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女神様の眷属  作者: みぬま
フォンファール帝国編
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順調すぎてちょっと恐い

 エンディルの棲み処を後にして数日後、俺はエインルッツ王国とミールグレス王国の国境砦に来ていた。というのも、エインルッツ王国からフォンファール帝国に向かうにはどうしてもミールグレス王国を経由する必要があったからだ。

 ちなみに道中にあった農村や辺境都市ロンティアはスルー。本当は立ち寄りたかったけど急ぐ旅だし仕方がない。


 そんなわけで特に楽しくもなかった道中に思いを馳せることもなく、入国審査の列が進んで俺の番になった。けれど巡礼者服のおかげで特に煩わされることなくすんなり国境を越える。

 こんな簡単でいいんだろうか。そんな疑問を胸に、俺はさっさと国境砦を後にした。




 そして何事もなくミールグレス王国とフォンファール帝国の国境に到着。そう、何事もなく到着してしまった。


「何もなきゃないで恐いんですけど」

「ちょっと気を張りすぎなんじゃない? 普通はこんなもんだと思うよ」


 確かにそうなんだけど、なんかこう、これでいいのか感はある。

 一方で白夜の言うこともわかる。フォンファール帝国にもあっさり入国できたし、気を抜くつもりはないけどもう少し気を緩めてもいいのかも。


「それにしても、ミールグレス王国内の移動だけで一ヶ月か……」


 フォンファール帝国は地味に遠かった。というかエインルッツ王国側からフォンファール帝国側に抜けるにはどうしても回り道をする必要があったから、単純に移動距離と時間が長くなったのだ。


 何せミールグレス王国は国土が横に長く中央に険しい山脈が横たわっている。その関係で、エインルッツ王国側からフォンファール帝国側に行くにはその山を迂回しなければならなかった。

 なら山越えすればいいじゃないかと思ったんだけど、ミールグレス王国中央の山々はかの国にとっての聖地なんだそうで、王族か、王族から特別な許可を得た者でない限り通り抜けができないんだとか。不便すぎる。


「徒歩だと街に入るにも審査が厳しいし、比較的審査が緩い乗合馬車を使えば無駄に遠回りするハメになるし……」


 乗合馬車は自分の向かいたい場所に一直線とはいかない。けれど徒歩だと街に入る際の審査にとんでもなく時間がかかる。ミールグレス王国発行の身分証がないだけで完全に不審者扱いだ。これが普通な気もするけど、サリスタ様の神使と見るやすんなり通してくれたエインルッツ王国との差が激しい。


 一方乗り合い馬車は街と街を繋ぐ役割上、一度は街に入る審査を通過していないと乗ることができない。つまり一度審査を通過している証になるので他の街での審査も緩くなる。


「とりあえず無事にフォンファール帝国に辿り着けてよかったね」

「だな」


 白夜の言う通り、時間がかかったことと街での審査が厳しかったこと以外にミールグレス王国内で困った出来事はなく、順調にここまでこれたから良しとしよう

 あとはフォンファール帝国のどこに瀬良くんたちがいるのかがわかれば完璧だ。




 ……なんて思っていた時期もありました。

 いや本当にこんな簡単でいいのか!? と誰かに問いただしたくなるくらい順調に瀬良くんたちの居場所がわかってしまった。というか、迎えがきた。


「初めまして、クライルさん。私の名前はゼケット。ラクロノース様の眷属です。あなたをこの国にいる救世主たちのもとへお連れするよう、ラクロノース様から申しつかっております」


 にこりと微笑み手を差し出してきたのは、いかにも人の良さそうな風貌の男性。見た目は四十歳前後に見えるけど、たぶんこの人もエンディルと同じく実年齢は見た目より遥かに上だろう。

 丸眼鏡にゆったりとしたローブが学者っぽさを醸し出している。


「初めまして。お出迎えありがとうございます」


 とりあえず挨拶を返して差し出された手を取り握手を交わせば、ゼケットさんはふふっと小さく笑った。


「我が主からは神を前にしても畏れることなく自然体で対話できる人だと聞いていたので、どんな猛者かと思っていましたが……案外普通で安心しました」


 猛者ってなんだ、猛者って。

 ゼケットさんの物言いに思わず閉口すると、白夜がため息を漏らした。


「それだけ君が図太いってことだよ。ボクでも神と話すのはものすごく緊張するのに」

「ですよね。お久しぶりです、白夜様」

「久しぶり、ゼケット」


 図太いだなんて酷い言い草だな、と抗議するより先にゼケットさんが白夜に同意して挨拶を交わす。

 別に図太いつもりはないんだけど、確かに神様相手でも自然体で会話できていたかもしれない。だからと言って緊張しないわけでもないというか……。

 でも思い返してみれば確かに、白夜はラクロノース相手にかなり緊張していたような気がする。あれが普通なんだろうか。


「さて、自己紹介も済みましたし参りましょうか」

「あっ、はい。ちなみにどこへ──」


 気になって発した俺の問いは途中で途切れた。ゼケットさんが握ったままだった手にぐっと力を込めた次の瞬間、周囲の景色が一変する。

 もうすぐ辿り着こうとしていた国境近くの街が、突如重厚な雰囲気の城にすり替わる。立っている場所も土を均した街道からいつの間にか石畳に変わっていた。


「……へ?」


 あまりの出来事に認識が追いつかず、間抜けな声を上げる。すると正面に立っているゼケットさんがいたずらが成功した子供のように嬉しそうに笑った。


「ふふふ、驚いたでしょう? これがラクロノース様の加護による奇跡、空間転移です。そして目の前にあるあの城が目的地。フォンファール帝国の中枢、皇城ペイリールですよ」


 ……順調。うん、順調だ。順調すぎて、あと展開が早すぎて、ちょっと恐い。

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