◆クラスメイト:大島洋介・4
◆ ◇ ◆
一ヶ月ぶりに再会した秋生は何故か神々しさのようなものを纏っていた。前回会った時は全くそんなものを感じなかったのに、何なんだあれ。
でも話してみると馬鹿丁寧な口調を除けば実に秋生らしいのらりくらりとした応答。こっちの悪ふざけにも普通に乗ってきたし、中身まで変わったわけではなさそうでちょっとほっとした。
それでもあの神々しさの正体は気になる。なので護衛兵のひとり、ニムさんに訊いてみた。
「なぁニムさん。ニムさんから見てクライルさんってどう見える?」
「どう、とは?」
「前に王城で見たときとなんか違くない?」
これで伝わるだろうか。そう思いながら訊ねてみれば、ニムさんは得心したように頷いた。
「ああ、そうですね。前回お会いした時より神気が強くなられたようです。サリスタ様からの寵愛が深くなったのでしょう」
「シンキ? チョウアイ??」
耳慣れない言葉が聞こえてきたぞ。とりあえず寵愛はわかる。けど、シンキっていうのと神からの寵愛が深くなるっていうのがわからない。
そんな俺の疑問に答えてくれたのはもうひとりの護衛兵、カントさんだった。
「神気とは、神が持つ力の余波のようなものです。神使様と救世主様は全員が纏っておられますので、ヨウスケ殿やハナコ殿も神気を放っていらっしゃいますよ」
えっ、そうなの?
何気なく一緒に話を聞いていた委員長と顔を見合わせると、委員長もちょっとびっくりした顔をしていた。
「ただその神気の強さがクライル殿の場合は段違いです。前回お会いした時よりさらに神気が強まっていることを考えると、クライル殿が信仰しているサリスタ様からの寵愛……つまりサリスタ様から認知され、大切にされている、ということなのですが、その寵愛が深くなったのではないかと」
おぉ秋生、この一ヶ月の間にお前の身に一体何があったんだ。超気になる!
「気のせいでなければサリスタ様以外の神気も感じますよね」
「そうだな。鋭く研ぎ澄まされた感じはストレイル様か。それと近くにいると全てを見通されそうな感覚はスワイズ様。あと名状しがたい高揚感はテックス様。そして全てを委ねてしまいたくなる感覚はラクロノース様だな」
後輩のニムさんに話を振られたカントさんは、俺に対するのとは違う砕けた口調で応じる。
「そんなに多くの神の神気を持つことってあるのですか?」
委員長の問いにはカントさんが引き続き答えてくれた。
「稀にですが、信仰する神とは別の神からも興味を持たれ見守られていることがあります。その場合は複数の神の神気を纏うことになるのですが……それにしてもクライル殿を見守っている神は多いですね」
それ、俺の予想が正しければ実際に関わりがあるからじゃないかな。少なくともストレイル様、テックス様と関わりがあるのは確実っぽいし。
ただ気になるのは、そこに俺たちをこの世界に導いたラクロノース様の名があることだ。あいつ、ラクロノース様とも関わりがあるのか……?
これは聞かなきゃいけないことが増えたな。
そんなやりとりをしているあいだに仕事斡旋所での手続きを終えたのだろう、秋生が戻ってきた。国王陛下からの指名依頼ということで奥の部屋に案内されてたけど、無事依頼を受けてくれたらしい。
「それではもう少し街を散策してから領主様の邸に向かいましょうか」
そう提案してくれたのは秋生と行動を共にしていたヴェントさん。その言葉に秋生が明らかに表情を明るくした。
そんなにこの街には興味深いものが売られてるんだろうか。気にはなるけどお金持ってないしな。ちょっと残念……。
「いやぁ〜、ヴェントさんは本当にいい店をご存知ですね!」
上機嫌の秋生がヴェントさんを褒めちぎり、ヴェントさんは穏やかな笑顔を浮かべながら「それほどでも」と謙遜する。
そんなふたりのやりとりを眺めながら、俺と委員長はそれぞれ手にした魔法道具に困惑していた。
「あの、クライルさん。本当にこちら、もらってしまってもいいのですか?」
委員長がもはや何度目かわからない確認を行う。すると秋生は苦笑しながら「どうぞどうぞ」と頷く。
そう、俺と委員長が持っている魔法道具。これは秋生が買ってくれたものだ。
俺と委員長が興味深く眺めていたものをそれぞれひとつずつ購入してくれたのだ。
決して安いものではなかったけど、秋生はポンと支払いを済ませた。なので「クライルさん、おっ金持ち〜」と軽口を叩いたらニヤリと笑って「魔物討伐は儲かるので」と返されてしまった。
それが本当なのか判断がつかなかった俺は、ここでもカントさんに聞いてみた。すると「上質な魔晶石を持つ魔物を八体も討伐したそうですし、実入りは良かったのでしょう」とのこと。そういうもんなのか。
領主邸に到着し、領主様から丁寧な挨拶で迎えられ、豪勢な晩餐をご馳走になる。その後案内された部屋は何とも豪華な部屋だった。これ絶対貴族向けだろ……と尻込みしていると、隣室らしい秋生が俺の様子を見てうんうんと頷きながら部屋に入っていった。
だよな。これ、絶対落ち着かないよな。
とは言っても王城であてがわれている部屋も貴族向けなんだけど。ただあちらはもう少し落ち着きのある色合いと装飾だからかここまで腰が引けることはない。
そう、つまり色合いと装飾の派手さが俺を尻込みさせているのだ。
しかしいつまでも部屋の前で突っ立っているわけにもいかない。思い切って室内に踏み込むと、足元がふかっとした。
めっちゃいい絨毯使ってる……!
「くっ、落ち着かねぇ」
ちなみに委員長は秋生とは反対側の部屋だ。秋生と話したいけどこの部屋で例のペンダントを使うと廊下に声が漏れてしまうかもしれないし、どうせ秋生は隣室だし、直接話しに行った方がよさそうだな。
そう結論付けるなり部屋を出る。すると扉の横で護衛任務真っ最中のニムさんと目が合った。
「どちらへ行かれるのですか?」
「ちょっとクライルさんと話したくて。すぐ隣の部屋みたいだし行ってもいい?」
「それでしたら同行させていただきます」
目と鼻の先なのにとは思うものの、いつどんな不測の事態が起きても対応できるようにという心構えの現れなのだろう。それにしても過保護なような。
しかしさすがに室内までついてくるつもりはないようで、ニムさんがついてきたのは部屋の前まで。秋生に室内に促されても部屋の前で待機しています、と断っていた。
さて、ここからが本番だ。今日までに溜めに溜めた数々の疑問を片っ端から訊きまくるぞ!




