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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 商業都市マルトレン編
50/113

商業都市からの脱出

 緊迫したニムさんの声に嫌な予感を覚える。直前の会話のせいか、咄嗟に思い浮かんだのは他国が救世主の引き渡しを要求している件。

 まさか、もうどこかの国が動き出したのだろうか……。


 そんな懸念を抱きながら室内に招き入れたニムさんは、こちらを気にしながら洋介に用件を伝えた。


「すぐにハナコ殿と合流してください。急いで身を隠さないと──」


 身を隠す。その言葉で嫌な予感が確信に変わる。

 一方で洋介はニムさんの言葉をただただ不思議がっていた。やっぱり王様は洋介たちに事情を話してないんだな。


「ニム殿、私も同行しましょう」


 そう申し出れば、ニムさんは意図を問うような視線を向けてきた。


「さる御方から事情は聞いています。護衛は多い方がいいでしょう」

「左様でしたか! 助かります」


 まさか魔物から守るより先に人から守ることになるとは。

 そんなことを考えながら呆然としている洋介の背中を押してニムさんに続くよう促す。洋介も事情がわからないなりに緊急事態だと理解したようで、廊下に出た。


 廊下ではすでに困惑顔の委員長とカントさんが待っていて、合流するなりニムさんがカントさんに声をかける。


「クライル殿は事情をご存知で、同行してくださるそうです」

「それはありがたい。陛下がマルトレンに使者を送り出したことは向こうも把握しているはずです。恐らくこの街にもあちらの手の者がいると思われます。どこに間諜がいるかわからない現状、留まるより身を隠した方がいいかと」

「そうですね。人に囲まれているからと言って安全とは言い切れませんし」


 カントさんの言葉に頷く。

 ざっと邸内の気配を探ってみたけど、人との接触を避けるようにこちらに向かってくる気配がいくつかある。明らかに怪しい。

 そういった輩が無限に湧いてくるとは思わないけど、ずっと気を張り詰めてるのもしんどいし、領主邸の人を巻き込んでしまうのもちょっとな……。


「ちなみに領主様はこのことをご存知ですか?」

「はい、そもそもこの知らせ自体、領主様からもたらされたものでして」

「皆様、こちらです!」


 話している間に、不穏な気配とは別にまっすぐこちらに向かってきていた気配が立ち止まり、声をかけてきた。

 振り返ればヴェントさんがいくつか先にある部屋の前で扉を開けて手を振っている。恐らく逃走経路はヴェントさんが案内してくれるのだろう。知らない人じゃないし、個人的には信用してるから安心できる。

 しかしニムさんやカントさんは警戒していた。もはや誰を信用していいのかわからないのだろう。


「彼は大丈夫ですよ。行きましょう」


 万が一、本当に万が一ヴェントさんが他国の手先だったら俺が何とかする。そんな決意を込めて促すと、猜疑心を振り切るようにニムさんとカントさんは洋介たちを促して走った。俺もそれに続く。


 そうして扉を潜ると、そこは物置部屋だった。いかにも何かありそうだけど、物が多すぎてどこから調べればいいかわからないような部屋だ。

 思わずきょろきょろと見回していると、慎重に扉を閉めたヴェントさんが机の下を探り、床板を外す。その下には人ひとり通るのがやっとといった大きさの暗い穴があり、梯子が下へと伸びていた。


