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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 商業都市マルトレン編
54/113

合流

 洞から続いていた階段を上り、現れた横道を抜け、再び現れた階段を上る。するとようやく太陽の光が見えてきた。

 どうかこの道が山道と合流していますように……! そう祈りながら光の下に足を踏み出す。


「わっ、まぶしい……!」


 後ろから出てきた委員長の声を聞きながら周囲を見回すと、右手側に割と広い道幅の上り坂があった。ううむ、これは……合流できるのか?


「まだ歩けますか?」


 振り返って問いかける。しかし委員長は目を細めながら首を横に振った。


「ちょっと待ってください。まだ明るさに目が慣れなくて……」

「ああ……なるほど」


 今の視覚だと全く気にならないけど、普通はそうなるのか。確か暗いところから明るいところに出ると目が慣れるまで時間がかかるんだったな、と生前のことを思い出して理解を示す。


 とりあえず委員長の目が慣れるのを待つついでに休憩を取ることにして、リュックにカンテラを仕舞い込む。

 さらに防寒具兼敷布用に買った大きな布で卵を包み、肩から斜め掛けにして固定してみた。うん、これなら手を滑らせて落とすこともないだろう。ちょっと安心。


「……その卵、どうするんですか?」

「山頂にいるという武聖殿に聞けばいいかと思いまして」


 俺の予想が正しければ武聖とやらは俺の知り合いである可能性が高い。というかストレイル様の眷属であればほぼ確実に顔見知りだろう。何せ神界での特訓にはストレイル様の眷属たちも参加させられてたからな。

 正直なところ神界関連の知り合いに地上で会うのはちょっと……と思わなくもないけど、洋介たちのことを考えると会っておいた方が良さそうだし、卵のことも弔い方くらいは教えてくれるだろう。



 その後もたわい無い話をしながら休憩していると、ふと洞から出られたことを洋介に連絡しとこうかなと思い立つ。でも委員長の前で白夜に頼むのもな……あ、そうだ。


「ハナコ殿」

「はい?」

「このペンダントに魔力を注いでもらってもいいですか?」


 白夜に頼めないなら委員長に頼めばいいじゃない。ということで、首からペンダントを外して委員長に渡す。


「これも魔法道具ですか?」

「はい。この片割れをヨウスケ殿に渡してあるので、魔力を注ぐとヨウスケ殿と連絡をとることができるのですが……何分この魔法道具、魔力のない私には使えないものでして」


 あっ、説明してみたら結構苦しい感じになってしまった。普通に考えたら使えもしない魔法道具をどうして持ってるんだって話だよな。失敗した。


「そうなのですか……では魔力を注いでみます」


 しかし委員長は特に追及することなくペンダントに魔力を注いでくれた。そして。


「…………あ、大島くん?」


 しばしの間を置いて委員長が声を上げる。おや? こっちには何も聞こえないんだけど。


「あれは魔力を流した者同士を繋ぐ魔法道具だからね」

「へ? でも俺、洋介と会話できてたけど」


 俺の疑問を察してくれたのか、白夜が教えてくれる。しかしその言葉にさらなる疑問が浮かんだ。

 なので声を潜めつつ訊いてみれば、「それはボクがそういう風に調整してたからね」と返されてしまった。白夜は簡単に言うけど、きっと難しいことなんだろうなぁ。


「いつもありがとうございます」

「ふふん。ボクがいてよかったろ?」

「それはいつも思ってる」

「くふふ」


 何やら白夜がご機嫌だ。瑠璃もご機嫌なのかちょっとだけ揺れた。


 そんな会話をしているうちに委員長の方もやり取りを終えたらしい。こちらを振り返って「先に山頂に向かっているそうです」と伝えてきた。まぁ合流地点としては山頂が一番わかりやすいか。


