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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 商業都市マルトレン編
51/113

クラスメイトの実力

 小屋がある小さな森は商業都市マルトレンを南に望む位置にあった。距離としては大して離れていない。それは地下通路を歩いた距離からも予想できたことだけど。


 一方で森から北東の山までは結構離れている。しかも森と山の間は見通しのいい草原だ、身を隠す場所がない。

 ただ幸いなことにすでに日が沈み、月も雲で隠されている。遠目に俺たちの姿を視認することは難しいだろう。

 当然俺たちも──というか俺以外のメンバーも視界はよくないだろうけど、そびえ立つ山々のシルエットは見えているから向かうべき方向はわかる。


 そんなわけで先導にカントさん、続いて洋介、委員長、殿は俺とニムさんという配置で移動を開始。そのまましばらく走っていると、不意に委員長が口を開いた。


「そう言えば、全く魔物と遭遇しませんね。夜は活動が活発になるはずなのに」

「ああ、それは私の神気の影響です。弱い魔物であれば寄ってこないどころか逃げていきますよ」

「なにそれ便利!」


 息を切らしている様子がない委員長に感心しつつ応じると、洋介が驚いた顔で振り返った。ちゃんと前見て走れ。


「逆に私の神気を前にしても寄ってくるような魔物は大体厄介ですから気をつけてください。まぁその場合、上質な魔晶石を入手するチャンスでもあるんですけどね」


 神気を頼りに警戒を怠られては困る。なので気を抜かないよう注意すると、全員が表情を引き締め頷いた。


 そのままさらに走る、走る、走る。

 ようやく北東の山裾に到着した頃、遠くに見えるマルトレンの壁の外にぽつりぽつりと明かりが見えた。それが敵のものか味方のものかはわからないけど、まだまだ気を抜くことはできなそうだ。

 俺たちは足を止めることなく山裾の森へと足を踏み入れた。




 それからどれくらい歩いただろうか。山裾を覆うように生える木々を縫って進んでいくと、突如魔物の気配が近づいてきた。


「魔物が来ます!」


 俺の声に反応して委員長とニムさんとカントさんが抜剣、洋介は何やらぶつぶつと呟いたかと思ったら突如空間が歪み、次の瞬間には剣を握っていた。なんだあれ?


「空間魔法だね。防音魔法を覚えるのも早かったし、魔法の才能があるのかな」

「へぇ。いいなぁ、空間魔法。便利そう」


 白夜の解説を聞いてちょっと羨ましくなる。まぁ魔法が使えないのは重々承知してるんだけどさ。


 そのまましばし待ち構えていると、ようやく魔物が姿を現した。

 案の定その図体はでかく、ぱっと見は蜥蜴。背骨に沿って鋭いトゲが一列に並び、尾の先にも同様のトゲが扇状についている。あれに刺されたらめっちゃ痛そう──


「ギシャァアア!」

「おっと!?」

「きゃあ!?」


 突如動いたかと思ったら長い舌を勢いよく伸ばしてきた。その標的となったのは委員長。

 咄嗟に腕を伸ばして舌攻撃の範囲外に委員長を逃す。間一髪、さっきまで委員長がいた場所を風切り音を伴って魔物の舌が通り過ぎ、勢いよく引き戻された。

 うぇぇ、もしかしてあれって捕食行動……?


 寒気を覚えながら委員長を地面に下ろし、錫杖を構える。

 とりあえず皮膚はあまり固くなさそう。でも背中と尻尾のトゲは危険。顔もあの舌が邪魔をしてきそうだな。でも歯があるようには見えなかったから噛みつかれることはないか。ならば。


 魔物とカントさんたちが睨み合いに入る。そんな緊迫した場に踏み込むのはちょっと申し訳ないけども……。

 俺は思い切り地面を蹴って魔物に肉薄した。


「瑠璃……!」


 小声で呼びかけながら、反応できずにいる魔物の喉元を狙って石突きを突き出す。すると瑠璃が形成した穂先がずぶりと沈んだ。

 手応えあり。やっぱり皮膚は固くなかったな。むしろ柔らかかった。


 魔物は焦点を失い痙攣し始めると、やがて全身から力が抜け、地面に倒れ伏した。

 よし、討伐完了。早速リュックから解体用のナイフを取り出して魔晶石の位置を探る。そして迷わず魔物の心臓付近を切り開いた。


「う〜ん、これは……使えるか微妙な……」


 取り出した魔晶石をまじまじと眺める。

 大きさはかろうじて合格ラインだろうか。色も悪くないし、念のため鑑定に回すか……と思ったところで視線を感じて振り返る。するとそこには半ば呆然とした様子の委員長、カントさん、ニムさんの姿があった。一方、洋介は興味津々で俺の手元を覗き込んでいる。


