いかにも悪の皇帝っぽい
ほどなくして謁見の間に通された俺たちは、フォンファール帝国の皇帝およびその息子たちと対面した。そして彼らが名乗った名を俺は必死に記憶に刻みこむ。
皇帝、ガイス・フィン・フォンファール。
第一皇子、ライック・フィン・フォンファール。
第二皇子、ソアル・フィン・フォンファール。
みんな後ろはフィン・フォンファールらしい。語感がいいから覚えやすいかも。
「それでは客人のおふたりに関しては私から紹介させていただきますね」
そう言って前に出たのはゼケットさん。まずは白夜を手で示す。
「こちらはスワイズ様の眷属、白夜様です。現在存在する全ての神の眷属の中で、最も古くから神に仕えている御方です」
えっ、そうなの!?
びっくりしてつい白夜を横目にみれば、視線に気づいた白夜が自慢げに胸を反らした。本当なんだ……。
「そしてこちらはサリスタ様唯一の眷属、クライル様です。彼はサリスタ様の眷属でありながら他の四柱の神からも目をかけられている御方。くれぐれも失礼のないように」
おっふ、サリスタ様って本当に俺以外に眷属いないの!? そんな気はしてたけどはっきり言われてしまうと少なからず衝撃を受ける。
そんでもって俺の紹介の内容! 何それ! 一国の主に対して「失礼のないように」とか、俺は一体何様なの!?
心の中でゼケットさんに突っ込みを入れていると、唐突に皇帝が立ち上がった。
「おお、それほどまでに尊き方々とは。心より歓迎いたします」
おもねるような言葉と大仰な仕草。それをわざとらしいと感じるのは、事前にゼケットさんからこの皇帝が誘拐事件の主犯格であると聞かされていたからか。
そこはかとない小物臭はするものの、強面に浮かぶ不敵な笑みはいかにも悪の皇帝っぽい。
「して、本日はどのような御用向きで?」
「それは本気で言ってるのでしょうか?」
澄ました顔で問いかけてきた皇帝に、すかさず切り返す。
すると皇帝の視線が鋭くなった。その射抜くような視線を正面から受け、俺はわざとらしく首を傾げる。
「ゼケットさん」
「はい」
「彼らにはどこまで事情をお話ししたのですか?」
俺の問いにゼケットさんは嬉しそうに目を細め、深く深く微笑む。その微笑み、どす黒すぎて恐いんですけど。
「今回の召喚が低級神と思われる存在によって干渉を受け、本来喚ばれる予定ではなかった方々が救世主としてこの世界に召喚されたこと、そんな彼らを手助けすべくクライルさんが動いていること、あなたに手を貸そうと五柱の神とその眷属たちが動いていることは伝えてありますよ」
「ならばなぜ、皇帝陛下はこのような質問をするのでしょうか?」
俺の問いかけの意図──欲しい答えを察したゼケットさんは、活き活きと答えた。
「愚かにもフォンファール帝国の皇帝陛下は我々を──ひいては我々の主を、侮っているのでしょうね」
「そんなことは!」
慌てたように一歩前に出る皇帝と第一皇子。
茶番に付き合う気が全くない俺の問いに対するゼケットさんの答えは直接的で、ここで否定しなければこの場にいる神の眷属を、場合によってはその主たる神を敵に回すことになる。当然、皇帝たちは心底焦ったことだろう。
これまでの旅路で神の眷属が地上の人々から特別視されていることくらい俺もわかってる。それでも皇帝はこの態度なのだ。神の威を借る形になったのは不本意だけど、俺たちが侮られるのはイコールで主たる神様が侮られることでもあって、それだけはどうしても許せなかった。
「我が主たるサリスタ様を軽んじていないのであれば、くだらない駆け引きはやめていただきたい。私はただ、望まずこの世界に召喚された救世主様たちを無事に元の世界に帰したいだけで、そもそも皇帝陛下にお目通りいただく必要はありませんので」
おや、というような視線を投げてくるゼケットさんに心の中で怒りに任せたわけじゃないですよ、と念じておく。伝わらないだろうけども。
「ボクもクライルと同意見。本当にくだらないね。わざわざ足を運ばされた挙句、茶番に付き合わされて。不愉快だ」
ようやく白夜も口を開いたと思ったら、俺以上にキツい言葉が飛び出した。言うねぇ。でも激しく同意。
そんな俺と白夜の様子に、ゼケットさんは思わずといった様子で吹き出した。
「失敗しましたね、皇帝陛下。彼らは真実を知っている。なのに下手に誤魔化そうとするからこうなるのです。もう挽回するのも難しいのではありませんか?」
「何を仰るのやら。真実とは一体何です?」
「まだしらを切るつもりですか」
「だから、何のことです?」
ゼケットさんが呆れたように首を横に振る。
一方で俺は、皇帝の態度に心が冷えていくのを感じていた。自分の中でこの人物に対する感情が完全に消え失せる。
「……ここにいることが、全くの無意味であることがよくわかりました」
そう言って踵を返す。辞去の挨拶すらせず去ろうとする俺に背後から怒気が向けられるけど気にしない。さくさく歩く。すると。
「お待ちください!」
謁見の間の扉が開かれた。現れたのはいかにもお姫様といった装いの綺麗な女の子。そして。
「クライルさん!」
瀬良くんだった。




