ボス岩モグラ、二匹目!
俺たちを地面に下ろすなり白夜は仮面に変化し、瑠璃も腕輪に擬態して何事もなかったかのような状態に戻る。
キールさんもユギスさんも覚悟を決めたようにきつく目を閉じてたから白夜たちの姿は見てないし、声は聞こえたかもしれないけどそれくらいなら幾らでも誤魔化せる。
そんなわけで白夜や瑠璃の存在を明かさなくて済みそうなことに安堵する一方で、みんなの無事を喜んでいる暇はなかった。
「キールさん、ユギスさん! 目を開けて下さい!」
目を閉じたまま体を硬直させている二人に呼びかけつつ、錫杖を振るう。上方からは俺たちの後を追うように雑魚岩モグラが次々と降ってきていた。
岩の鱗で覆われている岩モグラは硬度があるし、それなりに高い位置から落下してきてるから当たりどころが悪ければ死ぬかもしれない。その上数が多くて軌道も滅茶苦茶だから俺ひとりでは捌き切れない。せめて致命傷にならないよう自力で回避してもらいたいんだけど。
「えっ……あれ?」
「俺たち、穴に落ちたんじゃ……」
ようやく自分たちが無事であることに気付いたふたりが明かりの魔法で周囲を照らす。それが目印になったらしく、降ってくる雑魚岩モグラの狙いが正確になる──が、おかげで軌道が読みやすくなった。
「どりゃあ!」
気合いと共に錫杖を振って岩モグラを打ち返し、別の岩モグラと激突させる。互いに互いを砕きあって絶命するのを横目に、危険な軌道で落ちてくる雑魚岩モグラを次々と打ち返しては別の雑魚岩モグラとぶつけて数を減らしていく。
「おお、すごいですね!」
「感心してないで手伝わないと! 風よ、舞い上がれ!」
ユギスさんを注意しつつキールさんが魔法を放つ。すると真っ直ぐ落ちてきていた雑魚岩モグラたちが風によって軌道を逸らされ、あらぬ方向へと落ちていった。
やっぱり魔法があると便利だなぁ。
なんて羨んでいる場合じゃなかった。前回同様地中にはボス岩モグラらしき気配がある。どのタイミングで飛び出してくるかわからない以上、上にも下にも意識を向けておかないといけない……んだけど、さすがにそれはきつい。いっそのことボス岩モグラを地上に引っ張り出せないだろうか。
ちらりと見遣れば落下してくる雑魚岩モグラはキールさんとユギスさんで対処できそうだった。いつの間にかふたりで連携して、着実に敵の数を減らしていっている。
一方で俺は連携に向いていない。ならば単独でボス岩モグラに挑んだ方がいいだろう。今回は瑠璃もいることだし、打撃で倒しきれなくても何とかなる、はず。
そうと決まれば、ふたりの目がこちらに向いていないうちにやってしまいますか。
「瑠璃」
俺は小さく瑠璃に呼びかけながら、地中のボス岩モグラを引っ張り出すイメージを伝えてみる。すると瑠璃から了承の意思が返ってきた。
おっ、できるのか。と思ったら。
「瑠璃が錫杖を思い切り地面に突き立てて欲しいってさ」
こそっと白夜がそんなことを言ってくる。
え、どういうこと?
