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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 商業都市マルトレン編
47/113

指名依頼と護衛対象

 ヴェントさんが案内してくれたのは個室のある店だった。昼食をとった店より質素だけど、造りからして商談や密談向けの店っぽい。

 店内に入るとすぐに店員さんがやってきて、ヴェントさんと一言二言交わすと奥まった部屋に通された。それぞれが席に座り、一息つくのを待って委員長が切り出す。


「まずは国王陛下からのお言葉を伝えさせていただきます。この国の脅威であった魔物を討伐し、国民の安全に寄与してくださったこと、深く感謝しているとのことです」


 国王の使者という役割に緊張しているのだろう。委員長は固い面持ちでそう伝えると、一度呼吸を整える。そして改めて俺を正面から見据えた。


「私たちからもお礼を言わせてください。貴重な魔晶石を譲っていただき、本当にありがとうございます」


 深々と頭を下げる委員長。続いて洋介も頭を下げる。ううん、こう畏まられると落ち着かないなぁ。

 でも王様の言葉は、そして委員長たちの言葉は確かに受け取った。なので俺は静かに頷いて「どういたしまして」と答える。が、ここで委員長の雰囲気が変わった。緊張から一転、その眼差しに鋭さが宿る。


「でもどうして私たちのために魔晶石を集めてくれたのですか?」

「えっ」


 これは思いも寄らない質問だった。

 そもそも委員長たちとこうして向き合う機会があるなんて思ってもみなかったし、当然こんな質問をされることなんて全く想定していない。

 どう答えたものかと内心焦ったものの、不意にドイロックの領主様に伝えた言葉が脳裏を過ぎる。よし、これでいこう。


「数日とは言え、関わりがあったなら全くの他人ということもないでしょう。それにドイロックの方々にもたくさんお世話になりましたし、私が魔物を討伐することで彼らが安心して暮らせるようになればと思いまして」


 魔晶石を集めたのはクラスメイトたちのためだけじゃないよ、という流れにしてみる。うんうん、嘘のないほどよい答えだ。

 だというのに洋介からはジト目を向けられてしまった。俺が無難に切り抜けようとしてるのを見抜いているんだろう。厄介な奴だ。


「そうだったんですか……でも、それにしてはあまりにも急いでいらっしゃいませんか?」

「へ?」


 続け様に放たれた委員長の言葉に、うっかり間抜けな声が出る。

 急ぐって……そりゃ急ぐだろうよ。だって他国が──いや、それを言うと魔物を討伐したのはクラスメイトのためだけじゃないって濁した意味がなくなるか。

 ならば。


「急いでいる、とは?」


 相手の言葉をそのまま問いに変え、時間を稼ぎつつ突破口を見つける……!


「魔晶石を集める速度があまりにも速いと感じたのです。ひと月に八個も上質な魔晶石を集めるのはあまり現実的ではありませんから」

「そういうものなのですか?」


 ちょっと俺にはこの世界の常識はわからないんだけど、ひと月で上質な魔晶石を八個集めるのは現実的じゃないの?

 そんな疑問を込めてヴェントさんに問いかけると、ヴェントさんは目を瞬かせた。


「クライル殿、ひと月で質のいい魔晶石を──つまり脅威的強さを誇る魔物を八体も討伐したのですか? さすがに、それは……」


 どうやら委員長の言う通り非常識な部類だったらしい。でも最終的に三百個必要なことを考えると、このペースじゃ二年半かかるよ? さすがにそんなに他国とやらも待ってくれないだろう。

 しかしそれを口にするのは避けたい。多分だけど、委員長たちは他国の言い分に関して何も知らされてないんじゃないかな。王様が黙っているのなら俺から伝えてしまうわけにもいかないだろう。


「そうでしたか。しかし折角手に入れたのですし、それが誰かの役に立ったならそれでいいではありませんか」


 ということにしてくれないだろうか……してくれないんですね、くそぅ。目が合った洋介が「あとできっちり話を聞くからな」と視線で脅してくる。まぁでもこの場では聞かないってことか。ならいいか。

 とりあえず気を取り直して。


「ところでおふたりは使者としていらしたんですよね。国王陛下からのご用件とは、先ほどの件でよろしいのでしょうか」

「あ、はい。それとクライルさんの働きに報いたいそうで、望みを聞いて来てほしいと言われています」


 望みか……そう言えば城を出る時も似たようなことを言われたな。今回はどう断ればいいのやら。


「……お気持ちだけ受け取らせていただきます、とお伝えください」

「それでは納得されないと思います」


 スパッと切り返されて言葉に詰まる。

 うぅぅ、なにかいい断り文句はないものか……。


「なぁ、クライルさん」


 うまい言葉が浮かばずにいると、割り込むように洋介が話しかけてきた。これは……助け舟と捉えていいのだろうか。


「何でしょう?」

「実は国王陛下にお願いして、仕事斡旋所経由でクライルさんに指名依頼を出してもらったんだけど」

「は?」


 助け舟……ではなかった。というか耳を疑わざるを得ない言葉が聞こえたんだけど、冗談だよな?


