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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 商業都市マルトレン編
55/113

ひと休み

 何とか洋介たちと合流できたものの、空はすっかり茜色に染まっていた。さすがに今から山頂を目指すのは厳しいだろうなと思っていたら、カントさんが挙手して全員の視線を集める。


「日も暮れましたし、今日はここで休みませんか?」


 さすがカントさん。自然とリーダーシップを発揮してくれて頼りになるなぁ……なんて思ったのに、何故かカントさんの視線はこちらを向いている。つられるように他のメンバーも俺に注目してきた。何故だ。


「えーと。そうですね、それがいいと思います」


 とりあえず全く同意見なので頷いておく。

 ていうかさ、みんな顔に死相が出てるよ? ここまでの無茶な登山で相当お疲れだよね? だったら無理せず休めばいいじゃない、と思うわけで。


「私はまだ体力的に余裕がありますので、夜間の警戒はお任せください」


 実際これくらいの疲労ならまだまだ余裕だ。むしろイレギュラーな状況が続いているせいか目が冴えてしまっている。

 なので見張り番を買って出たら、みんなから「いやいやいや、交替で警戒しましょう!」と言われてしまった。遠慮しなくていいのに。




 そんなわけで、最初は俺とニムさんが警戒に当たることになった。

 まぁでも他国の手先もここまでは追ってこないだろう。何せこの山は道のりが険しいし、ほぼ一本道で身を隠す場所が少ないからな。現時点で追いついていないなら諦めたと考えても良さそうな気がする。だからと言って油断するつもりはないけども。


「クライル殿は、次はどちらに向かう予定だったのですか?」


 念のため広域の気配を探っていると、ニムさんに話しかけられた。気配を探りながら何気なく火……というか燃やすものがないから魔法道具のカンテラの明かりを眺めていた俺は、一瞬どう答えるべきか考える。


「……実は、巡礼と言っても気ままな旅のようなものでして。サリスタ様ゆかりの土地も少ないですし、何となく順番に街を渡り歩いているだけなんですよ」


 だから特に次の目的地は決めていませんと暗に仄かしてみれば、ニムさんは「確かに」と頷いた。


「サリスタ様は謎の多い神様ですし、ゆかりの土地と言われても咄嗟に思いつきません」

「謎……多いですか?」

「はい。そもそもクライル殿が現れるまで、サリスタ様に神使様がいることすら知られていなかったと思います。なのでクライル殿が王都に現れた時は教会もさぞ驚いたことでしょうね」


 え、そんな感じなんだ。

 とは言え俺も、俺以外にサリスタ様の眷属がいるのか全く知らないんだけども。


「そんなこともあって、クライル殿が現れた時は女神サリスタ様から救いの手が差し伸べられたのだと城の者たちで話していたんですよ」

「そんな、大袈裟な」


 確かに俺はサリスタ様の眷属だけど、俺の行動がそのままサリスタ様の意思ってわけじゃないのに……とは思うものの、それを明言するのは何となく憚られたので遠回しに違うよと言ってみる。

 しかしニムさんは至極真剣な顔で首を横に振った。


「大袈裟なんかじゃありません。あの時クライル殿が救世主様たちを救ってくださったこと、そして王都を出たあとも我々の同胞を救い、無念の内に命を散らした者たちの仇を討ってくださったこと……本当に感謝しているんです」


 真っ直ぐに向けられた言葉。

 まさか委員長に続きニムさんからもこんな言葉をもらうことになろうとは。何というか……むず痒い。


「……正直に言いますと、そんな大層なことをしたつもりはないんですよ。たまたま通りがかっただけで、偶然の結果なんです。でも、結果的にお力になれたのならよかったです」


 うむ、相手の気持ちを無碍にせず、しかし己の主張も織り交ぜる。我ながらパーフェクト回答なのでは!