「少々手狭ですがこちらから外に出られます。私が先に下りますので、ついてきてください」


 そう言って明かりの魔法を使うなりヴェントさんが梯子を下りていく。すると続くべきか迷うように洋介と委員長がこちらを見てきた。なのでにこりと微笑んでみせる。


「私が殿を務めますのでご安心を。ニム殿とカント殿が先、次にハナコ殿、ヨウスケ殿の順で下りた方がいいと思います」


 ニムさんとカントさんはまだヴェントさんのことを信用しきれてないみたいだし、だったら護衛対象より先に下りてもらった方がいいだろうと思って提案してみる。

 するとすんなり俺の意見が通ってニムさんとカントさんが梯子を下りていき、委員長もそれに続いた。


「……大丈夫なんだろうな?」


 残った洋介が問いかけてくる。

 何が、とは聞かない。こういう時に聞きたい言葉なんて大体決まってるもんだ。


「もちろん」


 迷わず頷くと洋介はふっと笑った。


「勘か?」

「勘だな」

「了解」


 ようやく安心したのか、洋介も梯子を下りていく。俺もそれに続き、床板をそっと閉じた。



 梯子を下り切ったあとは地下道のような場所を歩いていく。ここは割と広く、二人並んでも余裕がある。

 道中何度となく現れた分岐を迷わず進むヴェントさんについていくと、やがて上へと登る梯子が現れた。


「ここを登れば街の北にある森の管理小屋に出ます。私の案内はここまでとなりますが、どうかお気をつけて。皆さまの旅にあまねく神々の導きがあらんことを」

「ありがとうございます。ちなみに領主様は大丈夫でしょうか?」


 丁寧にお辞儀をするヴェントさんに問いかけると、「あちらも派手には動けませんから」と笑顔で返された。なら大丈夫か。


 改めてヴェントさんにお礼を言って、ニムさん、カントさん、洋介、委員長の順で梯子を登っていく。俺は委員長が登り切ったのを確認してから最後に梯子を登った。

 そうして抜け出た先は、五人も人がいると手狭に感じるような小屋だった。ちなみに出口は暖炉の中。みんな服が汚れてしまっている。俺も少しは汚れたけど軽く払ったら綺麗に落ちた。やっぱりこの服すごいな……。


「なぁ、そろそろどういう状況なのか聞かせてくれないか?」


 俺が改めて服の性能に感心していると、洋介が切り出した。

 何となくそれに答えるのは俺の役目ではない気がしてカントさんの方を向けば、カントさんがゆっくりと頷く。


「わかりました。陛下からも状況に応じて話すよう言われておりましたので──」


 そうして説明された内容は、俺がドイロックの領主様から聞いた内容と同じだった。

 この情報は国内各地の領主が把握していて、周辺国や自領内で怪しい動きがあればすぐさま王城に知らせるよう通達されていたようだ。


「クライルさんもご存知だったのですか?」

「ええ。とある方から教えていただきまして」


 委員長の問いに答えると、洋介が「だから魔晶石集めを急いでたのか」と得心した様子で呟いた。


「しかしどの国かはわかりませんが、思ったより早く動き出した上に大胆な手に出ましたね」

「ええ。王城の方では救世主様が三名ほど連れ去られてしまったそうです」

「え!?」


 新たにもたらされた情報に、思わず大きな声を上げてしまった。


「誰が連れ去られたんですか!?」


 委員長も信じがたいと言わんばかりの表情でカントさんに詰め寄る。そうして告げられた名前は。


「シュンペイ殿とサナエ殿、あとはギンタ殿だと聞いております」

「……意外だな」

「そうね」


 ぽつりと洋介が呟く。委員長もそれに同意した。

 どういうこと?


「瀬良と鈴木さんの実力は俺たちの中でもトップクラスだ。はっきり言って他のクラスメイトより断然戦えるし、逃げることだってできたはず。なのにそのふたりが含まれてるっていうのがな」


 俺が首を傾げた意味に気づいたのだろう。洋介が説明してくれた。なるほど。


「やはり急いだ方が良さそうですね……とりあえず今はここから離れましょう。カント殿、ニム殿、身を隠す場所のあてはありますか?」

「はい。他国の手の者もそういつまでも目立つ行動は取れないはずですので、その間でしたら北東の山に避難するのがよろしいかと」

「北東の山?」


 カントさんの提案に本当にそこは安全な場所なのかという疑問が浮かんだけど、すぐにニムさんが追随した。


「北東の山には武聖様がいらっしゃいます。彼の方は不正や卑怯な手口を嫌うことでも有名ですので、きっと力になってくれますよ」


 武聖……? 何故だろう、嫌な予感がするぞ?

 ほら「武」って付くとさ、あの御方を思い出すじゃん?


「その、武聖殿はすごい人なんですか?」

「ええ、ありとあらゆる武術を習得した達人です。しかもなんと、彼の御仁はストレイル様の神使様なんですよ!」


 やっぱりかー!


 予感していたことが現実となって、俺はついよろめいてしまった。

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