いまいち理解が追いつかないけど言われた通り錫杖を掲げ、思いっきり地面に突き立ててみる。
するとその勢いに乗るように瑠璃が錫杖を伝って地中へと潜り込み、体を細く長く伸ばしながらボス岩モグラに接近していった。
そうしてボス岩モグラのもとに到達すると、一瞬の間を挟んでボス岩モグラが地表に向かって急速に近づいてくる。
そして次の瞬間、地面が爆ぜた。
まるで釣り上げられた魚の如く、瑠璃に絡めとられたボス岩モグラが地上へと飛び出す。とは言っても決して俺の力で引き上げたわけじゃない。よく見るとボス岩モグラの尻に瑠璃が形成した刃が突き刺さっている。
つまりボス岩モグラは突然襲った痛みに驚いて地上まで飛び上がってきたのだろう。
瑠璃はボス岩モグラの拘束を解くと、そのまま錫杖の石突き側に移動して槍の穂を形成した。どうやら俺の得手を把握していたらしい。
槍なら貫通力もあるし、手に馴染んでいる錫杖をそのまま使えるのもありがたい。
そんなわけで、さぁ、やってやるぞ! と気合いを入れ直していると。
「クライルさん、そっちは任せていいですか!?」
ユギスさんの声が届く。元々そのつもりだったから「大丈夫です!」と返しておいた。
前回とは違うユギスさんの対応に信頼のようなものを感じてちょっと嬉しくなりながら、錫杖もとい槍状になった錫杖──面倒なのでこの形状の時は槍と呼ぼう──を構える。
ボス岩モグラはしばらく痛みでのたうち回っていたけど、何かを感じ取ったのか暴れ回るのをやめて周囲を警戒し始めた。しかし遅い。
地面を蹴って肉薄、前回の教訓を活かして一撃で岩の鱗を貫通し、さらに体重をかけて槍をねじ込み心臓を狙う。
ボス岩モグラは何が起こったかわからなかったのだろう。突如襲った強烈な痛みに対処できずに動きを止め、完全に硬直してしまった。硬直によって体が強張ったせいでなかなか穂先が沈んでいかないけど、地面を踏み締めて体重を乗せ、無理やりねじ込んでいく。
するとボス岩モグラが痙攣し、口から血の泡が溢れ出た。
心臓を狙ったつもりだったけど少しズレたかもしれない。でも深刻なダメージが入っているのは間違いないようだ。気にせずぐいぐいと槍を押し込み──
ピシリ、と音がした。
嫌な予感を覚えて確認してみれば、槍を刺した地点から岩の鱗に亀裂が広がっていく。これは、もしや。
「気にしなくて大丈夫。どうせもう限界だから」
前回の失態を思い出して一瞬の迷いが生じる。それを見抜いた白夜の言葉に頷いて、さらにボス岩モグラに槍を押し込んだ。
そうして柄のほとんどがボス岩モグラの体内に埋まった時、不意にボス岩モグラの痙攣が止まった。続いてその巨体が弛緩する。
元々腹這い状態だったから豪快に倒れ込むようなことはなかったものの、危機感を覚えない程度の地響きを立ててボス岩モグラが倒れ伏し、沈黙した。
「おお……やったか?」
念のため慎重に様子を窺ってみたけど、ボス岩モグラが動く気配はない。生きている様子もない。
ということは、つまり。
「……よっしゃ! やっと自力で大物を仕留めたぞー!」
嬉しさのあまりつい素の口調で叫ぶと、背後からぷっと吹き出すような音がした。
あっ、と思った時にはすでに遅し。振り返れば、キールさんもユギスさんも笑いを堪えるように肩を震わせていた。
これは……絶対に聞かれてたな。
ていうか、何で笑うのを我慢してるんですかね。大物初討伐に浮かれてる姿が可笑しかった? だったら我慢せず笑っていいんだよ? 俺、べつに怒らないよ?
そんな気持ちを込めて若干不貞腐れながら見返していると、ふたりの口から出てきたのは予想していたものとは違う言葉だった。
「ちょっと、急に叫んだりしてどうしちゃったんですか……」
「やっぱりクライルさんの素の口調ってそっちなんだねぇ」
あれっ? ふたりが笑ってるのは俺の口調の方?
「まぁそうですね、うまく使い分けられなくて気を抜くとすぐ元の口調に戻っちゃうんですけど」
「なるほどね。でもまぁ草原の魔物と戦ってる時も廃坑の魔物と戦ってる時も素の口調が出てたから、何となくわかってたんだけどね」
うっ、それを言われてしまうと確かに……。戦闘中はほぼ素の喋り方をしてたかも。
「ですね。でも俺たちと話すときは丁寧口調だったから、相手によって使い分けてるのかなと思ってたんですけど……目の前で全力で叫んでいるのを聞いてしまったら、何だか可笑しくて」
さいですか。何かちょっと恥ずかしくなってきた。
澄ました口調で話していたからこそ、それが思い切り崩れたところを目撃されてしまって居た堪れない。
「あー……まぁ、でもほら、時と場所と場合で話し方を変えるのって大事だと思うんですよね」
「それはわかるんだけどね。でも……ふふっ」
「あれですよね、いかにも周りが見えてない感じで叫んでたから、変にツボに入ってしまって……くくっ」
「そうそう、それ。ふふふっ」
結局討伐した魔物から魔晶石を回収する間もふたりは笑い続け、ドイロックに戻ってキールさんお勧めの店で食事している間もちょくちょく思い出し笑いをされて……最終的に俺はこのふたりに敬語を使うのをやめた。
うっかり素の口調が出てまた笑われるくらいなら素の口調の方で固定してしまおうというわけだ。こうなったらドイロックにいる間は気を抜きまくってやる……!