「手慣れてんなぁ」

「ええ、何度も繰り返しやってきたことなので」


 そう返すと洋介は改めて魔物の全身を眺めた。


「このサイズじゃないと上質な魔晶石を持ってないのか?」

「このサイズでも手に入らないこともありますよ。これも微妙ですね。一度鑑定に回さないと」

「へぇ」


 そんなやりとりをしていると、呆然としていた委員長たちもこちらに近づいてきた。


「こ、こんな大きな魔物がたくさんいるのでしょうか」

「いやいや、こんなのがたくさんいたらこの森はもっと荒れてると思います」

「確かに……」


 恐る恐る魔物の全身を見渡した委員長。一方、ニムさんとカントさんは厳しい表情を浮かべていた。


「あのような魔物を前にしても怯まないとは……」

「我々は尻込みしてしまって全く踏み込めませんでした」


 どうやら一撃も入れられなかったことを気にしている様子。でもあれは俺が独断で飛び込んだだけだから、連携としてはカントさんたちの方が……ああ、そうか。


「いえ、出過ぎた真似をしました。つい癖で早く仕留めようとしてしまいましたが、あそこは全体の連携を図るべきでしたね。以降は気をつけます」


 今は集団行動中だ。いい加減苦手とか言ってないで周りと連携できるようにならないと……と反省していると、ニムさんもカントさんもぶんぶんと首を振った。


「とんでもない! 次こそは遅れを取らないよう頑張ります!」

「それにしても、よくあの短時間で魔物の弱点を見破れましたね」


 ずいずいっと迫られて思わず身を引いてしまう。弱点ねぇ……別に見破ったってほどのものでもないんだけど。


「生物の急所はおよそ同じですし、狙いやすそうなところを狙っただけですよ。背中から尻尾にかけてはいかにも危険そうだった。顔周辺なら舌は厄介だけど歯があるようには見えませんでしたし、比較的安全かなと思いまして。それに皮膚も柔らかそうでしたから、弾かれることもなさそうだなと」

「なるほど、そういう考察も必要なんですね」


 あ、そうか。ニムさんとカントさんは強い魔物との戦闘経験が少ないんだっけ。普通の魔物が相手ならある程度力技で解決できるから弱点を知らなくても倒せるし、弱点の考察はあまりしてこなかったのだろう。

 今後は強力な魔物を相手にすることも増えるだろうし、ならばこれは言っておかないと。


「ただ私のように正面から突っ込んでいくのはお勧めしません。私は再生の加護があるからこそ無茶ができるのであって、普通は失敗を考慮しつつ安全圏から試行を繰り返して弱点を探ります」

「なるほど」

「勉強になります!」


 そんな話をしつつ魔物の亡骸を放置して進む。もしここが街道なら街道の外に魔物の亡骸を移動させる必要があるけど、道も何もないこの場所でそんな気遣いは無用だ。

 まぁ追跡者に対しては痕跡を残すことになるんだろうけど、あれを片付けている暇はない。そんな時間があるなら先を急いだ方がいい。


 そうして進んでいくと、再び魔物の気配が近づいてきた。今度は下手に手を出さず見守ることにして、魔物接近の警告だけしておく。


 姿を現したのは先ほどよりも一回り小さな、けれど同種の魔物。

 四人が魔物に立ち向かう中、いつでも動けるように身構えていたものの──意外や意外。委員長と洋介がいい動きをして魔物の注意を引きつけ、ニムさんとカントさんが俺と同じく喉元を狙って左右から攻め込む。


 これは決まったなと思ったけど、魔物の動きも素早い。僅かに下がることで致命傷を避け、尻尾を振り回した。それを委員長が魔法で防ぎ、回避のため下がったカントさんの横をすり抜けた洋介が魔物の喉に剣を突き立てる。決まった。

 喉を切り裂かれた魔物はやがて力なく地に伏し、完全に沈黙する。


 なんだ、委員長も洋介も十分戦えるじゃないか。

 目の前で披露された成果に満足していると、全員がこちらを振り返った。


「ん?」


 不思議に思っていると、委員長と洋介が走り寄ってくる。


「どうでしたか?」

「何か問題点とかあったか?」


 ああ、それか。王城で欠点を指摘しまくってたあれをここでも求められてるのか。


「不測の事態はいつでも起こり得ますし、初撃が外されたのを想定の範囲内と考えていたならば言うことはないかと。そもそも無傷で倒し切ったのですし、実戦でこれだけ動けていれば私に言えることは何もありませんよ」


 実際予想以上によく動けてたし、ニムさんやカントさんとの連携も上手かった。

 はっきり言って俺ごときがあれこれ意見する資格があるんだろうかと思うくらい安定した戦い振りだったと思う。


 そんなこんなでその後もぽつぽつと現れる魔物を相手に四人の連携を確認しては意見を求められつつ、着実に山道を進んで行くのだった。

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