラ皇女も快く承諾してくれた。
はっきり言ってフォンファール帝国の皇族はあの皇帝と第一皇子のせいもあっていい印象がないんだけど、皇族であるふたりを放置して話すという不敬を行ったにもかかわらず快諾してくれたこのふたりには、ちょっとだけ好印象を抱いた。
最初に案内されたのは、鈴木さんが眠る部屋だった。
俺は鈴木さんの目覚めを願いながら、その頭に触れる。もちろん奇跡の力を加減することも意識した。最初の時みたいに奇跡が効いた瞬間ハイテンションになられても困るし。
すると静かにゆっくりと、閉じられていた鈴木さんの瞳が開かれた。しばらく焦点が合わない様子だったけど、やがて周りを見回すように眼球が動く。
「あれ……? ここは?」
まだ意識がはっきりしていないのだろう。どこかふわふわとした声で発せられた声は、長いこと眠っていたせいか掠れていた。けれど目は覚めた。どうやらゼケットさんの見立ては正しかったらしい。
「鈴木さん!」
声を聞くなり駆け寄った瀬良くんからは、先ほどまでの不安そうな空気が消えていた。一緒に攫われてきた仲間が眠ったままだったことが瀬良くんを不安にさせていたのだろう。
ならば早いところもうひとりのところへ──と思った瞬間。
「クライルさん!?」
俺がいることに気付いた鈴木さんが驚きの声を上げた。その瞳は活力に溢れ、とてもさっきまで寝たきりだったとは思えないほど。
「この感じ……また助けてくれたんですね。ありがとうございます」
どうやら以前再起の奇跡を受けた時の感覚を覚えていたらしい鈴木さんは、丁寧にお礼を言ってくれた。それに対して笑顔を返す。
「いえいえ。目覚められたようで何よりです。これからもうひとりの方──確かギンタ殿でしたか、彼も起こしてくるので、シュンペイ殿から状況を聞いておいてください」
「わかりました!」
随分と元気な声が返ってきた。病み上がりでそんな大きな声を出して大丈夫かとも思うけど、元気なことはいいことだ、うん。
そんなことを思いながらソアル皇子の案内で岩井くんが眠る部屋に移動する。そして岩井くんにも再起の奇跡を施したのだった。




