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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 商業都市マルトレン編
64/113

フォンファール帝国へ

 不意に意識が浮上する。ああ、あのまま眠ってしまったんだなと理解して自分の状況を把握すべく視覚を開いた。

 感覚としては目を開くのと同様で、生前の認識もあって視点は基本的に両目の位置に置いている。当然その意識のまま視覚を開けば視界に映るのは顔の正面にある光景で。


「……」


 視界に映った光景を何気なく眺める。眺めながら、まだぼんやりとしている意識がしっかり覚醒するのを待った。

 そうして段々と視界に映るものが何なのか理解して──


「!?」


 飛び起きそうになったのをかろうじて堪える。いやだってこのまま起き上がったら頭突きしてしまう。誰にって、委員長にだよ!


「ちょっ、え、どうして?」


 混乱のあまりうまく言葉にならないまま、疑問の声が口から漏れ出ていく。

 すると位置関係的に間違いようもなく俺に膝枕をしてくれている委員長が、ぱっと表情を輝かせた。


「あ、クライルさん。目が覚めました?」


 いやいやいや、何この状況、どうしてこうなった!? 誰か説明して!?


「えーと、目は覚めましたけどこれは一体どういう状況なのでしょう?」


 しかし誰かが説明してくれるはずもないので自ら訊いてみる。すると委員長も自分の状態を改めて認識したのだろう、みるみる顔が赤くなっていく。


「す、すすすすみません! 白夜さんからクライルさんのことを頼まれて、エンディルさんの家って寝具とかないから、だから、あの、その……」


 白夜に頼まれた?

 その言葉に何気なく周囲を見回してみたけど白夜の姿は見当たらない。するとそんな俺の様子に気付いたのだろう、委員長が白夜の居場所を教えてくれた。


「白夜さんはシェラさんにお話があるそうで、今は外に出ているんです」


 なるほど……いや、なるほどじゃない。しかしなんかもう納得しないといけないというか、とりあえずこの気恥ずかしい状況から脱しようかな!

 ということでゆっくりと体を起こして委員長の膝枕から離脱する。あー、顔あっつい。


「気を遣わせてしまい申し訳ありません。どれくらい眠ってましたか?」

「一時間ほどでしょうか。でも二日間も寝てないんですよね? もう少し寝たほうが……」

「いえいえ、大丈夫です! おかげさまですっきりしました」


 なんだ「おかげさま」って! なに口走ってんだ俺!

 体を伸ばす振りをして大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出して何とか平静を取り戻す。それでも心配そうな顔をしている委員長に安心してもらうために言葉を重ねた。


「本当に大丈夫です。ありがとうございます」


 すると何故か委員長はどことなく寂しげな笑みを浮かべた。


「どうか無理はしないでくださいね」

「はい。ところで他のみんなは──」


 そういえばここはどこなんだろうと改めて周囲を見回せば、目に映ったのは岩の壁、そして岩の床。床には厚手のマットが敷かれていて──どうやらエンディルの家の中のようだった。

 ふと視線を感じてそちらを見れば、声を聞きつけてきたのだろうか、家の入り口からニヤけた顔でこちらを眺めている洋介、エンディルの姿が。


「お目覚めですかぁ? クライルさん」

「おはようございます、ヨウスケ殿」


 揶揄うような声音で寄ってくる洋介に素っ気なく返す。すると洋介はつまらなそうな顔をした。揶揄うつもりだったんだろうけど、そんな隙など見せてやるものか。


「随分無茶したらしいな? クライル」

「ん?」


 今度はエンディルから話を振られて首を傾ぐ。無茶なんて──したか。でも致し方ないというか。


「俺でもやらんぞ、敢えて遠回りしながら全力疾走で複数の山を越えてくるなんて」

「追手を巻くにはそれくらいした方が良さそうだったんだよ。出て行くときも遠回りで行くからそうそうここを突き止められることもないと思うんだけど」


 そう答えるとエンディルは苦笑いを浮かべた。


「頑張るなぁ」

「サリスタ様に自分の意思だって宣言してるし、やり切るさ」


 この言葉にエンディルは目を丸くして、再度苦笑を浮かべた。


「まぁ潰れんように気を付けろよ。今回の件、お前が要なんだからな」


 は?


「どーゆーこと?」

「五柱がお前に手を貸してるだろ? てことはその五柱の眷属は必然的にお前の補佐として動くことになるだろ? てことは総指揮はお前ってことになるだろ? な?」

「はぁ!?」


 思わず立ち上がってエンディルに詰め寄る。しかし浴びせかける言葉が全く出てこない。ただただ動揺して、口を開閉するのが精々だった。


「まぁそもそもお前が始めたことだ。責任を持って成し遂げないとな!」

「うわぁぁ……」


 これは頭を抱えざるを得ない。ひっそりこっそり動き回るつもりだったのに、いつの間にこんな大事になってたんだろう。

 思わぬ現実に打ちのめされていると、肩にわずかな重みが乗った。


「まぁボクがついてるから安心しなよ」

「白夜……!」


 おお、相棒よ! お前はなんて頼りになるんだ!