「クライル殿は、謙虚でいらっしゃるのですね」


 そう捉えちゃいますか。

 けどこの反応でニムさんの俺に対する認識がどうあがこうとも覆らないことを察してしまったので、曖昧に笑っておいた。




 その後は兵士の仕事やニムさんの故郷の話を聞いているうちに交替の時間になった。

 五人という人数の関係で、そして最も疲労を蓄積しているであろう委員長をしっかり休ませるという男性陣の暗黙の了解もあって、引き続き俺が見張りを担当。ニムさんはカントさんと交替した。


「その卵ですが」


 しばしの沈黙を挟んで話を切り出したのはカントさん。

 ちなみに卵に関しては合流してすぐに「何それ?」と聞かれたので、崖の途中にあった洞で拾ったと説明してある。


「それは神鳥の卵かもしれませんね」

「神鳥、ですか?」


 記憶を探ってみたものの、スワイズ様に教えてもらった知識の中にその名を見つけられなかったので訊いてみる。するとカントさんは頷いて説明してくれた。


「はい。神鳥は断崖絶壁に棲み処を作り、滅多に人前に姿を現さない巨大な鳥なのだそうです。そのあまりに美しい姿と神出鬼没さから神の使いとも言われている鳥です」


 なるほど。その特徴なら確かに拾った場所や卵のサイズからして神鳥である可能性は高そうだ。

 残念ながらこの卵は孵らなかったけど……。


「そんなに貴重な鳥なら、一度くらい見てみたいものですね」


 そう応じながら卵を撫でる。ひやりとした冷たさに、何となく物寂しさを感じた。


「言い伝えではその姿を見た者に幸運をもたらすとも言われておりまして。なので、その……卵はこの山から持ち出さない方がいいのではないかと」

「ああ、なるほど。そうですね、武聖殿に訊いても弔い方がわからないようであれば巣に戻してきます」


 例え確証がなくとも、この山に神鳥の巣があると噂になったらどんな輩が荒らしに来るかわかったもんじゃない。巣が残っているということは育った雛が親鳥として戻ってくる可能性もあるし、そういった事態は避けたいところだ。


 となると、あの洞に続いていた階段と通路が気になるな。岩山をあんな風にくり抜いてまで道が確保されているということは、あの巣はすでに誰かに発見されてるんだろうし。

 その割に卵は残されていたし、巣も荒らされた様子はなかった。謎だ……。


「簡単に仰いますね」

「え?」


 通路の謎に首を傾げていると、カントさんが苦笑を漏らした。どういう意味?


「あの険しい山道を戻って卵を元の場所に戻すと考えると、私などは正直厳しいなと感じてしまいます。しかしクライル殿はそうは思われないのだな、と」


 あ、なるほど。確かにあそこに戻るのは面倒だもんな。でも勝手に持ち出しておいて対処できないからってその辺に放置するのはどうかな、と思うわけで。

 なら何で持ってきたんだと問われたら困るんだけど。自分でも何であそこに残しておけなかったのかよくわからないし。


「どんな鍛え方をしたらクライル殿のようになれるのか、とても興味深いです」

「それは……」


 言いかけて、やめる。というか続く言葉が出なかった。まさかストレイル様に鍛えて貰いましたとも言えないしなぁ。

 だというのにカントさんは興味津々で続く言葉を待っていた。


「ええと……私は魔力の器を持っておりませんでして。その関係で魔法の恩恵に与れないので、師がこの身ひとつで生きていけるように鍛えてくれたのだと思います」


 嘘は言っていない。実際ストレイル様も似たようなことを言ってたし。


「なるほど、確かに魔法の恩恵は大きいものです。それがないとなると、己の肉体を鍛えるしかないですね」


 どことなく気遣わしげに、けれど心底納得したと言わんばかりにカントさんは頷いた。




 交替の時間になった。次はカントさんが引き続き警戒にあたり、俺と洋介が交替する。しかし全く眠気がやってこない。

 このまま起きてようかな……なんてことを考えながらふと見遣れば、荷物の側で安らかに眠る委員長の姿が。ニムさんはそこから少し離れた岩に寄りかかって眠っている。


「……」


 何でだろう、人が眠っているのを見たらちょっと眠くなってきた。さっきまで全然眠れる気がしなかったのに。

 とりあえずニムさんに倣って近場の岩に背を預けて座る。そのまま意識を落としていき──何があってもすぐ動けるように、浅い眠りについたのだった。

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