「えーっと。ちなみにどのような内容で?」


 聞くのは怖いけど国王陛下からの依頼なら無視できないだろうし、確認は必要だよなということでとりあえず聞いてみる。すると。


「それは、私たちの護衛依頼です」


 答えてくれたのは委員長だった。勿体ぶるつもりだった洋介が「ちょっと委員長! 俺に言わせてくれよ〜」と悔しがってるけど、こっちはそれどころではない。

 護衛依頼だって? 洋介と委員長の?


「一体何から守れと……?」


 疑問が口から零れ出る。


「実は私たち、最近魔物との実戦訓練をしているんです。ですが王都周辺に出没する魔物ではもう相手になりません。そこで少し足を伸ばしてこれまで戦ったことのない魔物と戦ってみようという話になったのですが……」

「同レベル帯の魔物じゃ変わりばえしないだろうってことで、少し強い魔物を探すことになったんだよ。ただどんな魔物と遭遇するかは未知数だろ? だから万が一のことを考えて腕の立つ人を護衛として雇おうって話になったわけ」


 委員長と洋介の説明を聞いて、何から守ればいいのかは理解した。けど、だ。それに俺が乗り気かというと……。


「……」


 もはやどんな言葉を並べても逃れられない状況に、俺はただひたすら沈黙した。

 何でそんなに嫌なんだと問われれば答えなんて決まってる。クラスメイトに身バレするのは避けたい。なのに俺、戦闘中は素が出るんだよ。つまりはそういうことで。


「あの、お嫌でしたか?」


 尚も無言を貫いていると、委員長が不安げに問いかけてきた。

 正直いきなり異世界に召喚されてみんなが混乱する中、すぐに冷静さを取り戻してみんなをまとめあげた委員長には頭が下がる。よくやってると思うし、今後もクラスメイトたちにとって委員長の存在は必要不可欠だろう。

 そんな気苦労を重ねてきた委員長にこんな不安そうな顔をさせるのは本意ではない。本意ではないんだが──


「何を迷ってるの。護衛くらいしてあげたらいいじゃん」


 遮音の魔法を使ったのだろう。薄ら魔力らしき力の流れを感知すると同時に白夜が話しかけてきた。

 その言葉のおかげで気付く。自分が迷っているということに。


「あー……」


 思わず呻いて、気合いを入れ直すべく両頬を叩いた。周りにいた面々を驚かせてしまったけど、気持ちの切り替えには成功した。迷ってるなら後悔しない方を選ぶに限る。

 つまり。


「わかりました、引き受けましょう。ヴェントさん、この街の仕事斡旋所の場所を教えてください」


 ここで断ってしまえば間違いなく後悔する。何故なら俺の今の望みはクラスメイトを全員無事に元の世界に帰すことだからだ。ふたりが危険に晒される可能性があるなら、護衛くらい引き受けよう。


 心が決まったところで早速斡旋所に行こうとヴェントさんに案内をお願いする。しかし。


「あのっ、ご迷惑であれば断っていただいても構いません!」


 委員長からかけられた言葉に、自分の不甲斐なさを痛感する。本当、何やってんだろうな俺。

 ここは誤解を解くためにも恥を忍んで正直に話そう。


「曖昧な態度をとってしまい申し訳ありません。迷惑かどうかということであれば迷惑ではありませんよ。ただ私の問題として、戦闘になったら大分……いや、かなり? 口調が乱れると思いますが、気にしないでくださいね」


 俺の言葉にブフッと洋介が吹き出す。どうせ「そんなしょうもない理由で断ろうとしてたのかよ!」とか思ってんだろ。しょうもなくて悪ぅございましたね。


 自分でも自分のしょうもなさに肩を落としながら、ヴェントさんの案内で仕事斡旋所に移動する。興味があるという洋介と委員長もついてきたけど、とりあえず俺はドイロックで発行してもらった紹介状と会員証を受付に提出して実績の引き継ぎを完了させた。


「クライル様ですね。これまでの実績と本人確認が取れましたので、早速ですが当マルトレン支部に入っているクライル様への指名依頼についてお話がございます。よろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」


 こうして俺は、国王陛下からの指名依頼を受託したのだった。

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