 涙腺はないけど、感激のあまり心の涙腺がうるっときた。


「よかったですね、クライルさん! 白夜様がついていたら恐いものなしですよ!」


 そう言って励ましてくれるのは、白夜とともに室内に入ってきたシェラさん。何となく白夜信者の気配を感じるけど、言われた言葉には全面同意なので頷いておく。

 すると軽く背中を叩かれた。振り返れば洋介が真剣な目で、けれどいつも通りの笑みを浮かべて俺を見上げていた。


「俺たちのために頑張ってくれてるんだろ? だったら俺にできることがあれば言ってくれ。助けてもらってばかりってのはどうにも落ち着かないしな」


 実に洋介らしくない言葉であり、洋介らしい言葉でもある。相手が俺で、俺がらしくないことをしてるからこそ出てきた言葉のようにも感じる。


「そう思うなら、他国の手の者に遅れを取らないくらい強くなって下さい。でないと頼みごとをしたくてもできませんからね」

「了解」


 あっさり俺の言葉を受け入れて、洋介は家の外に出て行った。その背中を見送っていると。


「あの……」


 今度は横から話しかけられた。そちらを見れば委員長の真剣な目とかち合う。


「私も必ず強くなってみせます。だからいつか、これまでの御恩を返させてください」


 恩を返す。その言葉に複雑な思いが込み上げる。

 そんな言葉が出てくるってことは、俺のしてきたことは少なくとも委員長の助けになったのだろう。それは素直に嬉しい。

 でも本音を言えば、恩返しよりも生き延びることを優先して欲しい。何故なら委員長も含め、クラスメイトたちを全員無事に元の世界に帰したいというのが今の俺の望みなんだから──


「ああ、そっか」


 つい声を零す。委員長が不思議そうに首を傾げたけど、それには笑みを向けて誤魔化した。


 何となく、サリスタ様の気持ちが理解できた気がする。きっとサリスタ様は俺に対して、今の俺と同じような気持ちを抱いていたんだろう。

 俺には他の何に於いても自由に生きて欲しいと願うサリスタ様。クラスメイトたちには他の何に於いても生き延びて欲しいと願う俺。そこに違いなんてなくて。


「俺は、サリスタ様を困らせてたんだな……」

「え?」


 おっと、またうっかり声に出してしまっていた。

 気を引き締めないと。


「いえ、何でもありません。しかし、そうですね……私に恩を感じていると言うのであれば約束してください。必ずこの世界で生き延びて、元の世界に帰ると」

「……なぜ、ですか?」


 俺の言葉に委員長は目を伏せた。思いがけない返しに言葉に詰まる。


「ええと……なぜ、とは?」

「どうしてクライルさんは、そんなに私たちのことばかりなんですか? こんな風に気にかけてもらって、散々お世話になっておいてこんなことを言うのは失礼だとはわかっています。でも、本来クライルさんには関係ないことじゃないですか」


 ああ、なるほど。


「サリスタ様が気にかけていらっしゃるから……という言葉では、納得していただけませんか?」

「納得できません」


 納得してもらえないかぁ。うんうん、そんな気はしてた。

 けどどうしよっかね。たぶん俺の正体を明かせば委員長も納得するだろうとは思う。でも今はまだ、それを口に出すつもりはない。

 だから。


「ではいつか、その理由を話しましょう。けれど今はその時ではありません。ですから理由を話すその日まで、ちゃんと生き延びてくださいね」

「……はい」


 まだ納得できていない様子の委員長は、それでも頷いてくれた。俺も頷き返してエンディルの家を出る。


 外には洋介、エンディル、シェラさん、ニムさん、カントさんがいて、こちらの様子を窺っていた。

 たぶん委員長との会話が聞こえていたのだろう。洋介が苦笑いを浮かべ、エンディルとシェラさんが肩を竦めている。

 一方ニムさんとカントさんは決意のようなものをその表情に滲ませながら、俺に続いて出てきた委員長に視線を送っている。


「では、私はフォンファール帝国に向かいますね。エンディル、シェラさん、あとはよろしくお願いします」

「任せとけ」

「任されました」


 こうして別れを済ますと俺は山道を駆け下りた。登った時の逆バージョンで瑠璃にお願いしようかと思ったけど、瑠璃のことはまだ内緒──あれ?


「そういえば瑠璃、俺が寝落ちる前に思いっきりみんなの前に姿を現してたよな?」


 駆け下りながら問いかけると、そうだよ、と答えるように瑠璃が揺れた。


「瑠璃についてはアキオが寝てる間にみんなに紹介しといたけど」


 白夜もあっさり肯定する。おや?


「てことは、何も走って下りなくても良かった?」

「まぁ下の状況がわからないまま下りるより安全なんじゃない?」


 そう言われてしまえばそうなんだけど──まぁ、ここまで下りてきたんだしもういいか。俺はそのまま山道を駆け下りた。

 山を下りきれば、次に向かうはマルトレンから見て北東方向。山を越え、国境を越え、ミールグレス王国を跨いだ先にある巨大国家だ。


「ここからは進むにつれて魔物の数も増えるし強さも変わってくるから、気を引き締めてね」

「了解!」


 白夜の忠告に頷き、北東の空を見上げる。

 いざ行かん、フォンファール帝国!

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