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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 商業都市マルトレン編
57/113

新たな情報

「見苦しいものをお見せしました」


 ストレスを発散し切って引き分けたところで互いに手を打つ。神界でもエンディルとはそんな感じでやりあってたけど、それを今ここでやってしまったことを深く反省し謝罪する。冷静になってみれば本当に何やってんだって話で。

 けれどカントさんとニムさんは笑顔で許してくれた。


「いえいえ。それよりもクライル殿が武聖殿と引き分けるほどの実力者だったとは驚きです」

「本当に。あのような手合わせはそうそうお目にかかれません。いいものを見させていただきました」


 興奮して前のめりになっているふたりの後ろでは洋介がドン引きしている。一方で委員長はカントさんたちと同様に興奮気味に目を輝かせていた。


「あれはたぶん手加減されてましたので」

「まぁ多少はな。でもほぼ全力だったぞ。つうかお前、地上に下りてもちゃんと鍛錬してたんだな。腕ぇ上げたんじゃねぇの?」


 エンディルに訊かれて地上での日々を思い出してみる。うーん、思い当たることと言えば……。


「魔物と戦うようになったからかな」

「あー、それはあるかもな。対人訓練ばっかやってると学べないこともあるし」


 そうそう。それに一度油断して大怪我をしたのも今思えばよかった。あれから油断しなくなったし。


「まぁとりあえず家に入れよ。あとその卵は預かるぜ。向こう(・・・)で引き取るってさ」


 向こうっていうのは神界のことだろう。お言葉に甘えて卵を託すと、エンディルは「こっちだ」と先導して平場の奥へと向かった。その後ろをぞろぞろと付いていくと、突き当たりでぴたりと止まる。


「ここだ」


 示されたのは平場を囲っている岩柱のひとつ。そこには明らかに人の手で作られた空洞があり、案内されて中に入ると立派な住居になっていた。

 ただ極端に家具の類が少なく、椅子すら見当たらない。一応厚手のマットが敷かれてるけど、来客を想定していないのがありありと見て取れた。

 仕方なくマットの上で車座に座る。


「あの……」


 最初に口を開いたのは委員長だった。


「先ほどから気になっていたのですが、地上のことは地上で、とか、地上に下りてからも、とか……すごく気になるのですが、それってどういう……」


 うぉっとぉ!? 確かに俺もエンディルもそんなことを口走ってたな!?

 これはどうやって誤魔化せばいいのか……!


「これはもう誤魔化せないね」


 さっくりと断じる白夜の声。気配からして防音してないなこれ。

 何か考えがあるのだろうかと動向を窺ってみれば、白夜はするりと元の姿に戻った……って、うぉぁあ!? ちょっと白夜、予告くらいしてくれよ──って、おや? 慌てて手で顔を隠してみたものの、何故か仮面の感触があるぞ?


「それ、例の方からプレゼントだって」


 例の方。ああ、例のテックス様か。本当に面倒見のいい神様だな。けどただの仮面ではあるまい。絶対何か仕掛けがあるはず。

 訝しみながら慎重に仮面を確認していると、白夜は洋介たちに向き直った。


「初めまして。ボクはスワイズ様の眷属──ああ、地上では神使って言うんだっけ。スワイズ様の神使、白夜だよ」

「すっ、スワイズ様の……!」


 白夜が自己紹介すると、ニムさんとカントさんはものすごい勢いで平伏した。一体なにごと?


「お察しの通りクライルはサリスタ様の神使であると同時に武芸の神ストレイル様の弟子でね、一時期神界にいたことがある。でも神界の話はあまり地上で広めて欲しくないんだ。だからここだけの話にしてほしいんだけど」

「もちろんです!」

「決して口外致しません!」


 何かめちゃくちゃ恐がってるように見えるんだけど、なぜだろう。


「お前よくわかってないって顔してんな。人間に最も恐れられている神はスワイズ様なんだよ。だからあの反応が普通だぞ? 何せスワイズ様に仇をなすと知性と記憶を奪われるって言われてるからな」

「は!? いやいやいや、あのスワイズ様がそんなことするはずないだろ?」

「まぁわかる。普段はあんな感じだからな。でも本気で怒らせるともんのすごく恐いぞ?」


 怒ってるスワイズ様なんて全く想像がつかないけど、知性と記憶を奪われるって言われたらそりゃ恐れられるか。

 でもなぁ……あのスワイズ様が?


「その様子だと、実際は恐くない神様なんだ?」


 こちらの会話が聞こえたのだろう、洋介が問いかけてくる。


「スワイズ様はめっちゃいい神様だよ。地上に下りる俺を心配して知識をつけてくれたり白夜を同行させてくれたりしたんだぞ? 恐い要素なんてどこにもないんだけど……」

「……ぷふっ!」


 さっぱりわからん。と首を傾げていると、なぜか洋介が吹き出した。どうしたどうした。


「あー、クライル? キミ、素に戻ってるよ?」


 なぜ笑われたのかわからずにいると、言いにくそうに白夜が教えてくれた。って、うわぁぁーーー!!?


