クラスメイトの行方
「して、ロイヤー殿はラクロノース様の遣いとのことだったが……急ぎの知らせとは?」
希少石の話がひと段落したところで王様が切り出すと、ロイヤーは恭しく胸に手を当てた。
「はい。まず前提として知っておいていただきたいのですが、今回の件はサリスタ様を始め、ストレイル様、ラクロノース様、スワイズ様、テックス様が注視しておられます。本来とは違う形で召喚がなされたこともありますが」
ロイヤーは一度言葉を切り、ちらりとこちらを横目に見た。
「当初喚ばれる予定ではなかった者が命を落としていることが、大きく関係しております」
おお、ここでそれを明言しちゃうのか。
これには王様たちも衝撃を受けたのだろう、一様に険しい表情を浮かべる。しかしロイヤーは気にせず続けた。
「サリスタ様はそのことを嘆き、残る救世主様たちのことを気にかけていらっしゃる。もちろん我が主やスワイズ様、テックス様、ラクロノース様も同様です。そのことを、どうかお忘れなきようお願い申し上げます」
しんと静まり返る謁見の間。その沈黙を破ったのは王様だった。
「承知した」
「ありがとうございます。では、本題に移りましょう」
これまで以上に表情を引き締めるロイヤー。ラクロノースからの言伝とは何なのか、俺も背筋を伸ばして耳を澄ます。
「連れ去られた救世主様の行方が掴めました」
いきなり超重要情報じゃん! 瀬良くんたち、見つかったの!?
驚きの目をロイヤーに向けつつ、話の腰を折らないよう必死に口を噤む。
「ラクロノース様が仰るには連れ去られた救世主様方はフォンファール帝国にいるそうです。特に雑な扱いは受けていないようですが、何らかの制約を受けて帝国に留まっている可能性が高いとのこと」
何らかの制約……? それが原因でフォンファール帝国から逃げ出せないってことだろうか。
いずれにせよ、瀬良くんたちの居場所が特定できたのはありがたい。
「フォンファール帝国ですか……これはまた厄介な」
「しかし、かの帝国にしては救世主様を攫う際に少々手際が悪かったような」
宰相が唸る。すると重鎮のひとりから疑問の声が上がった。続いて他の重鎮も意見を口にする。
「フォンファール帝国単独の犯行ではない可能性もありますな」
「怪しいのはミールグレス王国です。彼の国はフォンファール帝国とともに強く救世主様の引き渡しを要求していました」
うわぁ。俺はもう狙われる側じゃないからいいけど、クラスメイトたちはまだまだ受難が続きそうだな。
これは益々、早く元の世界に帰れるようにしてあげないと……と思っていると、不意にロイヤーが前に出た。
「他国が関わっている可能性は確かにあるでしょう。しかし現状拐かされた救世主様三名に関しては全員フォンファール帝国におります。そこで、ラクロノース様はクライルにフォンファール帝国まで行ってもらってはどうかと仰っておりました」
「え!?」
俺!?
いや、まぁ、もともと瀬良くんたちの行方は追うつもりだったからいいんだけどさ。急に指名されるとびっくりするでしょうが。
「なるほど。国同士のやり取りでは時間がかかりすぎるし、今回のような件では下手につつけば戦争に発展しかねない。その点、クライル殿は神の使い。そういったしがらみもない。さらに言えば、シュンペイたちと面識もある」
うんうん、聞けば聞くほど俺が行くのが無難そうだな。
「クライル殿、どうかシュンペイたちのことを頼む」
「かしこまりました」
王様から瀬良くんたちの件を託されて引き受ける。
あっ、そうだ。
「陛下、ひとつお願いがございまして」
「うむ、クライル殿の願いとあらば力の限り応えよう」
おおう、即答ですか。そんな大層なお願いでもないんだけどな……。
なんとか笑顔を保ったまま、ポーチから魔晶石を取り出す。マルトレン北東の山裾で手に入れた、使えるか微妙な例の魔晶石だ。洋介たちが倒した魔物の分も合わせると五つある。
「鑑定に出す時間が取れなかったのですが、ヨウスケ殿たちと行動をともにしている間に手に入れた魔晶石です。使えそうであれば、救世主様たちのためにお使いいただきたく……」
「それはありがたい。責任を持って預かろう」
王様に魔晶石を渡し、ロイヤーにラクロノースからの言伝が先ほどの件で終わりか確認したところで謁見は終了した。
謁見後、俺はこっそりクラスメイトたちの様子を見に行った。
何故こっそりなのかというと、この時点で姿を現すべきか悩ましかったからだ。そもそも顔を出したとして、何を話せばいいのかわからないというのもある。
なので物陰からそっと訓練場を覗いてみれば、攫われた三人と洋介、委員長を除いた全員が揃っていた。委員長と瀬良くんが不在の状態でちゃんとまとまれているんだろうか……と思ってたんだけど。
「おい、お前らいつまでくっちゃべってんだ。やる気がないなら出ていけ」
訓練場の壁際で雑談していた男子生徒二人に声をかけたのは、なんとクラスで唯一の不良生徒、田嶋亮司くん。相変わらず見た目は恐いしオラオラしてるけど、根はいいやつだ。
周りのクラスメイトたちも雑談の声で気が散っていたのだろう、田嶋くんが声をかけたことでどこかほっとした表情を浮かべている。
「ごめん、ちゃんとやるよ……」
「でも田嶋くんも気になるだろ? 攫われた三人がどこに連れて行かれたのかとか、王様の使いで出たまま戻ってこない委員長と洋介のこととか」
まぁ気持ちはわかるし、そんなのみんなが気にしているに決まってる。けれどみんなは、自分がそうであるように周りだって不安に思っていることもわかってる。だから敢えてこういう場では口を噤んでいるんだろう。
もちろん沈黙して心の裡に仕舞い込めばいいという話ではない。不安を抱え込みすぎると心が折れかねないしな。でも色んな人の耳に届くような場所で話すことでもないと思う。
だってほら、兵士さんたちが申し訳なさそうにしてるじゃん。三人が攫われたことや王様の使いとして出したふたりが戻らないことを、彼らが気にしてないわけがないわけで。
「気にならない奴がいたらそっちのが問題だ。でも今ここでするような話か? 周りを見てみろ」
雑談をしていた二人は田嶋くんの言葉で周囲を見回して、申し訳なさそうにしている兵士さんの姿に気づいたようだ。さっと顔色を青くして「ごめんなさい!」と謝罪した。ここですぐに謝れるのもうちのクラスメイトのいいところだ。
「……大丈夫そうだな」
男子生徒は田嶋くんが、女子生徒は委員長と仲の良かった廣瀬さんがまとめているようだ。兵士さんの指導による訓練も順調みたいだし、ここにロイヤーが加わればみんなの力も底上げできるはず。
うん、やっぱりここで顔を出す必要はなさそうだな。あとのことはロイヤーに任せて、俺は早めにフォンファール帝国に向かうとしよう。