「では我々も山頂を目指しましょうか」

「はい」


 頷きながら委員長がペンダントを差し出してくる。しかし。


「あ、それその子にあげちゃって大丈夫だよ。なんかテックス様が魔力なしでも使える通信用魔法道具を開発してくれるって」


 防音の魔法を使いながら伝えられた内容に、思わず「マジで!?」と口に出しそうになってしまった。ギリギリ口をひき結んで堪え、咳払いをひとつ。


「ハナコ殿、そちらは差し上げます。私が持っていても宝の持ち腐れですし、きっとハナコ殿が持っていた方が有益でしょう」

「えっ!? でも、そんな……魔法道具って高価なものじゃないですか。先日も買っていただいてますし、さらにいただくわけには……」


 そうでした、魔法道具ってお値段が張るんでした。そりゃ遠慮もするか。でもさ。


「いつまた今回のようなことが起こるかわかりません。備えとして持っておいてください。その方が安心です」


 本当にそう思う。

 足を踏み外したことだけじゃない。他国の手の者によって連れ去られた瀬良くんたちだって、連絡手段さえあれば無事を確認できたのに……。


「そう……ですね。わかりました。ありがとうございます」


 委員長も同じようなことを思ったのだろう。今度はしっかり受け取ってくれた。




 休憩を終えてしばらく上り坂を歩いていくと、ようやく別の道に合流できた。道としてはここまで歩いてきた上り坂の方が道幅が広くて安心だったけど、現れた道はまたもや絶壁と崖に挟まれた足場の狭い道。

 ここまでの道中から察するに、恐らくこの狭い道が山頂に至る唯一の道なんだろうなと思う。


「……」


 ちらりと見遣れば、委員長は青ざめた顔で山頂に向かう道を眺めていた。よく見たら足も震えてるな。落ちたのがトラウマになってしまったのだろう。

 ならどうしたらいいか……縄で繋いで行く? でもそんなの何のトラウマ対策にもならないだろうし。となるとひとつしか手が思いつかないんだけど……。


「……あの」

「はい」


 思い切ったように委員長が声をかけてきた。何かいい案が!? と思っていたら、勢いよく右手を差し出された。


「あのっ、ご迷惑でなければ手を繋いでいただけませんか!」


 ああ、そういう結論に……しかしそれは何だか気恥ずかしい。しかも片手が使えないの危ないじゃん。俺は平気だけど委員長が危ないじゃん!


「えーと、それでしたら私がハナコ殿を抱えて行った方が安全かなぁと」

「抱える!?」


 ぎょっとされてしまった。いやわかるよ、いきなりそんなこと言われたらびっくりするよな。でもこれが一番安全な気がするんだよ。


「重いものを持たせて申し訳ないですが卵はハナコ殿に抱えてもらってですね……あの、絶対に落としませんから」

「でっでっでっでもっ、それじゃクライルさんが大変なんじゃ」


 めっちゃどもってるな。しかし大変かどうかと言われると別に大変ではない。むしろ落ちないかハラハラさせられるよりもずっと楽だ。

 よし、ここは強硬策を取ろう。


「とりあえずこれ持って」


 卵を包んだ布を渡す。反射的に受け取った委員長に布を固定して、そのままひょいっと持ち上げた。


「ひぇっ」


 そういえばお姫様抱っこって抱えられる側は不安だったか不安定だったか、そんな話をどこかで聞いたことがあるようなないような。でもこれが一番安全なんだし、ちょっとだけ我慢してもらおう。


「それじゃあ行きますよー」


 怖がらせないよう呑気な声でそう告げて、俺は山頂に続く山道を歩き出した。




 結果、日が暮れる前に山頂手前にあった広場で洋介たちと合流することができた。自分の命運を他人に預ける形になっていた委員長はぐったりとしていて、地面に下ろすなり崩れ落ちるようにへたり込んでしまう。


「お前……あの道を委員長抱えて登ってきたのかよ」

「いやぁ、落ちたのがトラウマになってたみたいなのでこれが一番安全かなと」

「あの様子じゃ、余計にトラウマになったんじゃねぇの?」

「ソウデスカネー」


 そんな気もするけどまぁ無事合流できたんだし、結果オーライということで。

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