「私、そろそろお暇しますね!」


 だめだ、気が緩みすぎている。これ以上失言する前に逃げようそうしよう!

 そう決断するなりすぐに立ち上がったものの、間髪入れずにエンディルが足払いをかけてきた。それに対して咄嗟に跳んで避けたのが悪かった。空中で身動きが取れないところを押さえ込まれ、そのまま座り直させられる。ぐぅぅ。


「もう駄目だ……こんな簡単に化けの皮が剥がれるなんて……」

「てこたぁお前にあの口調は向いてないんだよ。ふつーに喋りゃいいじゃねぇか」

「うっさい。いいか、人間社会に於いて敬語っていうのは万能なんだからな!」


 実際、普段から敬語で話してたからこそ領主様が相手でも淀みなく話せたし、信じられないくらい偉い人──それこそ国王陛下を前にしても切り抜けられたという自負がある!


「そうゆうもんかねぇ」

「そうゆうもんなの!」

「ふぅん」


 この気のない返事。たぶんきっと間違いなく、エンディルは相手が誰であろうと変わらずこの調子なんだろう。

 ああ、またもや暖簾に腕押しでどっと疲れた。


 そんなこちらのやりとりを眺めていた白夜はくっくっと喉で笑うと、改めて洋介たちを振り返った。


「とりあえず話を続けさせてもらうよ。さっき言った通り、この世界には神々の住まう世界が存在している。そしてキミたちが神使と呼ぶ存在は正確には神の眷属を示してるんだよ。ただ、彼らはちょっと事情が違う」


 白夜が視線で示したのは洋介と委員長。


「彼らは救世主って呼ばれてるみたいだね。けれど正しくはラクロノース様によって異界から招かれ、この世界に喚び出された者なんだ」


 おっと、俺の知らない話が始まる予感。白夜の話に耳を傾ける。


「ただ、今回は召喚された人数が異常に多かった。その理由についてキミたちに話しておくようラクロノース様から連絡がきたから、今から話すよ」


 白夜は一旦言葉を切り、一呼吸置いてから続けた。


「そもそも今回の召喚で喚ばれる予定だったのは四名。それがこんな大規模になったのは、召喚時に外部からの干渉があったからなんだ。干渉してきたのは低級神じゃないかって言われてる」


 思いがけない話に洋介がこちらを見てくる。でもこれは俺も知らない話だ。小さく首を振ることしかできない。


「本当に、ラクロノース様も油断しすぎだよね。まぁ反省してるみたいだからあれこれ言うつもりはないけど、ボクとしてはちょっと許せないかな」


 おぉ、白夜が怒ってる。こういう怒り方は珍しい……と思っていたら、白夜が一瞬だけこちらに視線を送ってきた。その行動で察する。

 なるほど、本来俺は召喚されるメンバーじゃなかったんだな。だからサリスタ様はあんなに申し訳なさそうにしてて、ラクロノースも……ん? おや? ラクロノースからは特に謝罪とかされてないな。反省しているとは言ってたけど。おやおや?


「まぁそれは置いといて……ラクロノース様は本来その四人に分け与えるはずだった力を召喚された三十二名に振り分けた。けど、そもそも召喚される予定だった人っていうのはこの世界に於いて高い能力を示すことのできる人材なんだ。つまり同じように鍛えても、必然的に力の差が出てくる」


 この言葉に委員長が息を飲む。洋介も眉間の皺を深くした。もちろん俺も、本来召喚される予定だった四人が誰なのか目星がついてしまった。


「あっこの適性の話は全員にはしない手筈になってるから、何故ボクがこの情報を開示したのかは察してね。てところでこの話は終わり」


 は?


「ちょっと情報が半端すぎじゃないか?」

「話していい範囲は神々が決めてるから、そう言われてもね……」


 唐突に話を切った白夜に詰め寄ると、白夜は器用に肩を竦めてみせた。


「俺はその低級神とやらが気になるな。もし地上にいるなら排除せにゃならん」

「あー……そっか。なんかやることがどんどん増えていってる気がするな」


 エンディルの言葉に同意しつつ、頭の中ですべきことを整理する。

 まず魔晶石集めだろ、王都のクラスメイトの状況確認と安全確保のための策を考えなきゃだろ、攫われた瀬良くんたちの様子を見にいって、場合によっては助け出して、さらにもし本当に低級神が地上にいるなら何かしら対処が必要で……うぐっ、やることが多すぎてちょっと吐き気がしてきた。

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